荒木町「遊猿」「Chiori」に飲みに行ってきた
飲み友達のNO.5さん、とりゅふさん、そしてはじめましてのガーリエンヌさんを交えて東京・四谷三丁目の飲み屋街“荒木町”で飲もうということになった。
NO.5さんとガーリエンヌさんは荒木町にお詳しいということで、おふたりに案内されて向かったのは中華の名店だという「遊猿」。集合は20時と遅め。入店した遊猿は一見して中華とは思えないような無国籍でウッディでオシャレな内装だ。メニューはなく、料理も飲み物も黒板に書いてあるものから選ぶスタイル。まずはなにもなくとも泡で乾杯しましょうという運びになった。
【遊猿1本目】ブルエット プレステージ ブラン・ド・ブラン ブリュット
乾杯の泡はブルエット プレステージ ブラン・ド・ブラン ブリュット。もともとシャンパーニュで暮らしていた一家がボルドーに移住して買いブドウで造るスパークリングワインなのだそうで、母方のひいおばあちゃんがシャンパーニュの生まれでしたくらいのほのかさでシャンパーニュみのある悪くないスパークリングワインだった。厚みのあるブラン・ド・ブランが私は好きなのだが、世の泡を3系統くらいに分類すればその系統だ。
一息ついてまず注文したのは前菜盛り合わせ1人前2240円。「うにゆば」「クリームチーズすじこ」「ホタテの燻製XO醬」といった一癖のあるつまみをちょこちょこと、「クリームチーズすじこ、完全に熟成シャンパーニュの味がしますね…!」とか話しながら食べるのが楽しい。
それにしても「クリームチーズすじこ」は熟成シャンパーニュと合わせたら新しい素粒子かなんか生まれるんじゃないか、というニュートリノ的味わいがしたので同店を訪ねたら必食かと思う。
【遊猿2本目】セント・クレア リースリング
つまみが酒が進む系なので1本目は秒で開き、続いてはなんとなく中華に合いそうですよねくらいの理由でセント・クレア リースリングを注文。オーストラリアはマールボロの生産者で、そのリースリングはなんといっても過去一レベルの色の薄さが特徴的。下写真を見ての通りポカリ具合で、ポカリっていうよりむしろアクエリか…? というほどの薄さ。
色の薄さから想起される通り味わいも薄め。ほんの少しガソリンスタンド香と柑橘系の香りはあるものの、あとは極めてフラットで旨みよりもクリアであることを指向しているタイプの純米吟醸みたいなとにかくフラットな味わい。料理の味わいを邪魔せずスイスイ飲める個性がないのが個性みたいなタイプのワインだった。
このワインが各人のグラスから消滅するくらいのタイミングで運ばれてきたのが「鰯の春巻き」でこれが料理の今日イチ。
ちょっとした尺八みたいななにかを思わせる巨大な皮に包まれているのは、ふわっふわで生臭さゼロの鰯、そしてカリカリの梅。食べ応えもしっかりあるし、イワシはジューシーで旨みが溢れ、それに梅干しが文章における句点のように全体をシメまくっている。うまやば。
【遊猿3本目】ルナリア マルヴァジア・ビアンカ・オレンジ
ワインは3本目に突き進み、次も魚料理をオーダーしていたのでオレンジワインをオーダーした。ルナリアの「マルヴァジア・ビアンカ・オレンジ 」で、「これ、おうちのカタチの箱に入ってるワインですよね?」とどなたかがおっしゃっていたが、なるほどそれには見覚えがある。箱ワインなのにナチュラルな造り、みたいなことで話題になったのを見た記憶があるというワイン。
色合いはオレンジというよりロゼのような赤みがかった色で、味わいの印象は……これが悲しいことにとくにない。続いてオーダーした「甘鯛のうろこ揚げ」(これも素晴らしい一皿)の味わいを邪魔しない、ワイン単体で突出しない味わいだったような気がする。
このあたりで割とお腹もいい具合だったのだが、「ここに来たらぜひ食べるべき」だという経験者おふたりの声に押されてスペアリブもオーダー。「毛沢東スペアリブ」という中国共産党感あふれる名称の一皿だ。
これ、もともとは青山シャンウェイのスペシャリテなのだそうで、遊猿の大内誠也シェフが青山シャンウェイの料理長を務めていた経緯から、遊猿でも人気の裏メニューとして定着しているのだそうだ。ちなみに「毛沢東スペアリブ」は寺門ジモン氏が命名したそうです。トーキョーYOASOBIみが深い。
毛沢東スペアリブの揚げたスペアリブの周りに大量の香辛料がまぶされたド迫力のビジュアルはまさしく食べる文化大革命の感があり、油断していると紅衛兵から自己批判を促されそうな非常にスパイシーな味わい。食べきれずに持ち帰らせてもらったが、翌日に食べてもとてもおいしかった。
そんなわけで遊猿では3本のワインと料理を楽しんだのだが、料理の素晴らしさに対してワインはちょっと負けてる印象が正直したのだった。ワインがどうというより、料理が強い。次回お邪魔する際はビールからの紹興酒&ドラゴンハイボール(紹興酒のソーダ割り)がいいかもしれない。
【Chiori(チオリ)1本目】クロ・アンリ プティ・クロ・ピノ・ノワール 2019
さて、哺乳瓶で老酒かなんか飲んでませんでしたかあなたがた、という今日のメンバー、もちろん2軒目に突入していく。向かったのはニュージーランドワインが中心だというワインバー・Chiori(チオリ)だ。遊猿からは徒歩5秒。幅跳びを専門に訓練した人なら一歩でつくんじゃないかという道を挟んだ向かい側具合の近さだ。
頼んだのは赤ワイン。ピノ・ノワールをオーダーしたようなしないような曖昧な感じだが、提案されたのはお値段お手頃なハウスワイン的ピノ・ノワールと、それよりややお高いピノ・ノワール(だった気がする)。こういうときは、尊敬する安ワイン道場師範のメソッドを適用するのがマイルール。悠揚・悠然みたいな態度でもって「安いほうをいただきましょう」というのが吉だ4本目だし。
以上のような経緯を経て出していただいたのがクロ・アンリのクロ・アンリ・プティ・クロ・ピノ・ノワール 2019で。フランス・サンセールのトップ生産者だというアンリ・ブルジョワがニュージーランドで造っているというワイン。
このワインが果実味がしっかりあって酸味渋みもおだやかながらきちんと効いてていい感じにシンプルうまい。なんというか、ラーメン屋でいうところのチャーシューメンでも全部乗せラーメンでもない無印「ラーメン」の良さみたいなのがあって、お店の名刺がわり的なワインがこんな感じだとお店の印象がグッと良くなるというものだ。適温、適グラス、適サーブのいわゆる「三適(そんな言葉はない)」は専門店ならではだなあ。
【Chiori(チオリ)2本目】ドメーヌ・ソガ プティ・マンサン2016
つまみは「お腹いっぱいなのでチーズとかドライフルーツとかを適当にお願いします」とオーダーしたところ、誰かがその日最後のワインを飲み干したタイミングで誰かが最後のチーズのかけらを口に運ぶような、3点差の9回裏に放った逆転サヨナラ満塁ホームラン的適量具合。一見の客に対して引き算の接客していただいた感じで、それもよかった好き。
さて、シメにもう1本ということになった。重めの赤か、シメ泡か、はたまた……と悩ましいところだが、入店時に「日本ワインもありますよ」と言われたことを思い出してなにか面白いのありますかと尋ねたところ、ドメーヌ・ソガのプティ・マンサンのバックヴィンテージが出てきた。あらいいじゃない。私はドメーヌ・ソガが好き。とりゅふさんも同じく、ということでそれを頼もうということになったのだがこれがよかった。
プティ・マンサン単独のワインを飲んだのは初めてだったが、昨年一世を風靡したアプリ・Clubhouseで「Clubhouseワイン会」を主催した際、ゲストの方々が揃って「日本での注目品種」と挙げていた品種。遅摘みして甘口ワインを仕込むのに使われるというだけに香り甘やか、味わいドライ、全体の印象は華やかで、そこにドメーヌ・ソガのワインに私が勝手に思っている印象としての土っぽさが加わってしみじみうまい。「液」というより「つゆ」と呼びたい滋味がある。ぶどうでつくったおいしいおつゆみたいな。
というわけでうまいうまいとこれを飲み干すと、20時からはじめた会はほぼ終電の時間を迎え、各人の酔いもいい具合に頂上付近にまで高まって(ましたよね、みなさん?)、店を出てなぜかすぐに駅には向かわずに荒木町をグルグル歩き回るというプチ奇行の後、荒木町の外に出ると魔法が解けてしまうガラスのグラス(普通)を手にした飲酒シンデレラ一同は家路に着いたのだった。その設定で私はなに役だろうか。馬かなんかですかね。まあいいか。みなさん、また飲みましょう!
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