ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

南アフリカワイン試飲会潜入レポート! 印象に残ったワイン10選

マスダの南アフリカワイン試飲会に潜入してきた

インポーター・マスダの名物バイヤーである三宅司さんから「南アフリカワインの試飲会があるから来い」というお誘いが会ったので「行く」と即答して行ってきた。飲食店などプロ向けの試飲会だが、私は“ワインメディア関係者”という枠での参加だ。ありがとうございます。

というわけで、プロ向け試飲会に「ヒマワイン」という手書きの名刺をぶら下げて参加してきたのでレポートしたいのだが、その前に株式会社マスダについても調べてみた。

場違い感エグい

冒頭に「インポーター」と記したが、これはワイン好きの立場からマスダという会社を眺めた場合の見え方で、公式サイトには「酒類総合商社」とあり、社長メッセージには「酒類総合卸売業」と書いてある。大手メーカーからお酒を仕入れ、酒販店やスーパーなどに卸すのが本業。清酒や焼酎のプライベートブランドも展開しているのだそうだ知らなかった。

南アワインの取り扱い開始は平成13年から。平成13年は2001年だからわずか20余年でポール・クルーヴァー、ステレンラスト、カノンコップ、ロングリッジ、キャサリン・マーシャルにデヴィッド&ナディア、アタラクシア……といった名前を、ワイン好きなら多くが「知ってる!」というブランドに育て上げたことになるすごい。いつか当時のお話を聞かせてください。

さて、マスダが取り扱う南ワインは250種類あるのだそうだが「そのなかから、自分の好きなやつだけを持ってきました」と三宅さんがおっしゃるこの日の試飲会ラインナップはバイヤーおふたりで選んだという泡白桃赤甘ズラリ並んだ48種類。入り口でワインリストとグラス、そして吐器として紙コップが渡されて、いざ試飲会スタート。30種類ほどを飲んだなかからとくに印象に残ったもの10選にまとめてみたい。

 

ステレンラスト アーティソンズ アプレンティス ホワイト・サンソー 2019

白から行ってみよう。まずは突然変異の「白いサンソー」を使ったというこちらのワイン。一昨年ステレンラストのオンラインセミナーに参加した際に小瓶に入っていたものを飲んだことがあったが、熟成が進んだのかどうなのか、今回改めて飲んで異様に旨いと感じた。

私にブルゴーニュを語ることはできないけれども仮にブラインドで出されたらいいブルゴーニュシャルドネ……だと芸がないから意表をついてアリゴテだッッ! と回答して盛大に外すであろう。果実がしっかりくっきりあって酸味もたっぷり。ピュアでエレガントなのにたっぷんたっぷんにボリュームもあるという私にとっての白ワインのひとつの理想形のようなワインだった。


ステレンラスト オールドブッシュヴァイン シュナンブラン 2020

ステレンラストの有名ワインに「マザーシップ・シュナンブラン」がある。そちらも試飲してやっぱり素晴らしいと感じたのだが、同じ造り手のこちらはそれより安く、味わいとしてはどっこい決して負けていないと感じた。

樽をアクセントに果実と酸味が土俵のど真ん中で四つ相撲してる感じで、味の総量が非常に大きい。「ブルゴーニュのいいいやつみたい」というよりも「これぞ南アのシュナンブラン!」という王道の味わいだと思った。南アのシュナンブランのオススメ教えてと聞かれたら選手権の暫定王者に認定である。


キャサリン・マーシャル  リースリング 2021

ステレンラストの2銘柄とまったく違う路線でおいしかったのがキャサリン・マーシャルのリースリング。以前ソーヴィニヨン・ブランを飲んで大変おいしかったのだが、リースリングはさらに特徴が爆発していた。

グラスに間違えて蜂蜜をいれちゃったんじゃないかというくらいの蜜のニュアンス。それを4×100メートルリレーのバトンリレーかの如くに強烈な酸が追い越していく二段ロケット方式。

残糖7.2g/lで分類上は「やや辛口」というワインだが、夏の暑い日に夕焼け空を眺めながらよく冷えたこれを飲んだらその日どんな嫌なことがあっても完全にどうでもよくなるような心に効くタイプのワインだと感じた。忘れてしまいたいことや、どうしようもない寂しさに包まれた夜にキャサリン・マーシャル リースリングが効く。


ポール・クルーバー セブンフラッグス シャルドネ 2018

超有名銘柄だが未飲だったセブンフラッグスシャルドネも飲むことができ、世評に違わぬ素晴らしさだと感じた。とにかくスケールがデカく、眼前に霊峰キリマンジャロの威容が浮かぶようなワインだったキリマンジャロ南アフリカじゃないけど(タンザニア

豊かな果実味にバターのようなリッチさがある一方で、液体の中心には驚くほどシャープな酸がある。すごいワインだった。

 

ラーツ イーデンハイデンシティ シュナンブラン 2018

白でいちばんこりゃすげえ! となったのがラーツのイーデンハイデンシティ シュナンブラン。定価が1万200円するっていうんでおいしくて当たり前といえば当たり前なのだが、セブンフラッグスが広がりやスケールを感じる味だとしたらこちらは盆栽や茶室のような、空間としては小さいんだけれどもそこに全体を内包しているような感覚のするワインだった。

澁澤龍彦のエッセイ『石の夢』に「内部に水があり、そこで二匹の金魚が遊び回っている石」の話が出てくるのだが、25年前に読んだそのエッセイを瞬時に思い出させるのだからワインってすごい。酸と果実が対消滅して生まれた重力によって味の中心が内部へと収斂していくような感覚で、個人的白ベストは迷わずこれ。全体ベストだったかもしれない。

 

南アフリカは白ワインがおいしい!?

以上、白からは5銘柄を選んだ。少し先走って結論を先に述べると、今回の試飲を通じて私が感じたのは「南アは白だわ」というものであった。熟成の関係もあるのだろうが、重より軽、赤より白が傾向としておいしいと感じられたのだった。

総じて果実が非常に豊か。それでいて酸もしっかりとあるため甘ったるい感じはなく、ひたすらリッチ。樽の使い方が上手な生産者が多いのか、豊かな果実と酸をエレガントにまとめているワインがとても多いと感じた。

一方、デヴィッド&ナディアやキャサリン・マーシャルといった自然派色の濃い生産者はすっぱうま系の味筋で素晴らしい。温暖か冷涼か、海の近くか山の近くか、醸造は伝統的か自然派か……さまざまな変数によって表情をガラリと変える南アフリカワインの魅力は白ワインにこそ現れたりするのでは……? みたいに感じられるのは、多種類を同時比較可能な試飲会ならではだと感じた。

「赤ワインは他にもおいしい国がありますが、南アは酸がしっかりとあるので白に向いていると思います」と三宅さん。会場には東京・豪徳寺駅前の人気店「ワインステーション+」の店主・駅長とマキさんご夫妻も来場されていたが、駅長も「そうなんすよ、実は南アは白がうまいんすよね……!」とニヤリと笑っておられた。南アフリカワイン、なにから入ればいいかなあと思っている方がいたら、まずは白から試してみるといいかもしれない。夏だし。

三宅さんいわく、今回の試飲会には出ていなかったがラーマンの「クラスタシャルドネ」も大人気なのだそうだ。クラスタシャルドネ、今度買ってみよ。

そして「10選」には入れなかったが、ラーマンの「フォーカルポイントシャルドネ」、シティ・オン・ア・ヒルの「シュナンブラン」、デヴィッド&ナディアの「アリスタルゴス」といったワインも素晴らしかった。飲む順番やその日の気分次第では、これらが選に入っていても全然おかしくない。

上のみっつからひとつ挙げるならこのシャルドネ

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アタラクシア セレニティ 2019

赤ワインではなんといってもピノ・ノワールが素晴らしいと感じた。総じて「高いは旨い」というワイン世界の非情の掟がここでも発動してはいたのだが、市場価格3000円台で素晴らしかったのがアタラクシアのセレニティ。(写真撮り忘れました)

セレニティは「静けさ」「静寂」といった意味だそうだが、想起されるのは古池や蛙飛び込む水の音という芭蕉の句。今回試飲したなかの最ピュア液がこのワインで、あくまでも透明で揺らぎのない液面のなかにチェリーかなにかの果実がポチャンと落ちたみたいな感じ。要するにまったくもって私の好みの甘酸っぱいピノ・ノワールだった。

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アタラクシア ピノ・ノワール 2017

アタラクシアは「セレニティ」っていうカッコいい名前のキュヴェより「ピノ・ノワール」っていうそっけない名前のワインのほうが高いのだが、こちらも素晴らしい。ピノ・ノワールならではの果実味と酸味、フレッシュな梅みたいな感じが満ち満ちている。

セレニティの産地はウェスタンケープ、こちらのキュヴェの産地はへメルアンアード・リッジ。へメルアンアード・リッジは高標高かつ海に近いことで冷涼な産地なのだそうだ。同じ生産者でも産地が違えば当然ながら味わいも変わる。南アの産地やそのサブリージョンのことももっとも知りたくなるような、素晴らしいふたつのピノ・ノワールだったのだった。

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サワーヴァイン オム 2019

とはいえこの日のピノ・ノワールベストはサワーヴァイン・オムだった。定価は7100円。高いワインやっぱりうまいの法則である。ワインステーション+駅長も「これはウチのお店でもイチオシで、大人気なんですよ」とおっしゃっていたが、いやこれは問答無用でおいしいわ。

写真右で見切れてるのが写真を撮り忘れた「セレニティ」です

南アフリカには2000円台の素晴らしいピノ・ノワールが複数あるが、これは完全にその上位互換感がある。産地はアタラクシアと同じへメルアンアード・リッジ。ヘメルアンアード・リッジの名前は覚えておいたほうが良さそうですよ、みなさん。問題は覚えにくいことだ!

海から近く高標高(300メートル)の冷涼な畑。ブドウは植樹が2006年というからまだ若い。ということはこれからもっとおいしくなっていくのか……? と戦慄するようなワインだった。

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南アフリカピノが……!?

というわけでピノ・ノワール3種類を選んでみた。つい先ほど「南アは白だわ」と言ったばかりだが「南アはピノだわ」と舌の根も乾かぬうちに訂正したくなるほどどれも素晴らしい。

「内陸にあるブルゴーニュに比べ、南アフリカのとくに海に近い産地は温暖化の影響を受けにくいと言われています。ピノ・ノワールを飲むなら、南アの海沿いの産地はオススメです」と三宅さん。ウォーカーベイや、前述したそのサブリージョン、へメルアンアードなどをオススメしてくれた。これすごくいい情報だなあ。

とはいえ南アフリカにはピノ・ノワール以外の素晴らしい赤ワインがたくさんある。おいしかったワインを紹介していきたい。

 

ラーツ ファミリー・カベルネフラン 2017

これもかねて飲んでみたいなあと思っていた有名銘柄で、期待通りのおいしさだった。カベルネフランは特有の香りを苦手という方もいると聞くが、私はシソ、パクチーミョウガ、アニスなど特徴的な香りの野菜&ハーブたいてい好き、環境次第ではドクダミまで許容可能派なのでまったく問題がなく、そもそもこのワインは品種香もそこまで顕著でないように感じた。

ヴィンテージが2017ということもあってまだまだ本領発揮は先なのかも知れないが、渋みを強く感じるものの果実味もたっぷりとあり、液体はなめらか。個性がありながら王道感もある、とてもおいしいワインだった。

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ヴィラフォンテ シリーズM

ラスト、ボルドーブレンド系でビックリしたのがヴィラフォンテという恥ずかしながら初めて聞いた生産者の「シリーズM」というワイン。説明書きには「南アのオーパスワン」と書いてあるので一体どういうことなんだと調べてみると元ロバート・モンダヴィ醸造家と元オーパスワンの栽培責任者を招聘して造る南アと米国のコラボワインなのだそうだ。

うまく説明できないがものすごく南アっぽくないですかこのラベル

シリーズMはマルベックやメルロー主体のキュヴェでこれはちょっとすげえワインなのではと思った。ヴィンテージは2016で、ヴィンテージ+10〜15年が飲み頃のようだが今飲んで全然ふつうに余裕でうまい。

なるほどボルドーというよりは「カリフォルニアのボルドーブレンド感のある南アフリカワイン」という出自そのままの印象で、エレガントなタキシードを身に纏ったドウェイン・ジョンソンと言おうか、滑らかで酸もあって外観はエレガントなんだけど中身は果実がパワフルなワイルド系。女性が飲んだら屈強な男性にお姫様抱っこされながら飲んでるみたいな気分になるのでは? という味だった。

このワインとサワーヴァインのオムは味の方向性が180度異なってどちらをこの日の赤NO.1に選ぶかは非常に悩ましいのだがよりインパクトのあったこのワインを超私的赤一席に選びたい。

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飲みごろ突入してるやつ↓

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印象に残った赤ワイン

ピノ・ノワール以外の赤ではデヴィッド&ナディアの「エルピディオス」もとてもおいしかった。これは三宅さんが大好きなワインなのだそうで「余ったのをホテルに持って帰って飲む用」のイチオシ銘柄だそうだ。

また、2750円と安価ながらグレネリーの「エステートリザーヴレッド」の2015ヴィンテージが素晴らしかった。「5000円クラスの南アワインに匹敵する2000円台の南アワイン」という印象。南アのボルドーブレンドを気楽に試すならこれ一択でいいと思う。

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さて、30種類ほどを飲んだこの日感じたのは、「南アフリカワインは南アフリカワインとしておいしい」という当たり前すぎることだった。「2000円なのにブルゴーニュの5000円くらいの味がする!」みたいについとらえがちだけど、ブルゴーニュではなく南アを選んだからといって誰かが差額の3000円をキャッシュバックしてくれるわけではないのだなにを言っているのかわからないかもしれないけど。

南ア、と一口でいっても生産者ごとに目指す味の方向性は違うし、産地によっても味わいは変わる。「コスパ」ばかりにとらわれると、南アフリカワインそのものの魅力をかえってとらえにくくなっちゃうかも、と思ったのだった自戒しかこめずに言うと。南アフリカワインはすごい。なにかの替わりではなく、南アフリカワインとして素晴らしい。

この日の会場はそんな南アフリカワイン愛に溢れていたように感じられた。自社試飲会で自社ワインをうまいうまいと試飲しまくる三宅さんの姿勢も最高だ。以前、別のインポーターの方が「生産者を招いての試飲会で遠慮してワインを飲まずにいたら『お前が飲まないでどうする』と生産者に怒られた」と言っていたが、三宅さんは本当に自社のワインが好きなんだなあというのがよくわかる。自社のワインを飲んで「やっぱりうまい」「最高!」みたいに感想を述べるバイヤーさん、信頼するなと言われても無理だし説得力がすごい。

なんとなく、すべてのワインの瓶口に、「Drink Me!」という札がかかっているような、ワインたちが私を飲んでと手招きしているような南アフリカワイン愛に溢れた空気感がプロ向け試飲会だっつってんのにあったような気がしたのだった私が酔っ払ってただけかもしれないが。

三宅さんからのお誘いのメッセージには「当日は笑顔&スキップで帰ってもらえるように準備いたします」という一文があったが、ちょっとスキップどころではなく、軽く小躍りしながら帰るレベルで帰路についたのだった。参加できてよかった。ありがとうございました。

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