ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

醸造家・Nagiさんのファーストヴィンテージとは!? 「原点のワイン」をいただいた

Nagiさんのファーストヴィンテージ、一体どんなワイン!?

YouTubeチャンネル「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。」でご一緒しているドイツ在住のワイン醸造家・Nagiさんに「一時帰国するから飲もう」と誘われたので行くにきまってんでしょそんなもんということで行った。

メンバーは、Nagiさん、現在改装中の恵比寿の名店・ワインマーケットパーティ店長の沼田さん、そして私の3名。学年がひとつ違うか違わないかレベルのほぼ同級生みたいなメンバーで、お会いした回数自体は多くないものの、なぜか学生時代の仲間にひさしぶりに会ったみたいな感じがする。

沼田さんとの初対面↓

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Nagiさんから提案されたのは、「ドイツのちょっといいワインと私のファーストヴィンテージ、どちらが飲みたいですか?」というもの。そりゃもうNagiさんのファーストヴィンテージに決まってるでしょ! と沼田さんと私の意見が一致し、図らずもNagiさんが初めて造ったワインをおじさん3人で飲む会みたいになった。

 

<1本目>ミニエールF&R「ブラン・アプソリュ・ブリュット」の衝撃

さて、この日の会場は沼田さんの行きつけだというCUJORL(クヨール)という渋谷はセルリアンタワーの裏手、住所でいうところの桜台にあるイタリアンレストラン。「おまかせで適当に」と沼田さんが事前にオーダーしてくれた絶品料理を味わいながら、沼田さん2本、Nagiさん2本、私が1本を持ち込んだワイン会がスタートした。

乾杯は沼田さん持ち込みのシャンパーニュで、ミニエールF&Rの「ブラン・アプソリュ・ブリュット」。造り手はジャック・セロスで修行、セロス同様樽発酵・樽熟成、ノンマロラクティック発酵で長期熟成させているそうだ。「2014と2015のベースワインが中心だと思います」と沼田さん。

これが「えっ」っていうくらいものすごくおいしいワインで、樽発酵・樽熟成&長期熟成らしい旨みがありながらブラン・ド・ブランと言われて納得の酸味もしっかりとある。

いやこれすげえワインだなさすがだな沼田さん、ふつうのワイン会ならこのワインが主役級だと思うんですが! とビビっていたのだが、話題の中心はやはり「Nagiさんのファーストヴィンテージの謎」。

Nagiさんいわく、それは「2017年に研修先で研修生として造ったワイン」であり、「白とロゼ」が存在するのだそうだ。そして、それぞれ保管状況が良いものは2本ずつしかないのだというマジですかNagiさん(衝撃で椅子から滑り落ちそうになりつつ)。

つまり今日持ってきてもらったのは世界に2本ずつしかないうちの1本。卒アル見せてもらえるみたいな話かと思ったら卒アルを燃料にして焚き火しようみたいな話だった。

前菜のラタトゥイユ。滋味深い味わいで、胃と心に火が灯る。

しきりに「飲めるかどうかわからない」「飲めてもおいしいかどうかは知らない」「仮においしくなくても飲みたいって言ったのはおふたりですからね?」みたいなことをNagiさんがおっしゃるのでじゃあ飲んでみるしかないっすねと、まずはロゼを飲む運びとなった。

 

<2本目>Nagiさんのファーストヴィンテージ・ロゼ

ラベルの貼られていないボトルの姿が、これが一般流通していないワインであることを物語る。2017年にNagiさんが名前の明かせない研修先で造った「名もなきキュヴェ」をグラスに注いでもらうと、これがめちゃくちゃキレイなピンクゴールド。グラスの中からはアセロラみたいな酸味を予感させる香りがパチパチと勢いよく立ち上がっている。え、超いい香りなんですが!

Nagiさんのファーストヴィンテージ・ロゼ

飲んで思わず沼田さんと顔を見合わせる。実にしみじみ普通にとってもうまいのだ。ものすごくシャープな酸があり、果実味は最低限なのだがなんでしょうかこれは。レモン水とかアセロラウォーターみたいな、すっぱいんだけど後を引く、沼田さんいわく「手酌でどんどん飲みたくなる」親しみやすさがある。クールでシャープだけど意外と親しみやすいってNagiさんの人柄そのものな気がするんですが!

「ちょっとスパイスのようなニュアンスがある。シラーかな?」と沼田さんが言い、私は「なんとなくピノ・ノワールっぽいなあ(根拠なし)」と思ったが正解はシラーとピノ・ノワールブレンド

「その年の収穫後、研修先が使わなかったブドウを集めて造ったワインです。技術的に足りてないなりに造ったものですが、それなりに飲めますね」とNagiさん。そして、この酸の存在の仕方って、なんていうかすごく自然派っぽい。

前菜の盛り合わせ。左から豚、オイルサーディンとなにかのカルパッチョ、ローストビーフ。どれもうまい。

実際、造りはすごく自然派的なのだそうで「15度、16度くらいで低温発酵し、フィルターは荒いのをかけているだけ。SO2も本当に少ししか添加していません。酵母は乾燥酵母ですけどね」とのこと。

いや驚いた。いくら専門の大学で学んだからといって経験の少ない“研修生”が、研修先が使わなかったブドウでこんなピュアでクリーンなワイン造れるのかという衝撃だ。その後わずか数年でドイツの老舗ワイナリーの醸造責任者を任せられるだけある。すげえなNagiさん。

正直メジャーなバンドがインディーズ時代にレコード会社に送ったデモテープ、みたいなクオリティを想像してましたごめんなさい。これはデモテープではなくデビューアルバム。そして名盤だ。

 

<3本目>タキザワワイナリー「ピノ・ノワール2020」

という興奮の余韻も冷めぬまま、会は続いていき次は私持ち込みのボトルが抜栓される運びとなった。持ち込んだのはタキザワワイナリーのピノ・ノワール2020。所在地は札幌の北東に位置する北海道三笠町だ。

普段ドイツにいるNagiさんは日本ワインを飲む機会は少ないだろうし、私の好きな北海道ワインを味わっていただこうという狙い。ヴィンテージは2020と若いけど、公式サイトではすでに飲み頃を迎えていると書いてある。

そして期待通りというかなんというかタキザワワイナリーのピノ・ノワールはすごく真っ当においしいピノ・ノワールだった。北海道ワインという主語のデカさで語るのは間違っているとは思うけど、私自身は北海道の白はシャープな酸とそれと裏腹なトロピカル感。赤は甘酸っぱさと梅みたいなうまみが魅力だと勝手に思い込んでいる。

焼いたタコwithバジルペースト。ピノ・ノワールによく合うんだこれが。

このピノ・ノワールはまさに後者の感じ。2020年の北海道は良い年だったそうで、収穫は質・量ともに満足のいくものだったのだそうだ。それもあってかピノ・ノワールならではのチャーミングな甘酸っぱさに、梅干しみたいな後を引くうまみが伴っている。Nagiさんからも「おいしいと思います」の一言をいただいたので良かった。

Nagiさんはこうも言った。

「酸がきれいに出てますね。エキスの出方が強く、アルコール感もあるので若干ジャミーに感じるのですが、同時に青みも感じます。どこかランブルカっぽさを感じるのは、もしかしたら醸造設備をラブルスカ種と共有しているからかもしれません」

今グラスに入っているワインに限らず、北海道のワインの特徴をすごく言い表しているように感じられ、このコメントに私はすごく深く考えさせられたのだった(私は北海道のラブルスカ種大好き)。

その感じ、ブルゴーニュの生産者、ド・モンティーユが北海道でつくる「驚」のツヴァイゲルトを飲んだときにも感じたような気がする。なんなんだろう、あの独特のおいしさ。生産者が意図したかどうかはわからないし、飲み手が好きか嫌いかもわからないが、「これに限らずたしかにそうだな」と思った。

 

<4本目>ドニ・モルテ「マルサネ レ ロンジュロワ 2018」

次に飲んだのは沼田さんが持ち込んでくれた2本目のワイン、ドニ・モルテのマルサネ レ ロンジュロワ 2018。「ヒマワインさんが日本のピノを持ってくるってことだったので、マルサネはコート・ド・ニュイの最北端だから(比較すると)面白いかなと思って」と選んでくれたワインだ。

沼田さんによれば、近年のブルゴーニュは2017年が「糖と酸が両方乗ってる年」。2019は「果実がきっちり詰まった年」。このふたつの良いヴィンテージにに挟まれた2018は「暑い年で、外側はあるけど内側のないドーナツ状の印象の年」なのだそうだ。

さらに2020年はNagiさんいわく「ヨーロッパ全体で難しかった」という2018年と同じくらい収穫が早くなりそうで、2022年はさらにそれが早まりそうなのだそうだ。ヨーロッパはどんどん暑くなっている。

ブルーチーズとピスタチオのペンネ。沼田さんが毎回頼む定番メニューだそう。めちゃくちゃうまい!

さて、ドニ・モルテのマルサネ2018は私にとってはというかなんというか、普通にとってもおいしいワインだと感じた。渋みも果実も酸味もしっかりある、お手本のようなブルゴーニュピノ・ノワール。そしてちょっとタキザワワイナリーのピノ・ノワールと味筋が似てるような気がした(ラブルスカ感はもちろんないけど)。

北海道で農業をしている人に聞いた話なのだが、北海道ではさまざまな作物の北限が100キロ北に移動していると言われているのだそうだ。

この先ブルゴーニュピノ・ノワールの栽培に最適な土地ではなくなり、北海道がさらに適した土地になる。そんな未来は来るのだろうか。ガチで人類の課題は煎じ詰めれば気候変動一択説だなー。

 

<5本目>Nagiさんのファーストヴィンテージ・白

夜は更け、いよいよこの日ラストの1本、2017年にNagiさんが研修先で仕込んだ名もなきキュヴェ・白の出番となった。

「もしかしたら甘口だったかもしれない」という理由で最後に回ったのだが、蓋を開けてみれば、蓋を開けてみればという言葉を本当に蓋を開ける際に使用したのは初めてなのだが、甘口ではなくドライなタイプだった。

Nagiさんのファーストヴィンテージ・白

品種はリースリング。そしてこれが抜群においしいリースリングだったのだった。いやほんとに、100人いたら98人くらいはおいしいって言うワインだと思う。

研修先のワイナリーが選果を行い、弾かれたワインの中から研修生が使えそうな粒を探し出してわずか50リットルだけ仕込んだ幻のキュヴェ、それが「名もなきキュヴェ・白」の正体なのだそうで、それにはドライなタイプと甘口タイプ、ふたつがあったのだそうだ。

レモンや蜂蜜のような甘やかな香りにハーブのような若干の清涼感を伴う香り。ペトロール香は一切なく、苦味もなく、ただただ透明で美しい液体そのものを堪能できる。すげえなこの研修生。なにものなんだ!? みたいな猿芝居を一人で演じたくなるような、本当においしいリースリングだ。

「どの品種でもいいから、飲んだときにおいしいと感じるのは果実を感じるもの。果実を食べてる感じがあるものです。巨峰やシャインマスカットを食べているときにペトロール香があったらおいしくないでしょ? なのに、リースリングだけはペトロールがあっていいなんてことはありません。ペトロールはオフフレーバーです」

とNagiさん。たしかに私も「リースリングのペトロール香=品種特徴」みたいにとらえていたフシがある。

シメの一品はイチボのステーキ的なもの。画面右に見えるハラペーニョソースがうまい。

Nagiさんによれば、ペトロール香は水分ストレス(水分不足)によって生じるのだそうで、ドイツのブドウ畑が水捌けの良い斜面に位置することが多いことから歴史的にペトロールが出やすく、ドイツ=リースリング=ペトロールという認識が形成されてしまったのだという。なるほどなあ。

100人いたら2人くらい「リースリングはペトロール香がないと」という人がいるかもしれないが、私も普通にないほうがおいしいよなと思った。いや、それだけ目の前にある液体がめっちゃおいしかったわけなんですよ。

 

Nagiさんのファーストヴィンテージを飲む会を終えて

というわけで3人で5本を飲み、私は前日も会食で深酒をしていたこともあってか完全ド泥酔モードに突入、お店にノートPCを忘れるという銀行員が札束を忘れるみたいな失態を晒してしまった。走って追いかけてくれたサービスマンの方、本当にありがとうございましたごめんない。またお邪魔します。

驚くべきはNagiさんのファーストヴィンテージ。ふたつともとてもおいしかった。「マテリアルは悪く、技術的にも未熟。だから、このふたつが私の最低限のラインなんです」と語るNagiさんが男前過ぎた件、である。

仮においしくなかったとしても、世界に2本しかないワインのうちの1本を飲ませてもらえただけで感謝の表現のしようがないレベル。それが最高においしかったことで、本当にワイン好きになって良かったなってレベルの夜になったのだった。忘れちゃいけない、沼田さんの持ち込まれた2本、とくにシャンパーニュもすごいワインだった……!

というわけでNagiさん、沼田さん、また飲みましょう。ほら、オレたち同級生みたいなもんだし(なれなれしい)!

 

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