10000円以上のすごいワイン
さて続いては10000円以上の無差別級を見ていきたい。こっちはとんでもないワインがたくさんあった。さっそく紹介していこう。
前編(10000円以下編)はこちら↓
ナパ・ハイランズ「リザーヴ・カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー2020」
まずは10000円以下級でも名前が挙がったナパ・ハイランズ。12000円する「リザーヴ・カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー2020」がすごかった。
5800円のキュヴェと比較すると、同じ人物が同じ服を着ているんだけどこちらはハードな筋トレを経て一回り体が大きくなって前のボタンが弾けそうになってるみたいな印象。ただでさえおいしいものがさらにギュンギュンに仕上がっている。力こそパワー、という味。
「しあわせワイン倶楽部」の商品ページによれば、こちらのワインのブドウはオーパス・ワンの畑の真隣の畑のブドウを使っているのだとか(ただし2019VTの話)。そう考えると12000円も意外と安い、かもしれない。
ルチアbyピゾーニ「ピノ・ノワール ゲイリーズ・ヴィンヤード2021」
さて、会場にはカリフォルニアワイン界の有名人でお知り合いのアンディ松原さんがおられた。
会場でお会いした際には「すでに全ワイン試飲しました」とおっしゃっていた(すげえ)アンディさんになにが良かったか聞いてみると真っ先に名前が挙がったのがルチアbyピゾーニの「ピノ・ノワール ゲイリーズ・ヴィンヤード2021」。
ピゾーニといえばラ・ターシュの畑のブドウの挿し木から生まれたという伝説が今に伝わるピゾーニ・クローンで有名な、私レベルでも知ってるカリフォルニアのグラン・クリュ的存在。
そのピゾーニ・ヴィンヤードのオーナー家が手がけるのがピゾーニ・エステートで、ルチアbyピゾーニはピゾーニ・ヴィンヤード以外の自社畑からのブドウで造るワイン。
アンディさんオススメのゲイリーズはシャープな酸、密度の高い渋みがスクラムを組み、砂糖的甘さを伴わない豊かな果実味が土台を支える美しい構造。つまりめちゃくちゃうまい。
ただし入手は難しそう。
【ピノ・ノワールBEST】ピゾーニ・エステート「ピノ・ノワール ピゾーニ・ヴィンヤード2021」
ではピゾーニ・エステートの「ピノ・ノワール ピゾーニ・ヴィンヤード2021」、いわゆるピゾーニ・ピゾーニはどうかといえばこっちもむちゃくちゃおいしいんですよそりゃあもう。こちらは40%を全房で発酵させており、新樽率もゲイリーズが55%に対して、ピゾーニが68%と高い。
全房発酵も取り入れられていることもあってか、要素の多さでいえばやはりこちらに軍配が上がる。熟成した姿を見てみたい一方、今飲んでもちゃんとおいしいのがすごい。
なるほど、これがラ・ターシュ由来のブドウ樹の味わい……と思いたいところなのだが肝心のラ・ターシュを飲んだことがない。なので比較はできないが、間違いなくおいしいピノ・ノワールだった。ゲイリーと比べるならば、53:47くらいの僅差で私はこちらが好き。
そしてカリフォルニアのガチのトップの畑が2万円で買えるのだ。欲しいなあ。ピゾーニ・ピゾーニ、貧乏舌の私でも思わずピクリと反応してしまう味わいだ。
アストン・エステート「エステート ピノ・ノワール ソノマ・コースト2018」
ピノ・ノワールを続けよう。アストン・エステートの「エステート ピノ・ノワール ソノマ・コースト2018」(14500円)も素晴らしいと思った。
ただでさえ冷涼なソノマ・コーストの最北の土地に切り拓いた自社畑100%から造られるワインで、香りのボリュームが今回試飲したピノ・ノワールのなかでもっとも大きいんじゃないかくらい大きく強く、味わいも濃く強い。
濃いピノ・ノワールはちょっとなあ、と思う方は多いと思うがこれはなんともいえないバランスで、濃さが旨さに直結しており、同時にピノ・ノワールの魅力を毀損していない不思議なワインだ。カリフォルニアのなかにも、当然ながらさまざまなスタイルがある。
ハドソン・ワインズ「シャルドネ ナパ・ヴァレー カーネロス2020」
白ワインでいうと、キスラー、コングスガード、パッツ&ホールといった超有名生産者にブドウを供給するハドソン・ヴィンヤーズのハドソンさんが自らの畑のブドウで造るハドソン・ワインズがやっぱりガチだった。
梗がついたままのブドウをソフトに圧搾し天然酵母発酵させるという「シャルドネ ナパ・ヴァレー カーネロス2020」は希望小売価格13000円。ナパ・ヴァレーのシャルドネらしい豊かな味わいがありつつ、しっかりとした酸もあってとてもエレガント。1万円台のシャルドネではこれがベストと感じた。
【白BEST】スタッグリン・ファミリー・ヴィンヤード「スタッグリン シャルドネ ラザフォード ナパヴァレー2021」
もうひとつ、白で印象に残ったのはスタッグリン・ファミリー・ヴィンヤードのワイン。
生産者の方が来日して直接いろいろ教えてくれたのだが、面白かったのはシャルドネ2種の価格差だ。同じ畑からのブドウを使い、醸造も大きくは変えていない。なのに価格は11000円と32000円で大きく違う。
これはクローンが違うのだそうで、11000円の「サルース シャルドネ2021」はアメリカンクローン、32000円の「スタッグリン シャルドネ ラザフォード ナパヴァレー2021」はフレンチクローンを使用。
後者は粒が小さく、収量も落としていることで価格に差がつくのだそうだ。飲んでみても味わいの違いは明らかで、後者のほうがやはりスケールが大きい。
また、このふたつのワインはテクニカルシートを見てみると後者のほうが新樽の使用率が高いのだが、飲んでみるとそういう感じがしない。なぜなのかと担当者のアンバー・ミーナさんに聞いてみると、「ブドウが強いからです」というシンプルな答えが返ってきた。
ブドウが強いことで樽に負けず、ワインに複雑性だけが加わっていくのだそうで、ブドウの品質によっては同じ熟成期間でも樽のニュアンスにワインが支配されてしまうそう。
10代の少女がブランドもののバッグを持っている場合、ときに空中をバッグだけが移動しているような感覚を受けたりするが、年齢を重ねた女性が同じものを持っているとそれがコーディネートの一部としてすごく自然かつ素敵に見えるのに通じるような話。生産者の方がいると面白い話が聞けていい。
リリックス 「シャルドネ ブラウン・ランチ カーネロス ナパヴァレー2016」
白でスタッグリンと1、2を争ったのがト音記号のラベルが印象的なリリックス 「シャルドネ ブラウン・ランチ カーネロス ナパヴァレー2016」。
リッチなシャルドネ、は5000円以下でも散見されるのだがリッチでエレガント、となると急に選択肢が狭まるというなか、リッチ&エレガントの到達点みたいに感じたのが価格20000円のこのワインだった。高いワインはうまい。シンプルな法則だ。
【全体BEST】アミューズ・ブーシュ・ワイナリー「レッドワイン2021」
さて、リリックスのワインが並べられていたのは中川ワイン試飲会会場最奥部にある高級ワインばかりがズラリと並んだ一角。同社のポートフォリオの精髄(の一部)と言えそうな雲上ワインの皆様を、私も一般人代表としてありがえてえありがてえと試飲させていただいた。
もちろん全部すごいのだが、個人的にとくにすごすぎると感じたワインが2種あったのでご紹介したい。まずはアミューズ・ブーシュ・ワイナリーの「レッドワイン2021」(42000円)。
スクリーミング・イーグルのワインメーカーを務め「ナパ・ヴァレーの女神」と称されるというハイジ・バレットさんが手がけ、メルロー主体にカベルネ・フランをブレンド。ペトリュスやル・パンを目指したポムロールスタイルとのことなんだけどこれはちょっと異次元空間に突入する凄まじさ。
とにかく奥行きがエグい。地平線まで続くベルベットの絨毯のような水平方向へのとんでもない広がりと明るいキャラクター、香りには祝祭感が満ちている。
いくら言葉を尽くしても語れないような巨大な輪郭がありながら、一言で表現せよとマイクを向けられたとするならば「甘ずっぱくておいしいです!」でまとめられてしまうような明快さもあるように感じられる。限りなく複雑で、限りなくシンプルだ。
ちなみにパーカー98点だそうです。ラベルもいい。全体を通して、私はこのワインが一番すごいと思った。
【カベルネBEST】アウトポスト「カベルネ・ソーヴィニヨン トゥルー・ヴィンヤード ハウエルマウンテン2018」
最後に飲んだアウトポストの「カベルネ・ソーヴィニヨン トゥルー・ヴィンヤード ハウエルマウンテン」もとんでもないワインだった。
資料を見るとパーカー100点を3度獲得したワインなのだそうで、価格も55000円と堂々たるもの。
アミューズ・ブーシュが圧倒的な奥行きと広がりを感じるとしたらこちらは1坪の空間に100ヘクタールの葡萄畑を詰め込んだような凄まじい密度を感じる。外に外に広がっていくのではなく内に内に収斂していく。
試飲した2018の点数は95+だったようだが、これ100点のヴィンテージは一体どうなってしまっているのだろうか。怖い! 飲むのが怖い! 怖いから飲みたくない!(飲みたい)
中川ワイン試飲会を終えて
というわけで、非常に駆け足で振り返ってしまったが、1万円オーバーのワインはやはりというか、ちょっと突き抜けてすごすぎるものが多々あったのだった。
カリフォルニアワインは安くてもおいしいものがあるし、高いものは「これは高いはずだわ」という納得感がつねにあるのが良いと思う。
前編も含めてまとめると、リンカーン・セラーズ、デコイ・リミテット、ナパ・ハイランズなど、総じて4000-5000円くらい出すとかなりいいものが飲めるなあと感じた。そして、薄うま系のピノ・ノワールならやはりオー・ボン・クリマはよくできているし、品質に対して価格もリーズナブルに感じられた。
一方、イーターやマックマニスのようにコスパを追求する生産者もいる。デコイなども含めた3000円以下にも素晴らしいものがたくさんあることを再認識できた。
高級レンジに目を移すと、ピゾーニやハドソンといったヴィンヤード所有者によるワインは上手く言語化できていないが“違い”を感じる。ピゾーニのゲイリーズとピゾーニ・ピゾーニの味わいは忘れがたい。
そしてなんといってもハイエンドだ。アミューズ・ブーシュはいつかまた飲みたい、忘れがたい味わいになった。
というわけで以上、中川ワイン試飲会レポートでした。