ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

レヴァンティーン・ヒル。「ヤラ・ヴァレーの最高峰」を飲んでみた

レヴァンティーン・ヒルとは?

インポーター・GRNワインズにお招きいただいて、オーストラリアはヤラ・ヴァレーの生産者「レヴァンティーン・ヒル」のメーカーズセミナー&ディナーに参加してきた。レバノン人の不動産王だというオーナーが、実に1億豪ドルを投資してオーストラリア最高峰を目指しているというすげえ生産者だ。

レストランなども充実しており、なんでも休日にはセレブがヘリでセラードアを訪れるらしい。私は会場となったGINZA SIXのオーストラリア料理店・アイアンバーク グリル&バーにヘリならぬ最寄り駅までチャリで来た身としてはかなり不釣り合いな気がしないでもないが気にしないでいこう。

この日は同ワイナリーと関わりの深いネッド・グッドウィンMW(マスター・オブ・ワイン)と同ワイナリーの醸造家、ポール・ブリッジマンさんが同席。最初に1時間のセミナーがあり、その後2時間が食事をしながらのテイスティングタイムとなる。

私のほかの参加者はX界隈で知らぬ者のない田邉公一ソムリエ、ほかにも誰でも知っている有名ホテルやレストランのソムリエの方々。

ワイン講師、ソムリエ、インポーター、醸造家、マスター・オブ・ワイン、そしてヒマワイン……とやっぱり一人明らかに異物が混入している感が否めないが、とても有意義な時間を過ごさせていただいたのでレポートしていきたい。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン哲学

さて、レヴァンティーン・ヒルがあるヤラ・ヴァレーはオーストラリアのほぼ南端・ヴィクトリア州の冷涼産地。そこではシャルドネ、シラー、カベルネ・ソーヴィヨン、ピノ・ノワールなどが栽培されている。

冒頭ポールさんが言っていたのは、「もしかしたら、みなさんが思うオーストラリアワインとレヴァンティーン・ヒルのワインは違うかもしれません」ということ。「我々のヤードスティックであり、ベンチマークであり、ブループリントはフランスワイン」だといい、目指しているのはボルドーであり、ブルゴーニュのワインなんだそうだ。

himawine.hatenablog.com

ただフランスは北半球、オーストラリアは南半球にあり、そもそもの条件が異なる。ネッド・グッドウィンMWいわく、だからこそ「フランスとは違う複雑さ、違うストラクチャー、違う果実を表現したい」のだそうだ。

ポールさんはそれを、「太陽の恵みの伝わる、セイボリーで滋味深いワイン」と表現しておられた。この「セイボリー(Savory)」はこの日のキーワードなので覚えておいてください。

現場では「なるほどセイボリーか……わかるなあ」みたいな顔でフムフムお話を伺っていたのだが、告白しよう、実は初耳だ。風味が良い、おいしそうな、塩味のある、香り高いとか、そんなニュアンスなんですって。ポールさんとネッドさんは、果実味のあるビッグなスタイルのワインの対照語としてこのワードを用いていたように思う。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン3つのグレード

レヴァンティーン・ヒルのワインは3つのグレードに分かれる。「レヴァント」「エステート」「ファミリー・パドック」の順にハイグレード。

黒のラベルが「レヴァント」

参考小売価格6000円税別のレバントは新規に取得した畑のブドウを使用。同12000円税別のエステートは自社畑のブドウを使っている。

白のラベルが「エステート」

25000〜30000円のファミリー・パドックはオーナーが住むワイナリーの建物周辺のグラン・クリュ的最上の畑からのブドウを使っているそうで、品種ごとに家族のファーストネームがつけられている。

よく見ると畑のカタチがラベルにデザインされている「ファミリー・パドック

この日は、4品種かけることの3グレード、計12種類のワインをテイスティングさせていただいた。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン【1】シャルドネ

さて、そんな話が続く中、最初のワインが運ばれてくる。シャルドネだ。

飲んでみると、うーん……うますぎるなこれ。価格帯的に下から順に「レヴァント・バイ・レヴァンティーン・ヒル シャルドネ2021」、「レヴァンティーン・ヒル エステート・シャルドネ2019」「キャサリーンズ・パドック シャルドネ2018」と、それぞれに個性的な味わいだが、総じてレベルが高いし、なるほどブルゴーニュっぽい。

そこで「これら3キュヴェはブルゴーニュのどんな生産地をベンチマークにしているのか?」と質問してみた。この駄質問に対してのポールさんの神回答は以下だ。

「『レヴァント』はコトー・シャロネーズ(ここでネッドさんが『ずいぶん正直だね(笑)』とツッコミ)。ですが、将来モンラッシェになってくれたらと思っています。そして『エステート』はマイ・ムルソー。『パドック』はコルトン・シャルルマーニュです」とのことだった。

ポールさんの「マイ・ムルソー」。極めてうまい。

ブルゴーニュの2018、2019、2020はすごく暑く、ムルソーにトロピカルなニュアンスが出ていて、シャブリがムルソーに感じられるほどでした。その点、ヤラ・ヴァレーには酸味の足りない“デブなシャルドネ”はありません」とネッドさん。

明言はしておられなかったが、地球温暖化の影響で一部の産地がどんどんボリュームを増していくなか、ヤラ・ヴァレーはそこに取って代わり得るんだ、という野心と意欲を感じた。実際、3キュヴェすべてしっかりと酸が乗ってエレガントだ。

私の好みはバランスの良いエステート。ポールさんの「マイ・ムルソー」、すごくいいなと思った。マイ・ムルソー、いつか使ってみたすぎるワードだ。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン【2】ピノ・ノワール

続いてはピノ・ノワールをいただいた。

ピノ・ノワールは果実味だけだとストラクチャーがないように感じられてしまいます。必要なのはしっかりとしたタンニン。目指しているのは、ピノ・ノワールwithショルダーです」と、ポールさん。

じゃあ濃厚なピノ・ノワールなのかなと一瞬身構えたが、さにあらず。まったくもってエレガントだ。

「レヴァント」は梗をシリンダーに詰めて発酵槽に入れることで複雑さを出している

「『レヴァント ピノ・ノワール 2021』のピノは除梗したあとで、梗を特注のシリンダーに入れてオープントップの発酵槽のなかに浸しています。料理にベイリーフを入れるみたいにね。それによって、繊細で細かく、キレイなタンニンが出てくるんです」とネッドさん。

それに対して「エステート・ピノ・ノワール 2019」は収穫したブドウを20のロットに分け、その小さなロットをアッサンブラージュして造るという手間がかけられたワイン。

料理もいただいている。これはミナミマグロカルパッチョピノ・ノワールによく合った。

さらに最上級の「コリーンズ・パドック ピノ・ノワール 2017」はクローンごとに少量ずつ発酵・熟成。梗を加える割合も区画ごとに変え、なかには100%全房のタンクもあるという超細かい造り。ポールさん、地元出身の明るいナイスガイだが仕事は繊細…!

白眉はやはりエステートで、同席されたうち3名のソムリエの方に聞いてみたところ、口を揃えてこれをこの日のベストのひとつに挙げておられた。

ソムリエの方々の評価が高かった、エステートのピノ・ノワール

ブルゴーニュのスタイルにかなり近いのにフルーツのニュアンスがある。緻密できれいなタンニンもある、フォーマルな印象のピノ・ノワールです」というのが田邉ソムリエの評。田邉ソムリエのコメント力は異常(当然)。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン【3】シラー

さて、続いてはシラーだ。ポールさん自身、一番好きな品種はクール・クライメット・シラーなのだそうだ。

ていうかオーストラリアで一般的なシラーズ表記じゃなくてフランス的なシラー表記なのが面白い。正確には「エステート・シラー 2018」と「メリッサズ・パドック シラー 2016」がシラー。もっとも廉価な「レヴァント・シラーズ2021」と、日本未導入のトップキュヴェはシラーズ表記なのだそうだ。

レヴァントは「シラーズ」表記

ではなぜエステートとファミリー・パドックはシラー表記なのか。それはポールさんの経歴に関係がある。なんでもポールさん、2006年に北ローヌのジャン・ルイ・シャーヴで修行し、その後E.ギガル、M.シャプティエでも働いてクール・クライメット・シラーの経験を積んだのでそうで、つまりローヌへのリスペクトがシラーという表記に表れている。

エステートとパドックはシラー表記

飲んでみると確かにその通りで、レヴァントはめちゃくちゃチャーミングで、シャルドネにもピノ・ノワールにも感じなかったオーストラリアワイン的な親しみやすさがある。

でもってエステートとパドックはシリアスさも加わる。醸造においては、こんな面白い話を聞かせてくれた。

ブルゴーニュはヴィンヤードの名前をワインの名前にするシングルヴィンヤード文化ですが、ローヌはブレンディングの文化です。私のやり方は両者のフュージョン。2.4ヘクタールの畑を細かい区画に分けて、クローンを変えたり、1日で収穫せずにあえて収穫時期を変えたりして違いを生み出し、複雑味を出しています」(ポールさん)

いやー面白い。こういう話は何時間でも聞いていたい。

ラム肩ロースとムール貝の旬野菜スープ仕立て。海のものと陸のものを一緒に味わう“サーフ&ターフ”

ちなみに醸造のやり方はピノ・ノワールとシラーで「まったく同じ」なのだそうだ。“ピノ・ノワールwithショルダー”を造るのと同じテクニックをシラーに当てはめるとエレガントで繊細、そしてセイボリーなクール・クライメット・シラーを造ることができる。

パドックのシラーは親しみやすさとエレガントさがふたつの高い塔のようにグラスの中に屹立し、そのもっとも高いフロアに酸の架け橋が渡されているような見事なバランス。

日本がオリンピックの柔道で必ずといっていいほど金メダルを獲得するように、やはり“お家芸”は強い。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン【4】カベルネ・ソーヴィニヨン

最後はカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

ここでも面白い話を聞いた。レヴァンティーン・ヒルの3種類のカベルネ・ソーヴィニヨンのアルコール度数がすべて13%である理由だ。

「アルコール度数が13.8%を超えると、カベルネ・ソーヴィニヨンの“魅力的青さ”がなくなってしまうんです。青さを抱きしめるためには12.5〜13.7%がベスト。13.8%を超えたらおいしくないわけではありませんが、セイボリーだったりリーフィー(leafy)ではなくなってしまいます」(ポールさん)

セイボリーさを出す秘密のレシピが、ピノ・ノワールと同様に梗を加えること。「レヴァント・カベルネ・ソーヴィニヨン2020」で10%、「エステーカベルネ・ソーヴィニヨン2020」で20から30%、「サマンサズ・パドック・メランジュ・トラディショネル2016(パドックのみカベルネ・ソーヴィニヨン単一ではなく、カベルネメルロー、プティ・ヴェルド、カベルネ・フラン、マルベックのブレンド)」で最大50%の比率で梗を加えることで、香りや複雑さ、タンニンを補っている。

「グローバル・ウォーミングの影響で、ボルドーでも梗を加えたカベルネ・ソーヴィニヨンを作っています」とネッドさんが教えてくれた。気候変動が猛威を奮うなかで、いかに魅力的な香りを引き出すか、それが醸造家の課題であり、腕の見せ所となっている。

「サマンサズ・パドック・メランジュ・トラディショネル2016」私はこれがこの日のベスト

肝心の味わいだが、エステートはネッドさんが「ランチタイム・クラレット」と呼ぶ味わい。クラレットとはボルドーの赤ワインの別称だが、まさに昼から軽快に飲みたいカベルネだった。アルコール度数が13%に抑えられている影響は決して小さくない。軽快に飲めるカベルネ、いいな!

私が素晴らしいと感じたのは「サマンサズ・パドック」。他の品種と同じようにエステートよりさらに重心が低くなり、複雑性が増してくるのだが、アルコール度数の影響もあってかあくまでも軽快だ。いわばクール・クライメット・カベルネ・ソーヴィニヨン唯一無二感のある味わいだ。

タスマニア産牧草牛のハラミステーキ。カベルネに合いまくるに決まってるんですよこんなもんは。

カベルネ・ソーヴィニヨンはちょっと前のボルドーのニュアンスを感じる、ニューワールドなのにエレガントなカベルネでした」と田邉ソムリエ。涼しいカベルネ、大いにアリだと思いました。

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン12種類のBEST3

というわけで4品種12本を料理とともにいただいた。どれも素晴らしく甲乙をつけがたいのだが、ここは下世話な個人ブログ。おいしかったのBEST3的なものを強引に発表したい。

まず3位は「エステート・ピノ・ノワール 2019」だ。ソムリエの方々がベストに挙げていたこのキュヴェは、きっとブルゴーニュの知識があればあるほど、価格に対する良さを感じやすいワインなんだと思う。

2位は「エステート・シラー 2018」。オーストラリアならではの果実味がありながら、ローヌ的複雑さも兼ね備えたすごく魅力的なキュヴェだった。一方で、2位は同じシラーの「レヴァント」でもいい。こちらは親しみやすさお化けだった。

1位は「サマンサズ・パドック・メランジュ・トラディショネル2016」を挙げたい。カベルネ中心のやつ。アルコール度数13%と実にほどよく、梗を入れる手法ならではの香りの良さと緻密なタンニン、それでいて飲みやすい。素晴らしい味だった。あの〜、メルロー主体のキュヴェも作ってもらえませんかね……?

 

レヴァンティーン・ヒルのワイン造り。なぜ“自然派”ではないのか?

さて、いつもならここらへんで稿を閉じるところなのだが、最後にどうしてもお伝えしたいことがある。

レヴァンティーン・ヒルのワインは酸化防止剤無添加でなく、有機栽培でなく、天然酵母だけでなく培養酵母も使っている。“自然派”的ニュアンスは少ない。そのことで、「培養酵母を使ってるってことは複雑さがないのでは?」みたいに言われることもあるのだそうだ。ではなぜそういった手法をとらないのか。

ポールさんいわく、たとえばピノ・ノワールシャルドネしか植えられていないような生産地では、野生酵母ピノ・ノワールシャルドネの発酵に向いたものがその場に居続ける一方、レヴァンティーン・ヒルのように多品種を取り扱うワイナリーでは野生酵母だけでは最適な発酵に導くのが難しいそう。

なので、最初は野生酵母での発酵を促し、途中からは培養酵母を追加することで、品種ごとの最適な発酵を進ませるのだという。

有機栽培しかり。ヤラ・ヴァレーは、3年続けてラニーニャ現象の影響を受け、今年はエルニーニョ現象の影響を受けたそう。そのように年ごとにイレギュラーが発生するなか、有機栽培ではブドウを守れないということのようだ。

ポールさんの言葉で非常に印象的なだったものがある「ヴィンテージごとの違いがなるべく“出ないようにする”のがワインメーカーの腕の見せどころです」というものだ。

有機栽培、野生酵母発酵、という言葉の響きは美しい。しかし、その結果ブドウに病気が広がってしまったり発酵が途中で止まってしまっては本末転倒だ。ヴィンテージごとの個性を楽しむというのも常識のように語られるが、「今年はおいしくない」と言われたら翌年以降そのワインは消費者に敬遠されるはずだ普通に。

だからこそ徹底した品質管理をポールさんは追求している。もちろん、栽培においては極力サスティナブルであることを指向しつつ、という注釈は添えておきたい。

ポールさんのお話は、我が盟友Nagiさんのお話との共通点が多くあった気がする↓

www.youtube.comというわけでおいしいワインを醸造家とマスター・オブ・ワインの生解説付きで楽しむという幸せすぎて「ひょっとして……明日オレ死ぬ?」みたいな時間はあっという間に過ぎていった。

オーストラリアの冷涼なヤラ・ヴァレーにあってフランスの方向を向きながら最高のワインを目指すレヴァンティーン・ヒル。覚えておいて損がないと思います。

 

今年のふるさと納税オススメと個人的有力候補↓