小布施ワイナリーの公式サイトがすごい
カーヴ・ド・リラックス虎ノ門本店に行ったら小布施ワイナリーのロゼ泡が売っていたので買った。ワイン初心者マークがとれない私でも知っている小布施ワイナリー、いったいどんなワイナリーなのだろうかと公式サイトを訪問して隅から隅まで読んでみて思ったところを本日は書きます。
というのも、この公式サイトがすごかった。なんでしょうか。多くのワイナリーの公式サイトは、ワイナリーの歴史、ワインについて、オンラインストア、みたいな構成であることがほとんどであるなか、小布施ワイナリーの場合は、トップページの一番目立つところには「マスメディア取材お断りします。」の一文。その下にはワイナリー併設のショップの営業案内が続き、全国の特約店情報が続いて、それでおしまい。売っているワインの名前は(驚くべきことに)ひとつも見当たらない。ものすごく情報が少ない(かと思いきや、目立たないとこに凄まじい情報量が隠されている)。
普通のワイナリーのサイトが伝えるのは情報だ。我々はどんな生産者で、どんなワインを造っていて、どこで買うことができるか。それらをいかに効率よく印象的に伝えるかに主眼が置かれている。そりゃそうだ。公式サイトとは拡販のためのものなのだから。小布施ワイナリーの場合は大きく違う、その公式サイトが伝えるのは、一言でいえば「哲学」だというふうに見える。
「ドメイヌソガはクレイジーである」
たとえば、なぜ小布施ワイナリーのワインはインターネットで買えないのか。その理由が公式サイトには掲載されている。一部引用するならば、以下のような感じだ。
「ドメイヌソガ(筆者注:自社畑のブドウだけを使ったシリーズだそう)のワインは売り手(特約店)とお客様が直接対話をして、店主さんが『ドメイヌソガはクレイジーなんだよ』とコメントを飲み手の皆さんに伝えていただく、そんな普通の姿を望んでます。」
「ドメイヌソガはクレイジーである」ということを知ったうえで飲んでほしい。そう書いてあるのすごい。つまりは、造り手のことを知ってもらいたい、哲学を知ってもらいたい、そのうえで味わってもらいたいということだと思う。この時点で「うわ、めんどくせ」と思う人も中にはいるかもしれないが、私はこういう感じが好きだ。
そして、地域に一店舗程度しか流通させない限定流通について、同じページのなかで「小規模ながらも一生懸命努力しているワインショップ、酒店の方々達こそ、私達のワインの味わいをお客様に伝えてくださる伝道者だとおもっています。」と理由を説明している。ここからも、ネット販売をしない理由と同じ思いが見える。
ワインはどの国の、どの土地の、どんな葡萄をどう収穫して醸造して熟成させたのかっていう情報があればあったほうがおいしく感じられると私は思う。仮に「そういう先入観を全部抜きにして飲んでみてよ」と言われたとしても、それは飲んだ後に答え合わせが待っていることが前提となるはずで結局は情報を先に入れるか後に入れるかの違いに過ぎないし、本当になにも情報がないワインにも、なにも情報がないという情報は存在する。ワインの味は情報の味。
品種は「先入観を排除するため秘密」
なんだけど、小布施ワイナリーのワインは情報が少ない。というか、制限されている。今回飲んだロゼスパークリングに関していえば、なんなら名称もよくわからない。ラベル裏には「グラップ・アンティエール」とだけ書いてあるが、なにぶんにも公式サイトに商品ページがないため、小布施ワイナリー グラップ・アンティエールなのか、ソガ・ペール・エ・フィス グラップ・アンティエールなのか正式名称がわからず、販売店のサイトでも表記が揺れに揺れている。「プレシュラージュ デ グラップ アンティエール(葡萄の房ごと搾汁)」から命名されていることだけが裏ラベルからはわかる。
そしてなんなら使用品種もわからない。
品種名 先入観を排除するために秘密(ワイン専用ヴィニフェラ黒葡萄)
と、裏ラベルに記載されている。私の味覚レベルではなにが使われているのかなど類推できようはずもなく、マジで謎。なんなんだろう。気になる。ただし、「ルミアージュ、デゴルジュマン、コルク打栓、ワイヤ掛け、シャンパンシール掛けはすべて手作業」で行うなど、徹底的な手仕事ぶりは記載されている。
公式サイトをくまなく見ると、一見情報量が少なく見えて、ワイン造りの「哲学」に関しては、他のサイト以上のボリュームと熱量で綴られていることがわかる。情報は少ないが、哲学はてんこ盛り。なので畢竟、飲む側も「それ」を飲むことになる。つまり、情報ではなく哲学を飲むことになる。
そして、やや余談となるが公式サイトの文章がすごく味がある。彫刻刀で一文字ずつ言葉を刻んでいくような「本気で書いてます」感がゴリゴリに伝わってきて、土に根差した人でなければ書けないであろう迫力がある。
「私達の考える有機栽培の概念 ハーバーボッシュから紐解く」という一文などは、『銃・病原菌・鉄』的な文明論とか、宮崎駿の愛読書としても知られる名著『栽培植物と農耕の起源』とかも想起させる興味深い内容で、大げさにいえばちょっと感動的ですらある。読み物好きの方はぜひ、ご一読ください。
http://obusewinery.com/bio.htm
小布施ワイナリー「グラップ・アンティエール」を飲んでみた。
というわけで飲む前から造り手のファンになってしまったので飲むのが逆に不安になってくるこの心理。「もしおいしいと感じなかったらどうしよう」という余計なお世話すぎる不安を抱えたまま、いざ抜栓とあいなった。
まず、あれなんていうんですかね。スパークリングワインのコルクを固定している帽子をかぶった太い針金みたいなアレ。ワイヤか。ワイヤをぐるぐる巻いてある部分。あそこが固い! 正直、開けにくい! しかし、私はその開けにくさがとてもいいなと思った。そこに針金部分をキツくしめた人の手の存在を感じたからだ。なんだか早くも小布施ワイナリーの世界観に取り込まれている感じがするがいい年して影響を受けやすいのを私は自分の長所だと思っておりますそれにしても固い。なんとかワイヤぐるぐる巻き部分を解きほぐし、スポンと抜栓。グラスに注ぐと勢いの良い泡立ちともに、ややオレンジがかったピンク色の液体が目に入ってくる。色かわいいな。ギャップ萌えである。
そしてその味わいは、最高! シャンパンより旨いぜ! みたいな大げさな味ではなく、しみじみと五臓六腑に染み渡るような滋味。しっかりした酸味と、かわいらしい果実味、それと子どものころに風邪をひいたときに親が飲ませてくれたシロップのような、複雑でどこか懐かしい苦みがある。子どものころに風邪をひいたときに飲んだシロップの味の記憶が、自分にとってすごく好もしいものであったことに驚く。
値段は3500円。これ手間を考えるとよくわかんないけど儲からないんじゃないかなと、余計なことを考えてしまう。
まだまだ書きたいこともあれど、どうせきっとまた飲むので(気がつけば自宅に同ワイナリーのワインがあと3本ある)、その際にまた書こうと思う。いやはや、いつか行ってみたいな、小布施ワイナリー。ワインショップでワインを買って、地元のレストランに持ち込んだら最高に楽しそう。いつかやるんだ俺。