ペルーワインを飲んできた
お友だちと一緒にペルー料理を食べに行った。なんでもペルー料理は近年非常に評価が高まっており、2022年に発表された「世界のベストレストラン50」で2位に選ばれたのもペルーのお店なのだそうだ。
私はレストランのことは全然わからないが、「世界のベストレストラン50」の2022年版を見ると、ペルーからは2位と11位、32位と3つのレストランが選出されている。ちなみに日本は同じく3か所がランクインしていて東京・傳の20位が最高位。
2位に入っているペルーのレストラン「セントラル」のシェフは2022年7月に東京・紀尾井町にレストラン「マス」をオープンさせている。ペアリングディナーの価格は5万3000円で私には縁のない価格帯なのが残念。誰か言って感想聞かせてください。
この日うかがった神宮前のベポカは東京におけるペルー料理の老舗らしく、コースが6000円とリーズナブル。安心していざペルーワイン探検隊出発とあいなった。
会の詳細は安ワイン道場師範の稽古日誌に詳しいので参照していただくとして、ここでは会の模様に触れつつ、ペルーワインについて調べたことをまとめたい。みなさんはペルーが南米最古のワイン産地だって知ってましたか?
ペルーワインの歴史
ペルーにブドウの樹が持ち込まれたのは16世紀。スペインの侵略者・コンキスタドールがペルーの首都・リマの周辺に持ち込んだようだ。
「アメリカ大陸の先住民がなぜ旧大陸の住民に征服されたのか?」という問いを解き明かした名著といえば『銃・病原菌・鉄』だが、旧大陸の住民たちは銃と病原菌と鉄のみならずブドウも持ち込んだことになる。ワインをレストランに持ち込むのがワイン好き。ワインを新大陸に持ち込むのがスペイン人だ。スケールでかっ。
このあたりの事情は以下の記事にも書いてます↓
ほぼ南米全土をカバーするペルー副王領の首都となったリマは大いに発展。リマ南部のイカヴァレーで造られたワインはリマのスペイン人たちに消費されたほか、ボリビアのポトシ鉱山で働く労働者の給料の一部ともなった。給料がワイン、最高なんだか最悪なんだかわからない。
ただ、その後ペルーワインはなんやかんやでド衰退。それが最近になってワイナリーを近代化したり国際的なコンサルタントを雇用するなどして復活傾向にあるのだそうだ。
ちなみに、ペルーでよく栽培されているのは以下のような品種。
赤:アリカンテブーシェ、バルベーラ、カベルネ・ソーヴィニヨン、グルナッシュ、マルベック
白:アルビーリョ、モスカテル、ソーヴィニヨンブラン、トロンテル(トロンテスのシノニム)
赤はフランスの南のほうっぽい品種、白はアロマティックな品種が中心みたいだ。
ペルーワインと南米最古のワイナリー「TACAMA」
というわけで話は東京・原宿のペルー料理店「ベポカ」に戻る。この日我々は3本のペルーワインのボトルを空にした。生産者はすべて「TACAMA」というところ。
インポーターは株式会社キョウダイジャパンという聞きなれない名前で、調べたところブラジル食品・ペルー食品の通販・卸を行う会社。(ブラジルワインも後日調査が必要かもしれない)
タカマの設立は1540年。フランシスコ・ピサロがインカ帝国を侵略したのが1533年だから、それからほどなくして設立されたことになるわけで、南米最古の看板に偽りなし。
タカマの歴史はだからペルーワインの歴史だ。ペルー地震あり、スペインのペルーワイン禁輸あり、フィロキセラ禍ありと七難八苦を乗り越えて、2008年にフランスからワインメーカーを招聘。2014年には生産工程に大規模な投資を行うなどして、ワインとピスコ(ワイン用ブドウでつくる蒸留酒)のメーカーとして生まれ変わったみたいなことが公式サイトには書いてある。
ペルー最古のワイナリー「TACAMA(タカマ)」の3本のワイン
では味わいはどうだったのだろうか。我々が飲んだのは3本。
まず乾杯に頼んだスパークリング、タカマ ブリュット ソーヴィニョン・ブランだが、現地価格は36.9ソル。なるほど36.9ソルね。全然ピンとこない(約1380円だそうです)。
ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン、ユニ・ブランのブレンドだというこのワインは実になんともオーソドックスな味わい。味の方向性としてはプロセッコに近いような印象で、おそらくシャルマ方式と思われる元気な泡にレモン、花の蜜の感じ。
ペルーを代表する料理である魚と野菜のマリネ・セビーチェと合わせると、ライムの酸味と互いに響き合い、青唐辛子の爽快な辛味とは互いに補い合うという四ツ相撲的ペアリングとなり実においしかった。個人的にはこれがこの日のベスト。清く正しく美しい安スパークリングだった。
ブランコ・デ・ブランコス
白はブラン・ド・ブランならぬ「ブランコ・デ・ブランコス」という名前のスティルワインを飲んだ。ソーヴィニヨン、シャルドネ、ヴィオニエが大体3割ずつ使われているワイン。
これは品種からイメージされる通り果実味あふれるアロマティックなワインで、アンティクーチョ・デ・コラソンという名前の牛ハツの鉄板焼きと合わせて素晴らしかった。
中までしっとりと火が入った牛ハツと、ハーブの一種・ワカタイと黄色い唐辛子アヒ・アマリージョを使った(と思われる)スパイシーなソースがマッチして絶品だったのだが、ワインがハーブの香りをさらに引き立てる調味料的効果とともに辛味をワインで鎮火し肉の脂もさっぱり洗い流してくれるモンダミン的作用も発揮していた。
パワフルな牛ハツなのでもちろん赤ワインでも合ったはず。だが、白と合わせたのは意外な正解。南米の料理とアロマティックなワインは相性が良い仮説。
アリカンテ・ブーシェ
赤はアリカンテ・ブーシェのものを飲んだ。最初にちょっとボルドーのような青黒い果実のボリュームを感じたのだが、アリカンテ・ブーシェは南仏品種らしく、言われてみるとラングドックとかあのあたりのワインっぽく感じられてくる。強くて重くて強いけれども親しみやすくもあるというタイプのワイン。
これと合わせたのはアヒ・デ・ガシーナという親鳥のスープで若鶏を煮込んだという変則親子丼的チキンのクリーミーな煮込み。そして干しじゃがいも「パパセカ」を使ったペルーの肉じゃが的料理・カラプルカ。
そして、中国人移民の影響で中華風味付けが施されたというペルーの酢豚的料理・ロモサルタード(牛肉と野菜の炒め物)といった料理だった。
味とスパイスがしっかりしているので、濃くて強いアリカンテ・ブーシェと合わせても料理が負けない。
この日飲んだ3本のワインは、すべて主役級では正直ないかもしれないが、素晴らしい料理を引き立てる名脇役の役割はきっちり果たしてくれていた。
こうして、ペルー料理初体験は大満足で終わった。文化の丸かじりだった。
ペルー料理について考えた
ところでなぜペルー料理がおいしいか、という話なのだが、それには「そもそもペルー料理とは?」を知るのが近道。ペルー料理はもともとインカ帝国で食べられていた、いわばインカ料理がベース。そこにスペイン料理が混淆し、さらに移民として定着した中国人、日本人、奴隷として連れてこられたアフリカの人々の料理が混ぜ合わさった果てに生まれた料理なのだそうだ。
その多様性が世界のほかにない個性になっているのだろうし、スペイン料理、中華料理といった日本人の口に合うとされる料理が混ざり合うことで日本食とはまったく異なる味付けながら日本人の口にも合うみたいになってる気がする。パンじゃなくて白米が付いてくるし。
私が強く感銘を受けたのは多彩な「色」だ。紫色のオリーブ。赤・青・黄色の唐辛子。ライムジュース。白とオレンジ色のとうもろこし。白・赤・紫のキヌア。食材に「色」がつくものが異様に多く、必然的に提供される皿の中にも色彩が溢れてくる。
酔いが回っていくとともに料理を食べているのか色彩そのものを口にしているのかという境界線が曖昧になる。甘そうに見えて辛く、辛そうに見えてすっぱく、無味に見えて甘いといった視覚による認識のズレを生みだす南米文学的マジックリアリズム的料理体験といった印象だった。
そして「色を食べる料理」であるならば、言わずもがな赤白桃橙と色の名前で呼ばれるワインとの相性は抜群ということになる。
ペルー料理は現時点で日本ではかなりのニッチジャンル。しかし、今後さらに存在感を増していく可能性は大いにあると思うし、うまくワインを合わせるとさらに料理をおいしく食べられそう。
みなさんもペルー料理とペルーワインの組み合わせ、ぜひトライしていただきたい。4人でコースを食べ、ワインを3本飲み、食後にピスコを飲んでお会計は一人1万1000円はお値打ちだ。オススメ。
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