キャサリンマーシャル&グレネリー テイスティングセミナーに参加した
株式会社マスダ主催「キャサリンマーシャル&グレネリー テイスティングセミナー」に参加してきた。
南アフリカで自然派的な造りでクリーンでおいしいワインを造るキャサリン・マーシャルと、元ボルドー二級オーナーが南アで手がけるボルドースタイルのグレネリーだ。
セミナーは90分制。最初の30分がキャサリン・マーシャルその人によるプレゼン、続いてグレネリーの輸出部長であるリアさんのプレゼンが30分、最後にフリーの試飲タイムという流れだ。
私的には生産者と直接話せるフリータイムがなにより面白かったのだが、前半のプレゼン部分も要点を記しておきたい。
キャサリン・マーシャルと南アフリカのふたつの土壌
まずキャサリンさんのプレゼンでは、2種類のピノ・ノワールがグラスに注がれた。ひとつは「サンドストーン」もうひとつは「クレイソイル」だ。つまり土壌違いの飲み比べ。キャサリンさんは言う。
「ブルゴーニュで区画ごとにテロワールが異なるように、南アでも区画や土壌による違いを表現したいと思っています。(南アの中心産地である)西ケープ州の中心的な土壌は、手で砕けるほどやわらかなサンドストーンと、大昔は海の底だった硬い粘土質の土壌です。サンドストーンは5億年前、クレイソイルは3億5000万年前と、地球上でもっとも古い土壌なんです」
これは後半のフリータイムで聞いた話なのだが、土壌が古いということは、それだけ「マントルに近い部分だということ」だとキャサリンさん(注:英語力が怪しいヒマワインが聞いた話なので聞き間違いの可能性があることにご注意ください)。
マントルに近いということはどういうことかというと、それだけ土壌に鉄分が多く含まれるということであり、その鉄分がワインにミネラルをもたらすのだという。
「私は科学者じゃないから、あくまで私の考えでは、だけど」とアハハと笑いながらそう教えてくれたのだが、土壌の“古さ”が味わいに影響するという話は面白い。シャブリで有名なキンメリジャン土壌もジュラ紀の終わりの大昔の土壌だが、なるほどミネラルが特徴だったりしますもんね。
キャサリン・マーシャルのふたつのピノ・ノワールに話を戻そう。キャサリンさんはこの2種についてこう語る。
「ふたつのピノ・ノワールはまったく同じように醸造していますが、味が違います。サンドストーンのほうがライトで、グレープフルーツやチェリー、クランベリーのような味。一方のクレイソイルはダークでしっかりとしていて、森の土やトリュフの感じが出ています」
言われてみると土壌違いで味わいに違いが感じられて、私はピンクグレープフルーツのつぶつぶがはじけた瞬間のようなフレッシュで甘酸っぱいサンドストーンの軽い味わいが好みだった。
「土壌違い」はなかなか味わうことも感じることもできないが、こうして生産者の話を聞きながら飲み比べると、思い込みかもしれないがたしかに違いを感じられて面白い。
グレネリー「レディ・メイ」とふたつのヴィンテージ
続いてはグレネリーのプレゼン。リアさんの話してくれた内容はボルドー二級・シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランドの元オーナーでありグレネリーの創始者であるレディ・メイの人生と、サスティナビリティに積極的に取り組んでいるという説明が主。
先日お邪魔したカリフォルニアの試飲会のサスティナブースでも聞いた話だが、海外では有機栽培=サスティナビリティと深く結びついていて、おいしいワインを造りたいから有機栽培に取り組んでいます、という話は意外と聞かないのが興味深い。
さて、グレネリーのプレゼンではフラグシップのレディ・メイがヴィンテージ違いで供された。2010と2016の比較試飲だ。
「2016、2010は決していいヴィンテージではありませんでした。でも、熟成することで決して悪くないヴィンテージになっています。2016は15、17といういいヴィンテージに挟まれた谷間の年。ただ、決して悪いヴィンテージではなく、10年待てばいい状態になると思います。2010は、2016の将来のイメージだと思っていただきたいです」(リアさん)
まず2016を飲んでみたのだが、普通に素晴らしいボルドースタイルのワインだ。新樽率100%のフレンチオーク樽で24か月熟成後、3-4年ボトル熟成させるというのがレディ・メイだが、その造りの良さの影響か、すごく上品な液体になっている。
少し酸を強めに感じるが、カベルネ・ソーヴィニヨンらしいミントの感じがさわやかで、果実と渋みがどっしりありながらも、フリスクみたいな爽快感がどこかにある。
そして2010は深い深い沼のような、底知れなさを感じるワインへと進化していると感じた。落ち着いた渋み、やわらかな酸。溶け込み、拡散した果実味。難しいヴィンテージだからどう、みたいなことは私の経験値では感知できないが、巨大な貴族の邸宅を一人で差配する老執事のような落ち着きを感じた。
キャサリンマーシャル&グレネリー、フリータイムで聞いた話
というわけでセミナーは終わり、両生産者の他のワインも大量に供されながら30分間のフリーテイスティングタイムとなった。お楽しみの時間だ。
まずキャサリンさんと話をさせてもらったのだが、面白かったのが酵母の話。キャサリン・マーシャル=自然派=すべてのワインが野生酵母発酵、と思っていたのだが、ご本人いわくそれは誤り。実際は「乾燥酵母も使ってるわよ。ソーヴィニヨン・ブランとか」とのことだった。その理由が面白い。
キャサリンさんによれば、酵母は「ブドウの中から香りを引き出すための鍵」なんだそうだ。ブドウの種類によってその鍵は異なり、正しい鍵を使えば90%以上引き出せるその中身が、合わない鍵だと50%くらいしか引き出せない。
そのため、品種によって乾燥酵母と野生酵母を使い分けているのだそう。あくまでも良い香り、良い味わいにするのが目的であり、酵母はそのための方法論なのだ。いい話聞いた。
リアさんとキャサリンさんの談義も面白かった。二人が教えてくれたのは、一般にバッドヴィンテージと言われる年であっても=ワインがおいしくないということではないということ。
「グレートヴィンテージは、ワインがビッグになりすぎてしまうこともある」とリアさん。「肉も、野菜も、魚も、すべてが最高だったら料理する必要なんてないでしょ? ワインも同じ」とのことだった。最高の素材に最高のソースだと料理はクドい。なにかが突出していたり、なにかが欠けた素材こそ、料理人の腕の見せ所だろう。
キャサリンさんのヴィンテージ論はこうだ。
「2015年は最高のヴィンテージ。ただし、評論家にとってはね。とってもわかりやすくて、ショー向けのワインができる(セクシーな女性のようなポーズをとりながら)。私たちが好きなのは2017年。とってもエレガントなヴィンテージだから」(キャサリンさん)
彼女たちが口を揃えて言ったのは、ヴィンテージとは個性であるということだ。評論家はグッド、バッドと点数をつけるが、生産の現場では年ごとのワインのスタイルの違い、というふうに受け取られている。いやもちろん、セールストークという側面もそりゃまああるんだろうけれど、「この年はダメ!」と断ずるよりも「この年にはこういう個性がある」と考えたほうが我々飲み手にとっても楽しい。
これは余談だが、2000円台で買えちゃうグレネリーのエステートリザーヴの赤は現行ヴィンテージが2015。グレートヴィンテージの影響もあるのかどうなのか、飲みごろをバッチバチに迎えていて2000円台とは思えぬとんでもない旨さなのでみなさん是非。同・シャルドネもめちゃくちゃおいしい。
そんなこんなでセミナーもフリートークも実に楽しく、大充実の90分間だったのだった。「南アに来たら連絡してね」と名刺をくれたキャサリンさんに会いに、いつか南アフリカに行ってみたいものである。
キャサリンさんのワインだとなんといってもソーヴィニヨン・ブラン。リースリングも素晴らしい