久しぶりに会う友人宅にどんなワインを持っていけばいいのか問題
大学時代の友人と約2年ぶりに会うことになった。大学を卒業して約20年。親しい友人と2年、3年会わないことも珍しいことではなくなってしまったが、この2年は私にとって普通の2年ではなく、道路を歩いていたら偶然空いていたマンホールの穴に気づかず落ちたような、突如ワインにどハマりした2年間。
友人も、どうやらアイツがワインに狂って帰ってこれない病気になってしまったようだ、気の毒に。みたいな噂を別の友人から聞いているようだ。というわけでワインを友人宅へと持参することにした。
友人は私と同様に酒飲みだが、ワインは別に嫌いってこともないけど好きってわけでもないかな、あれば飲むけどフツーに。くらいのスタンス。ワインにハマる以前の私とまったく同じ立ち位置だ。
そんな友人にワイン沼に首まで浸かった私はなにを持っていくべきなのかが難しい。親しき中にも礼儀ありで一応「お持たせ」なので高すぎても安すぎてもよくない。味がわかりにくいのもダメ。泡が無難な気がするが移動距離がそこそこ長いため当日運ぶのはちょっとなあ……と悩んだ末に選んだのが、先月試飲会で飲んでそのおいしさに感動して買ったフランスの女性醸造家ラファエル・ギュイヨがピノ・ノワールで造る「レ・ザット」。
ワインの好みは人それぞれだが、自分で飲んでたしかにおいしいと感じたワインを持っていけば仮に外しても仕方がない。himawine.hatenablog.com
ラファエル・ギュイヨ「レ・ザット」はどんなワインか
レ・ザットは30歳前後とまだ若く、それまで買いブドウでワインを造っていたラファエルさんが、2019年に自社畑のブドウで造ったファーストヴィンテージだと試飲会で聞いた。手摘みのピノ・ノワールを全房のままステンレスタンクで野生酵母のみで発酵。醸造添加物は一切使わず、最低限のSO2とともに無清澄で重力を利用して瓶詰めしたという自然派ワイン。
「自然派ワイン」っていうキーワードはむしろワインを飲まない人にこそ刺さるのでは? みたいな思惑もちょっとあったりしつつ選んでみたのだった。
ラファエル・ギュイヨ「レ・ザット」を飲んでみた。
というわけで久しぶりの友人と、乾杯のビールのあとにグラスに注いで飲んでみた。以下、友人との会話を再録してみる。
友人:これは……ピノ・ノワールっての? ずいぶん色が薄いんだね。
ヒマ:そうだね、ピノ・ノワールは色が薄めの場合が多いよね。濃いのもあるけど。
友人:どこのワインなの?
ヒマ:フランスの、ブルゴーニュっていう地方のヨンヌっていう県みたいだね。
友人:やっぱりワインはフランスのがおいしいわけ?
ヒマ:そんなこともないんだけど、フランスのピノ・ノワールはおいしいよ。いや、「フランスのピノ・ノワールはおいしい」は雑すぎるか、説明として。「フランスのピノ・ノワールのなかには爆発的においしいものがままある」いや、「フランスのピノ・ノワールは造り手によって他の産地にはない独特のおいしさがある」、これでお願いします。
友人:なにを言ってるのかわからない。
ヒマ:すまん……ま、飲もうぜとにかく。
友人:うん、うまいねこれ。やっぱりさ、時間が経つと味が変わったりすんの?
ヒマ:すると思う。ほら、最初ちょっと鉄っぽい感じがしたけどすぐなくなって、果実っぽさが出てきてない?
友人:たしかに。でもなんで?
ヒマ:なんで……なんだろうなーははははは。還元状態のものが空気に触れて酸化することによってフェノール類がどうにかなってごにょごにょ(滝のように汗をかきながら。早口で。)。
友人:おっ、ホントにだんだん香りがグラスの底からバーン! ときて、口のなかに味の余韻がずっと残る感じになってきたなー!
ヒマ:コメント力すげえ。
友人:よーしもう一回乾杯しようぜ、うはははは。
ヒマ:しようしよう、だはははは。ホタルイカうまい。
みたいになった。再録してみると自分のにわかっぷり・無知っぷりが如実にわかって悲しくなるが、それはともかくこのワインは試飲会での印象どおり、やっぱりとてもおいしかったのだった。
信じがたいことにこのワイン、ホタルイカの酢味噌あえ、かつをぶしをかけたふきの煮物、といった日本酒以外なにも合いそうにない料理にも意外に合った。肉にはもちろん合って、すごく食事との相性のいいワインだと感じた。
ラファエル・ギュイヨ「レ・ザット」とヴァン・ド・ペイ
格付けはヴァン・ド・ペイ・ド・ヨンヌ。AOCより下、テーブルワインよりは上といった格付けながら、ヴァン・ド・ペイのwikiによれば、規制のゆるさを利用して自分の思い通りのワインをつくろうと1980年代後半から優れた生産者が進出して質的向上が顕著、なんだそうだ。これはまさにそのうちの1本だと思う。
味わいは私の大好きな甘酸っぱ系。ステンレスタンクで発酵と熟成を行っているからか、すごく雑味のないキレイな味で自然派感はまったくない。アルコール度数が12%と低いこともあってスイスイ飲めて、友人と積もる話をしつつ飲みかつ食べていたらあっとういう間にボトルから蒸発してしまったのだった。次のビンテージも必ず買いたい1本になった。
「ワインってうまいんだな。また今度、おいしいの教えてよ」
そう言ってくれた友よ、沼で待つ。