ワインセラーを買うと決意するまで
「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。」
という有名な一文から始まる小説といえばカフカの「変身」(青空文庫、原田義人訳)だが、ある朝、私は気がかりな夢から目ざめたとき、自分が今日中にワインセラーを買うと決意していることに気づいた。
私がワインにハマったのは2019年1月頃からで、最初は1本飲んでは次の1本を買っていたのが、2本を飲み比べてみたくなり、飲みたいときに次がないと切ないからと複数本を備蓄するようになり、やがて「飲みたい」とかではなくて「欲しい」「興味がある」「手に取りたい」みたいな欲望がないまぜになって気づけば20本くらいのワインがネット通販の段ボールに入りっぱなしの状態で家のなかにある状態に成り果てるまで半年もかからなかった。
欲しい欲しいと買い続けていると「ドラえもん」でのび太が栗饅頭に振りかけたことであやうく宇宙を滅亡させかけた5分ごとに対象が2倍に増えるひみつ道具・バイバイン状態となり、やがてまだ住宅ローンの支払いが残る自宅が人間のためのものではなくワインのためのものになってしまうため、20本程度を上限とし、それ以降は買わないように気をつけてはいる。
いるのだが、問題はいわずもがなの夏の暑さだ。ワインを安置しているのは家中でもっとも日当たりが悪く、昼なお薄暗く気温も低い陰鬱な部屋で、まあ私の部屋なんですけど、ともかく昨年はそれで問題なく過ごすことができた。できたのだが、ワインブログを開設したことでワイン好き素人という自己認知が強化・定着した結果、「ワイン好きって自称しておきながらワインが夏場も部屋に置きっぱってどうなのよ」というセルフツッコミが心中に去来、うーんうーんとうなされた果てに「ワインセラーを買わねばならない、それも今日中に」と血走った目で決意する狂的心境に至ったという次第だ(どうでもいい話をひたすらダラダラするのがこのブログの特徴です)。
ワインセラーはどう選べばいいのか?
今日中に買う、その決意を曇らせてはならぬとその旨をツイートして己に縛りをかけ、ワインセラーのリサーチを開始した。かねて購入を検討してはいたので、最低限の知識はあったが、今回は「今日中に買わねばならない」わけだから真剣さの度合いが異なる。
今朝起きた瞬間に「そうだ、ワインセラー買おう。今日こそ(決意)」みたいになったんだけどなにを買えばいいんだろう。
— ヒマワイン (@hima_wine) 2020年6月9日
なにかを検討する場合、ポイントはひとつひとつ、順を追って決断をしていくことだ。そうしないと、冷却方式はどれが良い? サイズは? 価格は? 本数は? 必要な機能は? 騒音は? 電力消費量は? 地球の未来は? そうだ都知事選誰に投票っすかなみたいに脳が混乱した結果気がつけば別のことを考えてたりすることにもなりかねないからだ。
というわけで、まずは決める順番を決めた。
サイズ→本数→冷却方式→金額の順に意思決定
まずはサイズだ。自宅の物理的寸法は変更が不可能なので、横10メートル、高さ50メートル、奥行き25メートルといったセラーは設置ができない。家のなかにある「ここなら置ける」というわずかな隙間、そこにハマる寸法であることは絶対条件だ。間隙を縫うとはまさにこのことである。
続いて、サイズと関連して収納本数を決めることにした。狭小住宅でもバッチリなワインセラー! 収納本数は2本です、となるとこれもう買う意味あったんだっけみたいになる。小は大を兼ねないので、必要十分な本数を詰め込めなければ意味がない。
続いては冷却方式だ。ペルチェ方式とコンプレッサー方式があるというのはなんとなく知っていて、これはどちらがいいのかまったくわからない知見がない。いきなりこの問題に切り込むと解決不能なお悩みの樹海にハマりこむので、選択肢を少なくした状態をあらかじめ作ることにした。ペルチェ方式は安価で静かな場合が多いが冷却力が弱く、コンプレッサー方式はその逆だ。つまり一長一短がある。
最後に、価格だ。宝くじがまだ当たっていないため、手元にカネはない。そもそも宝くじ買ってない。自粛期間にヒマだから投資をはじめてみたら10万円が数日で6万とか7万になって椅子からズリ落ちそうになったばかりでもあり、これはまあ安ければ安いほうがありがたいっす。
つまり、サイズ→本数→冷却方式→価格、の順で物事を決めていくことになる。おいおい肝心の機能は無視かよと思われるかもしれないが無視だ。機能の良し悪しを判断できる根拠我になし。最終的に決めた価格が自ずと機能を決定するであろう。去年は室内放置だったし、ひとまず冷えてくれればそれで良い。
ペルチェ方式か、コンプレッサー方式か問題
でもってサイズだ。巻尺片手に家中のデッドスペースというデッドスペースを調べ上げた結果、選べるのはやはり小型タイプであることがわかった。これにより本数も自ずと決定し、32本以上入るタイプのものは、設置すると押入れが永遠に開かなくなる、冷蔵庫または洗濯機を捨てる必要がある、そもそも家に入らない可能性があるといった、致命的問題を抱えることがわかった。
次いで本数を考えると、私は月初に15〜20本を購入し、それを月のうちに飲み切るというのが基本的サイクル。また、長期保存するものは所有しておらずまた所有する予定もないため、20本入ればとりあえずオッケーだ。「20本入れたいと思う人は32本入るセラーを買いましょう」とどんな記事を読んでも書いてあるけど仕方ない。いよいよどうしようもなくなったら田舎に引っ越す。ワインのために。そして庭を掘る。セラーのために。
ここまできて、ようやくペルチェ方式か、コンプレッサー方式かという問いに突き当たる。ペルチェ方式とは、「異なる金属を接合し電圧をかけ、電流を流すと、接合点で熱の吸収・放出が起こる」というペルティエ効果を利用したセラー。フランスのペルティエさんがこの効果を発見したのでペルチェ式というそうですよ。
これは考えても答えが出ない。「夏場に冷えにくい」がペルチェ方式の欠点だというが、どれくらい冷えないかを実感することはできず、普通の冷蔵庫と同じコンプレッサー方式は音がうるさいのが欠点だというが、どれくらい音が大きいかは自宅環境でテストできない。つまり悩んでも無駄であり、解はない。
なので放置し、最後の価格のところに移る。いろいろ見てみると、なるほどペルチェ方式のほうが割安だ。しかし、設備投資を行う際に考えるべきはイニシャルコストとランニングコストであり、ランニングコストを加味して考えれば、中長期的にはコンプレッサー方式のほうがお得になる可能性がある。さりとて今払うのが2万円か、5万円かは小さくない違いだ。うーん、悩む。悩むときあるあるで、意外と松竹梅の竹的ソリューションが市場にない。似たようなサイズ、似たような収納本数で、安いペルチェか、比較的高額なコンプレッサーか。
ネットの情報を読み漁り、最終的に行き着いたのがさくら製作所のこの記事。
ワインセラーにおける『ペルチェ』と『コンプレッサー』の違い | ワインや日本酒をもっと美味しく楽しむ方法 | ワインセラー・日本酒セラーのさくら製作所
「この記事では、2つの冷却方式の比較の違いについて解説していくとともに、「コンプレッサーが優れている」ことを説明しています。」と冒頭で豪快にポジショントークを今からするぞと宣言し、その上で読者を納得させる筆力が素晴らしく、「そこまで言うならオタクで決めるわ」という気にさせられた。1PV=1CVのまさに一撃必殺。オウンドメディアかくあるべしというものを見させていただいた。この記事を書いた方、背中を押してくれて感謝です。
さくら製作所「SB-22」を購入しました。
最終的に注文ボタンを押したのは早朝に「今日中に買う」と決意してから17時間後の午後11時を過ぎてからのこと。なにはともあれ、購入したのはさくら製作所の「SB-22」。サイズは幅380奥行き527高さ710と、海外旅行に持っていくスーツケースより一回り小さいくらいのサイズ。収納本数は22本。コンプレッサー方式で、価格は47802円だった。2、3万で買おうと思っていたのが気がつけば2倍だけど仕方ないよねっ☆
今日ワインセラーを買う! と決意して、今日が終わるまであと約50分、つい先ほど注文を終えました。長い一日だった。。
— ヒマワイン (@hima_wine) 2020年6月10日
そんなこんなで注文してから配達日まで指折り数えて待つこと1週間。ついに本日自宅に購入したセラーが安置される日を迎えることとなった。めでたい。ご近所に餅とか配りたくなるめでたさ。
さくら製作所のSB-22は、こうして我が家の片隅で静かにうなりをあげることとなった。まだ使用開始直後なので製品インプレッションはできないが、これでワインたちが夏の暑さでヤラれる心配はないはずだ。静かに駆動をはじめたばかりのそれの腹のなかに、15本ほどあるワインを詰め込むときの楽しさったらない。
今後、このセラーでどんなワインが冷やされるのか。想像するだけでワクワクする次第だ。うーん、買ってよかった。大満足である。まだロクに使ってないけど。