ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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シュレーダー/ダブル・ダイヤモンドの2021VTリリースイベントへ行ってきた。ナパ・カベ最高峰はどんな味?

シュレーダー/ダブルダイヤモンドのリリースイベントへ

輸入元である中川ワインにお声がけいただいて、シュレーダー/ダブル・ダイヤモンドのグローバル・リリースイベントに参加してきた。

トレード・セミナーなので、目測60名ほどの参加者のメインはバイヤーさんだろうか。

メディア枠は少なく、なかでも自称メディア枠は間違いなく私一人であり場違い感が半端ないが、マスターソムリエでブランド総支配人であるジェイソン・スミスさんが来日し直接説明してくれる貴重な機会、逃すわけにはいかない。

マスター・ソムリエのジェイソン・スミスさんがプレゼン

この日リリースされたのは両ブランドの2021ヴィンテージ。山火事に見舞われてワインがリリースできなかった2020年を経て「ナパにとって伝統的・典型的な年となった」(スミスさん)というのが2021年だったそうだ。

 

シュレーダー/ダブル・ダイヤモンドの歴史

内容に入る前に、シュレーダーとダブル・ダイヤモンドについて簡単にまとめておきたい。

シュレーダーは1998年の創業。カリフォルニアのグランクリュ「ト・カロン」の畑、そして醸造家トーマス・リヴァース・ブラウンの手腕を活かし、なんと2022年までに37回の評価誌100点を獲得しているというすごい生産者。ナパ・ヴァレーを代表するカルトワインのひとつ、みたいにも言われるようだ。

ダブル・ダイヤモンドは、シュレーダーのワインが熟成している間に飲めるワインを、というコンセプトで2000年からリリースされはじめたワインで、ト・カロン若木のブドウや、オークヴィルのブドウを使った要するに若飲みタイプ。

にも関わらず「カベルネ・ソーヴィニョン オークヴィル ナパ・ヴァレー 2019」でワインスペクテーターの年間TOP100の1位を獲得したというからすさまじい。プロ野球の2軍が日本シリーズで勝っちゃった、みたいな話ですよねこれ。

 

醸造家、トーマス・リヴァース・ブラウン

とくに面白かったのが醸造家トーマス・リヴァース・ブラウンに関する物語。創業者フレッド・シュレーダーが出会った頃、彼はワインショップで販売員をしたり、ジンファンデルが有名なターリーでアシスタント・ワインメーカーを務めていたのだそうだ。

そんな彼をフレッド・シュレーダーは2000年、ワインメーカーに抜擢するのだが、その当時トーマス・リヴァース・ブラウンはなんとカベルネ・ソーヴィニヨンを造ったことがなかったというからすごい。

抜擢するほうもすごいし、されるほうもすごい。トム・クルーズ主演で映画化してもらいたいレベルのアメリカンドリーム感だ。

 

ナパのグラン・クリュ、ト・カロンヴィンヤード

そしてト・カロンの畑だ。1868年にH.W.クラブという人が開墾したこの土地については、本気で調べるとおそらく数万字でも足りないみたいになりそうなのでさくっとまとめると、つまりナパでもっとも有名な畑で、オーパス・ワンもここにある。

沖積扇状地で水はけが良く、区画ごとの個性があるのがト・カロンの魅力とのこと

なぜオーパス・ワンがここにあるのかといえば創業者であるロバート・モンダヴィがこの土地を取得していたから。

現在のト・カロンは、その大部分をロバート・モンダヴィが所有し、残る部分の多くを栽培家であるベクストファーが所有していて、その他の部分をオーパス・ワンなどが所有している。

2000年以降、シュレーダーはベクストファーからブドウを買いはじめ、2005年にパーカー100点を獲得するなど成功を収める。つまりシュレイダーは「ベクストファー・ト・カロン」で成功を納めた生産者だ。

そして、ロバート・モンダヴィを現在所有するのはコンステレーショングループ。なので「ト・カロンの畑のうち174ヘクタールを、コンステレーションがロバート・モンダヴィ・ワイナリーを介して所有している」ということになる。そしてシュレーダーを現在所有するのもコンステレーショングループなのだ。

なにが言いたいかというとシュレーダーはいま現在、昔からのつながりでベクストファー・ト・カロンのブドウを使うことができ、さらに同じグループの傘下であることから、モンダヴィ・ト・カロンのブドウも使うことができる。鬼に金棒、シュレーダーにモンダヴィ状態となっている。

 

シュレーダーのワイン造り

さて、そんなシュレーダーのワイン造りのポイントは、区画ごと、クローンごとにワインを造り分けている点にある。

ト・カロンの畑はかつて川が流れていた山すそにある沖積扇状地であるため、山すそから平地に向かうにつれて土壌のタイプが異なるのだそうで、一枚の畑に見えて、その土壌はパッチワークのように細かく違っている。

そして、それぞれの価格ごとに適したクローンを栽培、クローンごとに醸造・瓶詰めすることで、土地の個性・クローンの個性を反映したワインができあがる。

山側(左)から国道29号線側(右)に向けて土壌が細かくなっていく

クローンとか区画でそんなに変わるもんかなあ、同じ畑の同じカベルネで。と私レベルの素人は思ってしまうのだが、飲んでみるとこれはもう全然まったく違った。超おもしろ体験だった。というわけで、目の前に並べられた6つのグラスの中身へと話を進めていこう。

この日テイスティングしたのはダブル・ダイヤモンドの2021ヴィンテージ2種と、シュレーダーの2021ヴィンテージ3種、そしてスペシャテイスティングとして、同じくシュレーダーの2012VT1種。まずはダブル・ダイヤモンドから見ていこう。(以下、ワインの写真はパンフレットの複写)

 

ダブル・ダイヤモンド カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 2021

「ト・カロン若木を含むオークヴィル産ブドウを100%使用。シュレーダーは100%新樽で造りますが、ダブル・ダイヤモンドは50%がフレンチオークの新樽。残り50%はシュレーダーが使った樽を使います」とスミスさんが説明してくれたのがダブル・ダイヤモンドの「カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 2021」。

なんでも、ト・カロンではどんどん植え替えを行なっており、現在植えられているブドウは2000年以降に植えられたものがほとんど。ダブル・ダイヤモンドには樹齢が5-10年のブドウが使われるそうだ。

飲んでみると、口に入れた瞬間に小さくて硬い風船を歯で噛んだみたいにパツン! と果実が弾けるような印象。カベルネ・ソーヴィニヨンならではの渋みもあるんだけれども酸味も同時に豊かで、とてもチャーミング。そして全体の印象が非常にやわらかい。

「ナパでは黒系果実が前面に出ることが多いが、このワインは赤系果実が前面に出ており、非常に華やか」だと醸造家が語っているそうだが、まさにそうだと思った。これはおいしい!

 

ダブル・ダイヤモンド プロプライエタリー・レッド・ワイン ナパ・ヴァレー2021

続いては、カベルネ・ソーヴィニヨン専門の両ブランドにとっては非常に珍しいという、カベルネ・ソーヴィニヨン51%、メルロー25%、カベルネ・フラン24%を使った初リリースのボルドーブレンド

シシトウのような少し青い香りがあり、果実の豊かさは変わらずある一方で、少しの苦味とピリッとスパイシーな感じも少しある。これもとてもおいしいワイン。

ダブル・ダイヤモンドのワインは2万円近くするナパヴァレーのワインとは思えないほど開けたてから飲みやすく感じられ、それはこのあとテイスティングするシュレーダーのワインとの差分になっていると感じた。

ちなみに、スミスさんによればシュレーダーもダブル・ダイヤモンドも醸造においては人的介入を極力減らし、天然酵母発酵を行い、人工的な濾過は行わないのだそう。だが、言わずもがなだがいわゆる“自然派”的な要素はワインのなかに見当たらない。強いていえば複雑さやピュアな感じが、醸造由来なのかもしれない。

 

シュレーダーRBS ベクストファー・ト・カロン・ヴィンヤード2021

さて、ここからシュレーダーのワインのテイスティングに移る。

まず飲んだのは、シュレーダーのビジネスパートナーである弁護士ローチさんのR、醸造家トーマス・リヴァース・ブラウンのB、シュレーダーのSを組みわせた「RBS」だ。ナパでは一般的なクローンだという「クローン337」を使ったカベルネ・ソーヴィニヨン

ベクスロファー・ト・カロン・ヴィンヤードの厳選された区画のブドウを用い、発酵・熟成にはアメリカにはあまり入ってきていないフランス製樽「ダルナジュー」と、こちらもフランス製の樽ながらナパでよく使われる「タランソー」の樽を使っているそう。

フィラディスのコラムによれば、ダルナジューは「ボルドー右岸で圧倒的人気を誇る小規模生産者」であり、「ペトリュス用の樽などを作っていた先代が創業」し、「世界中のトップワイナリーから愛されて」いるそうだ。

国名→地域名→村名→畑名、みたいに地域が狭まるにつれて価格も高くなるのがワインの常だが、ナパのハイエンドになってくると樽名まで説明のネタになる。すごい世界です。

ワインに話を戻すと、こちらはひときわ色が濃く、まさにディープパープル、という色合い。

ワイン自体はまだ眠りから覚める前、あるいは羽化する前の印象で、イメージ的には内側から発光する巨大な繭。しかるべき時を経て目覚めた暁には、なかからとんでもないものが出てくるんだろうな、という予感に満ちた味がした。(そしてそのときはそう遠くないように思えた)

スミスさんいわく、醸造家トーマス・リヴァース・ブラウンは、醸造においてタンニンマネジメントを最重要に位置付けているのだそうだ。「どのように抽出し、どれくらいのタンニンをワインのなかに持ってくるかが重要で、そのためにはいつ果皮を引き上げるかがポイントです。たとえばお茶も、長い間お茶っ葉を入れておいたら渋くなりすぎますよね?」とのこと。

この日飲んだワインはすべて「タンニンが豊富に感じられるけど渋くない」と感じられ、すごくいいお茶がときに渋みを甘みに感じさせるのにちょっと似ているな、と思ったりした。

 

シュレーダー ヘリテージ・クローン ト・カロン・ヴィンヤード 2021

そして4杯目、いよいよこのワインについて語れる時間がやってきた。今回もっとも印象に残ったワイン、「ヘリテージ・クローン」だ。

ト・カロン ヴィンヤードのモンダヴィ側の畑だけに植えられているブドウで、1868年の開拓当初から植えられていたのでは? とのことでカリフォルニア大学デービス校も研究対象にしているという、その名の通りの歴史的クローン「クローン31」で造られたワイン。

百聞は一見にしかずだ。当日の資料から、このクローンの写真をご覧いただこう。以下だ。

ちっちゃ!
「ト・カロンを歩いていると、この区画だけ突然ミニチュアになったように感じる」とスミスさんが語るように、通常のクローンと比べたら大人と子どもくらい大きさが違う。なんだかとってもかわいいですね…!

「非常に小さい房が特徴のクローンで、とても凝縮感の高いブドウになります。それでいて、酸もキープできるんです」(スミスさん)

結論から言うと私はこれが今日イチだった。ものすごくおいしい。まず紫に赤が混じったフルーツが前面にあり、カベルネ・ソーヴィニヨンとは思えないくらいたっぷりの酸が乗っかっていて、私の好きな「甘ずっぱ味」を構成している。

渋みも当然ながらちゃんとあり、あるのだけれどもソフトでおだやか。そこにオレンジの皮やスパイス、チョコレートみたいな複雑なニュアンスが乗っかってくる。

ゲートを開けた瞬間に飛び出して2000メートルを先頭を譲らず駆け抜ける逃げ馬のような、開けたてからのおいしさを感じた。「いまおいしい」ことで、逆説的に「これからどうなるか」も気になるワイン。すごいワインだった。

コンステレーションによるシュレーダー買収が2017年。なのでこのワインは2018が初VT↓

 

シュレーダー オールド・スパーキー ベクストファー・ト・カロン・ヴィンヤード 2021

当日、会場にはお知り合いのみなさんが何人かおり、いずれもプロ中のプロの方々だが、その方々からの評価が総じて高かったのがこちらの「オールド・スパーキー」。

オールド・スパーキーはシュレーダーさんが愛好する葉巻の名前であり、ラベルにデザインされたドラゴンは、ワインの強さを示しているそうだ。

単一区画・単一クローンにこだわるシュレイダーのなかでは異例の、クローン4、クローン6、クローン337のブレンド。ベクストファー・ト・カロンのヴィンテージ最良樽のブレンドで造られるのがこのオールド・スパーキーはマグナムのみのリリース。

クローン4はもともとメンドーサクローンと呼ばれていたそうで、アルゼンチンから来たクローン。最初はマルベックだと思われていたというだけあって、スパイシーでミネラル感もあるクローン。クローン6は「買いたくてもなかなか買えない、貴重なクローン」(スミスさん)。そしてクローン337は「ナパを代表するクローン」とのことだった。

飲んでみると、「RBS」と同じようにポテンシャルの塊感がありながら、いま飲んでもおいしい要素もしっかりある。黒や紫の果実、乾燥させたスパイス、どっしりとした、それでいてソフトな渋みがあって、ナパ・カベの頂点に君臨する王の風格を感じるワインだった。

 

シュレーダーRBS ベクストファー・ト・カロン・ヴィンヤード2012

そしてこの日のテイスティングは最後の1杯にたどり着く。全体の3番目に飲んだ「RBS」の10年後の姿である2012ヴィンテージだ。

「2012年は3年続くいい年のはじまりの年でした。醸造家のトーマスは、よく『シュレーダーのワインは(ボトリング後)10〜20年が素晴らしい』と言っています。なので、2021と2012を比較してもらえるのはうれしいです」(スミスさん)

グラスに接近して中の様子を観察してみると、2021がディープ・パープルだったのに対して、赤褐色のニュアンスがわずかに加わっており、いい感じの肩の力の抜け具合を感じる。

そして香りはすごい。繭が開いて蝶となった状態の、その鱗粉から吸った蜜の花の香りが漂ってくるかのよう。こなれきったタンニンと、いききと残った酸が刻むリズムの上を、まだまだフレッシュな果実が自由自在にメロディを奏でる。ただパワフルだけじゃない、エレガントなカベルネ・ソーヴィニヨンだ。すごい生命力を感じる、飲むマグマみたいなワイン。

というわけで私はすさまじいと思ったのだが、「もしかしたら5〜7年前後で飲むのがベストかもしれない」という意見もあった。私にはそのあたりの判断はできないが、全体に、シュレーダーのワインは開けたてから楽しめる要素がきちんとあるのは間違いないと感じた。「いつ飲むのがベストか」を議論できるのも、こういった高級ワインの楽しみのうちのひとつだろう。

 

シュレーダー/ダブル・ダイヤモンドのテイスティングを終えて

多くの人の意見が一致したのがダブル・ダイヤモンドのカベルネの良さ。今飲むならこれ! という声が多かったし、私もそう思った。

そして、繰り返しになるが個人的な今日イチはヘリテージ・クローンだ。なにしろクローンのカタチがかわいすぎる。そして味わいも実にチャーミングだ。外見は子どもで中身は大人みたいな漫画のキャラがよくいるが、それを思わせるような中身の充実と裏腹の見た目のかわいらしさのギャップがいい。

というわけで、駆け足となってしまったがシュレーダー/ダブル・ダイヤモンドのグローバルリリースイベントをレポートした。ナパ・カベの最高峰はやっぱりすごく、ここにどハマりする人が多くいるのも納得だと感じた次第だ。

1本買って寝かせておけたら最高だろうなー↓ 5年寝かせるか、10年寝かせるか、それ以上か、それが問題だ!