ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ブーケンハーツクルーフ「七つの椅子」シラー。おいしいと評判の南アワインを飲んでみた。【Boekenhoutskloof Syrah 2016】

ブーケンハーツクルーフの「七つの椅子」シラーを買ってみた

とにかく評判の高いワインというのが世にはあってブーケンハーツクルーフの「七つの椅子」シラーもまさにそのうちのひとつだと思う。バンドでいうところのレッチリ、歌姫でいうところのビョーク的な、悪く言う人いないよね力(りょく)みたいなのが非常に高く、まさにその評判の高さに惹かれて買ったわけなんだけれどもいざ飲もうという段になって心によぎるのはまさかの不安である。どんな不安か。ズバリ「おいしいと感じられなかったらどうしよう」という不安だ。

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ブーケンハーツクルーフ「七つの椅子」シラーを飲みました。

私はレッチリビョークも好きだがとくにビョークなんて声はクセがあるし曲もメロディアスな泣きメロとかでは全然ない。ブラックミュージックみたいにリズムとノリだけで楽しめるみたいな感じでもないから、いいよね、ビョーク、ディーヴァって感じだよねおれたちズッ友だよねって感じの同級生の会話に入っていけずに焦るタケシ(17歳)みたいになることも当然あると思う。思春期〜ハタチ前後のとくにサブカル界隈で直面しがちなあの感じを不惑を過ぎて味わうのはキツい。選ばれてあることの恍惚と不安我にありと言ったのはベルレーヌだが、七つの椅子シラーを飲む恍惚と不安我にあり状態である。

ブーケンハーツクルーフの「七つの椅子」シラーと「ポークパインリッジ」

さて、私は同じブーケンハーツクルーフの廉価レンジであるポークパインリッジのシラーを過去に飲んだことがあり、これは文句なしに大変おいしかった。最高だった。スパイシーかつ果実味たっぷりの味わいにベリー系の豊かな香りで、1000円台で買えるシラーはこれが最強なんじゃないの的なおいしさがあったのだがそれも逆に不安をいや増す要因だ。エントリー寄りのレンジを思い切りわかりやすい味にして売り上げを確保し、上級レンジとしてこだわりのワインをリリースすることってほら意外とあるじゃないすか。「もちろんエントリーレンジに一切の妥協はない。ただ、(上級キュヴェは)これが本当に僕たちが造りたいと思うスタイルのワインなんだ」by生産者、みたいな。

ブーケンハーツクルーフは1776年設立の南アフリカはフランシュックの生産者。醸造家は天才と呼ばれるマーク・ケント。みたいなガワの情報は今回は調べない。有名ワインだけにこのワインについては先行する情報が豊富にあり、屋上屋を架す理由が見当たらない。代わりにお金の話をしちゃう。

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ブーケンハーツクルーフの「七つの椅子」シラーの7458円は妥当か?

というのも、ブーケンハーツクルーフ「七つの椅子」シラーは定価8800円税込。私の購入価格は7458円税込である。これは単品のワインの購入価格としては自己最高額。ていうかですね読者諸兄姉よ、友よ、750ml入りでアルコール度数14%のお酒に7458円ってめちゃくちゃですよ普通に考えて。「え? 安いと思うけど」「普通じゃない?」と思う方もおられよう。でもアルコール度数5%で大変おいしいキリンの「本搾り」が100円ちょいで買えるわけなんですよ我らがニッポン国では。

「このお金でサントリー ザ・プレミアムモルツが何本買えるか」を基準とするザ・プレミアムモルツ算を用いればおよそ36缶。1日2本プレモルを飲んで、2週間と半分ほろ酔いになれる。他の酒と比べても意味ないでしょとなれば、ポークパインリッジ シラーで十分おいしく、それは1000円台で買えるわけなんですよ。5本買えちゃう。

それでも7458円払って飲みたいと私は思い、もちろん購入したことに対して後悔は1ミリリットルもない。ただ、恐ろしいのは評判のいいワインをおいしいと思えないこと。そして、万が一おいしいと思えなかった場合に「7458円(税込)も払ったのに……」とセコいことを考えてしまうかもしれないことが怖い。ここにあなたがいないのが寂しいのじゃなくてここにあなたがいないと思うことが寂しい的に。

私の購入ヴィンテージは2016。アフリカーの商品ページによれば、飲み頃はヴィンテージ+5年が目安なのだそうだ。そして今は令和3年、まさしくヴィンテージ+5年の2021年。時は来たとばかりに、身内の慶事に合わせて胃を決して抜栓することとした。あ、胃を決してって誤字だな。でも胃を決してでいいかこの場合。世に名高き「七つの椅子」に、いざ着席である。

ブーケンハーツクルーフの「七つの椅子」にいざ着席

グラスに注いでみると、やや濃い目の赤紫色で、果実の香りとハーブみたいなさわやかな香り、鉛筆の芯みたいなシュッとした香りが混ざったいい香りが漂ってくる。おいしいお店は入店した瞬間に「漂う香りの時点でもうおいしい」みたいになることがあるけどこれもそう。

で、飲んでみるとこれめちゃくちゃおいしいですね……。酸味と渋みと果実味がピアノとドラムとベースの3ピースジャズバンドみたいに調和してて、時間の変化や合わせる料理とともに時折果実味がアドリブをとって主張するみたいにグラスの中から顔を出す。そして全体に超なめらかで、低価格レンジとの差分はこのなめらかさにある気がする。よく「シルキーなタンニンが全体をまとめあげ……」みたいなこと言うけどこれですかね。おばあちゃんの勝負風呂敷みたいなすごくいい素材感を舌に感じる。

いやー、「おいしいと感じられなかったらどうしよう」はまったくの杞憂だった。とっつきやすさと奥深さの両方を感じられ、私のようなワイン1年生留年組でも十分に満足できる味わいなのであった。

 7000円台のワインはもちろん高い。しかし、7000円強の投資をして初めて得られる体験があり、その体験には値段がつけられない。たまには高いワインも飲まないとなあと改めて思ったブーケンハーツクルーフ「七つの椅子」着席体験であった。別のヴィンテージもまた飲んでみよう。