「アルタランガ」と私
東京・恵比寿のワインマーケット・パーティのテイスティングバーで、「アルタランガ」を飲ませてもらった。
『世界で唯一シャンパーニュを越えられる可能性を持つ畑はボッソラスコだ』
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2023年11月9日
アルタランガはイタリア・ピエモンテで造られるスパークリングワイン。シャンパーニュを超える30か月の熟成期間が求められるのだそうで、その品質は高い。… pic.twitter.com/z5Tt4hrBgX
その名称は私の貧脳の片隅にかろうじて格納されていたものの、なんとなくイタリアのスパークリングですよね、最近ちょっと話題の、くらいの解像度モザイクレベルの知識しかない。
インプットをしたならばアウトプットをせねばならぬ。飲んだら調べる、そのことの限りない繰り返しによってワインの世界の地図は作られていくのだ。というわけでアルタランガについて調べてみた。
アルタランガとはなにか
まず、アルタランガとはなにかといえば、2002年に制定されたイタリアの地理的表示・DOCGに認定されたスパークリングワインだ(2002年にDOC、2011年に格上のDOCGに)。生産地はイタリア北部、バローロやバルバレスコでおなじみのピエモンテ州。
もっといえば、「アレッサンドリア県、アスティ県、クーネオ県の丘陵地帯で生産される古典的製法のスパークリングワインに限定されたDOCG」なのだそうだ。フランチャコルタ、あるいはプロセッコみたいなもんですね。
その要件のうち、主なものは以下のようなもの。
・瓶内二次発酵
・品種は90〜100%がピノ・ノワール、またはシャルドネ
・最低アルコール度数 11.50%
・最低酸度5.0g/l
「最低アルコール度数」に加え「最低酸度」があるのが面白い。11.5%のアルコールになるだけの糖度と、しっかりとした酸を兼ね備えていなければアルタ・ランガにはなれないということだろう。
さらに特徴的なのは熟成期間の長さ。これは主な瓶内二次発酵のワインの熟成期間を比較するとわかりやすい。以下のような感じだ。
カヴァ=最低9カ月
シャンパーニュ=最低15カ月
フランチャコルタ=最低18カ月
アルタランガ=最低30カ月
いや30カ月って。仮に私がよし来年からピエモンテでアルタランガをつくるか、一発、と思ったとしても植樹して収穫できるまで3年から4年、それを収穫して熟成させてまた3年、リリースできるのは7年後とかになり、その間は無給だ。死ぬ。リゼルヴァに至っては36カ月の熟成が必要なのだそうだ。バローロやバルバレスコも熟成期間が長いしピエモンテの人々の忍耐強さは異常。
アルタランガの歴史
さて、「アルタランガ」というキーワードをグーグルの検索クエリに入力すると、モンテ物産のサイトがトップに表示される。表示されるのは冒頭で恵比寿ワインマーケット・パーティで飲んだと記したアルタランガ「コントラット」のブランドページ。
それによれば、アルタランガの成立にはこのコントラットが深く関わっているようだ。かいつまんで歴史を見ていこう。
1867年 ピエモンテ州アスティ県カネッリに創業
1919年 イタリア初のメトド・クラッシコ ミレッジマートを造る
1920年頃 イギリス王室向けにドライなスプマンテ「フォー・イングランド」をつくる
ポメリーの歴史と併せて読むとより興味深いかも↓
なんでも、この「フォー・イングランド」が大ヒットし各国の王室で採用。それが嚆矢となったかなんかして、「1900年代初頭にはピエモンテ州全体がメトド・クラッシコの一大産地として世界で名を馳せた」とある。
なんといってもバローロとバルバレスコの印象が強いピエモンテだけど、100年前はメトド・クラッシコの世界的産地だったのだ。なにそれ初耳超面白い。
ではなぜピエモンテは泡あふれる土地ではなくなってしまったかといえば、お察しの通り第二次世界大戦の影響だ。それにより輸出需要がなくなり、追い討ちをかけるように戦後フランチャコルタの市場が拡大したことでメトド・クラッシコは没落。
フォー・イングランドで一世を風靡したっぽいコントラットも別のオーナーの手にわたり、スティルワインの醸造に力を入れるようになっていく。
アルタランガとラ・スピネッタ
といった状況を覆したのがサイのマークでおなじみのラ・スピネッタのオーナーで醸造責任者、ジョルジョ・リヴェッティ。この方、なんでも大のシャンパーニュ好きなのだそうで、この人物の登場がアルタランガの歴史に画期をもたらす。
ラ・スピネッタで得た富と、シャンパーニュへの愛、そしてピエモンテという土地が持つメトド・クラシコ造りの伝統とポテンシャル。それが構成する三角錐の頂点から、アルタランガの歴史は再起動。
アルタランガがDOCGに昇格したのが2011年。そしてジョルジョ・リヴェッティがコントラットを手に入れたのも2011年。機を見るに敏な人が世の中にはいる。(もちろん実際は、90年代くらいからピエモンテのメトド・クラッシコを復活させようみたいな気運が現地では盛り上がっていたようだ)
また、アルタランガのさらなる特徴として、すべてがミレッジマート(単一生産年)のみという点も挙げられる。さらに、標高が250メートル以上と定められているというのも面白い。原産地呼称の規定に「標高」が入ってるの、ちょっと珍しい気がする。ほかにあるのかな。
ともかく高標高かつ畑が渓谷に近いことから、昼夜の寒暖差が大きく、要するにスパークリングワイン造りに最適なブドウが採れるようだ。瓶内二次発酵用のブドウはアルコール発酵を二度行う必要があることから早摘みが基本となるみたいだけど、以上のような地理的条件から、アルタランガの場合かなり熟成させてから収穫するのだそうだ、それだけに香りが良いみたい。いいな。
あとアルタランガは意外と安い。全体的にフランチャコルタよりちょっと安いくらいの価格帯、のような気がする。それもいい。
アルタランガの味わい
味わいはちょこっとテイスティングしただけなのでなんともいえないが、少なくとも「アルタ・ランガ スプマンテ・パドゼ 2018ブラン・ド・ブラン」はとてもおいしかった。私はノンドゼのちょい熟ブラン・ド・ブランがピンポイントで大好物なので、そこに刺さっただけ説はあるが……。いずれにせよ、ほかのも飲んでみたくなる味わいだったのは間違いがない。
最後に、前出のラ・スピネッタとコントラットのオーナー、ジョルジョ・リヴェッティの言葉を引用して、本稿を閉じよう。
「まずはシャンパーニュが世界の最高峰だなんていう先入観を捨てて、我々のスプマンテを飲んでみるといい。」
カッコ良すぎませんか、この一言。
有名生産者もアルタランガをつくってるんすね↓