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ポメリー・ブリュット・ロワイヤル。世界初の辛口シャンパーニュ誕生の背景とマダム・ポメリーの人生。【Pommery Brut Royal】

マダム・ポメリーとシャンパーニュの歴史

ジャンヌ・アレクサンドリーヌ・ルイーズ・メリンは、1819年に生まれ、1890年に亡くなったフランスはシャンパーニュの女性だ。マダム・ポメリーとして今にその名を遺すこの人物の生涯が凄まじいのでまとめよう。以下だ。

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ポメリー・ブリュット・ロワイヤルを飲みました。

・1819年誕生。1839年にアレクサンドル・ポメリーと結婚
1860年にアレクサンドル・ポメリー死去。ポメリーのビジネスの全権を握る
・ローマ人が掘った石灰岩と白亜の穴を120個購入し、ワインを貯蔵するカーブに
・1874年、史上初の砂糖を添加しない「ブリュット」シャンパーニュを製造
・従業員のために退職金や健康資金を用意(フランスで最初期)
・1890年没。女性としては初の国葬を受け、ランスの通りに2万人を集める
・バラを愛した彼女に敬意を評し、大統領が故郷・シニーの地名をシニー・レ・ローズに変更する令状を発布
・2015年、ポメリーの地下カーブが世界遺産に登録

なんだこりゃ。偉人じゃないの。石森章太郎が伝記漫画描いてそうなレベル。甘口で食後酒的な位置付けだったシャンパーニュを辛口に変えた、「すでにあるものにイノベーションを起こした」っていう業績はまさにシャンパーニュスティーブ・ジョブズの感ありである。

ポメリー ブリュット ロワイヤル。史上初の「ブリュット」誕生の背景

では当時のイギリス人の好みとはどのようなものだったのか。『シャンパン大全 その華麗なワインと造り手たち』(山本博日経ビジネス人文庫)から引用してみよう。

「英国では、食後用の飲み物としてポート、シェリー、マデイラがあり、コニャックも飲まれていた。(中略)そのため、シャンパンは食前か、食事が魚介類や白身の肉の場合は食事中にも飲むようになった。そうなると甘いシャンパンより、辛口のほうがいいということになる」

食後酒のスタメンがすでに英国には存在し、そこに甘口の酒の座る余地はなかった。そのため、食前・食中酒としてのシャンパーニュの開発が待たれた、っていうことですかね。食前にシュワシュワしたお酒を飲むと気分がアガるし食欲も増すもんなー。わかる。

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さて、冒頭に挙げたマダム・ポメリーのフッテージはポメリーのwikipediaからの引用だが、『シャンパン大全』によると、「クリコ社とエイドシック社は一八五七年、ボランジェとアヤラ社も一八六五年のヴィンテージ物に“ドライ”と名付けた」とあるから、“辛口”自体はポメリー以前にもあったようだ。このドライ・シャンパーニュをイギリス王子が愛飲したことで、シャンパーニュの「ドライ嗜好に拍車がかけられ」たとある。有名人きっかけで流行るのは我が国90年代ストリートファッションにおけるキムタク着用ジーンズみたいなもんだろうか。いずこも同じである。

このような背景を受けて、マダムは「社内の反対を押し切ってブリュットに力を入れ、大成功をおさめた」とある。どれくらい成功したかといえば、「英国ではシャンパンの消費量が年平均三〇〇万本から九〇〇万本と三倍にはね上がった」ほどだとか。この辛口ブームにより、シャンパンの売り上げは2800万本に達し、そのうち約2000万本が輸出に回されたのだそうだ。イギリス人シャンパン好きすぎワロタ状態。そのきっかけをつくったのが、マダム・ポメリーというわけだ。

 手元に創元推理文庫から出ている『短編ミステリの二百年1』という文庫本があるのだが、そこに収められたロンドンが舞台の1878年発表の短編『クリームタルトを持った若者の話』には、上流階級の若者たちがサロン的な場所で「シャンペン」片手に談笑する風景が描かれている。この「シャンペン」、あるいは1874年に発明されたポメリー ブリュット ロワイヤルかも……と想像すると楽しい。シャンパーニュの歴史を調べると19世紀の推理小説が楽しく読める。これぞ学ぶことの醍醐味である。

ポメリー ブリュット ロワイヤルはどんなワインか

さて、そんなポメリーはいまブランケン社の傘下となり、ヴランケン・ポメリー・モノポール社としてシャンパーニュ業界で世界第二位の企業の一部となっている。ていうかこのブランケン社が1976年創立なのにエドシック・モノポールとポメリーっていうシャンパーニュの24あるグランドマルクのうち2社を買収してるってすごくて聖闘士星矢でいうところのあんなに強かった黄金聖闘士が初出の敵にあっさり倒される的な衝撃がある。

ヴランケン社についても調べたくなるがさすがにキリがないので、40以上のヴィンテージをブレンドし、シャルドネ34%、ピノ・ノワール33%、ピノムニエ33%という正三角形ブレンドで造られるポメリー ブリュット ロワイヤルが果たしてどんな味なのかをたしかめるフェーズに移る。

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ポメリー ブリュット ロワイヤルを飲んでみた

グラスに注いでみるとまずもって泡が強い。細く小さく柔らかい泡がシャンパーニュの特徴だと思うが、ポメリーの泡は細く小さいけれども口のなかでプチプチシュワシュワとしっかり主張してきて、それがすごく楽しい。いいなこれ。169センチ、92キロの体躯で東前頭四枚目まで登った小兵力士・炎鵬を思わせる小ぶりながらパワフルな泡がまずはいい。

それでいて香りは美しい。春先に花屋の前を通りがかったときに感じる「あ、春。」的なくすぐるような香り。味わいも焼き立てのクッキーみたいな香ばしさがある。これおいしいわ。走攻守バランスのとれた味わいの上に意外なパンチ力がある選手、みたいな印象で色よし香りよし味わいよしの上に意外に元気な泡が楽しい。自分はかなり好きです、このシャンパーニュ

マダム・ポメリーが生まれた村は、今もフランス大統領に贈られたシニー・レ・ローズという名前のままシャンパーニュ地方にプルミエ・クリュの村として残っているのだそうだ。シニー・レ・ローズ産のブドウで造られたシャンパーニュも、遠からず飲んでみたいものである。

正規品と並行品、どちらを買えばいいのか問題。