ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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アンリオ ブリュット スーヴェランを飲んだのでシャンパーニュと未亡人たちについて調べてみた。【Henriot Brut Souverain】

アンリオ ブリュット スーヴェランを飲むことにした

別に特別なことはなにもないけれど、とにかく週末を祝うためにシャンパーニュを飲もうと決めてアンリオ ブリュット スーヴェランを飲むことにした。有名メゾンのスタンダードキュヴェを飲む、その一環である。

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アンリオ ブリュット スーヴェランを飲みました。箱入りで届くとテンション上がる。

ワインは調べるほどにおいしくなる不思議なお酒なので、開栓前夜にアンリオの歴史を調べてみると、その歴史は1808年、アポリーヌ・アンリオという未亡人がブドウ畑を引き継ぎ、メゾン・アンリオを設立したのがはじまりだとある。

ヴーヴ・クリコ、ポマリー、ルイ・ロデレール、ボランジェ。シャンパーニュと未亡人

あれ、こういう話前にも聞いたな。そうだ、ボランジェだ。時代は異なれど、有名シャンパーニュメゾンのボランジェも、第二次世界大戦期に夫を失ったマダム・リリー・ボランジェの精力的な働きで大成功を収めているという話を以前調べて知った。

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ロゼ・シャンパーニュを生み出し、澱を集めるルミアージュを発明した“フランス初のビジネスウーマン”ヴーヴ・クリコを祖とし、辛口シャンパーニュを世に出したマダム・ポメリーに、ルイ・ロデレールを戦後の荒廃から復興させたカミーユ・ロデレールという人もいたり、シャンパーニュでは未亡人の活躍がすごい。そもそもヴーヴは未亡人って意味だっていうし。

ここで気になるのがなぜシャンパーニュ地方では未亡人が活躍するのかだが、調べたところマダム・クリコの時代は女性は未亡人でないと銀行口座が持てなかったのだそうだ。それは、女性が会社を経営しようと思えば実質未亡人でなければ無理だった、ということを意味するはず。マダム・クリコとアポリーヌ・アンリオ、マダム・ポメリーはほぼ同時代人。彼女たちの活躍があればこそ、シャンパーニュ地方では当主が若くして亡くなった場合、未亡人がその遺志を継ぐというある種の伝統が生まれたのかもしれない。

himawine.hatenablog.com一方で、だからといってシャンパーニュでは今も女性がメインで大活躍しているかといえばさにあらずで、実際は(もちろん、依然として)女性は少数派なんだそうだ。いろいろ事情はあるとは思うが私はもっと女性が、というか性別関係なく様々な背景を持つ人が造った多様なワインを飲んでみたい。なにより尊いのは多様性だ。

アンリオ ブリュット スーヴェランはどんなワインか

話をワインに戻すと、アンリオは使用ブドウのほとんどがグランクリュ、またはプルミエクリュ格付けのものなんだそうで、シャルドネ比率が高いのも特徴なんだとか。ブリュット・スーヴェランのデータシートを見ると、シャルドネ50%、ピノ・ノワール45%、ピノ・ムニエ5%。ワインの30%はリザーブワインを使用。3年瓶熟成させてから出荷されるのだそうだ。そして、プレステージキュヴェであるキューヴ38も少量ブレンドされているそうな。あらヤダ贅沢……スタンダードながら妥協のない仕上がりだ。言ってもスタンダードなので、まあ、適当に妥協してます、ウチは。みたいに言うメゾンは地球上にないとは思うけれども。 

ワインの最適な提供温度は8度だそうなので、前夜から冷蔵庫の野菜室に安置し、翌日の夕方、抜栓してみた。

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アンリオ ブリュット スーヴェランをいろいろなグラスで飲んでみた

さて、今回は、ワインディレクターでソムリエの田邉公一さんのnoteを参考に、様々な温度、様々なグラスで飲んでみることにした。温度とグラス、合わせる料理を変えることで、1本のシャンパーニュの様々な味わいを楽しむことができるというわけだ。

まずは細長いシャンパーニュグラスに冷蔵庫から出したての状態で注いでみると、まず非常に色がいい。色は濃い目の金色。濃いのに透明度が非常に高く、ビジュアルがいきなり「私はハレの日の酒です」と教えてくれてる感じ。

でもって飲んでみると発泡がかなり強くて、キリリと硬質な味わい。印象としては美女というより金髪碧眼のイケメン。由緒正しい家に生まれて、何不自由なく育った上で頭も性格もいいっていう完璧超人みたいな人物が信じられないことに世の中にはいるが、そういう人、みたいな味がする。非常にシャープでおいしいが、少しとっつきにくさもあるという食前酒として飲んだその味わいの印象は、しかしグラスを変えて大きく変わっていく。

というのも、室温20度くらいの部屋に置きっぱなしの状態にしておいて、続いて普段白ワインを飲むのに使っている中くらいの大きさのグラス注いで見たところ、いきなり真価を発揮したんですよこれが。たとえるならば、上に挙げたイケメンの風呂上がり。スキのなさが少し崩れてチャーミングさが顔を覗かせ、普段カンペキな彼だけどワタシにだけは子どもっぽい一面を見せてくれるんだよね、みたいになってる。ちょっとパイナップルみたいな甘酸っぱいフルーツの香りがして、酸味の角がとれて丸みを帯び、泡は細かさそのままに開けたてのハードな感じが少し弱まってこれはまさに貴族の風呂上がり。フルーツ風呂かなんか入ってたんですかね。私の好みは断然この温度とこのグラスのほうだった。

その後、試しに手持ちでいちばん大きいグラスに注いでみたけれど、バランス的には中程度の大きさのグラスに注ぐのが個人的にはベストだった。とはいえ、「見た目の美しさ」を味わう上ではシャンパーニュ用グラスがもっとも適していて、ワイングラスって奥が深いなあという当たり前すぎることを思ったりもしたのだった。

というわけでアンリオ ブリュット スーヴェラン、期待通りの大変おいしいシャンパーニュだった。今度は正真正銘のハレの日に飲もう。