「セニス」と「ヴェリテ」とエレーヌ・セニヤン
2021年8月現在、twitterの安ワイン界隈で話題になっているワインに「セニス」がある。
セニスは「カリフォルニアの伝説」と呼ばれるワイン「ヴェリテ」のセカンドワイン。100点を15回とったとかっていうそのヴェリテのワインメーカー、ピーター・セニヤンの娘のエレーヌがワインメーカーを務めるワイン。
ヴェリテのワインメーカーがピーターから1987年生まれのエレーヌに代替わりするタイミングで、エレーヌがヴェリテに集中するためセニスは終売に。結果、セニスは日本で安く売られることになったという風が吹けば桶屋が儲かる的玉突き現象の結果、我らニッポンの消費者は安くおいしいワインを飲めることになったようだ。
メーカー希望小売価格7700円、現地価格60ドルのワインが3828円かつ送料無料で買えるっていうんだからすごい。メーカー終売は、仮においしい! もっと飲みたい! となっても「次がない」のが残念ではあるものの消費者的には基本うれしい。というわけでそのファイナルヴィンテージの「セニス2016」を買った。
セニスはどんなワイン?
ヴェリテは元々、エノテカでお馴染みのケンダル・ジャクソンに端を発するジャクソンファミリーワインズの創始者であるジェス・ジャクソンがピーター・セニヤンという醸造家を得て作り上げたブランド。セニスはセニヤンの娘、エレーヌが醸造を手掛けるのはすでに述べたが、ラベルを手掛けるのはジュリア・ジャクソンというジェス・ジャクソンの娘。ふたりの“二代目”が手掛けるワイン、それがセニスのようだ。独特のエモみがあるなこれ。
ワインメーカーであるエレーヌはカリフォルニアはソノマに育ち、フランス・ボルドーはサンテミリオンで修行したという人物。
ゆえにセニスは「ソノマとサンテミリオンの融合」といった内容になっているようで、購入元であり輸入元の直営ショップであるカーブ・ド・エル・ナオタカの商品ページによれば、使っているのはカベルネ・フラン50%、メルロー32%、カベルネ・ソーヴィニヨン18%だそうだ。
それを新樽率40%のフレンチオーク樽で10カ月熟成させているとある。ゴリゴリのボルドーブレンドっていう印象ですねこれ。
セニスを飲んでみた
さて、グラスに注いでみると実にいい感じの濃い紫色。開けた瞬間から杉の木ベリー風呂みたいな香りがスーンと漂う。ムアンと漂う香りじゃなくて、スーンと抜けてく感じなのがいい。軽井沢感というか那須感というか、どこか高原感もある。これは間違いなく「ボルドーのいいやつ」って言っちゃうタイプのやつ。
たとえるならばユニクロのTシャツではなくてラルフローレンのボタンダウンシャツを普段着にして育った人物のようなアメリカンな上品さ。雰囲気としては母型の祖母がフランス人なんですくらいのハーフというよりクォーター感がある。アメリカ的な果実のボリュームがあり、フランス的な酸味と渋みがバランスをとっている。
樽も効いてるけど、この曲よく聞くとベースがいい仕事してるね、くらいの効き方で、ウーファーでブーストしたようなズンドコした効き方ではない。ベースっていうかむしろヴィオラ。これは上品だわ。酒と醤油で煮込んだ豚という水滸伝かなんかに出てきそうな料理と合わせてしまったのだが、もっと上品なのと合わせたら良かった。
私は普段は1000円台、2000円台のワインを中心に飲んでいて、テイスティングとかだと逆にお調子に乗って高級ワインに突撃する傾向があるため、購入価格である3828円はちょうど死角というか、価格に対する味の基準の置き方がよくわからないのだが、味わいは3000円台とは思えない。メーカー希望小売価格の7700円、あるいは現地価格の60ドルが味わいに対してはやはり適価なのだと思う。
残念ながら終売だ。エレーヌが今後注力するヴェリテは1本アラウンド5万円。買えない。セニスだったら手が届いたのにヴェリテとなったらもう無理というこの心情は、恋心を抱いていた大学時代に仲が良かった社長の娘がとくにサプライズなく金持ちの息子と結婚していくのをホッピー(黒)を飲みながら指をくわえて眺めているみたいな気持ちに似ている。そんな何年も味わっていないというかむしろ味わったことのない架空の記憶まで味わわせてくれるからワインってすごい。
というわけで、「セニス」は評判通りにおいしいワインだったのだった。ヴェリテもいつか飲みたいですな!
しあわせワイン倶楽部での送料無料は残り42本。もう1本買おうかなー。