人新世に飲むシャンパーニュの味は?
地質学的分類では、現代は第四紀、完新世の最後の期“人新世”に区分されるんだそうだ。人新世とはなにかといえば、「人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える発端を起点として提案された、想定上の地質時代」とwikipediaにある。人間の活動が、地球温暖化、生物多様性の崩壊といったアレな結果を与え始めた残念な時代で私はワインを飲んでます。
そして、風が吹いて桶屋が儲かるように、ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすように、人新世の環境変化がシャンパーニュに新たな味わいをもたらしたんだそうだ。
私がワインにハマる前、2015年にAFPが伝えるところによれば、フィンランド沖に沈んだ船からサルベージされた19世紀のシャンパーニュには、1リットルあたり140グラムもの糖分が含まれていたそうな。現代、シャンパーニュは残糖度によって分類され、もっともオーソドックスなブリュットは1リットルあたり12グラム以下と規定されるというから、昔のシャンパーニュがどれだけ甘かったかが伺える。
気候変動とシャンパーニュの残糖度の関係
でもって昨今は、そのブリュットよりもさらにドサージュ(糖分添加)の少ないエクストラブリュットやらドサージュ・ゼロのワインが人気なんだそうだ。そして、その理由は以下のようなところだという。
・地球温暖化の影響でシャンパーニュでも糖度の高いブドウが採れるようになった
・消費者がよりナチュラルで、素材本来の味わいを感じられるものを求めるようになった
・世代交代した生産者が、よりテロワールを直接表現できる造りを志向するようになった
これは要約すると「人新世なう」だから、となる。なう。って久しぶりに書いた。ともかく人類の活動が地球環境に影響を与え、そのひとつの発露として地球が温暖化した結果、シャンパーニュのブドウの糖度は高まり、生産者はその高まった糖度を生かしてより糖分添加の少ないワインを志向するようになり、環境すなわち地球の健康と己の健康への意識の高まった消費者はより糖分添加の少ないお酒を求めるようになる。
かくして風が吹けば桶屋が儲かるようにブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスに竜巻を引き起こすように地球が温暖化するとシャンパーニュは甘くなくなるわけですね。つまりシャンパーニュは環境問題の生きた教材なんだそうなんだと今夜も飲む理由が見つかったのでいざ飲もうと思います。もちろん飲むのは、ドサージュ・ゼロ。すなわち、打栓の際に糖分を添加しないシャンパーニュだ。
ドサージュの量でシャンパーニュの味わいはどう変化するのか?
銘柄は、デジャンシエール ドサージュ・ゼロ。造り手はディディエ・ショパンで、先週飲んだウィル アンジェール エクストラブリュット、先々週飲んだウィル アンジェール ブリュットと同じ。同じ造り手で残糖度の違うワインを3週続けて試すことになるので、その味わいの変化が実に興味深いところ。
興味深すぎて炭酸水にガムシロを入れて味わいの変化を調べるという珍実験も勢いで断行してしまったのでそちらもご興味あれば是非ご覧いただきたいのだが、その実験から、液体に糖分を添加することで、たとえそれが微量でも味わいが明らかに変化することはわかっている。100mlに対してわずか1mlのガムシロを添加するだけで、水にはコク、まろやかさ、華やかさという要素がアドオンされるんですよ驚くべきことに。隠し味的に。
himawine.hatenablog.comただ、それはあくまでもガス入り水に砂糖を加えた場合の変化であり、ワインでも同じ結果になるとは限らない。というわけで、いざ飲んでみることとする。
デジャンシエール ドサージュ・ゼロを飲んでみた
さて、このワインを含むセットを購入したショップ、CAVE DE L NAOTAKAの商品ページをみると、合わせる料理としては「チーズ、寿司、詰めたいシーフード」がオススメとある。「詰めたい」とあるのは「冷たい」の表記ミスだと思われるけれども本ブログはたとえそれが誤変換であろうともそれを良しとし、積極的にそれに乗っかっていく無駄を廃した人新世スタイルなので「詰めたいシーフード」からインスパイアされた刺身の盛り合わせを名手・菊池涼介の一塁送球を思わせる無駄のない動きで近所の鮮魚店にオーダー。
さらに、わさび醤油だと芸がないのでレモン、オリーブオイル、塩の溶液を用意し、白身魚をそれにつけて食べるという刺身とカルパッチョのフュージョン的な新メニュー、さしみっチョ(仮)を開発。これにてシャンパーニュを迎え撃つ陣容は整った。
ブドウはピノ・ムニエ60%、ピノ・ノワール40%。一部をマロラクティック発酵とのこと。熟成期間は表記がないけど、ここまでの情報が前週とその前の週に飲んだ同じ造り手のワインと同じなので、同じワインのドサージュ違いなのかも。そうだと思い込んで飲むこととします。
抜栓してみると、おお、色濃いめ。香り華やか。で、飲んでみるとあれ、意外と果実味を感じるぞ。ウインストン・チャーチルはドライマティーニが好きすぎるあまりにベルモットの瓶をチラ見しながらジンを飲んでたとかっていう逸話を聞いたことがあるけれど、このドサージュ・ゼロのシャンパーニュも残糖度はゼロのはずなのに甘みがしっかりあるように思える。不思議。
さらに、そうはいっても糖自体はないので、さっぱりした料理との相性は抜群で、さしみっチョ(仮)と合わせるとハッピー山の七合目くらいまで一瞬で連れてってもらえる。これはいいわ。
3週連続で同じ造り手のドサージュ量の違う3種のワインを飲んでみて、好みはブリュット→ドサージュ・ゼロ→エクストラブリュットの順。実は、炭酸水とガムシロで実験した際の味の好みもまったく同じで、糖度高→糖度ゼロ→糖度低の順だったので、これはわりと私の明確な味の好みなのかもしれない。ふだんコーヒーはブラック、清涼飲料の類もほぼ一切飲まないので、ちょっと意外だけど。いずれにしても、ワイン、水実験、双方でエクストラブリュットをもっともドライに感じたのは事実だ。不思議だなあ。
地球温暖化は人類の脅威だ。ほかのすべての問題を足したよりもヤバい。でも、ドサージュ・ゼロのシャンパーニュがその副産物として生まれたもののひとつで仮にあるならば、これは地球温暖化がもたらした唯一に近い恩恵かもな、みたいなことを、エアコンを止めて、ウチワ片手にシャンパーニュを飲むっていう人新世スタイルで思ったりした。
以上、これにて先月買ったシャンパーニュ4本セットは完飲。うーん、大満足。