- デ・ウェホフ(DE WETSHOF)の名前の由来
- デ・ウェホフは珍しい「シャルドネ専門」生産者
- デ・ウェホフ ブラン・ド・ブラン メソッド・キャップクラシック
- ライムストーン・ヒル シャルドネ
- ボン・ヴァロン シャルドネ
- レスカ シャルドネ
- ザ・サイト シャルドネ
- バトラー シャルドネ 2016/2020
- デ・ウェホフ生産者イベントを終えて
デ・ウェホフ(DE WETSHOF)の名前の由来
インポーター・都光の社長でお友だちのナオタカさんからご指名いただき、南アフリカのシャルドネの名手、デ・ウェホフの生産者来日イベントの司会を務めてきた。自称ワインブロガー、頼まれたらなんでもやります。
来日されたのはデ・ウェホフで勤続30年だというマーケティング・ディレクターのベニー・スティップさん。会場は東京・豪徳寺の南アフリカワイン専門店、ワインステーション+だ。
デ・ウェホフのつづりはDE WETSHOF。WETSHOFをベニーさんの発音をそのままカタカナで表記すれば、「ヴィェッショッフ」とかそんな感じ。そんなもん発音できるかっ、というナオタカさんの一存で「ウェホフ」表記になったのだそうだ。英断。
「DEは貴族を示します。そしてHOFはHOUSEの意味。DE=貴族であるWETS(ヴィェット)さんのHOF=家、DE WETSHOFにはそういう意味があります」とダニーさん。House of Sir Wets、みたいなことなんですかね英語でいうと。なるほどなあ。
デ・ウェホフは珍しい「シャルドネ専門」生産者
さて、ベニーさんによれば、南アフリカのワイン用ブドウの栽培面積は10万ヘクタールに少し欠けるくらいなのだそうで、これはフランスのボルドーと同じくらいのサイズ。
それが南ア最南部の西ケープ州に集中しており、デ・ウェホフが在するロバートソンは南アワインの生産量の約13%を占める大きな産地で、石灰岩(ライムストーン)を多く含む土壌と、昼暖かく夜涼しい寒暖差がシャルドネの生育に適しているという。
「降水量が年間350mmと乾燥していて海からの風が強く吹くので、害虫がつきにくく、ブドウが病気になりにくい。なので、オーガニックに近い栽培をしています」とベニーさん。
温室効果ガスを排出するような産業があまり多くなく、鉱山もなく、海に囲まれていることで南アは地球温暖化の影響をさほど受けていない生産地なのだそうだ。なるほど。
そんな地にあって、とにかくユニークなのはデ・ウェホフが「シャルドネ特化」であることだろう。カベルネ・ソーヴィニヨンとかピノ・ノワールも造ってはいるが、メインはあくまでシャルドネで、シャルドネだけで何種類ものワインをリリースしている。
この日飲んだのはそのうちの7種8本。さっそくグラスバイグラスで見ていこう。
デ・ウェホフ ブラン・ド・ブラン メソッド・キャップクラシック
まずはブラン・ド・ブラン メソッド・キャップクラシック。2020年が初ヴィンテージの新しいキュヴェで、現オーナーのご子息がシャンパーニュで修行したのをきっかけに、ぜひウチでもと造りはじめたワイン。
「スティルの白ワインは区画ごとに収穫したブドウを使いますが、これだけは各区画で一番最初に収穫したブドウを使っています。18カ月熟成させたところでテイスティングし、もう少し寝かせようと24か月熟成させました。10%は木樽で熟成させています」
スパークリングワイン造りは酸が命。もっとも早く収穫を行うことで、酸が豊かに残ったベースワインを造ることができるのだ。
残糖量は6g/L。ワイナリーとしてはドサージュなしが好みなのだそうだが、南アのマーケットは辛すぎないほうが好みということで、この残糖量となっているとのこと。
シャンパーニュ、という感じは正直あまりしなかったのだが、南アのMCCとしてちゃんとおいしく、シャルドネのさわやかさと蜜感に複雑さと旨味が乗った味わいだった。
ライムストーン・ヒル シャルドネ
続いては、かつてロバート・パーカーが「世界中で造られるシャルドネのすべてがこの味ならば、みんなもっとシャルドネを飲むだろう」と語ったというライムストーン・ヒル。
レストランではバイ・ザ・グラスで提供されるデイリーレンジのワインながら、これがレモンパイのような酸味&甘み&クリーム感があって素晴らしくおいしい。
「ライムストーン・ヒルの名前の通り(ライムストーン=石灰岩)、石灰質土壌の区画で収穫されたブドウを中心に使っていて、ミネラル感のあるワインです。残糖量は3.8g/Lと少し甘みがありますが、砂糖の甘さではなく果実の甘さを感じられると思います。瓶のなかに少しCO2が残っているので、ちょっとだけ泡立つ感じもあると思います」(ベニーさん)
なんでも、このほんのわずかな発泡感は、アメリカやイギリスでは受け入れられるがカナダでは受け入れられないらしく、カナダ出荷分は泡を抜いてから出荷するのだそう。ベニーさん、日本人はこのつぶつぶした泡感がわりと好物と聞いて、ホッとした様子だった。
ちなみに私のこのブログの記念すべき最初の記事で取り上げたのがこのライムストーン・ヒル シャルドネ。季節がいくつか巡って、生産者来日イベントの司会をしているのだから人生は面白い。
ボン・ヴァロン シャルドネ
ライムストーン・ヒルと同じくエントリーレンジながら、レストラン向けでオーク樽を使用していないというのがボン・ヴァロン。
「ライムストーン・ヒルとの違いは畑の場所。ライムストーン・ヒルが粘土質で平地なのに対して、傾斜の上のほうで粘土質がほぼない区画がボン・ヴァロンの畑です。それによりミネラルや酸が豊富なのが特徴です」(ベニーさん)
ベニーさんによれば、灌漑をしていてもどうしても生じるヴィンテージ差を埋めるために、ウェホフではキュヴェごとに80%は決められた畑のブドウを使いつつ、残りはさまざまな区画のブドウをミックスすることで、「そのキュヴェの味」を出しているのだそう。
「私たちはコカ・コーラやペプシを造っているわけではありませんが、10年間月に行った人が帰ってきてボン・ヴァロンを飲んだときに『そうそう、この味!』と思えるものを造りたいんです」
というベニーさんのコメントが、この会でもっとも印象に残る言葉となった。
ロバート・モンダヴィいわくワインは世界のどこで飲んでも同じ味わいであることが大切なのだそうで、ウェホフでもその言葉を大切にしているのだそうだ。南アで飲んでも日本で飲んでも同じ味。今年できたワインも10年後にできるワインもなるべく同じ味。プロフェッショナル 仕事の流儀、的な味わいのある言葉だ。
レスカ シャルドネ
続いてもシャルドネだ(この日はすべてシャルドネだ)。オーナーの奥さん・レスカさんの名を冠したキュヴェ、「レスカ」である。
ダニーさんいわくレスカさんは非常に上品な方なのだそうでその人の特徴が表れているワインなのだそうだ。
余談だが私の主張のひとつに「家族名キュヴェにハズレなし」というものがある。とくに娘名キュヴェが鉄板で、これは絶対においしい。次いで祖母の名前キュヴェ、両親の名前キュヴェ、息子の名前キュヴェと続くが、配偶者の名前キュヴェはそもそも数が少ないなんでだろう。
そんななか妻の名前キュヴェをこのミドルレンジに冠してきたのはオーナーの不退転の決意を感じさせ、その覚悟に見合った味わいがこのワインからはする。
「ボン・ヴァロンと同じエリアのブドウを使っているので、フレッシュかつミネラル。差分は樽を使うか使わないかで、レスカはで2年目以降の樽で熟成させています。使っているのはラドゥー社のフレンチオーク樽。低めの温度で焼いているため、ブドウの果実味が残ったままリッチなバニラの香りが得られます」(ベニーさん)
樽は強くローストすると甘さやボリューム感、トロピカルフルーツのニュアンスが出るが、ベニーさんいわくそれらの要素をウェホフは求めていない。重視するのはシトラスの香りで、それが出るような焼き具合にしているのだそう。
これは文句なしに素晴らしいキュヴェで、バターやナッツ、ヌテラとかそういうニュアンスがありつつライムストーン・ヒルにあったような爽やかフレッシュ感とバランスしている。温度が上がると上等なスポンジケーキみたいな香りも加わって最高においしい。「南アのムルソー」というキャッチコピーも納得だ。
ザ・サイト シャルドネ
ここからワインはプレステージ帯へと突入していく。その最初が“南アのコルトンシャルルマーニュ”というキャッチコピーが付されたザ・サイト シャルドネ。午前中しか陽が当たらないというウェホフのエステートでもっとも冷涼な3ヘクタールの単一畑から造られるシャルドネだ。
「ヴィンテージは2016ですが、ようやく飲み頃を迎えたタイミングです。新樽で熟成させるのですが、そのうちのいいものだけをサイトとして瓶詰めするので、バレルセレクションでもあります」とダニーさん。
シングルヴィンヤードなのでヴィンテージ差はどうしても生じる。だからこそ、良い樽だけにサイトの名を付与し、それ以外のものはある種“格下げ”をしてスタンダードキュヴェに混ぜる。このあたりにもウェホフの品質管理のたしかさを感じる。今年は出来がよくないけれど、それも楽しんでください、だってワインは自然の賜物だから、みたいなことよりもはるかに健全なのではないでしょうか。
ナオタカさんはこのザ・サイトがお気に入りで、この日のベストキュヴェもこれだとおっしゃっていた(ほかにも同意見の方が複数おられた)。
シャルドネだけを飲み比べると、同じ生産者の同じシャルドネのなかでもあれが好きこれが好きみたいなのがわかって面白い。あとでも述べるが、この日の私のイチオシは「レスカ」なのだった。
※ザ・サイトは現在売り切れみたい
バトラー シャルドネ 2016/2020
そして最後はバトラーだ。私のワイン人生で一番最初に感動したワインがこれ。こんなにおいしい飲み物がこの世にあるのかと思ったんですよ本当に。ナオタカさんいわく「南アのモンラッシェ的存在」で、高いミネラルと豊かな果実味&樽のニュアンスの三位一体の魅力があるワイン。
「バトラーはウェホフにとってトップのシャルドネです。特徴は1987年に植樹し、1991年に最初の瓶詰めを行った、南アでもっとも古いシャルドネの畑のブドウを使っていること。メゾン・ジョセフ・ドルーアンのクロ・デ・ムーシュの畑のブドウのクローンを持ってきて南アで研究し、植えたブドウです」(ベニーさん)
その2020ヴィンテージは、シャルドネだけの国際品評会「シャルドネ・デュ・モンド」の2022年でトップ10に入ったというワイン。その味わいはやはり素晴らしい。雨が少なく、気温が低かったことから収量の低い年だったそうだが、その分酸が主体のエレガントなワインとなったそうだ。
シャルドネ・デュ・モンドのトップ10という結果を受けてエミレーツ航空が大量に購入するなど、世界的評価はすでに定まっているが、「日本ではまだ知られてないんですよね……」とナオタカさん。みなさんバトラーおいしいですよバトラー。
さて、最後の1杯はこの2020と飲み比べた2016だったのだが、これが非常に濃い色で、かなり熟成が進んだ印象。「気温が高く収量も多い、リッチなワインができた年。酸度が低かったぶんだけ、熟成が早く進んだのかもしれませんね」とベニーさん。私はフレッシュな2020のほうが好きだった。
デ・ウェホフ生産者イベントを終えて
と、こんな感じで楽しいデ・ウェホフ生産者イベントは幕を閉じた。ハマり始めの頃に感動したワインの造り手の来日イベントで司会を務めるのは非常に感慨深く、用意されたワインもとてもおいしく、ベニーさんはいい人で、とにかくとても良い夜だった。
そしてこの日のベストワインは個人的にはレスカ シャルドネ。定価3850円とやや高めのワインだが、プチムルソー的リッチさがあり、価格以上の高級感・満足感が得られる素晴らしいワインだと思う。
エントリーレンジのライムストーン・ヒル シャルドネも素晴らしい。このいずれかを飲んで気に入ったら、フラグシップのバトラーに挑戦、そんな流れがいいと思う。もちろん、ボン・ヴァロン、サイトも非常にハイクオリティなので、セットを試すにも良い選択肢だ。
私もこれを機に、改めてデ・ウェホフの魅力を認識した次第。南アではとても珍しい「シャルドネ専門メーカー」はやはりすごかったのだった。
イチオシ↓
バトラーは一度飲んでいただきたい↓
a.r10.toモンラッシェ(ピュリニーモンラッシェ村名)との飲み比べセットも↓