マダム・メイという女性
南アフリカの赤ワイン「グレネリー・エステート・リザーブ・レッド」を購入したので、さて一体どんなワインかしらんと購入元のアフリカーのサイトを見ると、こんな説明がされていた。
「Ch・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ ラランド」(中略)フランスのボルドーの2級(スーパーセカンド)で、かなりの知名度と人気があるとてもすごいワイナリーです。このピション・ラランドというワイナリーの元オーナー「メイ夫人」が2003年から南アフリカでワイン造りを始めました!!
グレネリーは、メイ夫人(マダム・メイ)なる女性が創設したことがわかる。へー、と思って何気なくメイ夫人について調べてみると、1本の記事にたどり着いた。で、その内容がすごかった。
まずわかりやすくすごいのが、マダム・メイの生まれ年。なんと1925年である。つまり、彼女が南アフリカでワイン造りをスタートさせたのは78歳のこと。
いやいやいや始めたって言ってもアレでしょ、すでにあったワイナリーの経営権を取得するとかのアンジェリーナ・ジョリー&ブラピ元夫婦的な感じでしょと思いきや違って荒れ果てた果樹園を再生させるとこからだったそうだ。そこからですか。普通やりますか78歳からそんなガチ事業。この時点でマダム・メイへのリスペクトが確定である。
マダム・メイと第二次大戦、20世紀ボルドーの歴史
さらにまたこのマダム・メイの人生がすごい。シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ ラランドとシャトー・パルメの一部を所有する一家に生まれた彼女だが、当時のボルドーは1929年の世界恐慌、そして1930年代の10年間には8度の“テリブルヴィンテージ”に見舞われた挙句、1940年にドイツ軍に占領されるというかなり厳しい時代。
しかもマダムの一家はワインつながりでイタリアから逃れてきたユダヤ人家族をシャトー・パルメにかくまっており、マダムは毎日自転車を漕いで彼らに食料を届けたんだそうだ。スティーブン・スピルバーグ監督映画化待ってます案件。
その後、1978年に家族に請われてシャトー・ピション・ロングヴィルの指揮を執ることとなったマダムは醸造学を学び直してワインの品質を大幅に向上させ、80年代から90年代にかけて世界を股にかけてボルドーの魅力を伝えていたところ、なんやかんやあって、2003年、78歳にして南アフリカでワイナリーを設立させるに至ったのだとか。
「花崗岩の土壌、美しい朝の太陽、たっぷりの水とともに、敷地内に4つのダムがあり、重要なのはブドウの木がないことです。ウイルスの問題が発生する可能性のある既存のブドウ畑に対処するのではなく、自分たちで植えたいと思っていました」(Wines of South Africaの記事より)
マダムは現在95歳。存命だ。世の中にはすごい、すさまじい人がいる。だからグレネリー・エステート・リザーブ・レッドはこれはもうみなさん、マダム・メイという激動の20世紀を生き、さらには21世紀に新たにブドウの木を植えた女性の血みたいなもんですよきっと。心して飲まねばなりません。もはや「乾杯!」とか「チアーズ!」とかじゃなく「お邪魔します」と言って飲みたい。
マダム・メイはこんな人↓この見た目で……90代!?
グレネリー エステートリザーブ レッドはどんなワインか
さて、今回飲んだのはグレネリー エステートリザーブ レッド。公式サイトのトップページには「A South African wine with a French touch」とあり、マダム・メイの来歴からもフレンチタッチのワインなんでしょうきっと。
その商品ページを見ると、「昔ながらのクラレット(ボルドーワイン)のブレンドにシラーを加えた」みたいなことが書いてあり、そのブレンドはシラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルドとある。うーん、フレンチタッチ。
で、飲んだ印象なんですが、これは壮絶に知ったか乙みたいになってしまう危険性が大いにあるんだけれどもボルドーと南仏のちょうど中間地点みたいな印象を受けた。南仏的な果実味ボヨヨンという感じではなく、渋み、酸味もしっかりあって、果実味と調和している。
ラーメンでいえば昔ながらの中華そば的スープに低温調理の鶏むねチャーシューをトッピングしてあるような、古き良きと今どきがグラスの中に調和している印象を受けた。ははは。うっま。
しかしながらうまいのも当然で、これは南アフリカワインの大家にしてKOZEのワインブログ管理人・KOZE氏が提案する3000円以下のオススメ南アワイン打線でクリーンナップの重責を担うワイン。こんなもんうまいはずだわである。
いつもの↓
南ア3千円以下打線組んだ
— KOZEのワインブログ (@kozewine) 2020年8月2日
1 (遊) アタラクシアSB
2 (二) ヴィリエラジャスミン
3 (右) グラハムベックBdB
4 (左) ポールクルーバーCh
5 (一) グレネリーリザーヴ赤
6 (三) ジョーダンCh
7 (中) ポークパインリッジシラー
8 (捕) マイルズモソップ イントロ赤
9 (投) シモンシッヒカープスヴォンケル
もしもマダム・メイが自宅にユダヤ人を匿っていることがナチスドイツに知られたら。もしかしたら、21世紀の私はこのワインを飲めていないかもしれない。マダム・メイという20世紀を生き、そして21世紀の今も生き続ける女傑が造ったワイン。同じ時代の空気を吸っている以上、いつだって飲み頃なのではないだろうか。
1本1本にドラマがあるこの南ア3000円以下打線、手持ちで残すは7番サードと8番キャッチャー。引き続き、大いに楽しみたい。