ワイン会への道
ワイン会を主催してみたいな〜と思ったのが2021年のはじめごろ。あいにくのコロナ禍で実施するタイミングを見失っていたのだが、感染第5波の落ち着いた2021年11月11日、豪徳寺のワインステーション+を借り切って、思い切って実施することとした。
ちなみに私はワイン会を主催したことがない。参加したことも数回しかない。なので、なにもかも手作りで実施することとなった。どこかの誰かの参考になるかもしれないので、以下に詳細を記録しておきたい。
会を告知したところありがたいことにほぼ一瞬で予定していた参加人数に達した。ワイステ+の駅長&助役コンビと私を合わせて15名。テーマは「コロナ禍で開けどきを見失ったワインを持ち寄ろう!」というもの。
告知から開催まではひと月ほど時間があったが、その間に参加者のみなさんがtwitterのグループDMに「当日持ち込むワイン」を次々に投稿してくれ、少しずつワインリストが完成していくのがすごく楽しかったのだった(当日はそのリストをプリントアウトして配布した)。
ワイン50ccきっちり注げるか問題
さて、しかしそのリストがあらかた埋まった開催数日前になって、私は恐ろしい事実に気づくことになる。参加者が15名なので1グラスあたりの分量は750わる15で50cc。各自が1本ずつもってくるということはかける15本。つまり、15本を50ccずつ15人に、計225杯サーブする必要があるってことじゃないのハイ無理。やっべえ考えてなかった。
というわけでグラスに50ccきっちり注ぐ練習がスタートした。けっこう難しいんですよこれが。すぐ50cc超えちゃう。さりとて誤差のないようゆっくり注いでいれば15名にワインが行き渡るのに時間がかかり、19時にはじまった会が終わってみれば朝5時、みたいな惨事にもなりかねない。
2時間の尺のなかで終わらせようと思ったら、120分わる15人でワイン1杯にかけられる時間は8分だ。7分59秒かけて注ぐので1秒で飲んでくださいというわけにはいかないので「誤差2ccなる早で」をキャッチフレーズに日夜練習に励んだ。多少の誤差は自分のグラスに注ぐ順番を最後にすることで吸収することとした。
深夜、ハカリにグラスを乗せ、スケールの表示をゼロに戻し、50cc注ぐ。水を捨て、グラスをハカリに乗せ、スケールの表示をゼロに戻し……目標をセンターに入れてスイッチ……みたいなノリでグラスに水を入れては捨てるその姿、はたからみると完全に狂人なのは知ってる。
グラスをどうするんだ問題と飲む順番どうするんだ問題
続いての問題はグラスだ。飲むペースもアルコール耐性もまちまちな15名が15杯を飲み切るのに、ひとりあたりグラスひとつの運用では不可能だ。そこでお店にお願いしてひとり2個のグラスをご用意いただくこととした。すると問題になるのは個人のグラスをどう識別するかとなり……と課題が連鎖していく。
そしてなんといっても飲むワインの順番を決めるという難易度高すぎの作業が待っている。いやこれ無理でしょう。飲んだことないし。しかし、じゃあたとえば当日くじびきで決めましょう! みたいになると、乾杯からいきなりボルドーの濃いやつ、みたいにもなりかねない。
泡→白→橙→赤の順番に組み上げつつ、後述するが赤はブルゴーニュの凄いワインが登場するのでそれをクライマックスに回し、二部構成的な順番にした。ライブでいうセットリスト、いわゆるセトリってやつ。ライブの成否はセトリが大きく影響する……ライブじゃないけど……!
これ考えるの楽しかったなあ。白→赤→白→赤みたいにしても良かったのでは? 等、当日はさまざまな意見が聞かれて、それがまた楽しかった。
いざ、ワイン会当日へ
ケータリングの手配に参加者の方々への連絡等々当日まで準備に追われて迎えた当日、ポワラーやソムリエナイフ等の準備を万端に整えさあこれでなんとかなるだろうと会に向けて出発、駅に着いたところで持ち込むワインを忘れたことに気がついた。サザエさんかよ。ワインを忘れて愉快なヒマワインさん状態である。あるある(ない)。
そんなこんなでなんとか会のスタートに漕ぎ着けることができたのだった。当日は快晴。細々とした買い物をして17時に会場に入り、駅長ご夫妻のご協力(なんとこの日におふたりは入籍された!)の元、準備を整えていく。19時の開会に向けて、参加者の方々が続々とやってきてくれる。みなさんtwitter上でやりとりをしているので、「本物だ!」感が毎回あるの楽しい。
こうして集まった15名の方のうち、実に10名の方は私にとって初対面。主催者がこの状態なので参加者の方同士も初対面が多く、会のスタート前後は「あれ、これどうやって盛り上がるんだっけ?」みたいなどことなくぎこちなさの漂う状況。こんなときに一番いい方法を私は知っている。みなさんもご存知だ。ワインを飲むことである。
というわけで、するべきはワインの用意だ。抜栓はプロ(駅長)にお任せし、私は練りに練り上げた50cc注ぎに専念しつつ、15グラスを飲み進めていった。というわけで自分の能力リソースの半分を50cc注ぎに割いていたため一部記憶が不明瞭だが、15のワインを光速で振り返ってみたい。
ヒマワイン会#1 15のワインを振り返る
まず乾杯は、かしたくさんが持ってきてくれたマイィ・シャンパーニュ「エクセプシオン・ブランシュ グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン ブリュット」2007。良いシャンパーニュに適度な熟成香が加わった、実においしいシャンパーニュ。14年前に収穫されたブドウで造られたワインがなんでこんなにフレッシュなのか。謎だがともかく大変贅沢な乾杯となった。
続いてはいさみさんが持ってきてくれたジリ・ウヘレク パラヴァ。チェコはモラヴィア地方のワイン。いさみさんは海外旅行が趣味で、現地にも行ったことがあるのだそう。ゲヴュルツトラミネールのような花の香りとキリッとした酸味があるワインでスマッシュヒットだった。
3杯目は南アフリカワイン好きで知られる澤村さんが持ってきてくれたアシュボーン サンドストーン2007。85%ソーヴィニヨン・ブラン、15%がアンフォラ熟成のシャルドネというちょっと珍しいワイン 。熟成感を伴った厚みがあってこれもとても良いワインだった。みんなおいしいワイン知ってるなー!
4杯目はゆのさん(16)さんが持ってきてくれたジャン・ルイ・シャーブのシャーブ・セレクション エルミタージュ・ブラン2015。「シャーブのネゴスものなんですけど、8割はドメーヌものなんです」とのこと。品種はマルサンヌ100%。これがまた素晴らしいワインで、スッキリした味わいのなかに複雑みとボリュームが隠されていてむちゃくちゃおいしいですねこれは……。
いやお前さっきから全部おいしいうまいしか言ってないじゃなのと思われるかもしれないが、本当にどれもおいしかったんですよこの日のワイン。1本ずつ参加者の方にそのワインに関するエピソードを披露してもらいながら飲むワインは格別だ。続けよう。
5杯目は千堂りおさんが持ってきてくれたパッツ&ホール ハイド・ヴィンヤード シャルドネ2016。これがもうこれぞカリフォルニアのリッチで上品なシャルドネ ! という味。「専門はクラフトビール」とのことだが、さすがお酒の小売の現場にいる方はおいしいワインを知ってるわ……!
6杯目はでぃーえいちじーさんが持ってきてくれたマルセル・ダイス シェネンベール2003。白ワインのラストを飾る1本となったが2007年に購入してセラーで眠っていたというこのワイン、峻厳な山奥の岩石から染み出した水みたいなみずみずしさがありながら、味わいの輪郭がとれ、まさに甘露といった極上の味となっていた。でぃーえいちじーさんの14年間に感謝。
7杯目からはオレンジゾーンに突入していく。南アフリカとオレンジワイン専門店のワインステーション+に合わせてアレンさんが持ってきてくれたのはアルチルズ・ワインズ エカツィテリ・ムツヴァネ2017。これぞオレンジ! という色合いで、複雑で芯のある味わいだった。オレンジワインは普段あんまり飲まないが、たまに飲むと独特の味わいがクセになる。
8杯目はワインステーション+の駅長が提供してくれたヴァイス・ホワイト2014。ここは南アフリカワイン専門店。造り手はもちろん南アフリカのザ・サディ・ファミリー・ワインズだ。なんとアルコール度数15%というワインで、オレンジながら色合いはほぼ白というワイン。しかし飲んでみると味わいは豊かでフルーティでたしかにオレンジ。アルコールの強さが感じられる非常にパワフルなワインだった。この1杯で酔いが加速、スーパー楽しすぎモードに個人的には突入していった。
9杯目、後半戦のスタートだ。赤ワインの1杯目はぬーさんが持ってきてくれたテルースというワインでこれはリポヴァッツというモンテネグロの造り手のワイン。いったいどんなワインか!? と飲んでみると私の好きな甘酸っぱい系でこれもすごくよかった。モンテネグロ行ったことあります! という声が挙がったりして会話が盛り上がるのもこういう会の醍醐味だ。うはー、超楽しい。
10杯目はフランスはボルドーのシャトー・フォジェールで、持ってきてくれたのはヌーの群れさん。安ワイン道場師範いわく「昔よく飲んだんだよなあ、これ」というワインで、これが実に親しみやすい良いボルドー。2018とヴィンテージも若めながら渋すっぱ果実味のバランスがとれてすごく飲みやすく、おいしいワインだった。
11杯目はワインステーション+の助役さんご提供のシャトー・ド・レイニャック。これが図らずも10杯目のワインと風神雷神あるいは阿形像・吽形像みたいな感じでいい感じによく似ていて、ここぞとばかりに残してあった肉系のつまみとよく合った。渋み酸味どっしりに果実味もムワンとあってボヨンボヨンなワインだった。なにを言ってるか一切伝わってない自覚はあるが、私の好きなタイプのボルドーワインだ。おいしい。
12杯目は私・ヒマワインが持参したワイン。北海道北見市、オホーツク地方という日本でも北限とも思える地にあるワイナリー、ボス・アグリ・ワイナリーの「桜夢雫 清舞」と書いてさくらゆめしずく・きよまいと読む演歌みたいな名前のワインだ。道外には一切流通していない一方で、地元ではコンビニ(セイコーマート)で買えるというワイン。流氷が流れ着く地で造られるワインはやっぱり酸味がかなり強かったが、すっぱいワインが好きな私は意外と楽しめた。オホーツク地方はしばしば行くので、また買ってみよ。
さていよいよ会も終盤。気がつけば2時間近くの時間が一瞬で流れ去っている。ここからはクライマックス。怒涛のブルゴーニュのいいワイン3連発だ。どれも凄まじいワインだった。
13杯目はMAMIさんが持ってきてくれたドメーヌ・ド・ラルロのコート・ド・ニュイ・ヴィラージュ "クロ・デュ・シャポー" 。2017とヴィンテージが若いことでまだ固いかなとMAMIさんが心配しておられたが、どっこいグラスからは春のはじめの花畑のような爽やかで華やかな香りがバチンと漂い、味わいもバランスが良く、それはそれはおいしかった。すげえなラルロ。有名生産者に理由あり。
14杯目はルー・デュモンのコルトン グランクリュ2013。あれやばいなこれ。とんでもないワイン出てきちゃったな。この会は「3000円めど」で持ち寄るワイン会のはずだけど持ち込んでくださったmoritanさん、まさか桁をひとつ間違えられたのでは……? というほど素晴らしいワインをありがたく頂戴することとした。私はつい最近ルー・デュモンのブルゴーニュ・ルージュをうまいうまいと飲んだのだが、ブルゴーニュ・ルージュの味わいが山の五合目から見た景色だとすれば、このワインが見せてくれるのは同じ山の山頂から見る景色という印象。言わずもがな、素晴らしいワインだった。
そして迎えた最後の1杯、15杯目は安ワイン会の大御所、安ワイン道場師範がもってきてくれたとんでもないワイン、ドメーヌ・グロ・フレール・ エ・セールのクロ・ヴージョ "ミュジニ" である。「安ワイン道場」の記事を見ると師範がこのワインを買われたのは2011年で当時は8000円台だったのだそうだ。今の価格は……いやはやすごい。そしてなにより味わいが素晴らしい。溶けた宝石を飲んでいるような滑らかで硬さと柔らかさが同時に存在するような味わい。すげえなこれ。ここまでボトル1本分を飲んできていい加減へろへろなのだが、最後の最後でハッと目が覚めるような味わいだった。
というわけであっという間の2時間ちょっと、15杯の世界一周旅行だったのだった。「コロナ禍で開けどきを見失ったワイン」というお題だったが、ほぼ「開けどきを見失ったワイン」が並んだ15本。長い年月をセラーで眠って過ごしたワインも開けてしまえば一瞬だ。「やっと飲めた」という安堵感と少しの寂しさ、15人のワイン好きの15本のワインへの思いが渦巻いて、結果なんだかすごく温かい会になったような気がする。本当に参加者に恵まれた会だった。
ワイン会終了。そして2次会へ。
と、いい感じで記事が締まりそうだったのだがここから2次会に突入していく。まずはかしたくさんが持ってきてくれた第二のワイン、マルゴー・デュ・シャトー・マルゴーが登場した。シャトー・マルゴーのサードワイン。ワイン会終了後の2次会のため、飲みたい人はお店に寄付というスタイルで飲ませてもらったのだがこれも非常においしかった記憶がある(会が無事に終わった安堵で気が抜けまくった瞬間だったため、ここだけ記憶があやふや。すみません……)。
さらに、千堂りおさんからはナウエン レゼルバ・エスペシアル ピノ・ノワールというチリの1000円台ワインの差し入れ。これも1000円台にこんなおいしいピノ・ノワールがあったか! という味だった。さすがお酒の小売りの現場に(2回目)
最後に飲んだのはワイステ+駅長が「ウチのお店の一番人気」といって出してくれた南アフリカの生産者、シャノンのロックヴューリッジ ピノ・ノワール2018。一番人気にふさわしく、南アのピノ・ノワールの底力を思い知る一杯だった。
あとなに飲んだっけな。あ、会が始まる前にデモーゾンゲンのシュナンブラン100%の泡を飲んだ。だから1本以上飲んでるのか。「よいとき」をはじまる前に一袋、会の途中でブースト投与したものの、翌日は軽めの二日酔いだった。
そんなこんなでヒマワイン会#1、大盛況のうちに幕を下ろしたのだった。ご参加いただいたみなさんに心から感謝申し上げたい。ありがとうございました。みなさん、また飲みましょう!
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