ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

シャトー・ジンコはどんなワイン? 醸造家・百合草梨紗さんはどんな人? インポーターの担当者に聞いてみた!

「シャトー・ジンコ」について、担当者にインタビュー!

12月10日に東京・豪徳寺のワインステーション+にて「シャトー・ジンコを飲む会」を実施することになった。私が幹事の大役を引き受けることになったのだが、私は醸造家・百合草梨紗さんと面識もないし、ワイステ+は南アフリカワインの専門店。

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まだまだ参加者募集中です!

じゃあなんでお前が幹事なんだよ言え、という話かと思うが話は数週間前、シャトー・ジンコのインポーター・都光のナオタカさんこと戸塚尚孝社長とワイステ+で飲んだときに遡る。話の流れでシャトー・ジンコの話になり、「そういえば今度、醸造家の百合草梨紗さんが来日されるんですよ」「へーお会いしたいなあ」「じゃあイベントやりますか」くらいの会話の手数で開催が決定したのだった。ビジネスに大事なのはスピード感だ。私にとっては100%趣味だけど。

しかし、幹事役に手をあげておきながら私はシャトー・ジンコを飲んだことがなく、知識もほぼない。そこで、イベント前に詳しくワインについて生産者について聞かせてほしいとナオタカさんにお願いしたところ直接の担当者を紹介してくれる運びとなった。同社マーケティング部の部長・竹中康一さんだ。新卒でお酒のディスカウント店に入社、8年間の勤務後、その後10年間のエノテカでの勤務を経て、3年前に都光にジョインしたというワイン界の裏道まで精通する方だ。

以下、シャトー・ジンコについて、そして海外生産者と代理店契約を結ぶことについて、非常に興味深いお話を聞くことができたので、私・ヒマワインとのインタビュー形式でお届けする。

 

シャトー・ジンコと「オープンマーケット」

ヒマ:シャトー・ジンコのインポーターとなった経緯はどのようなものだったのでしょう?

竹中:ボルドーで開催されるヴィネクスポという見本市があるのですが、そこで百合草さんとお会いしたんです。私は元エノテカなのですが、百合草さんもエノテカでの勤務経験があるという縁もあり、そこからお付き合いがはじまりました。

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ヒマ:正規代理店になるまでには、どのような経緯が?

竹中:はい、シャトー・ジンコは2016のファーストヴィンテージから、2017、2018ヴィンテージまではオープンマーケットでの販売でした。5社ほどがシャトーから直接買っていましたが、今後を見据えてパートナーシップを結んでブランドを育てていきませんかと提案しました。ワインを飲んですごく良かったですし、ストーリーもありますから。百合草さん自身すごく悩まれていましたが、最終的にお願いしますということになりました。

ヒマ:いきなり話が逸れてしまいますが、今お話に出た「オープンマーケット」ってなんですか?

竹中:たとえばボルドーのシャトーもの。シャトー・オー・ブリオンとかシャトー・ペトリュスなどには正規インポーターはいなくて、代理店経由で基本的には誰でも買う(輸入する)ことができます。それが「オープンマーケット」です。シャトー・ジンコの場合は生産者が日本人ということもあって代理店は入っていない蔵直でしたが、5社くらいが輸入していたと思います。

 

シャトー・ジンコとインポーター

ヒマ:オープンマーケットで売る場合と正規インポーターがつく場合でどう違うんでしょう?

竹中:独占契約の場合、市場での売価やプロモーションを管理できるのがメリットです。長期的にブランドを育成しようと思えば、雑誌に広告を出したり、イベントを開催する必要がありますが、複数社で輸入している場合、誰もそれをやりたがりません。

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ヒマ:そうか、自社商品であり他社商品でもあるわけだから、自分でお金を払って他社商品のプロモーションに協力することにもなっちゃうと。

竹中:なので百合草さんはお友達を招いてイベントを開催したりと、ご自分でプロモーションをされていたそうです。売価のことをいうと、複数社が輸入する場合、ウチはこの値段で売りたい、ならばこっちはそれより安いこの値段で……となりやすいんです。

ヒマ:価格競争になってしまう。

竹中:都光がインポーターとなることで価格が安定するのは互いにとってメリットですね。一方、インポーターを一社に絞ることで生産者としては販路が狭まるのがリスク。それに対してウチは量を買い取ってあげないといけない。互いにリスクをとるかたちになります。

ヒマ:まだ販売開始したばかりかと思いますが、反応はどうですか?

竹中:都光としては売れると思いましたし、実際にすごい売れています。ここからさらに伸ばしていけるかどうかですね。「日本人女性が造っている」という話題性だけでは一回買っていただいて終わりになってしまいますから。

 

シャトー・ジンコとジー バイ ユリグサ

ヒマ:さて、ではワインについても聞かせてください。シャトー・ジンコには3つのキュヴェがありますが、それぞれどんなワインなのでしょうか。

竹中:まずジー バイ ジンコの赤と白。これは百合草さんが監修し、シャトー・ジンコとは別の畑、別のワイナリーで造るワインです。百合草さんも、ご主人のマチューさんもネゴシアンとしての経験が長くあるため、そのつながりからいいブドウを見つけたり、いい生産者を見つけることに長けている。その人脈をベースに、百合草さんの感性を加えて造るワインです。

ヒマ:セカンドワインとはまた違うんですかね。

竹中:別の畑のブドウから造るワインなので、セカンドではないですね。シャトー・ジンコの畑は1.65ヘクタールしかありませんから、豊作年で5000本くらいしか造ることができず、セカンドをつくることが難しいようなのです。一方で百合草さんにはデイリーに飲めるワインを造りたいという思いがあって、できたのがジー バイ ジンコです。

ヒマ:赤・白、それぞれの特徴は?

竹中:赤はシャトー・ジンコと同じコート・ド・カスティヨン地区のご近所さんが造っているそうですが、樽樽しくないエレガントな味わいです。2、3年落ちの樽で8カ月熟成させているのですが、樽はあくまで骨格をつくるために効かせているだけで、果実がしっかり出ています。メルロー95%、カベルネ・フランが5%使われています。

ヒマ:白はどこで造られているんですか?

竹中:グラーブ地区です。ソーヴィニヨン・ブラン60%、セミヨン40%のブレンド、こちらは10カ月樽熟していて、トロピカルな味わいのなかにパワフルさもあります。クリーム系の料理や、お肉にも合わせられる白ですね。

ヒマ:赤のほうが白より樽熟期間が短いんですね。

竹中:あまり樽を効かせたくないのは、日本食をイメージしていることもあります。樽を効かせすぎると日本食とは合いにくくなってきますから。

ヒマ:なるほど〜。では、フラッグシップのシャトー・ジンコはいかがでしょうか。

 

シャトー・ジンコはどんなワインか

竹中:グランヴァンの資質を備えたメルロー100%のワインです。2019ヴィンテージながらタンニンはシルキーで、口の中で果実を噛んだようなイメージが全面に出てくる、すごくわかりやすくて飲み疲れしないワインですね。「50年でも熟成させたいワインです」と百合草さんはおっしゃっていましたが、それくらいのポテンシャルがあると思います。ブドウは2019年にエコサートのABマーク(オーガニック認証)がついた畑のもの。前の所有者から引き継いだ畑なので取得に時間がかかりましたが、百合草さんが引き継いだ当初から肥料や化学薬品は不使用。百合草さんには大和撫子じゃないですけど、自然と調和するピュアな繊細さがあって、それがワインにも表れていると思いますね。

ヒマ:ボルドーの畑を引き継ぐって、すごくロマンがあります。

竹中:40年以上シャトー・ペトリュスで醸造長を務めたジャン・クロード・ぺルエさんと百合草さんはご近所付き合いがあるそうなのですが、シャトー・ジンコの畑にお墨付きをくれたそうですよ。元々所有していた人もいいし、高台だし、風向きも地質もすごく良くてメルローに向いてるよ、と。その一言が購入の最後の決め手になったそうです。

ヒマ:そんな伝説的な人物がご近所さんっていうのがすごい(笑)。「ジンコ」という名前の由来は?

 

「シャトー・ジンコ」という名前の由来

竹中:ジンコはフランス語でイチョウという意味ですが、イチョウは東洋にしかない品種のため、ヨーロッパでは東洋の神秘的なイメージがあるそうです。そして、生命力がすごく強い木でもある。広島に原爆が落とされたあと、幹を残して焼失したイチョウの木が芽吹いて人々に勇気を与えたということがあったそうですが、その話に百合草さんはインスピレーションを得たそうです。日本のイメージと、末長く生きていくというイメージ。実際、ご自身のお子さんが生まれたときには庭にイチョウの木を植えるくらい、イチョウの木に思い入れがあるそうです。

ヒマ:すごくいい話です……。百合草さんにお会いするのがものすごく楽しみになりましたし、シャトー・ジンコが一刻も早く飲みたくなってきました。

竹中:最初は閉じていますので、飲む2時間前をメドに抜栓していただきたいですけどね(笑)。

 

シャトー・ジンコとブランディングのお仕事

ヒマ:さて、最後に竹中さんのお仕事についても聞かせてください。ご職業的にはワインのバイヤーということになるのでしょうか?

竹中:バイヤー……、そうですね、バイヤーでもあります。ただ、新しいものを探すのだけが仕事ではなく、商品管理やブランディングをメインに、現地と日本をつなぐ橋渡し、ブランドマネージングとマーケティングが主な業務ですね。

ヒマ:なるほど・シャトー・ジンコのほかには、手掛けているブランドはありますか?

竹中:最近でいうとノンアルコールの「ヴィンテンス」ですね。これもボルドーの見本市「ヴィネクスポ」でのことなのですが、タクシー待ちでタクシーがなかなか来なかったんです。そこで一緒に待っている人と会話がはじまって、その人が「ヴィンテンス」の方だった。実はヴィンテンスは私のエノテカ時代から目をつけていたブランドで、このタクシー待ちの縁がつながって日本で輸入できるようになりました。結果、コロナ禍で空前のノンアル市場ができ、大きな需要を獲得することができたのは嬉しかったですね。それと、12月10日のイベントでは乾杯用にお出しするシャンパーニュの「パルメ」もそうです。

ヒマ:なぜか日本に入っていなかった有名シャンパーニュ、っていうやつですね。

竹中:なんで今まで日本に入ってこなかったのか聞いてみたんですが、「正しいパートナーが見つからなかったからだ」との答えでした。都光、リカマングループは規模的にも経営的にもベストマッチだと。私はエノテカ時代にルイ・ロデレールのブランドマネジャーを務めていたのですが、パルメとルイ・ロデレールがご近所なこともあり、「タケナカという男はちゃんと仕事をするのか?」みたいに聞かれたりもしていたようです(笑)。

ヒマ:ロデレールで培った信頼があったからこそ、パルメの輸入が実現したわけですね……。今日はめちゃくちゃ面白い話をありがとうございました!

というわけで当日はパルメの2012ヴィンテージが乾杯用として提供されるので、こちらも要注目だ。さらに、シャトー・ジンコをはじめすべてのワインは当初1本のみの予定だったがブショネ対策兼おかわり用としてそれぞれもう1本ずつ追加されることとなった。竹中さんありがとうございます。さすが部長さんである。

そんなこんなで12月10日の「百合草梨紗さんと、シャトー・ジンコを飲む会」ぜひふるってご参加いただければ幸甚だ。提供ワインはジー バイ ユリグサのブランとルージュ、シャトー・ジンコ×2、乾杯用にパルメ2012、さらに“シメ”のデザートワインの5種10本となっている。かなりたっぷり飲めるので、お得度はむちゃくちゃ高い。ワイステ+助役特製のおいしいおつまみも楽しみだ。

参加希望の方は、twitterの@hima_wineまでDM(どなたでも送ることができます)、あるいはhima_wine@outlook.comまでメールください。楽しみすぎる!