飲めないワインをどうしたらいいんだ問題
どうしてもおいしく飲めないワイン、というものがある。
先日購入した安福袋に入っていた南仏の赤がまさにそれ。グルナッシュ中心の南仏ブレンドながら果実味に乏しく、パワフルなのに細身で渋くてすっぱいというお前さあ…というワイン。
とにかく渋すっぱしか味がしないタイプの赤ワインだ。居酒屋の飲み放題で出てくる赤ワインの濃厚バージョンだと思ってください。濃厚になられても。
ちょっとキツいなあとなんとか使い切るべく牛肉を煮たりしたのだが、それでもちょっと余る。ワインを愛する者として流しに捨てるのだけは避けたい。さりとてワインボトルは冷蔵庫のなかでそれなりの存在感を示し、飲みもしないのに保管しておきたくない。我が家には小瓶もない。困った。
そこで一計を案じた。季節は夏。ならば大人の自由研究をしようじゃないかというものである。単独で飲むのはちょっと厳しい赤ワインを“素材”と再定義し、赤ワインをおいしくしてくれそうな食品を添加してみるという実験だ。
飲めないワインになにを入れたらおいしくなるのか?
さてなにを加えるかと考えていた折、別の調べものの過程で自分のブログの過去記事に行き当たった。
調べ物があって自分のブログを読み返していたらシャンパーニュのドサージュについて初めて調べた2年前の記事が出てきて、なんか面白かったのでセルフ引用。砂糖・イズ・うまい。 pic.twitter.com/wYulEbA0EV
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2022年7月31日
甘いはうまい。となれば甘いものを足すのが良かろうと、さっそく自宅キッチンを捜査してみたところ、まず「てんさい糖」を見つけた。見つけたっていうか日々料理につかってるやつ。自然な甘味でおいしいこれを、まずは加えてみることにした。
続いて昨年の夏に購入して忘却の彼方に押しやられていた「かき氷シロップ いちご味」も出土した。当該赤ワインは甘味と果実味に欠けるので、それを一挙に解消してくれるかもしれないアイテムとして、これも採用した。
最後にコーラも用意した。これはコーラと赤ワインでつくるスペインの夏の定番だというカクテル「カリモーチョ」をつくろうとおもって買っておいたんだった忘れてた。これはもう絶対においしくなるだろう。飲まずしてわかるレベル。最悪全部コーラで割ってのんじゃおう。
夏なんで自由研究はじめます。(小学38年生) pic.twitter.com/ns3AVwhqbV
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2022年7月31日
これらの素材と赤ワイン、カリモーチョ用の氷を用意したら準備は完了。さっそく実験スタートだ。
渋くてすっぱい赤ワインに「てんさい糖」を入れてみた
まずはてんさい糖から。30mlくらいをグラスに注ぎ、2グラムほどの「てんさい糖」を加えてみた(注:本記事の単位はすべて目測です)。スワリングの要領でグラスを回して液体に溶かし込む。外見にはほぼまったく変化がないが、さてどうか。
飲んでみるとあれこれおかしいな。なかったはずの果実味がくっきりと現れ、渋みと酸味がそれを補うグッドバランス。一瞬時間経過でワインがおいしくなったのかな? と思ったのだが、時間経過でワインが開いた感覚に非常に似た感じの変化が起きた。え、マジかこれ。
複雑味、みたいなものは加わらないが、単純なワインの「おいしさ」は圧倒的にアップした。ワインの価格でいえば1000円のワインが1500円になった感じだ。わずか2グラムのてんさい糖で500円分のおいしさアップなのすごい。実際は「飲めない」が「ぜんぜん飲める」に変化したので、これは非常にありがたい。
面白かったのは、必ずしも「甘くなった」わけではない点だ。液体の粘度が増したような印象があり、なめらかで丸くなってうまみが増した。そして果実味が感じられるようになった。実際は果実味じゃなくて砂糖味なんだろうけど。
小学館の漢字辞典で「甘」の字を引くと、その意味①として「味があまい。おいしい。うまい。」とある。「甘いはうまい」は北王路魯山人の言葉としてパワーワードっぽく引用される言葉だが、そもそも「甘」の字には「うまい」の要素が含まれるのだ。
いやーすごい。てんさい糖すごい。天才(あっ)。
渋くてすっぱい赤ワインをコーラで割ってみた
続いては本命のコーラだ。コーラは完璧だと思うわけなんですよ。足りない甘味を補いつつ、スパイシーさ(余談だが『コーラの風味』だと我々が認識するものは、wikipediaによれば『バニラとシナモン』が中心だそうだ。ちょっとワインっぽい)を補充。炭酸によって喉越しもよくなるし、氷で冷やせば全体も締まる。
というわけでごくごく普通のデュラレックスのグラスに氷を入れてコーラを静かに注ぎ、赤ワインを45mlほど入れて軽くステア。グビッと飲んでみた。
結論を先に書こう。味わいはファンタグレープだ。赤ワインのブドウ成分が強調され、一気にコーラがファンタグレープナイズドされた。ただ、ファンタグレープと決定的に違う点が一点あって、それが渋み。渋さを強く感じられて、個人的には期待したほどおいしいと感じなかった。ちょっとさすがに甘すぎるし、分量が適切でなかったのかもしれない。
カリモーチョのレシピを調べるとレモンやライムを絞るものも散見される。渋みと甘みが突出してしまうので、酸味を足してそれを補うのはすごく理にかなってる感じがした。いずれにしても、これは自宅で飲むものではなく、プールサイドとかバーベキュー会場で飲むものという印象だった。
渋くてすっぱい赤ワインに「かき氷シロップ いちご味」を入れてみた
最後に「かき氷シロップ いちご味」だがこれは明確においしくなくなった。なんでかわからないが苦みを強く感じるようになってしまい、そこにシロップならではの絡みつくような甘さが加わって、うーんこれはNG。
シロップの添加量を増やすとおいしくはなるのだが、そうすると液体はただの「シロップ味」と化し、もはやワインでもなんでもなくなる始末。加えている甘味料の総量はてんさい糖より確実に上なのだが、おそらく香料が邪魔をしていて果実味はかえってマスクされてしまうのだ。
大人の自由研究を終えて
というわけで赤ワインにいろいろ入れてみる実験は終わった。そして美味しい順に並べるならば、
てんさい糖>(越えられない壁)>コーラ>(越えられない壁)>かき氷シロップ
という結果となった。世界は越えられない壁に満ちている。いずれにせよ、ワインの味を保ったままおいしくしてくれるのは今回の実験ではてんさい糖だけだった(もちろん普通の砂糖でもまったく問題ないと思う)。
こんなくだらない実験にも発見はある。それは、ワインはバランスがとにかく大切だ、ということだ。今回素材に使ったワインは、渋みと酸味があって甘みがない(感じにくい)ワイン。だからこそ、単純な甘味を加えたことでバランスが良化し、一気においしく感じられた。
コーラの場合甘みが強すぎ、そのバランスが崩れてしまった。おそらくレモンがあれば酸味が足されてグッドバランスになったと思う。そこに濃く淹れたお茶を足してタンニンを補って……とかやりはじめてワインカクテル沼に突入していくのもそれはそれで一興だ。
そしてかき氷シロップはバランスブレイカー。コントロール不能だった。かき氷シロップはかき氷にかけるものです。
ワインを飲んでいたら、「これはどうにも飲めないぞ」という赤ワインに必ずぶち当たるときがくる。そんなときはお砂糖ですよ、みなさん!
ともあれ最初からおいしいワインを買うのが一番ですよ、そりゃあ↓