リゾナーレ八ヶ岳のメインダイニング「OTTO SETTE(オットセッテ)」
星野リゾートが運営する宿泊施設、リゾナーレ八ヶ岳に行ってきた。2001年運営開始、2006年に近隣のドメーヌ・ミエ・イケノと提携し「ワインリゾート」をコンセプトに掲げるリゾート施設だ。
そのメインダイニング「OTTO SETTE(オットセッテ)」でワインペアリングディナーを食べてきたので紹介したい。最高だったんですよこれが。
リゾナーレ八ヶ岳はJR中央線の小淵沢駅のすぐ近くで、山梨と長野の県境の山梨側に位置する。山梨と長野。どちらも地理的表示(GI)保護制度に認定された日本を代表する産地に挟まれているだけに、リゾナーレ八ヶ岳内にあるワインショップ「八ヶ岳ワインハウス」で取り扱っているのはすべて山梨と長野のワイン。オットセッテのワインペアリングも同様だ。
長野と山梨のワインだけで構成された9品の料理と9杯のワイン(実際は+1)のペアリング、ひとつひとつ見ていこう。
【オットセッテ 1皿目】アスパラガスのスフォルマートとキザン スパークリング トラディショナル ブリュット2020
まずは冷たい前菜的な位置付けのアスパラガスのスフォルマート。雑検索したところスフォルマートは「イタリアの茶碗蒸し」的なものだそうなのだが、かなりゆるい作りでスープに近く、上層の緑と下層の白、二色のアスパラの味わいと食感の違いが楽しいひと皿。
それに合わせたのが山梨県甲州市の機山洋酒工業のキザン・スパークリング・トラディショナル・ブリュット2020で、品種は甲州100%、製法は瓶内二次発酵。少しの苦味と柑橘感、熟成感もほんのりあって泡は細かくなんというかクレマン・ド・甲州、みたいな印象を受けた。
がっつり両者を合わせに言っているというよりは、食前酒で喉を潤しつつ、小さい前菜でお腹のイグニッションキーを回すみたいな印象だ。
【オットセッテ 2皿目】前菜4種の盛り合わせとパシュート シャルドネ2020樽発酵
最初の料理とワインを空にするころには胃袋の暖機運転も完了。続いては「前菜4種の盛り合わせ」に合わせ、長野県東御市の生産者、シクロヴィンヤードのパシュート・シャルドネ2020樽発酵が運ばれてきた。
シクロヴィンヤードは元競輪選手の飯島規之さんが代表を務め、キュヴェ名の「パシュート」は「追い抜き競技」の意とのこと。飯島さんは個人追い抜き競技日本一になったこともあるのだそうだすげえ。
料理は稚鮎、つぶ貝、鹿、とうもろこしといったこの土地らしい食材がそれぞれ一工夫されていて、ズッキーニ、ナスなどなどの野菜もふんだんに使われている見た目にも楽しい盛り合わせ。
シャルドネの樽発酵らしいほんのわずかな苦味が稚鮎やふんだんに使われた野菜とマッチしており、はからずも料理、ワイン、料理、ワインと交互に食べていて気づけばまさしくチームパシュート状態。お皿もグラスもあっという間にゴールに到着、つまりからっぽである。
これにより胃袋のエンジンも完全に火がついて一般道から高速道路に侵入、ETCのバーがピコンと跳ね上がったところまできた印象だ。ここからはググッとアクセルを踏み込んで、流れる景色を楽しむフェーズへとなだれこんでいく。高速でETCくぐってアクセル踏み込んでく瞬間って気持ちいいですよね。
【オットセッテ 3皿目】 「野菜畑」とヴォータノ・ケルナー2020
次の皿はこのレストランの名物「野菜畑」という一品。なんと30種類もの野菜が使われた見た目にも非常に美しい料理で、私は肉より魚より野菜という草食系おじさんなのでこれは大変うれしい。
そしてこれに合わせたヴォータノワインのヴォータノ ケルナー2020、これが素晴らしいワインだったのだった。
畑のある長野県の「洗馬(せば)」という土地は、近くを流れる奈良井(ならい)川がもたらすミネラルに富んだ土壌が魅力の土地だとソムリエが説明してくださったが、ミネラルという言葉を「水っぽさを伴わないみずみずしさ」だと解釈すれば、このワインはまさにその言葉がふさわしい印象だ。
井戸水で冷やした果物のような甘くてさわやかな香り。青々しさを感じる少しの苦味。強いうまみ。これもうほとんど野菜な訳なんですよ。飲む高原野菜。「野菜畑」と合わせると、野菜を食べながら野菜を飲んでいるような、おれは本当は人間じゃなくて皿の上に巣食うはらぺこあおむしなんじゃないかと錯覚するような意識混濁錯乱状態に突入する。
余談だが、ヴォータノワインが気に入りすぎて翌日のディナー時に「セバ・ロッソ-1」というメルロー主体の赤ワインをボトルで購入して合わせたのだがそちらも素晴らしかった。自分が好きだと感じられる生産者と出会えるのはペアリングの醍醐味のひとつだと思います自分。
【オットセッテ 4皿目】虹鱒と雑穀のリゾットとツガネ ル・ヴァン2020
さていよいよ4番バッターの登場だ。虹鱒と雑穀のリゾットと合わせて出てきたのが、ラトリエ・ド・ボー・ペイサージュのツガネ ル・ヴァン2020。ボー・ペイサージュ飲めると思ってなかった……!
ソムリエに聞いたところ、このワインはカベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロー40%で造られるワインで、見ての通り普通に赤ワイン。それを虹鱒のリゾットに合わせるのが非常に面白いのだが、これはこの日のベストペアリングのひとつとなった。なんで合うのかわからないのだがともかく異様に合った。ワインの質問ばかりしてペアリングの話を伺わなかったのが悔やまれる。
ワインは「若いヴィンテージながらやわらかさがあると思います」とソムリエがおっしゃっていたがその通りで、自然派的な酸味の強い造りながらむちゃくちゃ滑らかな果実味があり、全体的には甘ずっぱさと少しの草っぽさ、強い旨味があって非常においしい。
合わせる虹鱒と雑穀がこれがまたどちらも旨味が異様に強く、バジルと紫蘇が大量に添えられて香りもめちゃくちゃ強いというつよつよな一皿。
ワインの強いうまみと料理のこれまた強いうまみと香りが八ヶ岳の山麓に暮らす雄鹿の縄張り争いもかくやの激突を見せ、互いに一歩もゆずらないペアリング。
ボー・ペイサージュはリゾナーレと同じ山梨県北杜市に位置することもあって「山梨県北杜市(料理)、山梨県北杜市(ワイン)を添えて」状態。この土地で食べ、飲むことに意味を感じる素晴らしいペアリングだった。おかわりしたい。
【オットセッテ 5皿目】トマトの冷製カッペリーニとキスヴィン ピノ・ノワール ロゼ
続くのはこれまた山梨の人気生産者、キスヴィンのピノ・ノワール ロゼ。合わせるのはトマトの冷製カッペリーニだ。
フレッシュトマトにボタンエビ、味のアクセントはカラスミにミントの葉という一品で、これらをまとめて口に放り込むとなぜかスイカを思わせる清涼感が生まれるという超絶うまい皿だったのだが、ロゼの甲州系ピノ・ノワールという印象の軽快でフレッシュな酸味が料理とうまく寄り添っていた。
これはどちらかというと料理が主、ワインが従というペアリングという印象だった。
【オットセッテ 6皿目】豚肉のサルシッチャと夏野菜のトンナレッリとファンキーシャトーのソーヴィニヨン・ブラン2020
次の一皿もパスタ料理で、豚肉のサルシッチャと夏野菜のトンナレッリ。トンナレッリはどこかトコロテンを思わせる断面が四角いロングパスタで、それがサルシッチャ入り塩ラタトゥイユみたいなソースと絡んだ上にローズマリーのエスプーマが乗っている。エスプーマっていつから一般名詞みたいになったんですかね。
合わせるのは長野のまたまた人気生産者、ファンキーシャトーのソーヴィニヨン・ブラン2020。ちょっぴりオレンジっぽさがあって苦味と旨みが魅力の、赤系果実とか白い花とかいうよりは青系野菜のニュアンスと言いたくなるような味わいでローズマリーのエスプーマや夏野菜とよく合っていた。(ちなみにワインは撮り忘れている)
高速道路を時速80キロで順調に航行していた旅路はここからがクライマックス。追い越し車線に舵を切ればそこは速度制限なしのアウトバーン状態。時速300キロでメインディッシュへと突入していく。
【オットセッテ7皿目】岩魚のヴァポーレとドメーヌ・ミエ・イケノ シャルドネ2020
登場したのはドメーヌ・ミエ・イケノのシャルドネ2020。合わせるのは岩魚のヴァポーレ カリフラワーのローストだ。ヴァポーレは「蒸す」の意だそうです。
ソムリエいわくワインは樽発酵、樽熟成を経ているそうで、酸がおだやかで樽がふくよかな味わいはブルゴーニュでいえばムルソーを思わせるとのこと。飲んでみるとなるほど果実も樽も両方強くて私的には樽の効いたシャブリのいいやつみたいな印象を受けた。めちゃくちゃおいしいですねこれ。人気なのわかる。
日本ワインをたいして飲んでいないので話半分に聞いていただきたいのだが、過去に飲んだ日本のシャルドネのなかではこれがベストだと感じた。カリフォルニアやブルゴーニュの同価格帯のシャルドネと飲み比べてみたい。
これも余談だが、ワインショップでは宿泊客は1本ミエ・イケノのワインを購入することができ、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルローから選べるのだが、オットセッテで飲んだシャルドネがおいしすぎたので私はシャルドネを買った。
リゾナーレ八ヶ岳、宿泊者はミエイケノのワインが買えるみたいなのですが、買えるのは一種一本だけ。みなさんならなに買いますか…?(VTは2020)
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2022年8月1日
岩魚の蒸したやつもなんいうか史上最高のシーチキンといった味わいでワインの旨みをしっかり受け止めていた。ワインが投手、料理が捕手で山梨県大会を勝ち上がり、いざ最後の夏の甲子園へと挑む3年生バッテリーみたいなペアリングだった。まぶしい。
【オットセッテ8皿目】牛肉のローストとプティ・ドメーヌ・ルバイヤート2020
いやー大満足だしお腹もいっぱいだしメインふた皿目の肉料理はちょっともう入らないかもしれないな、あとなんならちょっともう泥酔してるし。と思ったのだが次にきた料理とワインも素晴らしく、無事完食・完飲となった。
まず料理は牛肉のロースト ザバイオーネソース。ザバイオーネは卵、砂糖、マルサラ酒でつくるイタリア・ピエモンテのデザートだそうだけど、それに行者ニンニクと信濃味噌を合わせたものだと説明してもらった記憶のあるソースが印象に残っていて、フォークで切れるくらいやわらかい牛肉とよく合っていた。
これに合わせて出てきたのがこの日最大のサプライズだった山梨県甲州市は丸藤葡萄酒工業のプティ・ドメーヌ・ルバイヤート2016。さすがリゾナーレ、こういう日本ワインのバックヴィンテージが出てくるの嬉しいなあと思っていたらなんとこのワインほんのひと月ほど前にリリースされたばかりなんだとか。熟成期間なっが!
メルロー66%、カベルネ・ソーヴィニヨン14%、プティ・ヴェルド20%というブレンド。樽熟成は13カ月、新樽率は86%というなんだかすごく贅沢な造り。飲んでみるとこれが渋みはなめらか酸味はおだやか果実味しっかり樽しっかりでこれが大変素晴らしい。「え…、これボルドー(いいやつ)では……?」みたいになる。
なんだこりゃおいしすぎるぞみたいに盛り上がっていたらその無知っぷりを哀れんでくれたのか、ソムリエがファーストラベルに当たるドメーヌ・ルバイヤート2018をサービスしてくれた。ありがてえ…!
そちらはプティヴェルド44%、メルロー42%、タナ14%というブレンド。丸藤葡萄酒工業は山梨の生産者だが、ソムリエいわくプティ・ヴェルドは長野の気候風土に合っており、近年盛んに栽培されているのだそうで、それが山梨にも伝播しているのだそうだ。
セカンドラベルは出してすぐおいしいワイン、ファーストラベルは多少熟成が必要なのか、どうなのか、個人的に今飲んでおいしいのはプティ・ルバイヤートのほうだと感じた。日本ワインの実力を思い知るボトルだった。
【オットセッテ9皿目】ぶどうとヨーグルトのエスプーマと桃のメリンガータとエサンス・ド・甲州2015
シメのデザートはぶどうとヨーグルトのエスプーマと桃のメリンガータの2品。
合わせたのは山梨県甲州市のシャトー・メルシャンの極甘口、エサンス・ド・甲州2015。
甲州が極甘口になることにまず意外性があり、トロリとした甘さのなかに酸味もあって大変おいしかったのだった。
駆け足で紹介してしまったが以上9品+9杯、そしておまけで1杯の計10杯をきっちり最後まで飲み干してオットセッテでのワインペアリングディナーは終わった。
すべて山梨県と長野県のワインで統一された構成は日本ワインの底力と多様性を感じさせるのに十分というラインナップ。主要県とはいえ、この2県だけでこれだけのワインが揃うのだ。
おいしかったもの三選を挙げるならば、ラトリエ・ド・ボー・ペイサージュのツガネ ル・ヴァン2020、ドメーヌ・ミエ・イケノのシャルドネ2020、丸藤葡萄酒工業のプティ・ドメーヌ・ルバイヤート2016がほぼ順不同。次点でヴォータノワインのケルナー2020。そしてツガネ ル・ヴァンと虹鱒と雑穀のリゾットのペアリングには度肝を抜かれた。赤ワインと川魚があんなにも合うとは……!
料金は料理が1万2100円。ワインが9500円。合わせて2万1600円は高いがお値打ちだ。みなさん、リゾナーレ八ヶ岳に行ったらオットセッテでワインペアリングをぜひ。この土地で食べる意味、飲む意味のある組み合わせは、ワインと料理を味わう楽しみに満ちていると思いますよ!
プティ・ルバイヤート、「普通に買える」のも素晴らしい↓