- パソ・ロブレスとは
- パソ・ロブレスの生産者たち:ホープファミリーワインズ
- パソ・ロブレスの生産者たち:ジョルナータ
- パソ・ロブレスの生産者たち:Jロアー
- パソ・ロブレスの生産者たち:ラヴァンチュール
- パソ・ロブレスの生産者たち:ピーチーキャニオン
- 試飲会を終えて
パソ・ロブレスとは
カリフォルニアワイン協会が主催するプレスイベント「多彩で魅力あふれるパソ・ロブレスのワインとアメリカンBBQ食体験プレスイベント」という長い名前のイベントに参加してきた。
パソ・ロブレスはカリフォルニアからクルマで3時間半、サンフランシスコからもクルマで3時間半。カリフォルニアの二大都市に挟まれたロケーションで、観光地としてもとても人気のあるワイン産地なのだそう。
カリフォルニアワインといえばナパヴァレー! みたいなイメージは大いにあると思うのだが、実際は149の産地がある多様性ある産地。それをアピールすべく、今年2024年はちょっぴりマイナーなパソ・ロブレスに白羽の矢が立ったようだ。
では、産地としてのパソ・ロブレスの特徴はなんなのだろうか。
ひとつはやっぱり多様性。のちに詳しく記すが、イタリア品種しか造らない生産者がいたり、ヴィンテージにとらわれないソレラシステムを採用する生産者がいたり、独自の「パソ・ブレンド」を追及する生産者がいたりと個性があふれていた。
また、「昼は42度、夜は14度」なんていう日もあるくらい、すさまじい気温差が昼夜で生じるのも特徴。昼間の暑さはワインに果実味を、夜の寒さはワインに酸と風味を与えるそうだ。
飲んだ印象を先に述べると、フランスとナパの中間ナパ寄り、みたいなイメージが総じてあり、エレガントなのに果実味豊かで飲みやすいものが多かった。
果実たっぷりの飲みやすいワインがおいしいに決まってんじゃん、と常日頃思っている私としてはまさに絶好球という産地だ。
今回のセミナーに参加していたのは5生産者。それぞれを紹介しつつ、とくに印象に残ったワインを挙げていきたい。
パソ・ロブレスの生産者たち:ホープファミリーワインズ
まずはホープファミリーワインズから。1978年設立の家族経営のワイナリーで、2022年にはアメリカン・ワイナリー・オブ・ザ・イヤーに選出されたというすごい生産者。
ワインは買いブドウで造り、そのブドウはほとんど「リジェネラティブ農法(環境再生型農法)」で栽培されている。
驚いたのは1杯目にいただいたシャルドネ。20ドルで売られているワイナリー最安値のワインだが、これがものすごく爽やかでフレッシュ。いい意味でカリフォルニア感がない。
ヴィンテージ表記はなく、聞けば古いヴィンテージのワインを少しずつ注ぎ足すソレラシステムを採用したマルチヴィンテージのワインなのだそう。
すごく華やかでキレイな味わいだったので「ヴィオニエが入ってるみたいっすね」と言ったところ、「これには入ってないけど、ヴィオニエとシャルドネのブレンドも出しているのよ!」と輸出ディレクターのメリザさんに半ば強引に褒めていただいた。
そしてフラグシップのオースティン・ホープ・カベルネ2021は2019年にワインエンスージアストのベストワイントップ100で7位の評価を受けたワインだそうでこれがちょっと驚きのおいしさ。
「ワインは開けてすぐに楽しめるべき!」とメリーザさんが語ってくれたように、開けた瞬間から果実の奔流と呼ぶべき怒涛のフルーツ感が押し寄せてくる。どこまでも突き進もうとする果実が馬だとすれば、酸が御者、タンニンが手綱といった印象で、パワーが突出した状態でバランスがとれている。
「もちろん10年、15年経ってもおいしいけど、10年、15年経たないとおいしくならないワインじゃない」みたいな説明も素晴らしいなと思ったのだった。そりゃそうだよ。
このオースティン・ホープ・カベルネは個人的にはこの日のベストワイン候補。
現地56ドル(8147円 ※2月20日現在)なので9900円はお得だと思う↓
パソ・ロブレスの生産者たち:ジョルナータ
続いてはジョルナータ。イタリアにルーツを持ち、パスタ工場も経営するオーナーが、イタリア品種だけでワインを造っているというこれまた非常にユニークな生産者。
素晴らしいと感じたのはまずオレンジワインのオランゴ・タンゴ2022。ファランギーナ、フィアーノ、ヴェルデッキオをスキンコンタクトさせたオレンジワインで、これがもうオレンジ丸かじり系のおいしさ。
オレンジワインは果実味少なめ苦味強めみたいな印象が実は個人的にあるのだが、これは真逆で、果実が強くて苦味がアクセント。価格は25ドル。
もうひとつ素晴らしかったのが「ランチにぴったりのワイン」と紹介されていたバルベーラ2022。
バルベーラといえばピエモンテのブドウ品種。紫色で、少しくすんだ果実味があり、渋み・酸味が強い……といった印象なのだがこれまた見事に反転し、果実くっきり、渋み・酸味がアクセント、ただし香りはバルベーラらしいスミレ系。
もしピエモンテのブドウ品種をカリフォルニアで作ったら、というifの答えが出てる感じの見事なハイブリッド。こりゃうまい。
実はこのジョルナータ、日本でディストリビューターを探しているのだとか。カリフォルニアでイタリア品種だけを造る生産者ってキャッチーだし、人気出そうな気がするのでどなたか輸入してください。
パソ・ロブレスの生産者たち:Jロアー
続いては有名生産者のJロアーなのだがJロアーってパソ・ロブレスが本拠地だったんすね。「15ドル以上のカベルネ・ソーヴィニヨンでは2番目に多い販売量(生産量だったかもしれない)を持つ」のだそうだ。
Jロアーといえばやっぱりふつうに王道のカベルネ、シャルドネ、メルロー、みたいな感じだと思うわけだが今回はパソ・ロブレスの個性を見せるみたいな趣旨の集まり。それだけに用意されていたのはシラーが1本、カベルネ・ソーヴィニヨンが1本、カベルネとプティ・シラーのブレンドが1本という3本。
3本目は「ローヌブレンド」と紹介されていて、ローヌでプティシラーって使うんだっけ? とちょっと疑問に思って調べてみると、本場AOCローヌの規定のなかにはプティ・シラー(あるいはシノニムのデュリフ)の記載はなかった。
なかったのだが今度はJロアーも加入するアメリカにおけるローヌブレンド振興団体「ローヌ・レンジャー」の公式サイトを見てみると、アメリカン・ローヌ・スタイルの規定においてはプティ・シラーも「あり」のようだ。へー。
話が逸れたが、つまりはパソ・ロブレスの特徴は(アメリカン)ローヌスタイルにもあるんだよ、みたいなことだと思う。
印象的だったのは2021ヴィンテージがワインエンスージアストのベストバリューワイン1位に選ばれたというサウス・リッジ・シラー2022。
ギガルのコート・デュ・ローヌの要素をさらに1回り強化したような、果実の砲弾を発射する重戦車のような味わい。
4%のヴィオニエが足されていることで酸もしっかりとあり、飲み疲れもしなさそう。これが15ドルは異常。アメリカに住んでたら私は毎日これを飲む。
調べたら2019VTが2000円台で売ってた。買ってみよ↓
そしてアメリカンローヌブレンドのピュア パソ プロプリエタリー レッドも良かった。
プティ・シラーが入っているだけにほぼ黒ワインと言いたくなるほど濃いめ。味わいも濃密で、渋みも強め。なのだがやっぱり果実が強いので全然余裕で飲める。27ドルとは思えないプレミアム感のあるワインだった。
小規模生産者が非常に多いというパソ・ロブレスにあって、圧倒的規模感でワインを造るJロアー。そのコスパは突出していると感じた。
パソ・ロブレスの生産者たち:ラヴァンチュール
ボルドーでワイナリーを所有していたフランス出身のステファン・アセオさんが、それらを売却して自分の理想のワイン造りのために設立したというラヴァンチュール(『冒険』の意)。
なんでボルドーを出たかといえば、AOCの規定に縛られたくなかったから。っていうかシラーを使いたかったからなのだそうで、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、ムールヴェードルのブレンドで勝負をしている生産者。担当の方によれば、このブレンドを“パソ・ブレンド”と呼ぶのだそうだ。これまた変則ローヌブレンドですね。
セカンドワインの「オプティマス2018」と、フラグシップの「エステート・キュヴェ」の2017と2018をテイスティングさせてもらったのだが素晴らしかったのはエステートの2018。爆発的に素晴らしかった。
2018はワインエンスージアストがカリフォルニアの(ナパだけど)カベルネに99点を与えている年で、ちょっと内包しているブドウの排気量が全然違っちゃってる感じがした。
果実味果実味とそればっかりで恐縮だが実際に果実味があるんだから仕方なく、このワインも非常に豊かな果実味がある。一方でフランス的なエレガントさも併せ持っている。
ボルドーの複雑さ、ローヌの深み、カリフォルニアの親しみやすさ、みっつの特徴をすべて備えているワインという印象。これもこの日のベスト候補。
2017も良かったがどちらか選ぶなら間違いなく2018を私は選ぶ↓
パソ・ロブレスの生産者たち:ピーチーキャニオン
最後はピーチーキャニオン。カリフォルニアワイン会でいただいたことのある生産者だが、なんでもジンファンデルで有名なのだそう。
そのジンファンデルの特徴は感慨しないドライ・ファーミングにあるそうで、収量は下がるがブドウの質は高まるとのことだった。
非常に印象的だったのは2種のジンファンデルの飲み比べ。ナンシーズ・ヴュー ジンファンデルとベイリー ジンファンデルはいずれも2020ヴィンテージ、似たようなラベルで価格も8500円と同じながら味わいは大違い。
ナンシーズのほうはおそらく私が過去飲んだ中でもっともエレガントで、ほぼ間違いなく過去イチおいしいと感じたジンファンデル。ベイリーのほうはジンファンデルらしいジャミー(と、ジェイクさんも形容しておられた)なワインで、こちらも非常においしいのだけど、どちらか選べと言われたら前者。ジンファンデルに8500円払ったらこんな世界が見れる、ということが理解できた。
聞けばキュヴェ名の「ナンシー」はジェイクさんたち兄弟のお母様の名前だそうで、彼女の部屋から見える畑のブドウを使うから「ナンシーズ・ヴュー」なのだそうだ。
母の名前キュヴェは娘の名前キュヴェと並んで絶対にハズレがないの法則の傍証が、また集まる結果となった。
ちなみにラベルに書かれた家はジェイクさんたちのガチ実家だそうで、「ここがおれの部屋!」みたいに教えてくれた。いい話だな〜。
ピーチーキャニオンはマルベックもすごい良かったのだが、1本挙げるならばお母さんキュヴェで、これもこの日のベストワイン候補になった。
試飲会を終えて
この日集まった生産者の方々はいずれも気さくで、めっちゃくちゃフレンドリー。プロモーション目的なんだから当然といえば当然なのだが、その「当然」を上回るほどの情熱で、パソ・ロブレスの魅力、自分たちのワインの魅力を語る姿がとても印象的だった。
まとめると、
・コスパがエグいJロアー
・ジンファンデルが素晴らしすぎるピーチーキャニオン
・“パソ・ブレンド”が魅力のラバンチュール
・カベルネがおいしすぎたホープ・ファミリー(推し)
・イタリア品種inカリフォルニアのジョルナータ
といったところか。そしてあえてこの日のベストワインを選ぶならば、オースティン・ホープ・カベルネ・ソーヴィニヨン2021。結局カベルネかよ、となるのだがこれはちょっと特別なやつだと思います。
というわけで、パソ・ロブレスのメディアイベント参加レポートでした。パソ・ロブレスのワイン、個性的でコスパ良く、非常においしいのでみなさんもぜひ。