バイヤーさんに聞く、インポーターとワイナリーの関係
先日、株式会社マスダのバイヤーで、南アフリカワインを日本に定着させた功労者的存在でもある三宅司さんと食事する機会があった。
ワインを飲みつつ話をしていくなかで、「インポーターの仕事は、子どもを預かる学校のようなもの」という言葉があった。それが面白かったので、せっかくだからとインポーターの仕事について聞いてみたのでまとめてみた。
インポーターの仕事、そこに欠かせないのがワイナリーに対する“責任”だと三宅さんは言う。どういうことか、さっそくインタビュー形式で見ていこう。
ワイナリーに対するインポーターの責任とは?
ヒマ:ワイナリーに対するインポーターの責任って、どんなものなんでしょう?
三宅:ワイナリーの日本マーケットを預かる責任です。ワイナリーからすれば、自分の子どもをどこに預けるかっていうくらい大事な判断になるわけですから。だから数字はもちろん、ブランディングも含めて責任をもって育てなくちゃいけないんです。
ヒマ:ワイナリーからすれば、せっかく自分のところのワインを預けるのに、売る努力をしてもらえなかったら困りますもんね。
三宅:すべてのワイナリーを平等にするのは難しいですけどね。毎年全ブランドが前年比100%を超えるのが理想ですが、なかなかそうはいきません。ただ、100を切っちゃったら次の年度で取り返してあげようとか、3年くらいでどこも平等になるようにしています。
ヒマ:黙っていても売れるものもあれば、売れるか売れないかはインポーターの努力次第っていうところもあるでしょうし……。
三宅:吉本興業でも上はさんま、ダウンタウンがいるけれど、下からも発掘していかなくちゃいけないわけですよね。規模は違うけど、それと同じです。
ヒマ:関西の企業の方らしいたとえですね……(笑)! 大御所も大事だけど、若手芸人の発掘・育成をしなければ中長期のビジョンは立てられない。貴社の場合でいうと大御所芸人ポジションはどのワイナリーなのでしょう?
南アフリカワイン、どの生産者が売れてる?
三宅:大御所というか、最近勢いがすごいのは「グレネリー」ですね。たしか2014年に取り扱いをはじめてまだ10年経っていませんが、2021年度は総合売上1位になりました。
ヒマ:グレネリーが1位なんですね! 今飲んでるこの「エステート リザーブ シャルドネ」もめっちゃくちゃおいしいもんなぁ。
三宅:以前、「ワインサーチャー」というサイトの「ベスト・バリュー・シャルドネ」で世界一になったワインです。これは21年ヴィンテージですけど、赤は現行ヴィンテージが2015ですからね。7年寝かせて出荷して、お値段2750円。ほとんどボランティアです。どうなってんねんと(笑)。
ヒマ:3000円を切る価格のワインで現行が2015……(買お)! グレネリーが1位だとすると、その下に来るのは?
三宅:2位がステラーですね。スーパー系でよく売れています。そして3位がブーケンハーツクルーフ。4位がポール・クルーヴァーで5位がステレンラストです。グレネリーと並んで、ステレンラストの勢いがすごいですね。
ヒマ:ステレンラストは「マザーシップ シュナン・ブラン」が出たあたりから、すごく名前を聞くようになった気がします。
三宅:「マザーシップ」のシリーズでハネました。シュナン・ブランで5000円切ってあの味はなかなかない。そもそもシュナン・ブランっていう品種、1年に1度買うかどうかでしょ?
ヒマ:ほんとそうです。品種を選んで買う感はないけれど、「マザーシップ」は指名買いしたくなる味。
三宅:ステレンラストは2019年のラグビーワールドカップの際に来日して、そのときに日本でポール・クルーヴァーが人気なのを見て、「ポール・クルーヴァーみたいな存在になりたい」と言っていたんです。それが、4年で背中が見えるところまで来ました。
ヒマ:いい話だな〜。グレネリーもそうですが、ステレンラストも品質に対してすごく安く感じますもんね。このコスパ感はもちろん三宅さんたちバイヤーさん、インポーターさんの努力あればこそなんでしょうけど。
ワイナリーとインポーターの関係性
三宅:たとえばさっきのグレネリーのエステート・シャルドネですが、世界一になったりすると世界中みんなが買うようになりますよね。そこで買い負けないようにしないといけない。
ヒマ:そりゃそうだ。でも、それも簡単じゃなさそうです。
三宅:だからこそ、ワイナリーにとっても大切な存在になりたいと思っています。具体的には、新しいワイナリーとお付き合いしたら相手の輸出先のベスト10に入れるように努力します。相手さんのベスト10をクリアできたら、次はベスト5。
ヒマ:なるほど、「上得意」になると。
三宅:そうです。グレネリー、キャサリン・マーシャル、ポール・クルーヴァーなんかとはそういった関係ですね。
ヒマ:上得意になるためには「継続的に量を買う」必要がある。そのためには私を筆頭に飽きっぽい消費者に対して「継続的に量を売る」必要があるわけですから、当然ブランディングが必要になってくるわけですね。いわれてみると、ポール・クルーヴァーもキャサリン・マーシャルも名前を聞くだけでなんとな〜く味がイメージできます。
三宅:でしょ? 1回どかーっと買って、2回目はない、みたいにはしたくないんです。可能ならずっと付き合っていきたい。それこそ子どもさんを預かる感覚です。ビジネスなんでダメなときもあるし、23年やっている間に(取引継続を)諦めたところもあります。でも、可能な限り1回付き合ったらずっと継続していきたいんです。
ヒマ:消費者としてもお気に入りのワインが取引終了となっちゃったら悲しいですもんね。我々のできることは「好きな生産者のワインは継続的に買う」ことなのかな。勉強になりました!
インタビューを終えて
もともと開発の仕事がしたくて大学卒業後に単身南アフリカに渡り、紆余曲折を経て南アフリカワインのバイヤーになった三宅さん。「現地のためになる仕事をしたい」という軸と、「会社から与えられた予算を達成しなければならない」というサラリーマンとしての軸。その両軸を軽やかに行き来しながら、楽しんで仕事をされている印象を今回のインタビューでは受けた。
南アフリカワインは安くてうまい。その背景には、三宅さんたちバイヤーやインポーターの努力がある。そこにちょっぴり想いを馳せながら飲むと、1杯のグラスがまたちょっとおいしく感じるのではないだろうか。