丸藤葡萄酒工業との出会い
長野県と山梨県の県境にある「リゾナーレ八ヶ岳」に宿泊した際、そのメインダイニングである「オット・セッテ」で長野と山梨のワインと料理のペアリングコースをいただいた。
ドメーヌ・ミエ・イケノやボー・ペイサージュといった入手が難しいワインも提供してくれて大満足だったのだが、ワインの味わいとしてもっとも驚かされたのが丸藤葡萄酒工業の「プティ・ドメーヌ・ルバイヤート」だった。
「いいボルドー!?」としか私の語彙ではいえない味わいで、めちゃくちゃ失礼な言い方をすれば日本の山梨でこんなに本格的な味わいの赤ワインが造れるのか! と衝撃を受けたのだった。
ちなみにプティ・ドメーヌ・ルバイヤートはセカンド。ファーストのドメーヌ・ルバイヤートもいただいたが、そちらもとてもおいしかった。
おいしかったなあ、という思いを抱えたまま数カ月の時が経ち、私は東京スカイツリー傘下の商業施設・ソラマチ内の酒販店「いまでや」にいた。
目の前には丸藤葡萄酒工業のルバイヤート・ルージュ樽貯蔵なるワイン。折しも墨田区のPayPay30%還元とかいうぶっ壊れキャンペーンの真っ最中。こんなもん買う一択だわと買った。
墨田区PayPay30%戻ってくるキャンペーンを利用して、東京スカイツリー1階のはせがわ酒店でお買いもの。税込9603円の買い物で2880ポイント付与はエグすぎるって…! pic.twitter.com/dwA7N1bpla
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2023年1月27日
これがおいしかったら丸藤葡萄酒工業が山梨における私の推しワイナリーとなっていくだろう。
丸藤葡萄酒工業の歴史
丸藤葡萄酒工業は1877年(明治10年)、創業者大村治作の父・忠兵衛が大日本山梨葡萄酒会社設立の折に出資したところからワイン造りと関わりをはじめ、1882年に治作がワイン醸造を開始、2代目澄蔵、3代目忠雄、そして当代へと継承されている。
大日本葡萄酒会社は日本初の民間ワイン醸造所であり、メルシャンの前身となった会社。この会社から高野正誠、土屋龍憲という2名がフランスに派遣されていて、日本ワインの父と言われる川上善兵衛にワイン造りを教えたのがこの土屋龍憲(まるき葡萄酒の創業者)だ。
このあたりの事情はこの記事に詳しくまとめてます↓
つまり大日本葡萄酒会社は日本ワインのゆりかご。その出社が創業者の父であるという点からも、丸藤葡萄酒の歴史に筋金が入っていることがわかる。
丸藤葡萄酒の歴史は戦前戦後の混乱も乗り越えて現代までつながり、2018年には日本ワイナリーアワードで5つ星に選ばれている。2022年現在も16選ばれている5つ星ワイナリーのひとつ。すごい。
丸藤葡萄酒の商標「ルバイヤート」とは
さて、今回調べたかったのは「ルバイヤート」とはなにか、という点だ。意味はもとより、そもそも何語なのかすらわからない。
調べてみると、公式サイトにあっさり答えがあった。ルバイヤートは何語なのか? 答えはペルシャ語だ。
ルバイヤートとは、11世紀ペルシアの数学者・天文学者・詩人のオマル・ハイヤームの詩集なのだそうだ。
このオマル・ハイヤームはどうやら天才の類だったようで、三次方程式の解放を研究したり、独自の暦を作成したりした人物だそう。独自の暦を作成ってあなた。そして、19世紀に「ルバイヤート」が英国で翻訳されると詩人として世界中で知られるようになり、英国文学にも影響を及ぼしたようだ。
イスラム世界の住人だから基本的に西洋的価値観の影響下にある我々にあまり知られていないだけで、wikipediaを見ると、天文学者であり数学者であり哲学者であり詩人で、かつすべてのジャンルで卓越しており、「あれ、この人、人類史レベルの偉人じゃね?」みたいになる人物だ。
「ルバイヤート」は“四行詩”の意(正確にはルバーイー=四行詩の複数形)。外交官・小川亮作によって和訳され、1949年に岩波文庫から日本語版が刊行されている。そこにはこんな詩が載っているそうだ。
善悪は人に生まれた天性、
苦楽は各自あたえられた天命、
しかし天輪を恨むな、理性の目に見れば、
かれもまたわれらとあわれは同じ。
「あわれは同じ」というところが良い。
ちなみに小川亮作はオマル・ハイヤームをペルシャのレオナルド・ダ・ヴィンチと評しているそうだ。
さて、このルバイヤートという名を1957年に商標として命名したのが詩人・ 日夏耽之助。
なぜ日夏耽之助が「ルバイヤート」をワインの商標に選んだのかなのだが、オマル・ハイヤームのwikiを見るとどうやらハイヤームがワインを愛した人物だったっぽいことがわからないでもない感じがある。
イスラムといえば現代ではアルコールNG。なのだが、11世紀当時は大丈夫だったのだろうか。このあたりなにもわからず、調べ始めると沼にハマりそうなので自粛。
رباعیات
ちなみに上はアラビア語で「ルバイヤート」だそうだ。日本ワインについて調べていてイスラム世界への知見が深まるとは思ってもみなかったです。
というわけで丸藤葡萄酒とルバイヤートについてざっくり知ることができたので、そろそろワインを抜栓することにする。
丸藤葡萄酒工業「ルバイヤート・ルージュ樽貯蔵」を飲んでみた
飲んだのはルバイヤート・ルージュ樽貯蔵。長野県と山梨県産のメルロー90%、カベルネ・ソーヴィニヨン7%、プティヴェルド3%を使い、12カ月間樽熟成したというワイン。
飲んでみると、同価格帯のボルドーに価格面で引けをとらない味わい。しっかりと渋みと酸があり、それだけでなく果実味も感じられる。全体の印象は丸みを帯びていて、するすると飲むことが可能だ。
丸藤葡萄酒工業のルバイヤード ルージュ樽貯蔵2018うまい! 塩尻、甲州、北杜産のブドウを使ったメルロー主体のボルドーブレンドで2640円。同価格のボルドーに負けない味だと思う。ルバイヤードなに飲んでもおいしいですなー。 pic.twitter.com/TslUYaGIRf
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2023年2月20日
ボルドーとの差分でいうと、アルコール度数12%という低さ。そして、一瞬感じるマスカット・ベーリーAのような甘やかな香りだろうか。マスカット・ベーリーAを貯蔵したのと樽を共用していたりすることもあったりするのだろうか。わからないけど、どこかマスA的香りをふわりと感じたのだった。
このワインのおいしさを讃える四行詩を詠めればいいのだが、残念なことに私にはそのための詩想がない。定価2640円に対して十分なおいしさだと感じた(即物的)。
ルバイヤートの名をつくワインを3種飲んだが、すべてすごくおいしかった。というわけで丸藤葡萄酒工業は間違いなく推せる。ほかのワインも飲んでみたいと思います。