山梨ワイナリー巡りに行ってきた
山梨大学でワインの勉強をされている俊英でお友だちの逆理さん(現・まぬけさん)にお声がけいただき、山梨にワイナリー巡りに行ってきた。
逆理さんはワインの酸化を専門に研究する大学院生。来春からは国内の某超有名ワイナリーへの就職が決まっているというからみなさん逆理さんに会ったらサインもらったほうがいいですという方だ。
というわけで平日の午前中に待ち合わせ、夕方まで運転してもらいつつワイナリーに連れ回してもらうという贅沢な時間を過ごさせていただいたので、その模様をかいつまんでレポートしていきたい。
山梨ワイナリー巡り 1軒目:中央葡萄酒 グレイスワイン
まず向かったのは中央葡萄酒。グレイスワインだ。逆理さんは山梨大学に入学するまでの間に中央葡萄酒でバイトをしていた時期があるそうで、醸造家の三澤彩奈さんとも旧知の仲。今でも収穫期にはアルバイトに行ったりするそうだ。
さて、中央葡萄酒の建物だが、これがいきなりめちゃくちゃ渋い。蔦で覆われた洋館のような建物だ。え、なにこれ最高。
内装も実にオシャレなここはグレイスワインの試飲ができるテイスティングルーム兼ワインの保管庫的な建物だそう。いきなりだけど1日いられるなここ。
ここで飲んだのは、「鳥居平 プライベート・リザーヴ2022」と「あけの2020」の2種。
「鳥居平(とりいびら)、急斜面でめちゃくちゃ日当たりがいいところですよ」と逆理さん。
日当たりが良い畑だからか、どうなのか、飲んでみるとふくよかで丸みを帯びた果実味がある。
「グレイスの『鳥居平』はオルソネーザルが一番強い、香りのインパクトの強いワイン。個人的には『茅ヶ岳』が好きで毎ヴィンテージ飲んでいますが、こちらは香りが控えめで口の中に入れてからのフレーバーがすごい。液体からの香りをオルソーネザル、飲んだ後戻ってくる香りをレトロネーザルと言いますが、その両方がすごいのが(フラグシップの)『三澤甲州』です」(逆理さん)
うーん、さすが山梨大学の大学院生。「なるほど、オルソネーザルが…!」みたいにふむふむ聞いていたがここで告白しよう、初耳だ。
個人的には少し高めの温度で(赤ワインくらいの温度で)提供されたのが印象的だった。甲州は香りも味わいも繊細な品種。冷やしすぎるより、これくらいの温度のほうが良さがわかる気がした。
メルローを主体に、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドをアッサンブラージュした「あけの 2020」も素晴らしいワインだった。17か月樽熟成しているのだが、逆理さんいわく「17か月も樽に入れられるのがすごい」とのこと。それだけブドウが樽に負けない、健全で力強い証拠とのことだ。
「あけの2020」は日本ワインにたまにあるボディの弱さを感じさせず、かといって濃くはなく、スルスルと体に染み入るような赤ワイン。国際品種で造る日本ワイン、まったくあなどれない。
なんとなく、今より涼しかった頃のボルドーってこんな感じだったのかもな、みたいなことを思ったりした。
山梨ワイナリー巡り 2軒目:シャトー勝沼と鳥居平
いやあ良かった、逆理さん、今日はありがとう! と言って思わず帰宅しそうになるいきなりの充実度だが、ワイナリー巡りはまだまだはじまったばかり。
続いて我々は(お昼ご飯を挟んで)シャトー勝沼に向かった。
シャトー勝沼、逆理さんいわくの略称「シャトカツ」は先ほどの中央葡萄酒で話に出た「鳥居平」直下にある。巨大なレストラン、売店が併設されたその姿はまさしく観光地。鳥居平の畑も普通に見学することができた。
5月の空は晴れ渡り、絶好の見学日和。鳥居平はまるでスキー場の超上級者コースのような急斜面だが、そこにさまざまな仕立てでワイン用ブドウが植えられている。
「甲州には一文字剪定、X字剪定、H字剪定などの栽培方法があって、ブドウの木を下から見ると剪定の仕方がわかるんですよ」と逆理さん。
素人には剪定の良し悪しはまったくわからないが、シャトー酒折の「マスカットベリーA 樽熟成 キュヴェ・イケガワ」に名前を刻む池川仁さんやキスヴィン・ワイナリー代表の荻原康弘さんといった方々は名手として名高いのだそうだ。地元で剪定の名手として知られるのとか最高にカッコいいな。
さて、見学しながら私が思ったのは「え、棚(物理)なくない?」ということだった。甲州といえば棚仕立て。なのだが、たとえば公園にある藤棚のような構造物としての棚はない。正しくは、一本の甲州の樹から伸びた枝が支柱に支えられて棚状になっているといったイメージだ。
25メートルプールくらいの広さの畑に何本の木が植わってるのかな〜と目を凝らすと、なんとほんの数本、ということがある。樹の魔改造、それが棚仕立て。すげえな人類の叡智。ナマコを最初に食べた人もすごいが、甲州をこんな感じに育てようと思った人もすごい。
鳥居平はたくさんの農家が分割して所有するそれこそブルゴーニュのグランクリュみたいになっているそうで、区画によって剪定も違うし、レインカット(ブドウの樹のフルーツゾーンの上にビニールシートの屋根みたいなのをつけて雨から守る)のやり方も違うし、下草も生えていたりいなかったりする。
もちろん実際はどうなのか素人にはわからないが、眺めていると「この区画は良さそうだなあ」みたいな感想も浮かんでくるのは現場に来てこそ。甲州の地にいると、自然と甲州という名のブドウに愛着が湧いてくるから不思議だ。
シャトー・勝沼の巨大な観光施設的売店では2004年ヴィンテージの甲州と、ブラッククィーン主体の赤を有料テイスティングした。残念ながら好みの味ではなかったが、20年近くの熟成を経た山梨ワインを飲めたのは貴重な経験だった。
山梨ワイナリー巡り 3軒目:マンズワイン
続いて向かったのはマンズワインだがここはすごかった。まずは敷地がでかい。近隣でシャルマ方式(タンク内二次発酵)でのスパークリングワイン生産ができる数少ないワイナリーのひとつで、委託醸造も請け負っているのだそうだ。それだけにデカい。
そしてショップがめちゃくちゃオシャレだ。残念ながらタイミングが合わずにワイナリー見学ツアーには参加できなかったが、もちろん試飲はしてきた。
飲んだのはトップキュヴェの「マニフィカ 2015」と、「ソラリス 千曲川 信濃リースリング クリオ・エクストラクション 2021」。
3月に開催されたヴィナリ国際ワインコンクールでマニフィカがシルバーを、ソラリスのほうはグランド・ゴールドと甘口部門の部門最高賞を受賞したそうだ。すげえ。
平日のド昼間だったこともあってソムリエの女性が丁寧に対応してくれたのだがその方と逆理さんには共通の友人がいることが会話の流れで発覚、和やかムードでのテイスティングとなった。山梨ワイン業界の“狭さ”が心地良い。
まずマニフィカだが、これはソラリスのトップキュヴェである東山カベルネ・ソーヴィニヨンと東山メルローをアッサンブラージュしたというトップオブトップみたいなワイン。両品種の出来が良い年にしか造られないんだそうだ。価格は22000円だ。すげえ。
さて、この日逆理さんがご自身のクルマで案内してくれているので、お酒を飲むことができない。にも関わらずグラスから漏れる香りだけで「メトキシピラジンが複雑さに寄与していますね……!」みたいなコメントができるからすごい。逆理さん、いい醸造家になるな(確信)。
22000円という価格には思わず怯んでしまうものの、味わいはなるほど堂々たるもの。普通に自信をもって「かなり良いボルドーのちょい若めのヴィンテージ」と答えそうな味わいだ。
鳥居平で見たレインカットは東山の畑にも施されているようで、雨の多い土地で雨を防ぎながら育てる国際品種の味わいの質は、これからも年々高まっていくんだろうと思えた。
でもって「ソラリス 千曲川 信濃リースリング クリオ・エクストラクション 2021」だが、こちらもなるほどとてもおいしいワインだった。
果実を一度凍らせて、溶けてくるところを絞るというのが「クリオ・エクストラクション」で、通常の3倍の原料が必要になる手間のかかる手法なのだそうだ。ちなみに信濃リースリング種はマンズワインがシャルドネとリースリングを交配してつくりあげた独自の品種なんだって。
「ジャスミン、かなり熟した白桃 高いハチミツ、すごくいい中国茶の香りがしますね」と逆理さん(一滴も飲んでない)。
飲んでみると、まるでレモンタルトのような酸味とともに楽しめるさわやかな甘みがある。コンクールで評価されるのも納得。どちらもクオリティがめちゃくちゃ高く、マンズワインの実力を感じられた。
山梨ワイナリー巡り 4軒目:MGVsワイナリー
続いて向かったのがMGVsと書いてマグヴィスとよむMGVsワイナリー。半導体の会社である株式会社塩山製作所のCEOが家業の葡萄園を継承、果実種酒造免許を取得してワイン事業に参入したという変わり種。
でもってこれがまたオシャレなんですよ。クラシックなグレイスもよかったし、モダンなマンズもよかったが、西海岸のカフェ的なイメージのMGVsのオシャレさもかなりのもの。
元々は半導体の工場だった場所を改装して元々は半導体の会社の社員だった人たちが造るだけに、マイコンの技師だった人が温度管理の必要に駆られて温度管理の機械を自作したり、テイスティングサーバの導入が必要と判断した社長がテイスティングサーバを自作したりしてるらしい。社長強い。
ここでは「K235 一宮町卯ツ木田 2018」を飲んだが、なんとなく半導体という変化の極めて激しい環境で培ったノウハウでPDCAを高速で回し、今後どんどん発展していきそうな気配を感じた。いずれにせよ一見の価値のあるワイナリーだ。
山梨ワイナリー巡り 5軒目:勝沼醸造
気がつけば午後も3時を過ぎるくらいの時間帯。続いては勝沼醸造を訪れた。昔の街道なのだろうか、狭い道の両側に日本家屋が立ち並んでいるエリア。その景観に溶け込むように勝沼醸造、逆理さんいうところの“勝醸”はある。シャトー勝沼はシャトカツ、勝沼醸造はカツジョーだ。
1650円でカードを購入すると試飲機に入れられた20種のワインを1000円分飲めるというシステム。お得度でいうとちょっと微妙な気もするが、ともかくこぢんまりとしたテイスティングルームの外側のテラス席が気持ちいい。
カードを購入すると、「甲州ワインはお出汁によく合います。このお出汁と合わせてお召し上がりください」と小さな紙コップに入れた出汁が提供される。これがいい香りで「うーん、カツオ出汁のいい香りがしますね」と言ったところすかさず「アゴ出汁です(笑)」とのツッコミを頂戴した。ブラインド出汁テイスティング大失敗だ。
いくつか試飲したなかで印象的だったのは「アルガブランカ クラレーザ」で、シュールリーをしているというだけあってかまろやかで果実味が感じられておいしい。2200円のワインだが、こと飲みやすさという一点に限れば同じく試飲した6600円のトップキュヴェ「アルガブランカ ヴィニャル イセハラ2021」より上まであるんじゃないかと感じた(『イセハラ』は酸が魅力のワインだと感じた)。
勝沼醸造に限らず、各生産者エントリークラスにはすごく気合を入れているし、わかりやすくおいしくなるように造っている気がする。試飲して感じたその印象を逆理さんに伝えると、オススメ銘柄を教えてくれた。
「1000円台最強だと思うのはくらむぼんワインの『くらむぼん甲州』ですね。カニの絵が描いてあるやつ。素朴な味わいで、和柑橘が強く感じられ、後味にちょっとだけ苦味がある。ゆずとかカボスの印象で、この価格帯では“レベチ”だと思います。2000円台前半だったら、勝醸のクラレーザもいいですよね。あとは値段が高くて良ければグレイスですね。グレイスは最強です。彩奈さんの甲州は彩奈さんにしか造れない……!」
とのことだった。グレイスだったら「グリド甲州」がエントリーにはオススメとのこと。
私は「くらむぼん甲州」と「グリド甲州」をお土産に買って帰って後日飲んだのだがどちらもなるほど素晴らしかった。これまでの私のエントリー価格帯の甲州ベストは旭酒造の「ソレイユ甲州」だったが、今後はこれが3トップになると思う。ベストは「グリド甲州」かもしれない。
山梨ワイナリー巡り 6軒目:シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー
話が逸れたがまだワイナリー巡りは終わっていない。最後に訪れたのはシャトー・メルシャン勝沼ワイナリー。近代化産業遺産である宮光園の目の前にある。おお、宮光園来てみたかったんだよ! 試飲が終わったらもう営業時間終わってたけど!
さて、シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーは近代的な建物で、当たり前だが圧巻なのはそのシャトー・メルシャンのコレクションだ。シャトー・メルシャンってこんなに種類があったんだ! と驚くほどのラインナップ。
入って右側の壁が一面の陳列棚となっており、通路を挟んだ右手が山梨県、左手が長野県のワインがズラリと並んでいる。山梨のワインはやはり甲州やマスカット・ベーリーAが主体で、長野県のワインは欧州品種が中心なのがひと目でわかる。
山梨と長野は隣接する県だが、栽培されている品種はまったく違う。ボルドーにピノ・ノワールが、ブルゴーニュにカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられていないように。ボルドーとブルゴーニュはすごく離れてるしワイン産地としての成り立ちの歴史も大きく異なる地域だと思うのでまだわかるのだが、長野と山梨は隣り合っているのに栽培ブドウの品種が全然違うのが興味深い。
私が試飲したのは、シャトー・メルシャンが山梨で造る甲州のトップキュヴェ「岩出甲州オルトゥム2020」と、長野で造る「北信左岸シャルドネ リヴァリス2020」。山梨と長野、甲州とシャルドネの飲み比べだ。
午前中から試飲し続けて実はわりとヘロヘロなのだが、おそらく本日のクライマックスとなるこの比較試飲、気合を入れていきたい。
というわけで飲んでみたのだが、印象に残ったのは圧倒的に「リヴァリス」のほうだった。しっかりとした果実味にピュアッピュアな酸味、樽のナッツ感が加わって普通にすごく整ったおいしいシャルドネ。日本のシャルドネの最高峰のひとつなんじゃないだろうかという気さえした。
「オルトゥム」は一転、鮮烈な酸で勝負するタイプで、甲州の魅力は酸なんじゃ! という気迫を感じるワインだった。単純なおいしさでいえばリヴァリスのほうが好きだが、オルトゥムは甲州の真髄みたいなものに触れられる1杯という印象。
ワイナリーの奥にあるさまざまな品種が植えられた畑をじっくり見学すれば陽もそろそろ甲府盆地の西へと沈みかける頃。こうして6カ所を(逆理さんのクルマで)駆け抜けたワイナリー巡りは終わった。
山梨ワイナリー巡り まとめ
今回の山梨では甲州とマスカット・ベーリーAを飲みたいなと思っていたが、結果的にはほぼひたすら甲州を飲む1日となった。樽に入れて酸化的に造る甲州もあれば、ステンレスタンクで酸素に触れないようにつくるフレッシュで果実味の強いものもあった。樽熟成とは、樽のニュアンスをつけることだけでなく、酸化的ニュアンスを加える醸造手法でもあるんだなあと「え? 今さら気づいたの?」みたいなことを思った1日でもあったのだった。
甲州をどれくらい酸素に触れさせるか。そのコントロールが上手なのがグレイスでありくらむぼんで、「彩奈さんの酸素管理は本当に美しい」と逆離さん。酸化の研究をされている大学院生しか言わなそうな褒め方だ。
じゃあその酸素管理とはなにかといえば、提供されたワインが「酸化も還元もしていない状態」なのだそうで、くらむぼんもそれが「絶妙なラインをいってる」のだという。
香り、果実味、酸味の3つの味が白ワインの土台だと仮にするならば、果実味と酸味の2本槍で勝負するのが甲州なのかもしれない。そして突出した香りがないことで、食事に寄り添ってくれる。
山梨では、多くの生産者が人生を賭けて甲州に取り組んでいる。甲斐の国・甲州は、甲州ブドウ世界最大の産地。日本に暮らすワイン好きとして、今後も甲州を飲み続けていかなくちゃいかんな、と思った今回の山梨ツアーだったのだった。
末筆ながら1日お付き合いいただいた逆理さん、本当にありがとうございました(またお邪魔します…)!
このシャルドネは驚いた↓
お土産に買った逆理さん推しワインたち。どちらも素晴らしかった↓
![くらむぼん 甲州 勝沼 山梨 [日本ワイン][白ワイン] くらむぼん 甲州 勝沼 山梨 [日本ワイン][白ワイン]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/shiawasenihonwine/cabinet/06629642/07459554/kuramubon_koshu.jpg?_ex=128x128)
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