「安ワイン道場」と私
「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」に誘われたので一択オブ行く一択で行った。
念のため説明しておくと、安ワイン道場とは安ワイン道場師範(以下、師範)という個人が運営する「個人ホームページ」だ。そのメインコンテンツは“稽古日誌”であり、師範が飲んだワインほかアルコール類全般の記録となる。その稽古日誌がスタートしたのが25年前の1997年5月25日なのだそうだ。
当時開設された「個人ホームページ」の多くは四半世紀を経て閉鎖あるいは放置されていることが予想される。そんななか20世紀と21世紀、あるいは平成と令和を股にかけ、今が真夏だと言わんばかりの隆盛を誇っているのが「安ワイン道場」だ。
私はワインにハマった3年前、ワインについてひたすら検索し続けるなかで「安ワイン道場」と出会って以来の読者。幸運にも師範ご本人とも知遇を得、最近ではすっかり飲み友達として付き合わせていただいているという関係だ。やったぜ。
「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」になにを持っていくのか
その25周年会は持ち寄り形式で、ワインに「縛り」はとくになし。一番迷うパターンのやつだが、私は全然迷わなかった。というのも、「師範に初めてTwitterでメンションを頂戴した日に買ったワイン」を記憶していたからだ。「セラー専科」の1万円のワインくじで当たったワインで、「メテオール ペルセイド カベルネ・ソーヴィニヨン 2013」がそれ。
師範との「初絡み」がこれ↓
人生に必要なのは、空気と水と友人の愛、それとピノ・ノワールだ。オレゴン州のワイン「プラネット・オレゴン ピノ・ノワール」について書きました。https://t.co/NhUPAFdpip #ワイン #赤ワイン
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2020年4月25日
師範といえば(安)ワイン会の超有名人。こちらはブログもTwitterもはじめたばかりの無名人。にも関わらず気さくにお声がけいただいたのがうれしくて、浮かれ気分で買ったことをよく覚えている。
先日お迎えした1万円の赤ワインくじ様がついに御光臨あそばした。緊張するのでワインを飲みます。ワインは緊張に効く。 #ワイン pic.twitter.com/0X0hjhRLjy
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2020年4月29日
とはいえ売価2万5000円だというこのワイン、ふだん1000円とかのワインしか飲んでない身には飲むタイミングがない。なにかしら流星群の日に飲もうといういわば流星群待ち状態だったのだが、道場25周年はココしかないというタイミング。というわけでそのワインを持って会場である東京・豪徳寺のワインステーション+に向かった。ここからが本編、当日のレポートとなる。
「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」スタート
開始時間の20分ほど前に入店すると、何名かの方が先に入店している。おっ、持ち寄りワインを撮影している撮影業者の方がいるな、業者が入るとはさすが25周年だなあと思ってよく見たら師範だった。その人だった。
本日集まるのは17名。供されるワインは合計18本。「記録」を至上命題としておられる師範にとって、写真の撮り漏れは許されぬというわけで、開始前から撮影に余念がないのだった。
グラスの用意を手伝ったりなんだりしていると、会の開始時刻である15時になっている。次に気がつくと18時になっており、その次に時計を見ると22時になっていて、豪徳寺駅にマイクロブラックホールかなんかできたか……? と時空のゆがみを疑うほどの楽しさだったこの会の主役はもちろん師範。そして、もうひとつの主役が参加者たちが師範25周年にふさわしいのはこれでしょ! と選び抜いたワインたちだろう。それらを1本1本、振り返っていこう。
【1本目】スティーンバーグ 1682 シャルドネ キャップクラシック
まず乾杯は師範ご提供の南アフリカのスパークリングワイン。そのマグナムボトルだ。南アワイン専門店であるワインステーション+に師範が「乾杯用に泡を」とオーダーし、店主・駅長が利益100円ちょっとで用意したというスパークリングワインだ。お駄賃レベルの粗利額からもわかるように、この日はお店を挙げての祝福モードである。
さて、この泡がいきなり特筆すべき非常においしい泡だった。シャンパーニュのふくよかさや香ばしさと新世界スパークリングのフレッシュさと果実味が正面衝突しましたといった印象で、休日の午後3時に飲む最適解のひとつと思われるような味わい。
マグナムボトルがある会はいい会だ。非日常感と祝祭感があっていいですよね、マグナムって。
さて、これからの3時間で18本を開けなければならないのでここからはお忙しだ。180分で18本なのでひとつのグラスを味わう時間は10分。ひとりあたりの分量は40ミリリットル。試飲会かな? という慌ただしさのなか、参加者が自分の持ち込んだワインを順番に説明していくのを聞くのが楽しい。
【2本目】木谷ワイン「u2 2021」
2番バッターはゆうこりンファンデルさんで、「木谷ワイン u2 2021」。「違うワインを持ってくるつもりが間違えてこっちをもってきてしまった」というワインだ。ドジっ子か。しかしワインの味わいはとても良かった。
デラウェアでつくったペティアンという私の好きなタイプのワインだが、甘い香りにドライ過ぎない果実と酸味が調和した味わいでとても良かった。ペティアン自体の食前酒感もあいまって、セーフティバント気味の送りバントで一塁もセーフみたいな雰囲気を出していた。
ゆ(略)ルさんは自作のお菓子も持ち込まれていたが、それも大変おいしかったことを記録しておきたい。
【3本目】シャトー勝沼「上菱平圃場2020」
次のワインはMikiさんが持ち込まれたシャトー勝沼「上菱平圃場2020」というワイン。以前、Mikiさんと師範が収穫体験に行かれた“思い出の畑”のブドウでつくられたワインだそうだ。
畑名がキュヴェ名になっていることからもわかるとおり「日本のグランクリュと言われている畑です」との説明で、師範も「急斜面で、なるほどグランクリュという立地です」とのことだった。
ワイン自体はかなりシャープな酸があるタイプで、そこに果実が加わってりんご酢のような印象を受けた。グランクリュというだけあって、あと何年かしたら本領を発揮しそうなスケール感のあるワインだった。
【4本目】ドメーヌ・ギベルトー「ソミュール・ブラン ブレゼ 2012」
続いてはかしたくさんお持ち込みのドメーヌ・ギベルトーのソミュール・ブラン ブレゼ2012。かしたくさんいわく「ロワールで一番すごい生産者」である「クロ・ルジャールの(ワインメーカーであるナディ・フコーの)弟子がつくるワイン」とのことで、調べたら割当制で入手困難だっていうすごいワイン。
「ロワールのシュナンブラン」というイメージをひっくり返すわりととんでもないワインで、花と蜜の香りがすさまじい。個人的には、この日飲んだ白の白眉がこれだと感じた。やべえやつ。
さて、このワインを私の隣で飲んでいたのが参加者のMOMOさん。MOMOさんいわく、「このワイン、3ボトルですね」とのことで、3ボトルってなんですかと問うと、「アテなしで飲んだ場合に何本飲めるかの基準です」という答えが返ってきた。つまり、このワインならアテ(つまみ)なしで3本を飲み干せるくらいおいしいという評価だということだ。MOMOさんは私が出会ったなかでも酒の強さが5本の指に入るという傑物。評価の軸が飲める量……!
【5本目】レストレスリヴァー シャルドネ2012
どんどんいこう。続いてがワインステーション+駅長ご用意のレストレスリヴァー シャルドネ2012。ここは南アフリカワインの専門店。産地はもちろん、南アフリカだ。
こちらはまるで黄金といった印象の濃い色合いで味わいも見た目の通りに濃く、まるでカリフォルニア? という印象のワイン。熟成した南アフリカワインはあまり飲んだ経験がないが、高校時代の生徒会長が名門大学に進んで一流企業に就職しましたみたいな、至極真っ当な熟成をしている印象を受けた。
これもおいしかったなあ……南アフリカワインのハズレのなさは本当に驚くばかり。
【6本目】シェアード・ノーツ 「レ・レソン・デ・メートル 2019」
続いてはカリフォルニアワインの専門家・Andyさんお持ち込みの「シェアード・ノーツ レ・レソン・デ・メートル 2019」というワイン。レ・レソン・デ・メートルは「師匠の教え」の意だそうで、師匠≒師範のつながりでのセレクトとのこと。洒落てる。
そしてこれが「カリフォルニア」のイメージが良い意味でないエレガントなソーヴィニヨン・ブラン。セミヨンが24%ブレンドされていて、新樽が100%使われているというが「樽のローストが浅めで、マロ発酵をしていないからこの味わいなのでしょう」とAndyさん。
ワインメーカー夫婦はこのワインを造る際に「マロ発酵する、しない」で過去最大規模の夫婦喧嘩をしたとAndyさんが教えてくれたがマロ発酵しなくて正解だったと一同納得の味わいであった。
これだけ書いてまだ白ワイン編が終わっただけか。すげえな師範会。がんばって中盤戦に突入していこう。
【7本目】ドゥ・ヴノージュ「コルドン・ブルー 2002」
続いて白とロゼ&オレンジの間に差し込まれたのが、ちゃこさん持ち込みのドゥ・ヴノージュ「コルドン・ブルー 2002」。スイス人が創設者だというドゥ・ヴノージュの名前はレマン湖に注ぐヴノージュ川に由来するのだそうで、コルドン・ブルーのラベルの青はこの川をモチーフにしてるのだそうだシャレてんな。
2002年はシャンパーニュ界で有名なグレートヴィンテージ。ちゃこさんが最近亀戸の名店・デゴルジュマンで飲んで惚れ込み「その場で買った」というワインで、「みなさんが正気のうちに飲んでいただきたい、このおいしさを……」というゾンビ映画でよくある気がする「ゾンビになってしまう前に伝えたい、愛していると……」みたいなセリフとともに中盤に配されたこのワインもやべえやつだった。
シャンパーニュの熟成香がさほど得意でないと思っていた私だが、もしかしたらこの日をきっかけに「好き」に路線が切り替わったかもしれないと感じるくらいの複雑でふくよかで優美な香り。しかしフレッシュさもあり、果実と酸味の両要素も加えた味わいの平行四辺形具合が素晴らしかった。これおいしいな。世界はまだ知らないおいしいシャンパーニュであふれてる。
【8本目】シャトー・メルシャン「椀子 カベルネ・フラン ロゼ 2020」
シャンパーニュでいい感じの句読点が打たれ、ここからはロゼ・オレンジ部門に会が突入していく。その先頭バッターとなったのがだいすけさんご持参のシャトー・メルシャン「椀子 カベルネ・フラン ロゼ 2020」。
最近シャトー・メルシャンの椀子(まりこ)ヴィンヤードを訪問されたというだいすけさんが試飲して買ったという現地限定ワインだ。
この会は各人が持ち込みワインを事前に発表して、当日までにリストを埋めていくという形式だったのだが、だいすけさんは会が近づくまでワインを決めず、リストにロゼがないことを確認した上で選んだのだそうだ。
結果的にこの日のワイン会には泡白赤橙桃甘とすべてがラインナップされることになる。参加者力高ぇ……! ちなみに私は真っ先に持っていくワインをウェーイと公表した者。気の利き方の違い……!
バラというよりさくらんぼのようなかわいらしい色、香りも味わいも期待通りのチャーミングさのあるワインだった。個性的な参加者の持ち込むワイン、どれも個性的でおいしい。
そうなのだ。このワイン会には品種も、価格も、産地も、ヴィンテージも、持ち寄るワインに対する縛りがなにひとつない。強いていえば「師範っぽいやつ」みたいな定量化不能の定性・オブ・ザ・定性といった指標だけ。
それだけに次に出てくるワインの味わいがまったく予想できないびっくり箱感があってめちゃくちゃ面白かったのだが、それでいて過ぎた日を未来から眺めてみれば不思議な統一感もあるように感じられる。たしかにどれも『師範っぽい』のだ。
【9本目】スカルボーロ「XL ピノグリージョ2018」
そして次に出てきたワインも、そんなびっくり箱から飛び出してきたようなおいしいワインだったのだった。
それがMOMOさん持ち込みのスカルボーロ XL ピノグリージョ2018。インポーター「風土」のワインで、MOMOさんが気に入ってこの造り手のワインを全部1本ずつ買うというエレガントな買い方をされたといううちの1本。
「エチケットは木を薄く削っているんですよ」(MOMOさん)とのことで、なるほど水に漬けたら出汁が出るんじゃないかという削り節を思わせるラベルの印象そのままに旨みが強い。
料理とのマリアージュを追求されているMOMOさんらしい、これと一緒にどんな料理を合わせたら面白いだろうかという想像がふくらむような、これも素晴らしいワインだった。おいしい食べ物を知っている人はおいしいワインを知っているという宇宙の真理に気づく1本であった。
【10本目】コレニカ&モスコン「エレパード2008」
スカルボーロはフリウリの生産者。フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州はスロヴェニアと国境を接している州だが、次に登場するのはそのスロヴェニアのワイン。
ワインステーション駅長の奥様・助役ことMAKIさん提供のワインで、コレニカ&モスコン(発音が合っているかは謎)なる生産者の「エレパード2008」というワイン。ラベルには豹柄の象みたいな絵が書いてあり、それがつまり「エレパード」のようだ。
「ピノ・ブラン66%、ソーヴィニヨン34%。120日間のシュール・リーのあと、120か月熟成させているワインです」とMAKIさん。120カ月って。ワイナリーで10年熟成させているという、その間ワイナリーの従業員のみなさんの生活は大丈夫なのかと余計な心配をしてしまう感じのワイン。
師範は「香りはシェリーですね」とおっしゃっていたが、私の知っている味で近いのはちょっといい中華で出てくる熟成紹興酒。とはいえツーン! と鼻をつく感じがキツくなく、ワインとして楽しむことができる全体に丸みを帯びた味なのがいい。
味もさることながら、10年熟成オレンジなんて飲んだことがなく、経験として素晴らしい。そんなタイプのワインだったように思う。ワインステーション+、さすがは南アワインとオレンジワインの専門店だ。
【11本目】ポール・ローノワ 「シングル・バレル 1602 エクストラ・ブリュット」
以上でロゼ・オレンジ部門が終わった。ラストスパートの赤ワイン部門に移る前に、お口直し的に再びシャンパーニュが登場する。
お口直しといっても弩級のシャンパーニュで、ポール・ローノワ シングル・バレル 1602 エクストラ・ブリュットのマグナムというもの。価格は8万8000円。1ml58円だ。私が最近家飲み用に半常備しているダンシングフレイムシャルドネは437円とかなので、このワイン約7mlと等価交換可能ということになる。
これは、このワインのインポーターである株式会社都光社長のナオタカさんこと戸塚尚孝氏持ち込みのワイン。なんでもこのキュヴェは「樽ごと買った」のだそうで、樽の焦がし加減までオーダーしているのだそうだ。ワインというよりウイスキーの名称みたいだが、それで「シングルバレル」なんですね。
ちなみにその樽はクリュッグやボランジェが使うのと同じ樽なのだそうで、この生産者はその樽をなにかしらで中空に吊るしているのだそう。ナオタカさんいわく「××系シャンパーニュ」とのこと(ヒマだしワインのむ。は健全な媒体なので伏せ字です…!)。
2016ヴィンテージとのことだが、シャンパーニュとしては掛け値なしに素晴らしく、ナオタカさんいわく「まだまだ寝かせられますね」とのことだったが、フレッシュな状態の今飲んでも十分に楽しめる。さすが、というワインだった。
さて、冒頭のほうでマグナムボトルが登場すると場が盛り上がるみたいに書いたが、それが中盤から後半に配されるとヤバい。全員の酔いメーターが跳ね上がって一気にスーパーええじゃないか状態に突入。ここからは私自身の脳にもアルコールが回ってなにがなんだかわからない状態となっていくのだが、散逸した記憶を拾い集めてなんとか文章にまとめていきたい。
【12本目】シークレットストーン「マールボロ ピノ・ノワール2014」
そんなこんなでいよいよ真打登場。お次は師範の持ち込みワインで、ニュージーランドの生産者、シークレットストーンのマールボロ ピノ・ノワール2014というワイン。
なんでもこのワイン、2019年の1月頃に師範が火付け役となって一世を風靡したワインなのだそうだ。2019年の1月といえば私がはじめて「もしかして自分はワインが好きかもしれない」と自覚したくらいのタイミング。師範、その当時から(当たり前だけど)今と同じようなことやってんだなあ。
このワインの当時の価格は師範いわく862円。1本前に飲んだシャンパーニュは8万8000円。価格差は約100倍だ。8万8000円のワインと800円のワインが違和感なく共存し、800円のワインに対し「私、パスでもいいですか?(笑)」と参加者が言える空気感、これが安ワイン道場クオリティ。
私のブログのコンセプトは「すべてのワインをリスペクト」で、それはこの場において特異点的に実現している。高いワインも安いワインも違和感なく場に馴染んでいて、どのワインも居心地が良さそうにしている印象だ。
さてこのワイン、ワインとしてもふつうにおいしい。師範は「マルサネのいいやつに匹敵し、安く見積もっても3000円の価値がある」と豪語されていて、それは若干言い過ぎ感があるようなないような気がするなあモゴモゴ、と思いつつ、この日唯一のU1000円 とは思えないたしかな存在感のあるワインであるのは間違いがない。そもそもニュージーランドのピノノワールが1000円以下って時点ですごい。
【13本目】ショーヴネ・ショパン クロ ヴージョ2016
長いワイン会もいよいよ終盤戦に突入。ここで登場したのは、長駆神戸から参加されたカツミさんご持参のショーヴネ・ショパン クロ ヴージョ2016。グランクリュがきたぞー!
あまり公言されない印象だが、師範は本来ブルゴーニュ好き。「ブルゴーニュのたけえやつ」はおそらく大好物中の大好物で、これはまさにそのピンポイントをついてくる1本。
カツミさんの針の穴を通すようなコントロールが師範のストライクゾーンを鋭くえぐり、この日の最高得点が師範の稽古日誌ではこのワインに与えられていた。
ものすごく真っ当においしいブルゴーニュという印象で、素晴らしい経験をさせていただいた。今飲んでもおいしいし、まだまだ熟成もするのだろう。
【14本目】ドメーヌ・デ・リゼ「コルナス2012」
とはいえ次に飲んだワインも素晴らしかったのだった。持ち込まれたのはMAMIさんで、銘柄はMAMIさんのお好きな生産者、ドメーヌ・デ・リゼのコルナス2012。
北ローヌのエレガントなシラーとはまさにこのことみたいな印象で、個人的にはすごく好き。シラー=スパイシーみたいによく言うけど、言うほどスパイシーか? みたいなシラーもたくさんある気がしていて、これはそのうちのひとつだったような気がする。
むしろミントの葉のような涼しげな香りが漂っているように感じられ、果実味渋み酸味の二等辺三角形が二次元平面から立ち上がって三次元化したような奥行きが味わいにあった。もちろん人それぞれ意見は異なるだろうが、個人的には赤はこのワインとカツミさんのクロ・ヴージョが双璧だった。
【15本目】ドメーヌ・アレチェア「ドリア2020」
ワイン会はまだまだ続く。続いては、りすさんが持ち込まれたワイン。なんでもりすさん、玄関にワインを置いて出てしまったらしい。ドジっ子か。
そこで急遽会場であるワインステーション+がある豪徳寺駅の隣駅、経堂のワインショップ、エニウェイ・グレイプスに駆け込み、この日のワインリストをお店の方に見せて「なんとかしてください」と頼んだらしい。できる。
結果選んだ(選ばれた)ワインは「バスク地方のカベルネ・フランです」と、りすさん。バスクっつったらスペインだよね、バスクのカベフラなんてはじめてだなあみたいに盛り上がっていたら、抜栓役を買ってでてくれていただいすけさんが、「これ、フランスのワインじゃないかな……?」と一言。裏ラベルを見ると、たしかにフランスワインだった!
バスク地方はフランスとスペインにまたがっており、生産者のドメーヌ・アレチェアがあるイレルギはフランス側のバスク地方にあるのだそうだ。
ワインはビオディナミ農法で栽培したブドウを無濾過無清澄で仕上げたという人的介入を極力排除した製法。とはいえとてもキレイな造りで、師範の「カベフラというよりグルナッシュ」というコメントに納得がいく、わかりやすくおいしいワインだった。りすさん(エニウェイ・グレイプスの方)ナイスリカバリーだ。
(ちなみに生産者公式サイトには、このワインはタナ70%、カベフラ20%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%と記載されていた。細かいことは気にしなくていいよね☆彡)
【16本目】ボルゴーニョ「バローロ2016」
さて、お次はkinokoさんお持ち込み、ボルゴーニョのバローロ2016だ。ボルゴーニョ、ピエモンテ迷子の私でも知ってる有名生産者!
「バローロといえば王のワイン。師範にふさわしいと思ってお持ちしました!」とkinokoさん。本当に、みんながみんな師範のことを考えてワインを選んでいて、うらやましいなあ、師範。
このあたりで私の記憶もだいぶ曖昧な状態に突入しているが、まだ若いバローロらしく、渋み、すっぱみがしっかりとあってまだまだヤンチャな感じだがその先にたしかに王としての姿を感じさせもする、なんていうか若き日の信長みたいな印象のワインだった。
【17本目】メテオヴィンヤーズ「パルセイド2013」
さて、いよいよ最後の赤ワインだ。冒頭でも軽く紹介した私・ヒマワイン持ち込みのメテオヴィンヤーズ パルセイド2013。
渋み、酸味、果実味のバランスがよく、なかでもカリフォルニアらしく果実味がほんのわずかに先行しているような果実味エレガントな味わいでおいしい。「これが今日イチ」とおっしゃってくれる方もいて一安心である。
メテオは流れ星の意、ペルセイドはペルセウス座流星群の意だ。ペルセウス座流星群は毎年夏に観測されるため5月の今は季節外れ。それでもしっかりと輝きを放ってくれたようだでかした。
【18本目】
さて、中締めの1本はりゅじめしさんご持参のアイテルスバッハー・カルトホイザーホフベルク 「リースリング アウスレーゼ 1989」。なんとびっくり、33年前のワインだ。
飲んでみるときちんと飲めるワインで、ちゃんとおいしい。33年の時を経て、しっかりおいしいんだからワインはすごいよなぁ。
ワイン会の最後に甘口ワインを飲むとやっぱり〆感が出ていいな、と思える味だったのだった。
以上18本。すべてのワインが印象に残る、素敵なワインばかりだった。そしてなにより安ワイン道場の25周年に、それを祝おうという気持ちをもった人々が集まり、それぞれが師範の会になにを持ち込んだら盛り上がるかなあと知恵を絞った、その時間こそが尊いと思う。
会はこのあと新たな参加者と新たなワインとともに盛り上がっていくのだが、ここでは「本編」の記録にとどめておく(記憶が曖昧でメモもない)。一次会もそうだったが、二次会でも「はじめまして」の方と多数ご挨拶させていただいて、最後の最後まで乾杯しっぱなし、笑いっぱなしの夜だった。みなさんまた飲みましょう。
というわけで、大変楽しかったのでぜひ26周年も、なんなら25.5周年とかもやってくださいと師範におねだりして本稿を締めたい。師範、あらためて25周年おめでとうございます! 50周年もお祝いしたい!
買ってて良かった、ワインくじ↓