ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ボルドーワインでワインカクテル!? 材料は? どんな味?

ボルドーワインカクテル&フードペアリング」イベントに参加した

ボルドーワイン委員会主催の「ボルドーワインカクテル&フードペアリング」プレスイベントに参加してきた。貴様のようなブロガー風情がなんでプレスイベントに呼ばれてんだ泣かす、と思われるかもしれないがなんとちゃんとしたメディアからライターとして派遣されての参加だ。生きてるといいことがあるものだ。

アペリティフ、そしてカクテルのベースとして登場した今日のワインのみなさん

会場は東京・外苑前のモダンベトナム料理店「AnDi」。オーナーでワインテイスターの大越基裕さんが考案した5つのカクテルとそれに合わせた5皿の料理とのペアリングを楽しむというイベントだ。

一般メディアからの派遣だったので、そちらの記事はワイン好きでない方が読むことを想定してライトにまとめた。このブログはワイン好きの方しか読まないことを想定し、ややマニアックかつ詳細にまとめていきたい。おヒマな方は併せて読んでいただけると会の全貌がより立体的にわかると思う。

 

ワインカクテルと「若者のワイン離れ」問題

大越さんの名前で思い出すのは2021年10月に渋谷にオープンしたワインカクテルバー「swrl.(スワァル)」。大越さんは、そのバーの立ち上げにも参画しているという人物だ。とはいえ私は「swrl.」を訪ねたことも本格的なワインカクテルを味わったこともない。一体どんな世界が広がっているのか、非常に楽しみにして会場に向かった。

会場は外苑前の「AnDi」

ボルドーワイン委員会主催のイベントなので、現地の関係者・生産者を中継で結んでのウェビナーが冒頭で行われた。各生産者のワインを試飲しながら話を聞く、その中で印象的だったのがこんな言葉。

「(ボルドーでは)若年層をつかむという意味でも、複雑さを取り除いたカジュアルな飲み方を提案している。ワインカクテルが出てきたことで、今までアクセスできなかった層にもアクセスできるようになってきた」

フランスでも“若者のワイン離れ”は進んでいる。一方で、年齢を重ねると「そろそろワインを飲みたいな」と思うようにもなる。日本とあんまり変わらないわけですね。ビールとかチューハイとかで仲間とガンガン盛り上がっていた20代を過ぎ、落ち着いてテーブルに座って食事をするようになると、「あ、ワインかも」みたいになるのはおそらく万国共通だ。

前半はウェビナー形式でした

そこで直面するのがワイン好きなら誰もが一度は通過してきたであろうワインなにを飲んだらいいのかわからない問題。

赤か白かシュワシュワかを選べばいいのかと思ったら品種に産地にさらに細かいアペラシオンに製法にヴィンテージ、開けたらしばらく置け、その日のうちに飲め、翌日に持ち越すなら中の空気を抜け、室温で飲め、いや冷やせってどっちなんだよっていうかなんなのまじで、となるのがワイン初心者あるある。

フランス人も感じるのだからおそらく人類すべてが感じるであろうワインに対するハードルを下げるための試み、それがワインカクテルというわけだ。

といっても、今回提案されたのはキールスプリッツァー、ワインクーラーみたいなお馴染みのものではなく、大橋さんによるかなり“尖った”といって良さそうなレシピのもの。ひとつひとつ紹介していこう。

 

ボルドーワインでアペリティフ。ミラディー クレマン・ド・ボルドー ロゼ セック

その前にまずはアペリティフから。着席と同時に注がれた「ミラディー クレマン・ド・ボルドー ロゼ セック」はカベルネ・ソーヴィニヨン100%で造られるほんのり甘いロゼ泡で、これがすごくおいしかった。

カベルネ・ソーヴィニヨン感のない外観

カベルネ・ソーヴィニヨンの印象をいい意味で裏切るチャーミングで甘酸っぱい味わい。クレマン・ド・ボルドーはハズレが少ない印象があるけどこれも気に入った。ブリュットばかりじゃなくてセック(薄甘)もいいわと思わせてくれる1本で、市場価格1000円台はお値打ち。

 

ボルドーワインカクテル1:ジャイアンス・クレマン・ド・ボルドー・ブリュット・エリタージュ

ここからが本番で、怒涛のワインカクテルペアリング5連発がスタート。その一発目が、ジャイアンス・クレマン・ド・ボルドー・ブリュット・エリタージュ+ほうじ茶、ローズウォーター、食用薔薇のカクテル。合わせるフードはゴマが香ばしいライスクレープ(生八ツ橋的なやつ)。

なんでも今回のカクテルは食事と合わせることが前提であるため、大越さんいわく「甘さを足したくない」のだそうで、「香りがあって甘味がない」お茶を上手く使いつつ、スパイスやその他の材料を使って香りのレイヤーを作っていくことにこだわったのだそうだ。

このカクテルはなにしろバラの香りと、スパークリングワインの中にバラが浮かんでいるというビジュアルが素晴らしく、その甘やかな雰囲気と甘いライスクレープがよく合っていた。ゴマなどの香ばしいものはスパークリングワインによく合うという説明があったが、たしかに、と思った。

お茶→甘くないけど甘やか

ゴマ→甘くないけど甘やか

バラ→甘くないけど甘やか

クレマン・ド・ボルドー→甘くないけど甘やか

という徹底したペアリングだった。

 

ボルドーワインカクテル2:シャトー・ラ・ローズ・ベルヴュー2019

続いて供されたのが、シャトー・ラ・ローズ・ベルヴュー+レモングラス、煎茶、穂紫蘇、木の芽、ライムの皮のカクテル。ニョクマム風味のキャロットサラダと一緒に提供された。

このカクテルはとにかく香りが良かった。レモングラスの爽やかな香り、穂紫蘇の華やかな香りが心地よい、なんかこう、生花とかハーブとかレモンとかを布巾でくるんで風呂に入れましたみたいなぐっすり眠れそうな感じの香りだ。

キャロットサラダにもレモングラス的な香りのするオイルが使われており、ドリンクの香りとフードの香りがレモングラスという接点で連結されて走り出すといった印象。運動会の親子二人三脚で異様に息の合ってるそっくり親子、みたいなペアリングだった。

グラスの中に草花が浮かぶモネの睡蓮を思わせるようなプレゼンテーションも非常に良い。ワインはそれ自体とても美しいお酒だが、カクテルにするとより装飾的になって見た目に楽しいんだなあという気づきを得た1杯だった。これを高原の庭の木漏れ日の下かなんかで飲んだら最高でしょうなぁ。

 

ボルドーワインカクテル3:シャトー ブルトゥス ボルドー・クレレ2018

続いてはロゼより濃くて赤より薄い赤ワイン「クレレ」がベースのカクテル。シャトー ブルトゥス ボルドー・クレレ+ルイボスティー、ジンジャービア、ラズベリー(飾り)。ハイビスカスティーを思わせるハイトーンな色合い。ルイボスティーの特徴的な香りにジンジャービアのジンジャー感が強く作用して、どことなく健康に良いデトックス系のお茶みたいな感じ。

生春巻きには柴漬けがゴロリと入っていて、それが味わいにおいても食感においても強めのアクセントになっていて大変おいしかったのだが、この柴漬けの風味とワインがよく合った。ジンジャーの香りと、ラズベリーの酸っぱい香りが掛け算で柴漬け感を出してきたのかもしれない。よく考えられてるなあ、と感じられる飲むおもてなし感が心地よい。

 

ボルドーワインカクテル4:シャトー オー グルロ ブラン2018

辛口ワインがベースのカクテルのラストはシャトー オー グルロ ブラン+麦焼酎、カカオパウダー、ブラウンシュガー、クミン、チリペッパー、胡椒というもの。合わせるフードは揚げ春巻き。

シャトー・オー・グルロは単体で試飲した際によくできたボルドーブランだなおいしいなと感じたワインだが、このカクテルは個人的には正直に申し上げて少し苦手だった。麦焼酎の風味がかなり強く、グラスの縁を飾るスパイスの印象を凌駕して、センサー感度の著しく低い私の味覚レベルではワイン感をあまり感じられなかったのだった。

どうやら、ここ数年飲んでいないことで麦焼酎耐性がダウン、香りに苦手感を覚えてしまったようなのだ。

ただ揚げ春巻きはちょっと異様においしかった。この揚げ春巻きを食べにまたこのお店に行きたいってレベル。AnDiはワインペアリングディナーも楽しめるようなので改めて訪問したいお店だ。

 

ボルドーワインカクテル5:カステルノー・ド・スデュイロー2013

最後のワインカクテルは、ソーテルヌのカステルノー・ド・スデュイロー+レモン果汁、オレンジピールソーダ、氷、ミックススパイス(シナモン、アニス、クローブコリアンダー、ペッパー)というもの。

カステルノー・ド・スデュイローはシャトー・スデュイローのセカンドラベルの極甘口ワイン。単体で飲んだ際も酸味があって大変おいしいワインだと感じたのだが、デザートではなくあくまで食事と合わせるため、レモン果汁、オレンジピール、スパイス類で徹底的に甘味を封じ込められている。

誤解を恐れずいうならば、キンキンに冷えたジョッキで飲みたい贅沢ワインサワーみたいな感じで、5種のカクテルのうち単独の飲み物として一番おいしいと感じたのはこれだった。

合わせたのはソーセージのラープ。ラープって「肉とハーブのサラダ」みたいなものなんですね。さわやか×さわやかの寄り添い系のペアリングでおいしかった。

 

ボルドーワインの魅力は再発見できたのか?

さて、この日のイベントを終えて思ったことに「赤ワイン、出なかったなあ」ということがある。ボルドーといえば色の名前にもなっている赤ワイン。格付けシャトーのフラグシップもすべて赤だしボルドーワインの代名詞的に使われる「クラレット」って言葉は正確には「ボルドーの赤ワイン」を指す言葉だっていうしボルドー=赤という印象は決して間違っていないはず。

にも関わらず赤ワイン(および赤ワインを使ったカクテル)がひとつも出ないというところにボルドーワイン委員会の意志を感じる。それを言語化するならば「ボルドーワインは赤だけでない」ということだろう。赤だけじゃなく白も当然ある。甘口もあるしロゼもある。クレマン・ド・ボルドーもおいしい。その多様性とか可能性を、カクテルという切り口から見せるというのが趣旨だったような気がする。

もちろん「気軽に楽しむ」が会のメインコンセプトだったとは思うのだが、多様性をブーストするツールとしてカクテルが選ばれたという側面もあったように思えた。いやもちろんただの私の曲解で、いや全然そんな意図ないですけど? 熱あンじゃない? と言われるかもしれないけれども。

ワインカクテル、デートなんかに最高なんじゃないすかね。

また、今回登場したワインはすべて1000〜4000円の価格帯のもので、「ボルドーワインはコスパもいいよ!」というメッセージも同時に発せられていたように思う。

この日誰かが言っていたが、ワインは家族や友だちとの食卓をより楽しくするためのツール。食卓の中心にドドンと置いてドボドボ注いでガハガハ飲む、椎名誠的世界観で飲めばいいし、気が向いたらカクテルにしちゃってもいいのだ。ボルドーワインはもっと気軽に楽しんでいい。ボルドー=赤なんてことも、もちろんないのだ(当たり前なだけど)。

とはいえこの日飲めなかったのでこの記事を書きながら無性にボルドーの赤ワインが飲みたくなったのも事実。記事も書き終えたし、ちょっとワインショップ行ってきますね……!

※写真はすべてボルドーワイン委員会提供のもの

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