2008年のシャンパーニュを飲み比べ
2008年のシャンパーニュを飲み比べるという会があると聞いて、500円玉貯金をはたく勢いで参加した。世の中にはすごい会もあるものである。
そのラインナップは以下のようなものだ。
1:ドゥラモット ブリュット NV
2:ドゥラモット ブリュット ブラン・ド・ブラン
3:ドゥラモット ブリュット ブラン・ド・ブラン 2008
4:シャルル・エドシック ブリュット レゼルブ
5:シャルル・エドシック ミレジメ2008
6:ボランジェ ラ ・グランダネ2008
7:ドン・ペリニヨン2008
8:ルイ・ロデレール クリスタル2008
見ての通りのシャンパンアベンジャーズ状態。これらの素晴らしいワインを料理と一緒に味わうわけなんだけれどもコースの最初から最後までひたすらシャンパーニュを飲むというのも初体験だ。
会の構成は、大きく三部に分けられる。
第一部は、ドゥラモット三兄弟。
ノンヴィンテージ(以下NV)、NVのブラン・ド・ブラン、2008ヴィンテージ(以下VT)のブラン・ド・ブランの飲み比べ。
第二部は、シャルル・エドシック兄弟。
ノンヴィンテージながら裏ラベルに2009にカーブ入りと記載され、おそらく2008年のブドウが主に使われているであろうという2014デゴルジュマンのボトルと、2008ミレジメの飲み比べ。
そして第三部はアナタ、半端ないですよ。ボランジェグランダネ、ドンペリ、クリスタルという往年の西武ライオンズのクリーンナップ、秋山・清原・デストラーデの通称AKD砲を思わせる破壊力のボトルが控えている。
このように、NVを交えつつ、グレートヴィンテージだという2008年のシャンパーニュを飲んでいくというのが趣旨だ。私みたいなもんがお邪魔していい会じゃない気もするのだが、非常にフレンドリーで温かい会の空気に甘えて末席を占めさせていただいた。さっそくレポートしていこう。
ドゥラモットNVとドゥラモット ブラン・ド・ブランNV
まずはドゥラモットだ。この日は非常に暑い日で、遅刻スレスレで会場に駆け込んだため喉はカラカラ。というわけで思わずゴクゴク飲んでしまったのだがいきなり最高においしかった。
ドゥラモットのNVは自宅で開けたことがある。しかし、この日のこれはあれこんなにおいしかったっけ? というバランスの良さ。同席された方々にも好評で、「これは普段飲みに最高ですね!」と場が盛り上がっているのを横目で見つつ、「ふだんはカクヤスで500円で売ってる泡を飲んでます!」っていう自己紹介は封印で決まりだな、と確信したというのは秘密だ。本当に危なかった。
そして続いては同じくドゥラモットのNVのブラン・ド・ブラン。ブラン・ド・ブランらしい酸味もしっかりありながら果実味もあってうーんおいしい。「混ぜてあるほう(NVはシャルドネ50、ピノ・ノワール30、ムニエ20の比率)がおいしいね」という声も聞かれたが私はこちらのほうが好きだった自信はまったくないけども。
ドゥラモット ブラン・ド・ブラン 2008
さて、続く3杯目は同じくドゥラモットのブラン・ド ・ブランの2008VT。こうして並べて飲むと私のような味音痴でも味の違いがさすがにわかる。
2008VTは鋭い酸味がありながら、パンみたいな香りが強まってクレームブリュレ的香りに進化。香りが強くなり酸味もシャープであることで、先の尖った鉛筆と定規で引いた線のように味の輪郭が明瞭に感じた。おいしいなこれ。
にしても、この3杯のグラスにはすべてきちんと「ドゥラモット」とハンコを押されているような一貫性のある味わいがあった。サロンも飲んでみたいなあ、いつか。
ここで気がついたのだが3杯終了時点で私のグラスはほぼ空。それに対して参加者のみなさんはグラスの中身に十分な余裕を残している。あそうか、続くワインたちを比較しながら飲むわけだからグラスの中身をつねに残しつつ飲み進めていくのが正解なのか……! ということにこの時点で気づき、「いっやー、暑くてついゴクゴク飲んじゃいましたよアハハ」みたいな猿芝居でごまかそうとしたのはできれば隠しておきたい事実だ。
シャルル・エドシック ブリュット レゼルブとシャルル・エドシック ミレジメ2008
というわけで第一部的な3杯が終了した。なんならこの段階でもう大満足なわけですよ。なのだが会はまだまだ先発投手が5回を投げ切り、セットアッパーがマウンドに立ったくらいのタイミングだ。この先にどんなドラマが待っているのかオラ、ワクワクしてきたぞ状態で中盤戦に突入である。
続いて飲んだのはシャルル・エドシックのNV。シャルル・エドシックのNVといえば以前亀戸のシャンパンバー・デゴルジュマンで飲ませてもらい、そのおいしさに衝撃を受けたワインだったがやはりこの日飲ませていただいたものも非常においしかった。ここまでの4杯のなかではこれが個人的にはベストだった。
色は濃い目で味わいは非常に華やか。今すぐ内容を確認して返送しなくちゃいけない書類(2週間放置してあるやつ)とかの存在を飲んだ瞬間に忘れられそうな味わいだ。
一方、その次に飲んだ同じシャルル・エドシックのミレジメ2008はここまで飲んだなかではもっとも気難しめに感じた。酸味が強く主張しており、わりとすっぱさが前に出ていて、もしかしたら何年後、何十年後の未来においしさのピークが来るのかもしれない。
ただ、「これすごい好き!」とおっしゃっている方もおられたので、それもあくまで好みの問題だと思う。なにしろ1万4000〜5000円ですよ市場価格。私も、この一杯だけを仮に飲んだとしたら、間違いなく「至高の味ですねこれは」とか言ってる。
ここまででわかったことは、やっぱり有名メゾンのスタンダードはうまい、ということだ。これは非常に大きな発見だった。とにかく味のバランスが良くて、開けた瞬間から最高においしい。一方のミレジメシャンパーニュは、開けた瞬間よりも、しばらく時間が経って少し温度が上がったときによりおいしさの広がりがあるように感じた。
ひえひえ&あわあわだけがシャンパーニュではないというのはこの日の大きな学びだ。人生は学びに満ち溢れている。ちょっとぬるくなったシャンパーニュうまい。
ボランジェ ラ ・グラン・ダネ 2008とドン・ペリニヨン2008
さて、こうして会は残すところあと3杯。いよいよクライマックスへと向かっていく。というわけで、まずはボランジェ ラ ・グラン・ダネ 2008だ。ザ・グレート・イヤーですよねこれ英語でいうと。
じゃあどうグレートな年なのか。ヴィンテージチャートを見ると、08年のシャンパーニュ地方はワインスペクテーターでは97点、ロバート・パーカーにいたっては99点という過去最高得点をつけている。エノテカによれば「数々の生産者が「奇跡」「完璧」と表現する世紀の優良年。」なのだそうだすごい。
というわけでボランジェだ。ボランジェといえば樽発酵。このグラスからも樽由来なのか、なんなのか、カルバドスとかウイスキーのシングルモルトみたいな熟成香的ななにかがグラスが漂ってくる。なんとも妖艶な味わいだ。
それと対照的だったのがドンペリ2008。これは、この日飲んだ8杯のグラスのうちもっともエレガントだった。パンのような香りと、キレイな酸味、それでいて厚みを感じる果実の存在感。女性の肌を褒める際に透明感があるなどと評するが、それでいうなら内臓が透けるレベルの透明感だ。それでいて厚みもちゃんとある。うはは、うまい。
というわけで私はこれが今日イチ。前に飲んだ2010も素晴らしくおいしかったが、2008はまた違う味わいでこちらも素晴らしい。「ドンペリはこの状態でもおいしいけど、熟成させるとまた違ったおいしさがあるんだよね」と主宰の方が教えてくださった。今飲んでいるこれはキノコの軸の部分。それがある瞬間に、キノコのカサのような広がりを持つのだと。味わってみたいなあ。
ルイ・ロデレール クリスタル2008
最後がクリスタル。私の印象では、ドンペリとボランジェ グランダネの中間に位置するバランス型という印象を受けた。ピアノの鍵盤を強く押した際に出た音がいつまでも消えないようなすごくシャープな酸味のなかに、キレイな果実味も感じられる。やっぱりおいしいなあ、クリスタル。
そしてボランジェ グランダネ、ドンペリ、クリスタルの3つを飲み比べるのが本当に楽しいのだった。最初の印象だとドンペリが断然好きだったのだが、クリスタルは温度が上がるにつれて少しずつ親しみやすさが顔を出し、グランダネはそのまま妖艶さの度合いを増していって最終的には順番つけられないくらいどれもおいしいと感じた。これどれも熟成させるともっと深みを増してくるわけなんですかねすごい。
ちなみに、この3つのワインのセパージュはすべてピノ・ノワールとシャルドネ 。
ボランジェグランダネ→ピノ・ノワール71%、シャルドネ29%
(※1)ドンペリはセパージュが公表されていないようだが、エノテカの記事「至高のシャンパン「ドン ペリニヨン」スペシャルテイスティングイベント開催」によれば、ドンペリのセパージュは「1〜2%の差異」はあるものの「基本的にはシャルドネとピノ・ノワールが50%ずつで造られ」るとある。
もちろんこの微妙な違いは私には感知不能だが、シャンパーニュのセパージュを今後はもっと気にして飲みたいなあと思った次第。
最終的にはいい具合に酔いも進んだ参加者一同で、この3つのシャンパーニュを●●にたとえるなら(自主規制)という話題で大いに盛り上がっているうちに、気がつけば閉会の時間。こうして2008年シャンパーニュ飲み比べ会という身に余る体験は幕を閉じた。ワイン会も、シャンパーニュも、どちらも本当に素晴らしいなあ、とても楽しかったなあと小学校2年生の夏休みの日記みたいな感想を抱きながら、帰りの電車に揺られたのだった。(おわり)
最後になるが、名前を伏せるこの会は、換気のされた部屋に対面を排して配置されたテーブルが各人にひとつずつ用意された上、マスク会食の厳密な運用のもと実施された。素晴らしいワインをご用意いただき、完璧な心配りで会を実施された主催者の方、ならびに新参者かつど素人の割に妙に馴れ馴れしい私を暖かく受け入れてくださった参加者のみなさんにこの場を借りてお礼申し上げる次第だ。またお邪魔させてください。