セザールという名の品種を知っていますか?
きっかけは、winemag.comに掲載された「ブルゴーニュの他の品種とワイン(ヒマワイン訳)」という記事。ブルゴーニュの品種といえばシャルドネとピノ・ノワール。だけど、ほかにもおいしいワインはあるよ、といった内容の記事だった。
ブルゴーニュのシャルドネとピノ・ノワール“以外”に注目したWEの記事が面白かった。
— ヒマワイン|ワインブロガー (@hima_wine) 2021年5月28日
🍷ミシェル・ラファルジュのPNとガメイの混植パストゥグラン
🍷クロティルド・ダヴェンヌのセザールをブレンドしたPN
とか飲んでみたいなー。あとドメーヌ・ポンソのアリゴテ…!https://t.co/LhbUsqFD1v
ガメイとかアリゴテとかが紹介されるなか、ひとつ聞いたことのない品種が取り上げられていた。それがセザールだ。知ってますかみなさんセザールって。私は知らなかった。セザール=マンション。それが私の知るセザールのすべてだ。キャッチコピーは「大いなるマンション、セザール」ね。すごいキャッチだぜ。残念ながら会社自体はもうなくなっちゃたみたいですねワインの話だった。
ローマ帝国初代皇帝ユリウス・カエサルと綴りが似ているこのブドウは、やっぱりローマ人によってブルゴーニュにもたらされたという古いブドウで、現代ではシャブリ地区の南西にある村名AOC・イランシーで主に栽培されているのだそうだが、発芽が早いため霜に非常に弱く、ベト病にもかなり弱いと書いてある。
ワインにするとタンニンが強く、色が濃いのが特徴だそうでおかしいな全然メリットが見えてこない。なんなのセザール。
クロティルド・ダヴェンヌの「イランシー2017」とセザール
私が購入したのはシャブリを代表する女性醸造家のひとりだというクロティルド・ダヴェンヌの「イランシー2017」。ピノ・ノワール90%にセザール10%がブレンドされ、ステレンスタンクで野生酵母のみで発酵、マロラクティック発酵後、ステンレスタンクと古樽を使って24カ月熟成させたというワインだ。購入価格は2750円。
公式サイトには、こんな説明文がある。
「これは、ピノ・ノワール種から作られた赤ワインです。この地域の伝統的な品種であるセザールを10%まで含むことができるのが特徴です。豊かなタンニンと生き生きとした色を持つセザールは、ワインに興味深い個性を与える高貴なブドウです。ピノ・ノワールだけのキュヴェか、セザールの要素を含むキュヴェかによって、細かい違いが見られます。このワインは、ダークレッドに近い強い深紅色で、豊かな色彩が特徴です。
というわけで要するに色が濃いようだ。えっ、それだけ? 感がなきにしもあらずだが、シャブリまでいっちゃうとピノ・ノワール単体で十分に赤い色のワインを造るのが大変だったりするんですかねわかんないけど。ヴィンテージによって3〜10%の割合でセザールが加えられるとあるから、ほんと色調の調整用という印象を文面からは受ける。なんかこう、赤色一号みたいな扱いをされててなんだか気の毒な感じがするなセザール。がんばれセザール。大いなるセザールの名を取り戻せ!
というわけで考えてみるとイランシーのワインもはじめてだしシャブリのピノ・ノワール(主体のワイン)もはじめて。もちろんセザールもはじめてで、はじめて尽くしのワインとなっているのだった。どんな味わいか、いざ飲んでみよう。
クロティルド・ダヴェンヌの「イランシー2017」を飲んでみた
さて、グラスに注いでみるとたしかに濃い。濃いっていうか、普通? 普通にいい感じのルビー色で、言われてみればやや濃いかもくらいの濃さ。濃いようで濃くないちょっと濃いピノ・ノワールくらいの食べるラー油的濃さ。
飲んでみると、なるほど涼しい気候を思わせる果実味のなさ。甘さほぼなし。味の主体は酸味で、それを渋みがささえてる。ドラム(渋み)とベース(酸味)とピアノ(果実味)の3ピースのジャズバンドのライブでピアノが全っ然弾かない、みたいな印象だ。ステージ上にはたしかにいるのだがなんかこう、ずっと指をパキパキ鳴らしてるだけみたいな。
ただこのベースとドラムがいい味出してるんですよ。メロディ(甘さ)はないけれどなんだか妙に心地よく、いい音楽を聞いていると時間がスッと過ぎていくようにグラスの中の液体スイスイ消えていく。で、温度が上がってくると満を持して果実味がやってくる。よっ、ニクいね!
というわけで色は濃いめだが味わいは薄渋すっぱうまで私はとても好きだった。セザールはこの場合なににたとえられるんだろう。強いて言えば「運営」なのだろう。ステージ上にはいない。しかし、ステージにいない彼の存在がなければステージは上手く回らない。えらいぞ、セザール。縁の下の力持ち。
あとこのワイン、開栓した瞬間にわりとはっきりと杉の木箱を開けたときの香りがして、一瞬で消えた。あれはなんだったんだろう。ほかで嗅いだことがないので私のなかではセザール香(仮)としておこう。
セザール、それは大いなるワイン。かどうかはさておいて、話のタネに飲んでみるのも悪くないワインだ。