ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

1976年のコート・ド・ボーヌはどんな味? 2020と飲み比べ!

コート・ド・ボーヌ 1976-2020

「コート・ド・ボーヌの熟成ワインと買ったばかりのワインを飲み比べる会」に行ってきた。この会の詳細は主催者のひとりである「ますたやさん」のnote、同席した安ワイン道場師範の稽古日誌などにすでに詳しく書かれているので省く。屋上屋を重ねた上にペントハウスを建てるがごとし感があるものの、せっかくなのでこの日飲んだワインについて記録しておきたい。

この日飲んだワインのみなさん

 

コート・ド・ボーヌのワインをいろいろ飲む会にやってきた

さて、以上のような経緯から私は秋晴れの日曜日の午後に会場である東京・根津の「自然派ワインと小皿料理 Amilas」にいる。10名のワイン好きが集まって、コート・ド・ボーヌの同じ造り手の1976年と2020年ヴィンテージのワインを飲み比べつつ、主催者でありインポーター勤務のあきもさんが用意してくれたコート・ド・ボーヌの村々のワインも飲むという流れだ。贅沢。

 

コート・ド・ボーヌの地図を示すあきもさん。

「コート・ド・ボーヌのワインはムルソーやシャサーニュ・モンラッシェ、ピュリニー・モンラッシェといった白のイメージはあるけど、それ以外はあまり飲むことがないかもしれません」とあきもさん。恥ずかしながらおっしゃる通りで、ブルゴーニュの主要生産地であるコート・ドールには北のニュイと南のボーヌがある。以上おわり。くらいしか知識がない私にとって、コート・ド・ボーヌの知見が一気に深まるであろう大変ありがたい会になりそうだ。

 

「業スー」シャンパーニュの衝撃

乾杯の泡はブリジット・デルモットというシャンパーニュの生産者の「ブリュット ブラン・ド・ノワール」。参加者の全力豆乳さんが持ち込まれたワインで、「業務スーパーで1999円(税込2198円)で売っている謎の、そして妙においしいシャンパーニュ」としてますたやさんがTwitter上で推していたワイン。

業スーシャンパーニュ、フツーにおいしいワインだった。

全力豆乳さん、複数の業務スーパーを探し歩いてこのワインを購入されたのだそうだ。その手間賃で普通のシャンパーニュが買えたんじゃないか、という気がしなくもないが飲んでみるとその労にきっちり見合う果実の厚みとシャンパーニュらしい泡の細かさ、そしてふくよかな香りを兼ね備えたおいしいシャンパーニュだった。つーかシャンパーニュのブラン・ド・ノワールが税抜きとはいえ2000円アンダーはヤバすぎる。どうなってるんだ業務スーパー

安ワイン道場師範の「シャンパーニュは『シャンパーニュ』って書いてあるだけでうまい」という決め台詞も飛び出して、いざコート・ド・ボーヌにレッツゴーである。

 

コート・ド・ボーヌの村を飲み比べる:その1「モンテリー」

あきもさん提供してくれたのは、モンテリーで5代続いているという造り手・シャンガルニエのコート・ド・ボーヌのワイン4種。その第一弾が本拠地であるモンテリーの村名白。これがいきなり素晴らしいワインだった。

モンテリー。これいきなり良かった。

樽のボリュームと豊かな果実感にグレフル的な酸味とあるかないかのごくかすかな苦味。開けた瞬間から全力疾走でおいしく、ブルゴーニュのワイン、もしかしたら白のほうが好き……? みたいになる。

シャンガルニエ、造りはオーセンティックながら栽培においては近年ビオディナミに移行しているのだそうで、あきもさんが現在取り扱っているワインの共通点だという「ナチュール&オーセンティック」を地でいくワインだと感じた。造りはナチュラルだけど味わいはオーセンティック(“自然派”っぽくない)ワイン、流行りそう。流行るとかじゃないか。

 

コート・ド・ボーヌの村を飲み比べる:その2「オーセイ・デュレス プルミエ・クリュ レ・デュレス」

つづいてはオーセイ・デュレスの一級畑。モンテリーから西南西みたいな位置にある村のワインだがあきもさんいわく「スタイルは全然違う」とのことで飲んでみるとたしかに前に飲んだモンテリーと違う。

オーセイ・デュレス

私にはモンテリー比で酸がシャープに感じられ、どことなくあともうちょっと寝ててもらったほうが良さそうな印象。仕事で徹夜して朝帰りしたパートナーをそれとは知らずに午前7時半に起こしてしまったとき感があるような気がした。

ともあれ参加者の中にはこちらのほうが好み! という方もいらっしゃったので、単純に好みの問題なのだろう。どちらもおいしいワインなのは間違いがない。

 

コート・ド・ボーヌの村を飲み比べる:その3「ポマール レ・ヴィーニョ」

続いては赤ワインに突入し、まずはポマール。「ポマールはヴォルネイと並んでコート・ド・ボーヌ屈指の生産地です。ただ、スーパースター的生産者がいないこともあって、いまいちマイナーなんです」とあきもさん。師範いわく「特級(グランクリュ)がないのも弱点だよね」とのこと。なるほどなあ。

ポマール。

しかし、飲んでみるとこれが香りがめちゃくちゃいいわけなんですよ。漂うのはバラというより果実の香り。エレガントというよりも濃密といった香りだ。味も渋み>果実>酸の順番に並ぶしっかりとした味わいでパワーがある。ブルゴーニュのワイン、ついさっき白のほうが好きかも……? みたいになったけどやっぱ赤だわ、みたいになるなこりゃ。私は目の前のグラスに注がれているワインの産地と品種が好きです。

ちなみに、ポマールの生産者としては「コント・アルマン、ジャン・マルク・ボワイヨといった生産者が有名」とあきもさんが教えてくれた。メモメモ。

 

コート・ド・ボーヌの村を飲み比べる:その4「ヴォルネイ プルミエクリュ レ・ブルイアード」

続くヴォルネイは「ヴォルネイ プルミエクリュ レ・ブルイアード」。今回用意していただいたシャンガルニエのワインのなかで、唯一ラベルにドメーヌ表記の入らない、買いブドウで造られたというワイン。

ヴォルネイ プルミエクリュ レ・ブルイアード

「買いブドウと自社畑だと自社畑のほうが上というイメージを持つ方は多いと思いますが、最近のブルゴーニュではマイクロネゴシアンといって、醸造に集中するため畑は信頼できる契約農家さんに任せるという生産者も多いんです。農家がワインも造るシャンパーニュのレコルタン・マニピュランと逆の流れですね」(あきもさん)

ワインはおいしいし勉強にもなるし最高だなこの会と思いながらグラスをくんくんしてるみると、これはかなりいいワインの気配がするぞ…! 

前に飲んだポマールが濃密だとしたらこちらは妖艶といった領域にまで足を踏み入れている怪しさ全開具合。勤続30年の庭師が丹精込めて作り上げたバラ園になぜか南方の食虫植物が住み着いてしまったみたいな印象の、酸と渋みで施錠された扉をこじあけるようなじゅくっとした果実の感じ。

余談だが、ブルゴーニュは2020、2021という収穫量の少ない年を乗り越えて、2022がいい年だったことから続く数年がいい年であれば価格が下げられるかもしれないとのこと。20、21の不作が価格高騰の一因なんだって。なるほどなあ。

さて、そんなこんなでシャンガルニエの4本を飲み終えた。いやほんと、村ごとの違いやコート・ド・ボーヌの魅力の一端がよくわかる、素晴らしいプレゼンテーションだった。

コート・ド・ニュイのワインと比べられるほど飲んでいないので比較はできないが、ブルゴーニュのイメージを軽やかに覆すような親しみやすさがすべてのボトルにあったように思う。これで価格も相対的に安いならコート・ド・ボーヌでいいじゃんとなる。

いやーおいしかった、さて帰ろう。みたいな満足度がすでにあるのだが、会はこれからが本番。いよいよドメーヌ・ブサンスノのショレイ・レ・ボーヌ2020とぺルナン・ヴェルジュレス1976の飲み比べという時を超えた垂直落下型テイスティングがはじまる。

 

ショレイ・レ・ボーヌ2020

まずは2020。ますたやさんが現地で購入しフランスからハンドキャリーされたため、裏ラベルはないショレイ・レ・ボーヌは「ドメーヌで購入する際、8種の選択肢からこれを選んだら、『イッツ・クール』って言われました」(ますたやさん)というワイン。私が好きな歌の歌詞に「間違った道などない。心から選んだならば(直訳)」というものがあるのだがそれだ。

ペルナン・ヴェルジュレス1976(左)とショレイ・レ・ボーヌ2020。

でもってこれが実にパワフルなワイン。もちろんピノ・ノワール100%なのだが、師範の「シラーが混ざってるんじゃない?」という感想が至言で、ピノ・ノワール的な酸味の上にシラー的な果実とスパイスが乗っかったなんともいえないコンプランタシオンみのある味わい。ペットは飼い主に似るというが、ワインは買い主に似るんじゃないかという陽性で楽しいワインだった。

ちょっと獣的なワイルドさも(まったく不快ではなく)感じて、「ドメーヌで飼っている犬のテロワールも反映しているのではないか」みたいなテキトーなことをみんなで言い合いながらダハハと笑って飲むワインが最高においしい。

裏ラベルなし。これぞドメーヌ直販の証…!

そしてますたやさんお手製の「グジェール」というチーズを混ぜ込んだシュークリームの皮的なブルゴーニュの名物だというお菓子とも合いまくる。これと合わせるとワインが一気にスムーズ&エレガントになるのなんなのみたいになる。

グジェール、初めていただいたけどおいしかったなあ。めちゃくちゃ好みのおつまみで、減量苦に耐えかねて深夜にうどんをかきこむマンモス西的勢いでガツガツいただいてしまった(不躾)。

 

ペルナン・ヴェルジュレス1976

そしていよいよ1976だ。明らかにオレンジ系の色合いへと変化していることがボトルに入った状態でもわかるが、グラスに注がれるとやはりワインと紅茶を一対一で割りましたといったような淡いオレンジ系統の色合い。

左が1976、右が2020。コルクの状態はもちろん、上から見ても色合いの違いがわかる。

そして、色のイメージからも想起される紅茶的な香りと果実的な香りが線香から立ち上る一筋の煙のように漂ってくる。

師範いわく味わいが好みが激しく分かれるワインとのことだったが、私は「好」のほうに激しく振れていた。好(ハオ)だった。なんていうか、熟成ワインならではの玄人好み感を感じず、わかりやすく「甘酸っぱくておいしいワインwith紅茶感」くらいの感じで楽しめたのだった。

わかりにくいたとえになってしまうが、若いブルゴーニュを飲んで得られる快感がグッスリ眠った朝の目覚めの気持ちよさだとすれば、このワインから得られるのはそのあとに待っている二度寝の快感。ベッドと己が溶け合うように、酸味も渋みも果実味も、ひとしく液体にぬるりと溶け込んだような味わい。油断するとすぐに目が覚めて台無しになっちゃう儚さも含めて、私は好きだった。私は二度寝が好きですワインの話だった。

沖田修一監督の映画『滝をみにいく』のなかに「40過ぎたら女はみんな同い年」といった趣旨の名言があるが、私とこのワインも生誕から40年を過ぎたいわば同い年。私は男性で、このワインに関してはもはや人類ですらないが、互いの来し方に思いを馳せられるという点でも古酒は素晴らしい。この40数年間、俺もあなた(ワイン)もなんかいろいろあったよね(雑)。

 

ヴィンテージワインとぼく

ところで、このワインをご提供くださったあきもさんいわく、「古酒にハマった! となったら、オススメはピエモンテです。70〜80年代のバルバレスコは探せば2万円しないくらいで手に入りますが『すげえ!』があります」とのこと。こんなおいしいの飲んじゃうとどうしても古酒に興味が芽生えてきちゃうのでいい情報だなあ。

ちなみにこのワイン、おそらくはリコルクされていて、リコルクの際に長期熟成に伴って目減りした分のワインを補填しているだろうとのことだった。いわばドーピング。私はおいしければそれでいいのでなんでもいいが、それもあってフレッシュさが残っていたのかもしれない。

 

ヴィンテージポートで締める

会は、「とおるの安ワイン」さんが持ってこられたヴィンテージポートを飲んで見事に締まった。しっかり甘く、しっかりハーブ的な香りがするヴィンテージポートは正しく飲むデザート。とおるさんにこの場を借りて感謝したい。こうして素晴らしい会は幕を下ろした。

クローン ヴィンテージポート2009。甘くておいしく、根津のテロワールを反映した塩大福によく合った

にしても重ね重ね、貴重なワインを提供してくださったあきもさんに感謝だし、たまたま同じドメーヌを訪ねるというますたやさんの起こした奇跡的偶然にも感謝だ。おいしかったなぁ。みなさん、なた飲みましょう!

探したら私の生まれ年のバルバレスコ2万円アンダーで普通に売ってたマジか↓

シャンガルニエ、とてもおいしかったのでみなさんぜひ↓