フレデリック・サヴァールを飲みにデゴルジュマンへ
忘れてしまいたいことやどうしようもない寂しさに包まれたので亀戸にシャンパーニュを飲みにいくことにした。向かったのは、亀戸駅の北口を出て数分、「亀戸横丁」という飲み屋コンプレックス的施設の最深部に名店・デゴルジュマン。1時間ほどでサクッと1、2杯飲むぞと着席。迎えてくれたのは店主の泡大将と、その助手・ソムリエたまごさんだ。
この日は「生産本数が少なく、すごく人気なこともあって入手困難なんです」と泡大将がいうフレデリック・サヴァールのシャンパーニュがいろいろ開くというので、どれか飲んでみようという算段である。
さて、今週はフレデリックサヴァールの各キュヴェを開ける予定です💁♂️
— 🍾デゴルジュマン🍾@泡大将 (@Champagne_deg) 2022年3月16日
年々人気が高まるサヴァール、上級キュヴェは既に入手困難!😩
あと数年後にはジャックセロスに並ぶ程の高評価、人気を集める生産者であると泡大将は確信しています🤔
サヴァールがこんなに楽しめるのデゴだけかも🥳🥂#デゴる pic.twitter.com/JLCxlHGEkm
つってもシャンパーニュ素人の私がフレデリック・サヴァールの名前を聞いたのは今が初。なのでどんな生産者なのか、まずは泡大将に聞いてみた。
フレデリック・サヴァールはどんな生産者か
「ワイン造りの考え方がジャック・セロスに似ている生産者だと思うんです。ミネラル、フィネス、エレガンスを重視していて、ブルゴーニュワイン的にシャンパーニュを造る。畑は農薬を使わず、樽発酵で、部分的に樽熟成を行っています」(泡大将)
以前泡大将に教わったところによると、シャンパーニュの味わいを決める要素はいろいろあるけど大きくふたつ。マロ発酵を行うか否か、樽を使うか否かだ。調べてみると、フレデリック・サヴァールは樽発酵を行うが、一部を除いてマロ発酵は行わないという。
マロ発酵なしで樽発酵っていうスタイルはクリュッグと同じだ。クリュッグ1回しか飲んだことないけど。あとはなんつってもジャック・セロスですね。セロス1回も飲んだことないけど。ともかくサヴァールはクリュッグ、セロス的スタイルだそうです。
フレデリック・サヴァール「ルーヴェルチュール」を飲んでみた
この日空いていた4本のボトルのなかからまず頼んだのは「ルーヴェルチュール」。“序曲”ね。これより1杯目にふさわしい名前のワインがあるだろうかない。
飲んでみるとこれが非常においしい。品種はピノ・ノワール100%で色合いはほんの少しオレンジっぽいニュアンスが入るか入らないかのゴールド。グラスからは果実の香りにシャンパーニュならではのパン的な香り……だけじゃない複雑な香りがする。
この香りはアレですよ。以前ある方に「ヒマさんはアルデヒド香が好きですよね」と言われたことがあるがそのときに嗅いでいたのと似た香り。
himawine.hatenablog.comそのときは熟成したロゼシャンパーニュ(ボランジェ グランダネロゼ02)をいただいていたのだがグランダネは樽熟成あり、マロ発酵ありというアリアリシャンパーニュ。熟成由来の香りがガツンと漂ってきたのだった。アセトアルデヒドはアルコールが酸化する過程で生成される化学物質(くわしくはこちらを読んでください)で、私は白ワインの熟成した香りはあまり得意じゃない気がするのだがシャンパーニュとなると話は別で、俄然アリとなる。樽を使うと酸化しやすくなる分この香りが出やすくなるのだと思う。
飲んでみると、樽の要素がはっきりとわかる。けれどもちろん複雑さだけではなくて果実味もしっかりあり、泡は細かく、どこか果物を噛んでるような感覚もあって大変おいしいシャンパーニュだった。
泡大将に教わった通り、マロ発酵をしているか否か、樽を使っているか否かを調べると、シャンパーニュは一気に理解しやすくなる(まったく理解できてないけど)。
ともかくフレデリック・サヴァールの「ルーヴェルチュール」、スタンダードとは思えない複雑でおいしいシャンパーニュだったのだった。
フレデリック・サヴァールと明石焼き
ここで言及しておかなければならないのが「明石焼き」だ。なんで急に明石焼きの話になるんだとなるのだが、この日のデゴルジュマンは明石焼きデー。期間限定(現在は終了)で明石焼きを食べることができたのだった。
なぜシャンパンバーで明石焼きなのか。泡大将曰く、子どものころ近所で明石焼きが売られており、たまにお土産で買ってきてもらうそれが「こんなにおいしいものがあるのか」と思うくらいおいしかったのだという。わかる。私にとってそれは焼き鳥の「かわ」です。
「それに、明石焼きとシャンパーニュのお店って意外とないんですよ。いつか明石焼きとシャンパーニュのお店をやりたいんですよね……」(泡大将)
そう、ガチなのだ。泡大将の明石焼き愛、ガチのマジ。明石焼きとシャンパーニュのお店、「意外とない」っていうかむしろ意外性ありすぎ……! と思わないでもなかったが、タコを30分ほど塩でもみ洗いして仕込み、ダシにもこだわり抜いたという本気の明石焼き、味わわぬわけにはいかぬ。
というわけで「おまかせ」でオーダーしたところ12個の明石焼きが助手のソムリエたまごさんによって焼き上げられ、目の前に並べられた。並べられたのはシンプルにタコが入った「プレーン」そして「ズワイガニ×マスカルポーネ」「生海苔×マスカルポーネ」という3つの組み合わせ。あれおかしいな「シャンパーニュを飲みに来た」というよりも「明石焼きを食べにきた」という雰囲気が出てきたぞ。
タコだけが入った塩味強めの「プレーン」も素晴らしく、旬の生海苔の風味も良かったのだが白眉はカニポーネ。これすっげえおいしかったしシャンパーニュにも狂ったように合った。シャンパン×明石焼き、可能性しかねえな…!
フレデリック・サヴァール「ビュル・ド・ロゼ」を飲んでみた
明石焼きに合わせてお願いしたのがフレデリック・サヴァールのビュル・ド・ロゼ。ビュルはフランス語で「泡」の意味のようなのでこれ「ロゼ泡」ってことですね。そのままか。
ピノ・ノワール65%、シャルドネ30%に赤ワインを5%ブレンドしたというロゼ。で、「赤ワイン由来のタンニンが絶妙に効いていて、そこにチェリーのような果実感が加わる。このロゼはおいしいですよ」(泡大将)と大将お墨付き(タコだけに。すみません)。
グラスに注いでもらうと色はやや濃いめのオレンジがかったピンク。で、これがめっちゃくちゃおいしかったんですよ。シャンパーニュに期待されるフレッシュさと果実感がありながら、赤ワイン的な飲みごたえもしっかりある。要するに泡大将のコメントそのままなんだがこりゃうまいわ。
フレデリック・サヴァール、冒頭に挙げた泡大将のツイートいわく「数年後にはジャックセロスに並ぶ程の高評価、人気を集める生産者」になる可能性を秘めているという。ご興味のある方は早めに飲んでみてはいかがか。
クリストフ・ミニョン「トロワジェム・ミレネーレ」も飲んでみた
といったところで予定の2杯を飲み終えたのだが勢いがついてしまったのでオーバーラン気味にもう1杯。頼んだのは、クリストフ・ミニョンの「トロワジェム・ミレネーレ」。お隣の方が飲んでいておいしそうだったから、というのが注文の理由だ。なんで隣の人が飲んでるワインってこんなにおいしそうに見えるんですかね。
雑調べするとムニエ50%、シャルドネ50%の一番搾り果汁だけを使い、36〜40カ月熟成させるというスペシャルキュヴェ。造り手のクリストフ・ミニョンはフェスタニーという土地に6ヘクタールの畑を持つRMだそうです。
「上級キュヴェはすべてムニエ100%という小規模ながらムニエの第一人者、という生産者なんです」
と泡大将。個人的にムニエって果実味をしっかり感じることができていいイメージがある。いただいたグラスもシャンパーニュらしさのある非常においしいシャンパーニュだった。おいしいシャンパーニュしか出てこないなこの店……。
そんなこんなでおいしいシャンパーニュを3杯いただき、明石焼きを12個平らげ、予定の時間をサクッとオーバーしつつお店をあとにしたのだった。
店を出ると外は激しい雨模様。しかし、その日のクサクサした気持ちはすっかり霧消していた。心という名の風呂場にはシャンパーニュでしか落とせない垢が時にこびりつく。そんなときに向かうべきは亀戸ですよ、みなさん。
サヴァール、いつか別キュヴェも飲んでみたい。