ハーテンバーグと「バーグ」の意味
趣味的にちょこちょこ作成を進めている「安うまシラーMAP」をさらに充実させるべく、南アフリカはハーテンバーグのシラーズ(2016)を飲んだ。
ふと思ったのだが「バーグ」多くないですか南アフリカの生産者名。ラステンバーグとかスティーンバーグとかこのハーテンバーグとか。そもそもヨハネスブルグのブルグも「バーグ」だし。
で、調べたところ「要塞都市」って意味なんだそうだ「バーグ」は。ヨハネスブルグはヨハネスさんという人にちなんで名付けられた城塞都市(諸説あり)。「バーグ」は「Burg」の英語読みで、アフリカーンス語だと「ブルフ」と読む。あれ「ブルグ」どこいった。まあいいか。
ハーテンバーグと生物学的防除
さて、ハーテンバーグはヨハネスブルグが建設された1886年よりはるか前、1692年というから五代将軍綱吉の治世に誕生したステレンボッシュの生産者。
南アフリカの生産者の公式サイトを見ると、サスティナビリティに熱心なところが多いことがわかるけどハーテンバーグもガチ。
面白かったのは、ブドウの品質を下げる「コナカイガラムシ」という害虫への対処法。かつては化学薬品を撒いて防除していたのだが、結果的に害虫の捕食者をも殺してしまうことで、かえって繁殖を許してしまっていたのだとか。
そこで、テントウムシ、寄生蜂などを「何千匹も購入して」放ち、コナカイガラムシの数をコントロールしているのだという。
それらの虫は同じ南アフリカの「BioBee社」から入手してるっていうんでBioBee社の公式サイトも訪問して紹介動画を見てみたのだがこれなかなかすごいな。虫が大量にパックされ、段ボール箱に詰められて出荷されていたりするので閲覧注意です正直。でも、書籍『新しいワインの科学』で知った生物学的防除のリアルがわかって面白い。
虫注意↓
https://www.youtube.com/watch?v=_87Ki1d-RfI&t=11s
続・ハーテンバーグと生物学的防除
申し訳ないけど生物学的防除の話がつづきます(面白いんですよほんと)。ハーテンバーグでは、敷地内に巣箱を設置してフクロウを増やしているのだそうだ。
これはネズミやヘビの駆除のため。かつてはベイトステーション(殺鼠剤を入れた箱)を設置していたけれどそれだと毒で死んだネズミをフクロウが食べることでフクロウに二次被害が生じ、フクロウの数が減ることで逆にネズミの数が増えていたのだとか。
というわけで、現在は9組の(つがいの)フクロウとミミズクを飼育。彼らは毎晩10〜20の獲物を捕らえるのだそうだ。フクロウすごい。ともかくこのような生物学的防除を取り入れることで、農薬に頼らない栽培ができているようだ。
ハーテンバーグ シラーズはどんなワインか
さらに、カバークロップの受粉を助けるために蜜蜂を飼育したり、樹中の水分量を測定したり、さらには従業員の福利厚生を分厚くして離職率を下げたりと色々工夫していて、それはセーラーマスターのカール・シュルツいわく「ワインは変化を好まない」からなのだとか。サスティナビリティがただのお題目ではなく、ワインをおいしくする/品質を保つための戦略的手法である、という感じが伝わってくる。
で、農法に関する記述は質量熱量三拍子揃ってあれど個別のワインに関する記述はほぼない(どうなってんだ)ので、いきなり輸入元のマスダの商品ページに頼ると、「ハーテンバーグ シラーズ(2016)」は新樽率30%の225Lのフレンチオークで21カ月熟成という贅沢なつくり。いざ、飲んでみよう。
ハーテンバーグ シラーズを飲んでみた
飲んでみると、あら〜、これお上品ですね。シラーズならではのスパイス香や果実味がすごくおだやか。かといって酸味や渋みが主張し過ぎることもないザ・調和。スパイスの香り! というより「以前スパイスカレー屋だった物件の香り」という感じだし、果実味! というより「果実の痕跡」という感じ。住人がいなくなって長く放置された部屋がそれでもなお前の住人の気配を残すように、主張しすぎない質の良さがある。その感じがなんとも上品だ。
ちょっと面白いのは、公式のテイスティングノートに「UMAMI」という言葉が使われている点。それも香りの評価に使われていて、「ブラックフルーツと甘いスパイスの香りが広がり、その後、香ばしさとウマミの個性が表れる」とある。うまい香りっていう表現は日本では一般的でないのが逆に面白い。
実際、すごくおだやかで「体にいいシラーズ」という印象を受ける。3000円以下のワインに関して、私の好みは一貫して「甘ずっぱいワイン」なので、好みのど真ん中からは外れるが、エレガントなシラーを探している人にはすごくいい物件だと思いました。