ルー・デュモン 仲田晃司さんはどんな人か
メゾン・ルー・デュモンの仲田晃司さんいえばブルゴーニュで活躍する日本人生産者。そのワインを私は飲んだことがなかったので、ブルゴーニュ ルージュ、いわゆるACブルゴーニュを通じてブルゴーニュの有名生産者を知ろうという試みの一環として、ルー・デュモンのブルゴーニュ ルージュ2018を飲んでみることにした。
せっかくなので、仲田晃司さんとは一体いかなる人物なのか、改めて調べてみよう。
調査で大切なのは一次情報に当たること。というわけでまずはルー・デュモンの公式サイトを訪問してみると、トップにYouTube、Cakes、Facebookのリンクバナーが貼られており、そのうちYouTubeとFacebookはリンク切れ。Cakesのリンクは生きていて、クリックすると仲田さん自身の執筆による(と思われる)「ワイン通信・ブルゴーニュの村から」と題された2012から2016年にかけて書かれていた連載が読めることがわかった。ので、読んでみた。
で、これが強烈に面白かったのだった。日本人醸造家としてブルゴーニュで活躍する仲田さんだが、学生時代初めて行ったパリの汚さに失望し「フランスには2度とくることはないだろう」と思ったこと、語学学校留学後、毎晩飲みすぎて13キロ太ったこと、フランスで会社を設立した直後に事故にあい、しかも会社を作ったあとで売るものがないことに気づいたことなど、キャリアの序盤はトホホ系エピソードばっかり。
若き仲田さんがフランスでボンジュール、メルシーの次に覚えた言葉は「アン・ドゥミ・シルヴプレ」だったそうだ。ビール一杯ください。20年前中国に旅行に行った際、私がニーハオ、シェシェの次に覚えた言葉は「ウォ・ヤオ・イーピン・ピーチュウ」だった。ビール一杯ください。親近感爆上がりである。
仲田晃司さんが造るルー・デュモン ブルゴーニュ ルージュ2018はどんなワインか
この連載が面白いのは栽培・醸造のことのみならず、できあがったワインを各国にセールスする旅行記的側面があったり、フランスに住む異邦人としてのフランス暮らしのエッセイ的側面もある点。ブルゴーニュでは古くなったワイン樽をバラして薪にして、それでBBQするそうですよなにそれうらやましすぎる。
さて、ワインについては輸入元のヌーヴェル・セレクションの公式サイトを参照した。ルー・デュモンのブルゴーニュ ルージュ2018は以下のようなワインであるようだ。
28%=ニュイ・サン・ジョルジュ村内のACブルゴーニュ
20%=メルキュレー村内のACブルゴーニュ
約2%=自社畑ものの「Bourgogne Rouge Vieilles Vignes」
約50%=AOPジュヴレ・シャンベルタン、及びACオート・コート・ド・ニュイを格下げ
というわけで約半分は村名ワインみたいな感じのぜいたくブルゴーニュ ルージュのよう。平均樹齢は30年以上。収穫量は50hl/ha。天然酵母のみで発酵し、18カ月間樽熟成(新樽率20%)。無清澄、ノンフィルターでビン詰めしているそうだ。ことのほか自然派的な造りっす。
ルー・デュモン ブルゴーニュ ルージュ2018を飲んでみた
いかなる味わいか、とグラスに注いでみると透け感強めの紫色。香りの存在感はそこまで大きくはないものの、味わいには酸味と渋みがしっかりとあり、時間が経過するとその酸味と渋みの角がいい感じにとれて、梅昆布茶的なスッパ旨感が強まると同時に、チェリー的果実味の輪郭は逆にエッジが立ってくる。
こういう言い方は極めてアレだと思うけど、過去に飲んだワインでは南アフリカの名作、キュヴェ・リカとかパーリーゲーツとかを思わせる良さ。うーんおいしいなこれ。
さらに、これは「日本人が造っているワインだ」という事前情報をガッチガチに頭に入れてから飲んでるからにほかならないのだが、どこか日本酒的なスッキリ&うまみも感じる。ブドウで造った純米吟醸みたいな。そしてそう感じて私は思った。「これは日本人醸造家のワインを日本人が飲む良さだわ」と。
神に選ばれた土地ブルゴーニュで我々と同じ魂を持つ日本人が日本国民に特有のクラフトマンシップでもってワインを造る。この情報のある/なしで味わいに変化が起こらないわけがない。そして、多くの場合それはプラスに作用する(もちろん『期待はずれ』すなわちマイナスに作用することもあるだろうけれども)。
ルー・デュモン ブルゴーニュ ルージュ2018と「情報の味」についての私見
ワインを飲む人を称して、「情報を飲んでいる」とやや揶揄するような文脈で語られることが多くあるが、私は基本的に情報はおいしいと思う。
だって、たとえばミネラルウォーターでも同じことが起こるわけじゃないスか。有名タレントが出演し、そのタレントのイメージがプロダクトのイメージと重なるような有名商品に比べ、スーパーのそっけないパッケージデザインが施されたPB商品はどこか味気なく感じたりする。南アルプスの天然水って書いてあるか、「水」って書いてあるかで味は違うと思うわけです。中に入っている液体の差分はワインのボトル間の差分よりはるかに小さいにも関わらず。
冒頭に挙げた仲田さんのCakseの連載に、こんな一文がある。
たとえば、私は母にワインをすすめるときに、いつも「これは珍しいワインだよ」とか、「これは高いワインだ」「これとても貴重なんだよ」などと言っています。
結果、仲田さんのお母さんは、「いつも飲んでいるワインでも、私のすすめたワインはいつになくおいしく感じる、と言ってくれます。 」という状態になるという。すげえ&そりゃそうだ。
おそらく海外で活躍する醸造家の方が造るワインを飲むとき、私の心中に去来するのは大谷翔平選手がホームランを打ったとき的感情亜種のようなものだ。俺の父ちゃんは三冠王だぞ的なやつ。
というわけでルー・デュモンのブルゴーニュ ルージュ2018は大変においしかったのだった。さすがに断言するけど名も知らない生産者のワインだとしてもこのワインはおいしいと感じたと思う。そして、それが情報という要素によってさらにおいしく感じられたのも間違いがない。しかも情報ってゼロ円なんですよ。お得…!
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