ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ソムリエが選んだワインを醸造家が解説! 「学べるワイン会」レポート

「学べるワイン会」やってみた

醸造家・Nagiさん、ソムリエ・沼田店長、そして私の同世代三人組で、「学べるワイン会」なるイベントを企画・実施したのでレポートしたい。

場所は田原町駅すぐの101。30名近い人数でワイン会ができて、いろいろ融通を効かせてくれる大変ありがたい場所だ。

用意したワインは10種類。それを5つのテーマに沿って2杯ずつ比較テイスティングしていくというのが会の趣旨だ。そのテーマが以下のようなものになる。

テーマ出しとワインの選定・調達が沼田店長。各テーマごとの解説がNagiさんとそれぞれの専門領域を出し合っての開催。ちなみに私・ヒマワインの専門領域は雑用だ。

というわけで、さっそく5テーマの内容をそれぞれ見ていこう。

 

【テーマ1】シャンパーニュのドザージュ違いを学ぶ

まず、乾杯を兼ねてシャンパーニュのドザージュ(糖分添加)違いを飲み比べた。

テタンジェ ブリュット レゼルヴとテタンジェ ドゥミ・セックを飲み比べたのだが、この2杯がすごいのはドザージュ以外の要素はすべて同じということ。いわば同じワインの糖分添加量だけが違うというわけだ。

ここで面白かったのは「色」。違うのは糖分添加量だけのはずだが、ドゥミ・セックのほうが明らかに色が濃い。

「糖分添加によって光の屈折率が変わっている可能性はあります。また、使っているのが白いお砂糖なのか、濃縮果汁なのかといったことも影響しているかもしれません。ドイツではゼクトアイスワインを添加したりすることもありますから」とNagiさん。いきなり勉強になる。

 

【テーマ2】ブラインドテイスティング

続いては「Nagiさんからの挑戦状」と題し、Nagiさんがドイツからハンドキャリーしてきた2種類のワインをブラインドで飲んだ。

透明な液体、りんごの蜜の部分だけを集めてお酒にしたような透明な甘やかさ、シャープな酸にブドウそのものが概念化したようなピュアな果実感。そしてペトロール香のなさ。過去何度も飲ませてもらったNagiさんが造るリースリングの特徴が両者ともに出ている気がするのだが、なにが違うのだろうか?

ヴィンテージ? 糖分量? SO2添加の有無? 畑の標高? 畑の斜度では!? とさまざまな意見が出たが、正解は土壌違い。1杯は緑色粘板岩、もう1杯は赤色粘板岩土壌のワインだった。

土壌が違うとなにが違うのかといえば、この場合赤色粘板岩土壌のほうが地温が高く、それによってブドウの成熟に差が出るのだとNagiさん。そして、結果として酸も、糖度も、エキス量も、なにもかもに変化が生じる。

「土壌が違うから味が違う」とNagiさんは決して言わない。「土壌が異なるとXXに変化が生じ、それにより〜」と、原因と結果をセットで説明してくれるのだ。

われわれはつい「ドイツの、ナーエの赤色粘板岩土壌だからこの味になるんだね」と浅い理解をしてしまいがちだがさにあらずで、実際はこの土地のこの年の栽培条件を工場内で人工的に再現できれば理論上は同じ味のものは造れる。

もちろんそれは実際には不可能だろうが、「この土地だからこの味だ」と思考停止せずに、「なんでこの味なのか?」を重ねて問うほうが健全だと私なんかは思うんすけど皆様いかがでしょうか。

2020ヴィンテージはNagiさんが前職であるプリンツザルムで醸造を担当するようになった初年度の作品。「まだ技術的に足りてない」とのことだったが、どちらも前述の通りとてもキレイでおいしいワインだった。

NagiさんとやってるYouTube。ぜひご覧ください↓

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【テーマ3】フィルターをかけるとワインはどうなる? を学ぶ

さて、テーマ3はオレンジワインのフィルターあり/なしの比較テイスティング。使われたのはイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の生産者ボルゴ・サヴァイアンの「アランサット」。品種はソーヴィニヨン・ブラン85%とピノ・グリ15%。

 

 

フィルターをかけるか、かけないかで味はどう違うのか。沼田店長は「前者は飴、後者は綿菓子」と表現していたが、フィルターをかけたほうは輪郭がはっきりしていて滑らか、ノンフィルターは少しの粉っぽさがあって味わいも複雑さがあるように感じる。

会場で挙手でアンケートをとってみると、おおよそ4:6でノンフィルターのほうが人気だった。私もどちらかというとノンフィルターのほうが好み。

Nagiさん自身が造るワインはボトリングまでに3回ほどフィルターをかけるという。その理由はすごくシンプルで、「フィルターで除去できるものはブドウ由来でない物質だけだから」とのこと。

それはなにかといえばブドウに付着した異物や雑菌などの微生物。それらを取り除くことで、ワインは安定した状態となり、劣化を防ぐことができる。

このあたりはNagiさんの専門領域。「さすがに2ミクロンのフィルターをかけると味わいまで変化してしまうのでそこまではかけませんが……」というウルトラマニアックなフィルター論に突入しかけていた。ワイン造りはミクロの世界ですなあ。

フィルター論を浴びたい方はこちら↓

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【テーマ4】ワイルドナチュラルとクリーンナチュラルを比較!

あっという間に会は進み、テーマ4はクリーンナチュラルとワイルドナチュラルの違い。

沼田店長いわく「自然派」ブームはSO2未添加で人的介入も極力減らしたワイルドナチュラルが主流の時代から。最低限のSO2添加をほどこしてネガティブな要素を排除したクリーンナチュラルが主流の時代に移行しつつあるという。

Nagiさんいわく、自然派の条件は100%健全果+SO2無添加。100%(99.9%でなく)健全果、というのは素人目にもなかなか厳しい条件なのでは? という気がする。ナチュラルワイン造りは大変だ。

グラスに注がれたワインから違和感を覚えるような香りがする場合、それはワインの中身が微生物汚染されているのかもしれない。SO2やフィルターを用いない場合、微生物からワインを守る手段は存在せず、そして自然界は微生物でいっぱいだ。

用意された2杯のワイン(ドメーヌ・デ・ザコル グリフとテスタロンガ ベイビー バンディード フォローユアドリーム)の品種はどちらもカリニャン。しかし、色味はかなり異なり、ワイルドナチュラル代表の前者は濃い紫、クリーンナチュラル代表の後者は淡いピンクパープルで、少し濁りもある。

前者はかなり特徴的な、自然派だなあ、という香りがする。この香りを良しとするかしないかはもちろん個人の好みだが、私はどちらかというとクラシックな造りのワインが好きだなと改めて感じたりしたのだった。

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【テーマ5】スクリューキャップは熟成するのか?

さて、最後のテーマは「スクリューキャップのワインは熟成するのか?」。沼田店長いわく、フランク・マサールは96年にイギリスのソムリエコンテストで優勝したソムリエで、その後スペインに渡ってワイン造りに転じたという人物。

どちらもスクリューキャップで栓がされたガルナッチャ「テッラ・アルタ エル・マゴ」の2014と2021を比較したのだが、熟成するのかしないのかという話でいうと「する」が結論だったと思う。

2014は色が紫から赤褐色っぽく変化しており、味わいも丸みを帯びてやわらかく、いい熟成とはまさにこのこと、というサクサスエイジング具合。では、空気を通さないはずのスクリューキャップでなぜこのような熟成が進むのだろうか?

Nagiさんによれば、スクリューキャップであってもヘッドスペース(液面とコルクの間、この場合液面とスクリューキャップ上部との間の空間)には酸素があり、それによって非常にゆっくり酸化は進む。

また、スクリューキャップ内部のライナーと呼ばれる部分は樹脂製であり、樹脂は空気をわずかながら透過することも影響している可能性があるとのこと。学びが深い。

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ドメーヌ・ユイの2種のワインもテイスティング

というわけで5種のテイスティングが終了したのだが、実はこの会場には北海道余市町の人気生産者、ドメーヌ・ユイの杉山哲哉さんが遊びに来てくれており、ドメーヌ・ユイの貴重なワインを2種提供していただいた。

1種はピノ・ノワールシャルドネピノ・グリを混醸したというワイン「A ルージュ 2023」、そしてもう1種がリリース予定なしという超貴重キュヴェである貴腐ピノ・ノワールを使った白ワイン「A3+2+1 ブラン・ド・ノワール2023」だ。

私はもともとドメーヌ・ユイのファン(今も春に飲むようにセラーに2本保管してある)。サプライズでこんな貴重ワインがいただけるなんて本当に嬉しい。

「A ルージュ 2023」はここまでのクリーンナチュラルの話題に沿うようなキレイな造りの混醸赤ワイン。ピノ・ノワールシャルドネがうまく調和し、ピノ・グリがアクセントとなることで滑らか。フルーツ王国・余市の材料の良さを思わせる味わいとなっていた。

「A3+2+1 ブラン・ド・ノワール2023」は、現在の日本の、というか北海道ワインのトレンドど真ん中、と言っていいような味わい。リリース予定のない幻のワインなので、この日飲めた方は私を含めて非常にラッキーだ。

杉山さんがなぜこの会に来てくれたかといえば、面識のなかったNagiさんにワインを飲ませて忌憚なき意見を述べてもらうためだったそう。すでに人気生産者でありながらこの勉強熱心さがすごいし尊敬すべきこと。ドメーヌ・ユイのワイン、これからもっともっとおいしくなっていくに違いありませんよ、みなさん。

 

学べるワイン会vol.1を終えて

というわけで、5種10本の予定が6種12本となった怒涛のテイスティング祭りからの生産者、専門家、愛好家、初心者の方、みんな入り混じっての雑談タイムまで、3時間は一瞬で過ぎた。(二次会では沼田店長セレクトのこれまた素晴らしいワインを6種いただいた)

ワイン好きならば「今目の前にあるグラスは、なぜこんな味なんだろう?」と思わない人はいないだろう。土壌か、ヴィンテージか、SO2添加量か。いったいなにが「違い」を生み出すのか?

その疑問の手がかりとなるような6種12杯を通じて、ワインという不思議な液体への理解が深まる夜となったのだった。もちろん全体像は見えない。でも、ワインというこの素晴らしい世界は、その一部の解像度が高まるだけでもより大きな魅力を感じさせてくれるものだ。

お越しいただいた皆様ありがとうございました。また次回、学べるワイン会VOL.2でお会いしましょう!

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