ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

旭洋酒はどんな生産者? 「ソレイユ 甲州」を飲みつつ調べてみた

先日参加した「ニッポンのいいお酒。甲信越ワイン」で31種類を試飲した際、価格に対して素晴らしいと感じたのが旭洋酒の「ソレイユ 甲州 2021」。

himawine.hatenablog.comさっそく1本買って帰り、どんな生産者なんだろうと調べてみたら、公式サイトから得られた情報がことのほか面白かったのでまとめてみたい。

 

旭洋酒の歴史

まず、旭洋酒という社名と山梨の生産者であることから勝手に歴史ある生産者かな? と思っていたのだが、それは半分正解半分不正解で、そこには複雑な事情がある。

公式サイトによれば「旭洋酒」は「80年の歴史ある共同醸造所」の名称。それが2001年にブドウ農家の減少と醸造家の高齢化を理由に免許と設備ごと売りに出され、「古い名を残す形」で当時「30歳そこそこ」だったという現オーナー夫妻が買い取ったのだそう。

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旭洋酒の現オーナー

オーナーは鈴木剛さんと順子さんご夫妻。剛さんは山梨大学工学部生物工学科の醗酵コースで学び、卒業後は中央葡萄酒で醸造を担当。順子さんも同じく中央葡萄酒で主に栽培を担当し、職場結婚をした“栽培・醸造家夫婦”。おふたりとも20代の頃に浅井昭吾(麻井宇介)の薫陶を受けた、いわば“ウスケボーイズ”の一人なのだそうだ(参考記事)。

旭洋酒の「ソレイユ甲州2021」、とてもおいしいワインです。

2002年の醸造所年度に買いブドウで仕込んだ甲州樽醗酵が翌年の山梨県産ワインの愛好会による人気投票で優勝するなど船出は順調だったようで、2020年には日本ワイナリーアワードで四つ星に選ばれている。それが旭洋酒だ。めちゃくちゃはしょると。

 

旭洋酒の「フィロソフィー」が面白い

さて、順子さんの学生時代のテーマはフランス文学とヨーロッパ哲学だったそうで、それだけに公式サイトはテキストがめちゃくちゃ充実している。

とくに『「よいワインとは何か」「自分らしさとは何か」この二つはセットで、私たちの日々のワインづくりにおける諸々の判断の素地として、個人の内面に横たわっている基本的な問いです。』という素敵な書き出しではじまる「philosophy」ページは圧巻だ。(順子さんが書かれているかどうかは定かではないが)

とくに、人間はひとりひとりみな異なっているため、良いワインとはなにかという問いも個人によって異なり、必然的に「よいワインとはなにか」という問いに対する答えは「ない」と冒頭の言葉を回収しつつ、「よいワインとは?」「自分らしさとは?」「持続・共生できるのは?」の3つの問いの交わる場所に「ソレイユワインの美味さ」があるとする結論部分には納得感があった。

「おいしい」は答えのない、あるいは日々アップデートされていく問いの交点にあるということだと思われ、良いワインとは自然そのままのワインだ、とかって決めつけるよりもはるかに健全に思われる。果てしのない「本当にそうだろうか?」という問いのなかに良いワインはあるのだとしたら、それは飲み手にとってすごく誠実で、かつロマンチックに響く。

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旭洋酒の栽培

栽培についても極めて詳しく書いてある。70アールの自社畑と近隣5キロ圏内の農家からのブドウでのみ醸造を行うという旭洋酒だが、農家には「適正な収量制限と腐敗果の除去の徹底、農薬の適正使用と記録提出」をお願いしているという。

「高温多湿の山梨でそのような手法をとれば、量だけでなく質(ブドウの熟度)も損なわれる可能性が大きい」という理由から、「無農薬はもとより、有機栽培やビオディナミなど、いわゆる自然農法のどれかを採用するものではありません」と宣言しているのも個人的にはすごく好印象だ。

公式サイトにはどの農家のブドウが使われているかなど、さらに細かい情報の記載あり。

目的は無農薬であることよりもおいしいワインを造ることなのだろうし、一定の収量が得られなければ農家の収入はなくなってしまう。持続・共生とはこのようなことだと思う。化学合成殺菌剤の使用も隠すことなく記載されている。

ボルドー液の生態系への影響や土壌への銅の蓄積といった問題への言及も、誰かを批判するわけではなく、「私たちはこう思う」と真っすぐに述べているから好感が持てる。マーケティング発想とは無縁の場所で書かれた文章が公式サイトに載っている、その事実が素晴らしい。

収穫期にはブドウの樹や房ごとにランク付けを行い「最もよい部分は単一品種仕込みへ、B級C級は他品種とのブレンドやロゼに回します。」と書いてあるところなど裏話が前に出てる感じで最高だ。こうすることによって、「全てが一緒くたになった場合よりもキャラの立ったワインが出来る」のだそうだ。

 

旭洋酒の醸造

醸造面についても栽培ほどの細かさではないものの、しっかりと記載されている。そのなかで、初仕込み以来一貫して気をつけていることとして挙げられているのが以下の5項目だ。

・ブドウの腐敗果、病果を出来るだけ取り除く。→亜硫酸使用量の低減、品種の表現
・収穫翌日に仕込む。→健全な醗酵
・可能なかぎりブドウの熟度にこだわる。→香味の複雑さ、品種の表現
・過剰な抽出は控える。→バランスのよいワイン、日本の食卓との調和
・醗酵の終わったワインを可能な限り品質的なロスなく瓶詰まで。
 →酸化、劣化を防ぎ亜硫酸の使用量を低減

このページこは醸造担当の剛さんが書かれているのだろうか。「栽培」の項に比べれば情報量は少ないが、当たり前のことを当たり前にやってます、という感じがストレートに伝わってくる。

 

旭洋酒「ソレイユ甲州2021」を飲んでみた

こんな話を聞くと旭洋酒のお酒を飲みたくなるのが人情だ。というわけで早速買ってきたばかりの「ソレイユ 甲州 2021」を開けてみたのだが、これが試飲で飲んだ印象をまったく裏切らない味わい。

「渋味を抑え香味豊かな果汁をえる目的で除梗破砕せずに房ごとゆっくり搾るホール・バンチ法で圧搾」したと商品説明がある通り、甲州に私がときおりというか割と頻繁に感じる苦味のようなものがなく、スッキリしているのに液体の輪郭は丸い。

滓(おり)とともにタンク貯蔵しているらしく、フレッシュでありながらふくよかさやうまみも感じる。最後これくらいまで磨けばオッケーっていうレベルの米の研ぎ汁、みたいなほんのわずかに濁った液体はノンフィルターなのだそうで、それもあって飲み口はアッサリしているのにトロリ感もある。

りんごやレモン、みかんのような味わいで、農作業の合間に湯呑みで一升瓶ワインを飲む、そんな文化がある土地で生まれたワインだからなのだろうか、疲れた体に染み渡る味わいだ。ダルい疲れが一発でとれる、夏場に入るぬるめの風呂みたいな印象をワイン全体から受ける。非日常ではなく、日常のなかの癒しの印象だ。

なんでも、上級レンジである「千野甲州」はさらにすごいワインのようだ。それも飲んでみたいし、ピノ・ノワールメルローなど、欧州系の単一品種ワインも飲んでみたい。

好きな生産者ができるのはワイン好きの喜びのひとつ。また飲みたい生産者が、またひとつ増えたのだった。

5年熟成したやつも飲んでみたい↓