ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

缶ワインの魅力と、メリットとは? おいしいとウワサの「ヘッド・ハイ ピノ・ノワール」を飲んで調べて考えた【HEAD HIGH PINOT NOIR】

缶ワインの現在とそのメリット

ツイッターでフォローしているソムリエ(ワインディレクター)の田邉公一氏(@tanabe_duvin)がオススメしていることで興味を覚えた缶ワイン。

興味はあれどなかなか試せていなかったのだが、田邉氏が「ベスト缶ワイン」のひとつとして挙げていた「ヘッドハイ ピノ・ノワール」を近所で発見。ゲッツーをとりにいく遊撃手の素早さでレジに運び、自宅に連行することととした。

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ヘッド・ハイ ピノ・ノワールを飲みました。

さて、ワインが冷えるまでの間に、缶ワインが実際にどれくらい流行っているかの肌感覚を知るために、適当にwin in cans とかで検索すると解説記事が多数ある。そのうちのひとつ、decanter.comの記事によれば、缶ワインのブームのきっかけは2003年、フランシスフォードコッポラワイナリーが「ソフィア」ブランドで缶入りスパークリングワインをリリースしたことのよう。

ソフィアといえばフランシス・フォード・コッポラの娘で親子二代で映画監督。2003年は日本が舞台の映画「ロスト・イン・トランスレーション」でアカデミー脚本賞をとって夫のスパイク・ジョーンズと離婚。離婚とアカデミー脚本賞受賞と缶ワインのブームのきっかけを作るのが一人の人物の1年間になしたこと、ってすごくないですか本稿の趣旨とは関係ないけど。

缶ワインはなぜアメリカでウケているのか?

記事に戻ると、缶ワインの利点はいくつかあり、それは、
・軽い(輸送が楽=二酸化炭素排出量が少ない)
・リサイクルが容易
・冷えるのが速い
・ガラスが禁止されている場所(プールサイド等)でも飲める
といったことのようだ。地球にやさしくてアウトドアシーンに合う。これはアメリカ人のライフスタイルの激芯喰ってる。肉に合うし。BBQと缶ワインのシンクロ率といったらエヴァンゲリオン初号機とシンジくんなんて目じゃねえぞってレベルだと思われます。

さて、米経済誌のフォーブスも缶ワインの特集を掲載しており、それによれば、現在のブームに火をつけたのがオレゴンのアンダーウッドのピノ・ノワールピノ・グリ(まさに田邉氏がオススメしていた銘柄がこれ)。これらが高く評価されたことで、缶ワインというカテゴリーの流行が始まったようだ。

その結果、2019年6月15日までの52週間、つまり1年間で缶ワインの売り上げは前年比69%増加。7900万ドルの売り上げを計上しているという。すごいな。マジでブームだな。ロゼ泡とかが人気みたいです。アメリカっぽい。

himawine.hatenablog.com

なぜ人気か。記事によれば、750ccのボトルではなく250ccの缶ワインを飲むことで、おれは赤、キミは白、お父さんは泡、お母さんはロゼ、みたいにみんなが好きなものを飲めるから、というのがひとつの理由なのだとか。ビールを飲む人もいれば、サイダーを飲む人もいる。みんな違って、みんな個人。アメリカっぽい!

缶ワインの未来は非常に明るいものの、容量の制限がある(187、250、375、500ccのいずれか)のと、187、250cc缶はパック販売しかできないのがデメリットで、法整備が急がれるといったことが結論となっている(日本にはその規制がないため、250cc缶が単体で買える。イヤッホー!)。ちなみに、缶ワインは“canned wine”もしくは“wine in a can”って言うみたい。

ワイン缶か瓶か論争と、書籍電子か紙か論争

ほかにも色々調べると、単純に消費者の嗜好の変化っていうこと以上に、地球規模の気候変動に伴う二酸化炭素排出量削減の待ったなしのタイムリミットを迎えるなか、我々人類はいかなるパッケージでワインを飲むべきか。缶である。みたいな、歴史規模のスケールの話っぽいので、もしかしたら私たちが死ぬころにワインは缶で飲むのが一般的になっている可能性は十分にありそうな気配。ただし課題は熟成とのこと。

以上の話を聞いて私が強く思い出すのは書籍の電子化。ほぼまったく同じことが言われてた。紙の書籍が瓶、電子書籍が缶ワインと置き換えると議論の中身がほぼ同じ。

電子書籍は環境にやさしく、配布が用意で、いつでもどこにでも持ち運べてどこででも読める。ただし、保存性には疑問符がつく(1000年後に残すためのフォーマットは?)。そして作家はこの新しいフォーマットに即したライティングを求められるであろうみたいな。で、電子書籍元年だ黒船来航だなんだと大騒ぎした挙句、結局普及しきらないあたりも絶妙に似てる気がする。誰がなんと言おうとおれは缶のワインなど飲まん(作らん)という人は存在し続ける気がする。誰がなんと言おうとおれは電子書籍など読まん(書かん)という人が存在し続けるのと同じように。私はなにより重要なのは多様性だと考えるよくいる感じの教養人ワナビーのうちの一人なので、多様性は大歓迎です紙の本しか読まないけど。

ヘッド・ハイ ピノ・ノワールを飲んでみた。

さて、ほぼ前置きだけで構成される、というのが本ブログの特徴だが、一応飲んだ感想といったものも添えておこう。

その前にワインを高速で紹介すると、ヘッドハイはキスラーを筆頭にソノマを代表する高級ワイナリーやら畑やらを所有するビル・プライスが、品質にこだわり年間1000-3000ケースだけ造るピノ・ノワール。ステンレスタンクで発酵後、50%フレンチ、50%ハンガリアンオークで6カ月熟成。「“缶ワイン=安物”というイメージを覆すクオリティを実現した」と輸入元の布袋ワインの商品ページにある。ブドウはソノマの複数の畑より。

で、飲んでみるとこれはギャップがすごい。缶から出てくる味じゃない。東京都新宿区歌舞伎町の蛇口をひねったらミネラルウォーターが出てきたみたいな感じがする。普通においしいピノ・ノワールの味がする。香りも味もやや薄めな気がするけど、ド濃厚なフルボディのラーメンでいう背脂こってり系的な赤ワインと缶の相性は良くないに違いない。これくらいがちょうどいい気もする。

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vivinoの点数は3.9点と高得点。だけど、価格を見ると同名の瓶のほうの評価気もする。

ちなみにグラスに移さず缶のまま飲んだ場合、やはり印象は大きく変わる。渋・酸・アルコールの三拍子が揃って強まって、アホっぽいことを言えばワイン感が強くなる。さらに、念のため小瓶に移して翌日飲んでみたところ翌日のほうが味わいの深みが増しておいしかった。缶ワインが翌日うまくてどうするんだよ、と思わないでもないけどそれだけちゃんとしたワインってことなんだと思う。ともあれ、おいしかった。次は、田邉氏推薦のうちのもう1本、アンダーウッド ピノ・グリを飲んでみたいところだ。

ワインが缶に入っていること自体は、私自身がワイン初心者ということもあってか、まったく問題を感じない。ただ、やっぱり雰囲気でないなあという方もおられると思う。1万円するワインを、瓶で飲むか缶で飲むかと問われれば、そりゃまあ瓶だろうという気もするし。

wikipediaによれば、ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』は「夫と妻、男と女、老人と若者、友人間などの現代社会多くの人間関係における相互理解の難しさ(アノミー)をテーマとしている。」そうで、缶ワインをめぐる議論にも、もしかしたらそのような難しさが今後つきまとうかもしれない。

ちなみに『ロスト・イン・トランスレーション』は舞台が東京の新宿で、主演は缶コーヒーのCMで同じみのビル・マーレイと若き日のスカーレット・ヨハンソン。面白いので、オススメです。