ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

小布施ワイナリー「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」を飲んでみた。

小布施ワイナリー「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」とDIAM30

とある仕事が終わったら飲もうと決めていた小布施ワイナリーのソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルローのキャップシールをはがしたら、DIAM30と書かれたコルクが出てきた。

DIAM社はワインとシャンパーニュのコルクをつくる会社。DIAMの社名の脇に付された数字は耐用年数を表すのだそうで、数字が大きければ大きいほど、長期間熟成可能なポテンシャルをワインが秘めている証拠になる、みたいな理解であってると思う多分。ちなみにDIAMのキャッチコピーは「ガーディアン・オブ・アロマ」。カッコ良すぎる。

さてこの日私がキャップシールを剥がしたワインは何万円もするような高級品ではない。どころか2650円税抜きだった。それでいてDIAM30である。耐用年数30年ということのはず。

私は迷った。今ならまだ引き返せるんじゃないかと。キャップシールははがしちゃったけど、そっと戻してラップかなんかでぐるぐる巻きにすればなかったことにできるんじゃないか、と。そして、数年後、あるいは2048年頃、今日の失態を笑いながら飲めばいいんじゃないかのう、わし、生きとるかのう2048年。みたいに思いもしたのだが、そこで私の持病である好奇心という病の発作が起きた。DIAM30のコルクで封印されたワイン、味わってみたすぎる!

「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」を飲んでみた

というわけで開け、ようとした。開けようとしたんですけどこれ、うん、めっちゃ硬いっすね。ワインに対する興味がなかった頃に、たまにいただきものでもらうワインを開ける用に100円ショップで買った業物ソムリエナイフではちょっと荷が重いDIAM30のこの密度。折れないように慎重に慎重を重ねて引き上げ、なんとか抜栓自体には成功(最後結局折れたけど)した瞬間に、部屋の空気が物理的に変化した。なんだかすっごくいい香りがするぞ。

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小布施ワイナリー「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」を飲みました。

日本ワインにもおいしいものはある。ただし高い。同じ値段なら世界にはほかにおいしいワインがいくらでもある。みたいなことがよく言われてると思うが少なくともこの1本には当てはまらないと思った。2000円台のワインばっか飲んでる身からしても2000円台でこんなにおいしいワインそんなにないと思う。酸味と渋みと果実味の描く図形がぴったり正三角形。そして、香りと味の印象がきれいに一致している。かつてサントリーウイスキー「オールド」には「リッチ&メロウ」と「マイルド&スムース」いう2つの商品があって私はリッチ&メロウが好きだったのだがこのワインはリッチでメロウでかつスムース。ものすごく普通にうまい。

himawine.hatenablog.com

小布施ワイナリー キャトルサンク メルローはどんなワインか

さてこのワインは、小布施ワイナリーの自社農場に隣接したサトウアキオ農園の畑「キャトルサンク」でヨーロッパ式の垣根仕立てで栽培されたメルローを使用しているというワイン。

相変わらず小布施ワイナリーのサイトにはワインの情報は皆無だが、ボトル裏には情報がてんこ盛り。一部を抜粋する。

「ドメーヌアキオ(サトウアキオ農園)は私達が尊敬する佐藤父子の子・明夫氏とその弟子、吉澤信氏が栽培しているワイン畑です。キャトルサンク(畑の名)の栽培は小布施ワイナリーと同じヨーロッパ式の垣根仕立です」

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裏ラベル。これ読むの毎回楽しみ。

このボトル裏の説明文はヴィンテージによって異なるようだ。ネット上にアップされたそれを見ると、2017にはこのような記述があったようだ。すっごく面白いことが書いてある。

「父子とは毎朝畑で会えるため葡萄の品質連携し、醸造は小布施ワイナリーが葡萄の個性を削がないよう責任をもっておこなっています。ただ面白いことに、このワインはドメイヌソガのワインとは個性が異なります。如何にヴィニュロンの思想と土壌、微気候がワインに反映するかがお解りいただける筈です。」

この文章はこうつづく。

himawine.hatenablog.com

「ドメーヌアキオは有機栽培ではありませんが、15年以上に及ぶ佐藤父子による土壌管理努力が結果を出し始め、近年秀逸な赤ワイン葡萄を産する畑の一つとなりました。 この価格帯で蔵出しするのは勿体ないため、売りたくない気持ち半分の私達です。」

売りたくない気持ち半分の私達! ならば価格を上げればいいんじゃないかと私のような俗人は考えてしまうがそれを否とするのが小布施ワイナリーの哲学なのだろう多分。プレゼントに関する格言で「あげるのが惜しいと思うものが良いプレゼント」というものがあるが、そう考えるとこのワインは広義の贈り物ととらえていい。

キャトルサンクメルローとサトウアキオ農園

さて、サトウアキオ農園が気になるので調べると、佐藤明夫さんのインタビューがたくさん出てきた。そのうちのひとつ、グルメメディア「ヒトサラ」のインタビューでは、いいブドウをつくる秘密を問われ、こう答えている。

「僕たちの仕事はほとんどが草刈りです。地面に生える雑草も微生物を途絶えさせないために農薬で除草したりせずに伸びてきた分を刈り取っていくんですよ。夏の間はたいへんですね。ブドウの葉を切り、下の雑草を刈りとり、その連続です」(hitosara.comより)

いいブドウをつくる秘密は草刈り……。地道すぎる努力の果てにこの1杯のワインがあると思うと私みたいなもんは感動すら覚えちゃう。ヒットを打つための秘密を聞かれたイチローが「たくさん練習することですね」って答えるみたいな感じがある。達人に裏技なし。

佐藤さんはシャトー・メルシャンやココ・ファーム・ワイナリーにブドウを供給し、シャトー・メルシャンからは自身の名を冠したワイン、キュヴェ・アキオもリリースされているそうな。飲んでみたすぎるよそんなもんは。

というわけで話は盛大に逸れたが、栽培家である佐藤明夫氏と醸造家である曽我彰彦氏の情熱の残り香みたいなものを感じられる気がするこのワインが私は大いに気に入ったのであった。それにしても、10年後とまではいかずとも、数年後に飲んだらどんな味だったのだろうか。残念ながらこのワインはさらなる進化のために終売ということで、買い足したいと思ってもネットでは買えない。仕方がないんだけれども、そこは残念至極である。

こうなるとシャトー・メルシャンが気になってくる。