ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

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10万円するスペインワイン「ピングス」の3000円台で買えるサードワイン「プシー」を飲んでみた【Psi】

スペイン屈指の“高いワイン”「ピングス」について

スペインワインのことを知らなすぎるので飲んでみよう、と思い立ち何本か買ってみたなかから、今回はスペインを代表する高級ワイン、ピングス……じゃなくてそのサードワイン的位置づけの「Psi(プシー)」をチョイスしてみた。プシーを記号化すると「Ψ」で、ギリシア文字の23番目の文字にして、心理学、超能力をあらわす包括的な単語/記号、だそうですよwikipediaによれば。カッコいい。

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「Psi(2016)」を飲みました。

さて、なぜこのワインを選んだかといえば、以前書籍『高いワイン』(ダイヤモンド社)でピングスが紹介されていて、1995年設立、1996年にファーストヴィンテージがパーカーポイント100点を獲得したと思ったらスペインからアメリカに向かうピングスを積んだ船が沈没、デビューヴィンテージの2割が消失したことで価格が高騰したっていう壮絶すぎるエピソードが書かれていて、それが印象に残っていたから。

でもって、生産者の定義によれば、ピングス(高くて買えない)がクリュワイン、セカンドワインのフロール・デ ・ピングス(高くて買えない)が村名ワインで、このプシーはリージョナルワイン的な位置づけ(買える!)なんだとか。少し高いけど3000円台前半で買える。いける。

ピングスとプシーとロバート・モンダヴィ

彼らの本拠地はリベラ・デル・ドゥエロ。その土地自体に、ワインメーカーのピーター・シセックはコミットしているようで、Rare Wine Coの資料にはこんな記述がある。

「彼は、この地域の古いブドウ畑には大きな可能性があるにもかかわらず、地元の農業の質が低いことを常に感じていた。歴史的に、生産者はトン単位、つまり量で支払われており、品質ではなく量で支払われていた」

ここで思い出したのは『最高のワインを目指して ロバート・モンダヴィ自伝』(早川書房)である。オーパス・ワンでおなじみのボブさんの自伝ですね。マジでまったくワインと関係ないけどロバートがなんでボブになるかって、ロバート→ロブ→ボブ、っていう三段活用みたいですね調べたら。ボブ・サップの本名はロバート・サップ。マジかっ。

himawine.hatenablog.com

というわけで話は戻ってボブの自伝の中にこんな記述がある。
「それまで栽培業者は、収穫物をトラックで運び込み、荷を降ろす前と後のトラックの重量を量っていた。(中略)そこでわたしは、もっと質の高いワインを生み出すブドウを育ててくれれば、ナパ・ヴァレーでの相場価格以上を支払おう、と栽培者たちに約束した」
これがおよそ半世紀ほど前のナパ・ヴァレーでロバート・モンダヴィがやった改革のひとつ。ピーター・シセックはそれをリベラ・デル・ドゥエロで再現したかのようだ。

収量を増やすために化学薬品を過剰使用し、「サハラ砂漠よりも微生物が生きていないブドウ畑の土壌」を技術的アドバイスにより健全化し、良いブドウは高値で買い取ることをすることで、「地域全体のブドウ畑の健全性(と、所有者の財布の中身を)高めることにもつながる」とし、その結果集まったブドウで造られたのがプシーということになる。

長崎県に明治期にフランス人宣教師が技術指導して生まれ、今に伝わる名物「ド・ロさま そうめん」なる乾麺があるけどそれ的な感じか。私は「ド ・ロさま そうめん」という名称がすげえいいなと思う者の一人ですこれもワインと1ミリリットルも関係ないけど。いやでも弥生時代の日本に起きたのってこれのさらに決定的バージョンだよねとか考えると急に歴史スケールになって楽しい。

さて、プシーは生産者の主要品種であるティント・フィノ(テンプラニーリョ)を中心に、ガルナッチャを10%前後ブレンドして造られるのだとか。発酵後、コンクリートタンク、オークの小樽、大樽で18カ月以上熟成の後リリースされるというその味わいはいかなるものか、飲んでみた。

プシー(2016)を飲んでみた

色は濃い目の紫なんだけど、やや赤みもあってうっすらと向こう側が透けて見えるくらいのほど良い具合。で、飲むと、果実味、渋み、酸味がまさしく三位一体の正三角形。「機動戦士ガンダム」におけるガイア、オルテガ、マッシュの黒い三連星の如くに一糸乱れぬフォーメーションでもっておいしさのジェットストリームアタックをしかけてくる。バランスいいなこれ。うまい。

三角形は回転すると円になり、平面上を回転する円の回転軸がなにかマジカルな作用で立ち上がると球になる。プシーの印象は(もちろん非常においしいのだが)あくまでも平面の三角形にとどまるんだけれど、フロール・デ ・ピングスやピングスはこれがより立体的になっていくのだろうか。

ワイン単体として非常においしく、さらに「その先」の存在まで感じさせる。プシーはそんなワインだった。ような気がするけどどうなんだろうなあ。個人的には、(価格も含めて考えると)ホームランとまではいかず、さりとて凡退ということもなく、技ありの進塁打、みたいな印象を受ける1本であった。

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