ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

シャンパーニュと上海蟹の会に参加したらとんでもなかった話

シャンパーニュ上海蟹の会に参加してきた

お友だちのソムリエたまごさんに誘っていただいて、シャンパンを飲みながら上海蟹を食べる「しゃんしゃん会」なるけしからん会に参加してきた。なんですかその貴族の遊びは。

参加したのはソムたまさん、ソムたまさんが週末に働く亀戸の名店・デゴルジュマン店主の泡大将ら総勢8名。会場はソムたまさんのお友だちで上海ご出身のGさんが予約してくれたという銀座7丁目の「上海料理 四季陸氏厨房」というお店。

さて、しゃんしゃん会は持ち寄り形式。ということでシャンパーニュも計8本が勢揃いしている。こんな感じだ。

ズラッと並んだこの8本、左から、
アンリオ ロゼ

テルモン レゼルヴ・ロゼ

ラミアブル グランクリュ ブリュット

フルーリー・ジル ロゼ ドゥー

トリスタン・イエスト レ・ヴィーニュ・ドゥ・トレルー ブラン・ド・ノワール

ポル・ロジェ ブリュット レゼルヴ

ピエルソン・キュヴリエ キュヴェ・ミレジム 2018

アンドレ・クルエ  ザ V6 エクスペリエンス 

うーん、壮観。中華だし蟹だしということなのかどうなのかロゼが3本と多め。私は左から3本目の「フルーリー・ジル ロゼ ドゥー」を持って行った。甘口は持ってくる人がいないかなーと思っての変化球だったが作戦成功だ。1本くらい甘いのあるといいですよね、ワイン会って。

というわけで以下、飲んだワインと食べた料理を記憶に残っている限り記録に残していこう。

 

【しゃんしゃん会1杯目】アンドレ・クルエ「ザ V6 エクスペリエンス」

まず乾杯はアンドレ・クルエの「ザ V6 エクスペリエンス」で、瓶内熟成6年を経ているからこの名称だというピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールで「V6(アイドルグループ)好きに贈ると喜ばれる」というソムたまさんの解説が妙に頭に残るキュヴェ。V6好きになにかを贈るってシチュエーションがニッチ。(いま調べたらV6は2021年に解散したそうです)

グラスも持ち込み。私はいつもの木村硝子のピッコロ15oz。赤も白も泡もビールも全部これ。

さて、それはともかくこのワイン、熟成感があって果実のボリュームがたっぷりとあって乾杯から素晴らしい1杯だった。色も濃くて泡立ちも豊かで「これからシャンパーニュを飲むぞ!」という会の開幕を告げるファンファーレのようなシャンパーニュ

生産者の「6年以上熟成させることにより香りや味わいの複雑性、フィネスが格段に増す」という信念から造られたワインだそうだが、たしかにヴィンテージ+5、6年経ったあたりから、シャンパーニュはその本領を発揮していく気がする。それを証明するような香りと味わいだった。

 

【しゃんしゃん会2杯目】ラミアブル グランクリュ ブリュット

肝臓のV6エンジンに火が灯ったところで次に登場したのはラミアブル グランクリュ ブリュット。正確なキュヴェ名が調べきれなかったのだが、デゴルジュマンは2018年とこれまた軽く熟しており、残糖8gというメモが手元に残っている。

野球選手で言うところの走攻守を兼ね備えたシャンパーニュという印象で、熟成感、果実のボリューム、シャープな酸のすべてのバランスが良い。「裏ラベルにデゴルジュマン年などが書いてある生産者にハズレなし説」を裏付けるこれも素晴らしいシャンパーニュだった。

これと合わせたのがすっぽんのスープで、これがこの日最初の最高のマリアージュ

すっぽんのスープ。あまりにもうますぎて会の後半までちびちび飲んで店員さんを困らせた一皿

すっぽんの滋味とシャンパーニュの酸と旨味が激突して、「私はいま…星を飲んでいる!」と思わず言いたくなる味わいがした(ドン・ペリニヨンのコスプレで)。

 

【しゃんしゃん会3杯目】ピエルソン・キュヴリエのキュヴェ ミレジム 2018

どんどん行こう。続いてはピエルソン・キュヴリエのキュヴェ ミレジム 2018。持ち込まれたのは泡大将。

グランクリュ村、ルーヴォアの生産者で、今年から正規輸入がはじまっています。ノンマロで、本当は2、3日置いて泡が落ち着くとおいしいです」とさすがの解説をしてくれた。

ソムたまさんのサーヴ。以前よりさらに上達されてる印象!

とはいえ飲んでみると開けたてからちゃんとおいしい。樽を思わせるバターのような雰囲気があり(調べたら樽熟成もしてるみたいだった)、ノンマロなのにコクがあるように感じた。ゆっくりと温度を上げながら料理と合わせておいしい1本。

出す順番は泡大将&ソムたまさんが決めてくれ、サーヴもプロのおふたりが担当してくれたのだが、こういうプライベートのワイン会でもプロが順番を決めてプロが注ぐと場がピシーッと締まり、ワインに10〜20%おいしさのバフが乗る。おふたりともありがとうございます。

 

【しゃんしゃん会4杯目】アンリオ ロゼ

続いてはアンリオのロゼ。これはソムたまさんに当初「置きにきた」と言われていたものの、飲んだ瞬間「やっぱ大手しか勝たん!」とその手のひらを華麗に返さしめた1本。やっぱ大手しか勝たん。

熟成感のある3本のあとで、大手のカチッとした造りのノンヴィンのロゼということで、シャンパンコースのなかのアクセントというか、コースの途中に小さな焼き菓子みたいなのが出たようなホッとする感覚がある。

アンリオのロゼは初めて飲んだが、厳格に定められた手順通りに造られた液体のなかにもぎたてさくらんぼを一粒落としたようなかわいらしさがあってとてもおいしいワイン。

ブリンブリンの芝海老と異様な量の蟹味噌が渾然一体となった名状し難い旨味の暴力

 

そしてお隣に座っていたOシェフの「エビの蟹味噌合えに入っている針生姜に合いますね」というコメントに深く納得する味でもあった。酸味と果実味の感じが、針生姜の甘みと辛味とテトリスの具合のいい組み合わせのように符号すると感じた。隣に専門家が座ってる飲み会って最高ですよね。

 

【しゃんしゃん会5杯目】テルモン レゼルヴ ロゼ

続いてはロゼ2連発でテルモンのレゼルヴ ロゼが出たのだがこれはもう私の好みのど真ん中を撃ち抜くような甘ずっぱ味。

果実味がかなりしっかりとあり、渋みもあって、スティルのロゼを発泡させたような味わい。休日の昼間に飲むのにこれよりふさわしいものってある? という味だ。

お隣に座っていたOシェフいわく「公園の鉄棒で遊んで、家に帰ったときの香り…」とおっしゃっていた。言われてみると鉄のような香りがわずかなアクセントとしてあり、「鉄棒にもテロワールが出ますよね」みたいな話で盛り上がったのだった。(すでに5、6杯飲んでいるので私はいい感じに酔っ払ってます)

アワビの脇に角煮が添えられた、旨味の棒で殴ってくる系の一皿

肝のソースで煮込んだアワビとも素晴らしい相性。っていうかここまで出てきたのが前菜→すっぽんのスープ(たっぷり)→芝海老(たっぷり)の蟹味噌炒め→アワビの煮込み(ひとり一個)なんですよ。しかもまだ上海蟹も控えている。銀座のど真ん中でこんなもん食べたら一体いくらになるんだ、となるわけだが最後のお会計で我々は驚愕することになる……!

 

【しゃんしゃん会6杯目】ポル・ロジェ ブリュット・レゼルヴ

さて、次に出たのがポル・ロジェだ。熟成感の強いシャンパーニュ、旨味・果実味の強いロゼが続いたあとで飲むポル・ロジェ、さながら適度な運動の後のポカリのごとし。私は有名どころのシャンパーニュだとポル・ロジェがかなり上位に入る好みの生産者なのだが、やっぱりうまいよ、ポル・ロジェは。となる味。

改めて調べてみるとブリュット・レゼルヴはシャルドネピノ・ノワール、ムニエの3品種を同量ブレンドし、リザーヴワインを25%使用。発酵・熟成はすべてステンレスタンクを用い、マロラクティック発酵後は瓶詰めしてセラーで4年寝かせるとある。これぞ王道。

マナガツオの蒸し物。添えられた高菜が魚ともシャンパーニュとも調和し、これも素晴らしい一皿

うーんやっぱりうまいなポル・ロジェ。そういえば私のポル・ロジェ推しはソムたまさんが働くワインバーふたみで熟成ポル・ロジェを飲ませていただいて以来。ご縁を感じますなあ。

 

【しゃんしゃん会7杯目】トリスタン・イエスト レ・ヴィーニュ・ドゥ・トレルー ブラン・ド・ノワール

さて続いてはソムたまさんお持ち込みのトリスタン・イエスト レ・ヴィーニュ・ドゥ・トレルー ブラン・ド・ノワール。いま話題のグローワー系ってやつですね。すべてのキュヴェが1000本以下の仕込みだという超小ロットの生産者。

これは日本未輸入のキュヴェなのだそうで、ブテイユの生産本数は762本。大変貴重なワインを飲ませていただけて嬉しい限り。ムニエ60%、ピノ・ノワール40%のブラン・ド・ノワールで、ベースヴィンテージは2017。アナゴのツメ的注ぎ足し方式ことソレラシステムのワインを30%使い、デゴルジュマンは2022年7月、残糖は1.66g/L。

で、これはお噂に違わぬ見事なおいしさ。果実つよつよ、酸つよつよ、旨味たっぷりで見事な味。小規模生産者の特徴は異様なまでの材料の良さを感じられるところな気がするけれどもこれも本当にいいブドウを使ってるんだろうなあと思わせる良質な液体。かなり好みで、ぜひほかのキュヴェも飲んでみたいと思わされたのだった。

ようこそ日本へ! と歓迎の旗を振りたくなる上海蟹の勇姿。

このタイミングでメインの上海蟹も登場している。上海出身のGさんに食べ方を教えてもらい、「上海では市場で買ってきて家で蒸して、ひとり何杯も食べるんですよ」なんて話を聞きながら食べる上海蟹とトリスタン・イエストは至高。

昨今はループもののドラマや映画が流行りだが、もし仮に同じ1日を延々と繰り返すならば昼食は上海蟹シャンパーニュで決まりだ。

 

【しゃんしゃん会8杯目】フルーリー・ジル ロゼ ドゥー

気づけばすでに7本のシャンパーニュがほぼ空になっている。最後の1本は私持ち込みのフルーリー・ジル ロゼ ドゥーだ。盟友であるワインマーケット・パーティ沼田店長が以前オススメしていた銘柄で、ドゥーは残糖50g/L以上が基準の甘口だ。

ただ、テイスティングしてくれた泡大将が「あれっ?」と首をかしげ、飲んでみると私も「あれっ?」となった。あれ、あんまり甘くなくない? ドゥーはシャンパーニュの基準のなかでもっとも甘いという認識があるので、てっきりもっとシロップみたいに甘いのかなと思いきや、なんでしょうか。清涼飲料水基準でいえば「自然な甘み」くらいの甘さ。

じゃあ味がイマイチなのかといえばそんなことは全然なく、むしろ適度な甘みが甘いはジャスティと思わせるちょうど良さ。ロゼの甘口シャンパーニュがおいしくないわけないのでほぼチートという味わいだ。

そして、左隣にお座りのSさんがおっしゃっていたようにシメの上海蟹味噌麺とかいう今年の麺オブザイヤーを脈絡なく更新してきたモンスター麺と異様に合ったのは嬉しい誤算だった。

麺オブザイヤー2023受賞麺がこちら。どうかしてる量の蟹味噌を見ていただきたい。

なんだったんだろうあの合い具合。シャンパーニュの白亜の土壌に眠る太古の海の記憶が、海水から汽水域で生まれ淡水で育つという上海蟹のプロフィールとマッチするんだろうか。上海蟹シャンパーニュがともに持つ、あるかなきかの磯っぽさ(磯フラボン)がマッチするんだろうか。ともかくおいしかった。

 

しゃんしゃん会を終えて

というわけで以上8本のシャンパーニュが文字通り泡と消えた。そして、この原稿を書き終えた今気がついたのだがこの日は最初から最後までシャンパーニュしか飲んでいないのに完璧な満足度。すごいなシャンパーニュ。旨味のむっちゃくちゃ強い上海料理にときに寄り添い、ときに高めあい、ときに拮抗していた。

お料理のメニュー。おいしくない皿がなかった。

ただ、すべてのシャンパーニュが素晴らしかったのだが、それでもなおこの日は49:51で料理が主役だったという印象だ。エビ食べてスッポン食べてアワビ食べて上海蟹食べて、その他もろもろラストエンペラー御膳みたいな美味佳肴を食べ尽くして実は乾杯前にビールも飲んでたんですけどそれも含めてお会計はなんと1万5000円ポッキリだっていうんですよ奥様…! え、安くない? ここ銀座だよ?

気がつくと店内から聞こえてくるのは中国語ばかり。どうやら上海出身の食通が集う知る人ぞ知るといったお店だったようだ。「上海料理 四季陸氏厨房」、そこは地下鉄で行ける上海。

いやはや大満足。メンバーも素晴らしく、最高に楽しい会だった。お誘いいただいたソムたまさん、お店を予約してくれたGさんに大きな感謝。そして同席していただいたみなさん、また飲みましょう!

シャンパーニュしか勝たんの念を新たにする会でした↓

ドゥー、気に入ったのでほかのも試したい↓