ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

「ワイン会」ってなにやるの? 人生初のワイン会に参加したらすごい世界が見えてしまった。

人生初のワイン会に参加することになった

ワインにハマって約2年、ブログをはじめて8カ月。2020年12月9日に人生初の「ワイン会」にお誘いいただいた。声をかけてくれたのは私がブログをはじめるきっかけともなったブログ「安ワイン道場」を運営されている安ワイン道場師範。

醸造家のお話をゆる~く聞きながら安シュペートブルグンダーを味わう会」

という趣旨の会で、ドイツで栽培家/醸造家としてご活躍されているNagiさんをお招きし、Nagiさんがドイツから持ち込んでくれたシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)を飲みながら醸造についてあれこれ聞く、という豪華な集まり。参加者はワインブログ会の有名人であるKOZEさん、徒然わいんさん、そしてTwitterでいつもお見かけしているMAMIさんにTZKさん。お店はこれまた初訪問の有名店、亀戸のシャンパンバー・デゴルジュマンである。

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この日飲んだワインの皆様。

たとえるならば高校球児がいきなりホークス柳田、タイガース糸井、バファローズ吉田の合同自主トレに参加するみたいなもんですよこんなもんは。初ワイン会のハードルが棒高飛び。しかし、私の数少ない長所のひとつは厚かましいところ(短所)なので、誘われた瞬間にアメリカ横断ウルトラクイズの早押し問題かよってレベルで参加を表明した。シルクハットをかぶった男が目の前のボタンを押し、帽子の後方から「参加」という札がピコンと出てくるみたいな絵面を想像いただければ、そのときの私の気分がご理解いただけるかもしれない。

さて、ともかく参加し、大変楽しく有意義な夜を過ごしたのだが私は弱小とはいえワインブロガー。会に参加したならば、それについて書かねばならぬ。きっと会の時系列は諸先輩方がまとめてくれるだろう。というわけで、私のブログではこの日の主賓であったNagiさんのお話にフォーカスをあててまとめてみようと思う。Nagiさんのお話は私のような素人にも非常にわかりやすく、かつ深く、極めて合理的で、ワイン愛好家の多くが「こういう話が聞きたかった!」と思うに違いない内容であったからだ。

また、記事内のNagiさんの発言は聞いたままを書くようにしているが、間違いがあればそれは私の聞き間違い、あるいは理解力不足による事実誤認の可能性が高い。

上手く書けるかな。「上手く書けるかな」なんて思ったの久しぶりだな。たまらんな。さっそくいってみよう!

ワイン会がはじまった

さて、個人的に、今回の「醸造家のお話をゆる~く聞きながら安シュペートブルグンダーを味わう会」での最大の収穫は「安くておいしいワインがなぜこの世にはあるのか?」という答えの一端が得られたことだった。

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ドメーヌ・タカヒコ ナナツモリ ピノ・ノワール2014。霧の深い花畑をイメージさせる玄妙な味。

会は冒頭、徒然わいんさんが「日本のシュペートブルグンダー」としてご持参くださったドメーヌ・タカヒコとボーペイサージュのピノ・ノワールを飲むというありえない超貴重体験からスタートしたのだが、その次に師範が持ち込まれたのがカルディで990円というドイツの安ピノ・ノワール「クラウス・カイザー ピノノワール ナーエ」。

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ボーペイサージュ ツガネ ピノ・ノワール2011。水墨画のような枯れた世界に咲く花の印象。大変おいしかったです。徒然わいんさん、大変貴重なボトルを味わわせていただき、ありがとうございました!

これはちょっとドメーヌ・タカヒコ、ボーペイサージュときたあとだけに出る順番がキツいというか、前者ふたつのワインを飲んで、水墨画の白と灰色と黒の世界に枯れたルビー色が加わったような枯淡、玄妙、みたいな世界を感じていたのだが、そこに急に陽気なドイツ人が来た印象だった。

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前菜のイチゴとブラッターチーズ。これはいかにもシャンパーニュに合いそう。

これには思わず持ち込まれた師範自ら「比べちゃうとだめだな!」と白旗状態、だったのだが、おそらく会のメンバーのなかでこのワインを(ある意味)もっとも評価したのがNagiさんだった。

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クラウス・カイザー ピノ・ノワール ナーエ。ドイツワインピノ・ノワールを名乗る場合、輸出向けのことが多いそうです。

「日本で990円ということは、おそらく現地で販売とするとしたら2、3ユーロ。現地で7ユーロで売られているワインで、これよりできが悪いものはいくらでもあります」

ゆえに、このクオリティのものが1000円を切る価格で買えるなら「はっきり言って、悪くない」となるのだとか。そして、このワインの安くておいしい秘密はというと「熱抽出」だろうとNagiさんは分析。熱抽出ってなんスか?

「マセレーション時に60度くらいまで液温を上げると、タンニンを数時間で抽出できて、低コストにできるんです。ワインの香りは発酵時に発生するので、この時点では香りが飛ぶこともないんです」

Nagiさんいわく、60度と高い温度でマセレーションを行う、つまり醸造上の工夫でコストを削減していることが飲んでみてわかるのだという。すげえ。

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ミルクフェドビーフ(乳飲み仔牛)のタンと鴨を低温調理した一皿。バルサミコのソースがよく合ってた。

「ただ、熱抽出には経費がかかります。設備投資が必要なんです。だから大手じゃないとできない」

面白い。設備投資し、コストを下げたから価格を安くできる。だから、7ユーロに勝つ2ユーロが作れるのだ。ミステリの解決パートを読むときみたいな興奮だ。このように、コストに注目したワイン談議はNagiさん自身がドイツから持ち帰り、この日持ち込んでいただいた3本のワインにもつながっていく。

10ユーロ前後の3本のシュペートブルグンダー

「今日持ってきたのは全部現地で10ユーロ前後で買えるシュペートブルグンダーですが、3本ともに安い理由が違うんです。そして、産地も異なります。まずはラインガウの産地、アスマンスハウゼンのワイン。これはおじいちゃんが趣味でやってる系の個人ワイナリーで、設備の更新頻度が低いから安い。次はラインヘッセンのワインですが、225リットル入りのバリックを使わずに大樽を使うことで、安く造っています。最後はバーゼルのワインですが、ここはバリックにこだわっているけれど、古樽だけを使ってコストを抑えているんです」

10ユーロのドイツのシュペートブルグンダーが3本あって、その3本がなぜ10ユーロかなんて、考えたこともなかった。しかし、価格が「10ユーロ」であることにはその理由があり、しかもその理由は造り手によって違うのだ。そしてその違いが、また味の違いにも直結してくる。脳から変な汁が出てきたぞ。面白すぎて。

趣味で造ってる系おじいちゃんワインの実力

そして、3本のシュペートブルグンダーのうち最初に飲んだアスマンスハウゼンのワインは、一口飲んだ師範が「これが現地10ユーロはうらやましい!」とつぶやいたように、非常においしいワインだった。かわいらしくて、はつらつとして、酸と果実味があって、全体にやや薄め。こういうの好きっす。

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ドイツのシュペートブルグンダーその1。アスマンスハウゼンの「おじいちゃんが趣味で造ってる系ワイン」薄くてすっぱおいしい系。好き。

「このワインは村名ワインレベル。ほかのはエリア名のワインなんです。おじいちゃんの趣味ワインならではの安さですね(笑)。ほかの2本は製品セグメントがあるから、上級レンジの残りのブドウを使っているんですが、じいちゃんのワインはセグメントがないんです」

これもさらっとすごくいい話だと思った。上級レンジがある場合、エントリーレンジに使うブドウは「上級レンジに使わなかったブドウ」になる。しかし、上級レンジがなければ、それが起こらない。なるほど〜。じいちゃん、日本に移住して! 畑ごと!

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いのししのハンバーグって食べたことありますか? 私は昨日食べたことがある側の人間になりました。肉々しさがワインと合わないわけがない。

と、この「じいちゃんの趣味ワイン」がすっかり気に入ったのだが、Nagiさんいわく、あくまでも「10ユーロだから許せる」味だという。産地の特徴ではあるものの、全体にストラクチャーが軽く、味が薄いという。

ワインにおけるストラクチャーとはなにか

ここで、「ストラクチャーってなんですか?」と素人丸出しの質問をぶつけてみたところ、「一言でいえばバランスです」という答えが返ってきた。

「ただ、バランスは二次元のシーソーですが、ストラクチャーは三次元。立体であり、奥行きやふくらみもある。XYZ軸に加えて弾力性も加わります。ドイツ出身の連中は、酸がストラクチャーの中心にある。カリフォルニアは酸が少ない、砂糖が焦げたようなストラクチャーを重視します。日本のワインラバーは、ブルゴーニュで育っている人が多いから、酸のストラクチャーを好む人が多いですね」

ストラクチャーという言葉には、構造+手触り(テクスチャ)の要素も含み、さらには好みとか人格的な意味合いでの骨格・背骨、みたいな意味合いもあるようだ。この話はテロワールや土壌、日本におけるワイン造りの話にまでつながっていくのだが割愛。いい話だったなぁ……。

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1300リットルの大樽を使うラインヘッセンのシュペートブルグンダー。樽の影響がない分果実味がフレッシュ! バランスタイプ。

さて、続いて飲んだラインヘッセンのワインは、1300リットルの大樽を使っているので樽の要素はほぼなく、果実味が豊か。「ピノはイチゴっぽさがなきゃダメ。ピチピチギャル感がないと!」と師範。至言だなぁ。

いずれにせよ、Nagiさんが持ち込まれたワインは、デゴルジュマンの泡大将の手により産地の気候が冷涼→温暖な順にグラスに注がれ、その産地の気候の違いによるストラクチャーの違いは私のようなど素人でもしっかりと感じることができた。10代のアイドルがピチピチギャルになり、妖艶な美女へと変貌していくといった感じだろうか。おじいちゃん、趣味で10代のアイドル作ってるのかよ(10代のアイドルは作ってない)!

樽と価格について

最後に飲んだのはバリックを使っているというバーデンのワインだったが、たしかに樽の効いている感じがした。この樽についても非常に面白い裏話があるが、これわりと裏話感が強かったので、この場に居合わせた幸運な人間だけのヒミツとするのが無難な気がする。

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今回Nagiさんが持ち込まれた3本のうちもっとも暖かい地域だというバーデンのワイン。色が濃くて味もしっかり。

ひとつだけ、「もしバリックを使った場合、価格は2ユーロ違いますし、そうなると日本に入ってくるときには1000円違います」という一言は面白かった。価格が2ユーロ上がることを承知でバリックを使うか、否か。造り手だとしたら悩むだろうなあ。

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ポルチーニと鴨のパスタ。鴨の油の旨味とポルチーニの香りの旨味が完全なる掛け算で今年ベストパスタ。使ってるポルチーニの量が完全にエリンギ。

樽を使ってるか、使っていないか、樽のロースト加減はどうか、果実は早めに摘んだのか、遅らせたのか、果実の状態はどうだったか、どのような醸造上の工夫をしているのか。そういった味の組み合わせや、方程式のようなものが脳内に蓄積されているからだろう、KOZEさんがひそかに持ち込まれた(ありがとうございます!)南アフリカからの刺客「ポール・クルーヴァー エステーピノ・ノワール2018」を飲まれた際も「うーん、イチゴっぽいよな、植物のくきっぽいような、はたまたブドウっぽいような味だなあ」みたいな偏差値29くらいの感想を私が思っている間にサクッと「冷涼、早摘み、ロースト弱めかな」と分析が出てくる。醸造家おそるべしである。ちなみに、同ワインを飲んだ師範の「ピノ・ノワールは全部イチゴだな。南アフリカはイチゴに樽。」という発言の説得力もすごかった。師範、ブレがまったくない。

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終盤完全に酔っ払っていてお礼を言い忘れてた! KOZEさんご提供のポール・クルーバー エステート  ピノ・ノワール2018。大変おいしかったです!

ドイツで醸造学を修め、現地の第一線で醸造家として働くNagiさんもすごいが、ブログ歴23年、安ワインを飲み続けて、情報を発信し続ける師範もやはりすごい。私の隣から的確な質問をビシバシ投げかけるKOZEさんのおかげで私は淡々とメモをとることができた。すごいなこの会。

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デザートのチョコレートも自家製!オクシタニアルのマカロンと。料理もすべておいしかった。

会の雰囲気に圧倒されたまま終わってしまった楽しい時間だったが、同じドイツのシュペートブルグンダー、そして10ユーロ前後の同じような価格帯でも、産地と醸造のやり方によって全然違うんだな〜ということがよくわかったのだった。端的に言って、もっとワインが好きになる夜だった。末筆になるが、Nagiさんは終始にこやかで、どんな質問にも真摯に答えてくれるジェントルマンだった。いい男やで。そして22時の定刻に閉会を宣言し、サッと席を立つ師範の飲み方のキレイさも本当に素敵だと感じました。押忍!

Nagiさんは、栽培においては樹勢をコントロールして完熟果を得ること。醸造においては、品種の特徴を出すこと。それを安定して、毎年繰り返すこと。その3点を非常に重視されていると話の中で感じた。そして会の最後のほうに、ちらっと「もしも日本に帰ってきたら、ピノ・ノワールを造りたいんです。日本で求められるのは『ワインを造る人』なのはわかるのですが、私は『品種』をつくりたいんです」と語った言葉が印象的だった。

この人の造ったワインが飲んでみたいものだ、別れの挨拶を交わしながら月並みにそんなことを思ったものである。そしてこの日ともにワインを飲んだみなさんとも、ぜひまたお会いしたいと思っています。ありがとうございました!

ポール・クルーバーやっぱりおいしかった。

ドイツのシュペートブルグンダーこれからも飲もう。