東京ワイナリーでボランティアしてきた
東京都練馬区にあるワイナリー「東京ワイナリー」が選果ボランティアを募集しているという投稿をFacebookで見つけたので夏休みにして行くことにした。コロナ禍で予定がなくなったりなんだりで、生産者のお手伝いをするのはこれが初めてだ。
東京ワイナリーは西武池袋線大泉学園駅から徒歩10分ほどの場所にある小さなワイナリー。指定された時間の5分ほど前にそこに到着すると、建物の前にトラックが横付けされ、まさにブドウの荷下ろしの真っ最中。
この日届いたのは東京都青梅市産の「ロメオ」というドイツ系の品種で、「予定していたのの2倍くらい」だという700キロほどのブドウの中から健全果のみをよりわけるのがミッションだ。できるのかなそれ私に。どれが健全果を見分ける目、我になし。ともあれなにごとも挑戦だ。ご迷惑だけはおかけするまいと決意を固めて醸造所内に突撃である。
醸造所の入り口で頭になんていうんですかねアレ。不織布ネットみたいなやつをかぶり、ゴムエプロンを履き、ゴム長靴を履いたら準備完了。
話には聞いていたが、東京ワイナリーの施設は小さい。もとは新聞の集配所だったというけど、どれくらいなんだろう敷地面積。都内在勤のサラリーマンが一生懸命お金貯めて大泉学園に買った待望のマイホーム、それくらいの規模感だ。そのスペースにカフェ兼即売所があり、バックオフィスがあり、醸造所がある。
東京ワイナリーと選果作業
この日集まったボランティアは6〜7名だろうか。私は男性のなかでは年齢が若めだったこともあり、満員状態の醸造所内での作業は遠慮し、より大変そうな屋外での作業を志願した(めっちゃ暑かった)。
手本を見せてくれたワインメーカーの越後屋美和さんいわく「見た目に色が薄いものとか、実が破けてるやつなんかは除いちゃってくださいね〜。ブドウは食べてもいいですよ!」とのこと。レクチャーは以上だ。戦い方を戦いながら覚えるタイプの戦場ってことですね、ここは。ともかく、もう一人のボランティアの方とブドウの箱を挟んで座り、作業開始だ。
ご一緒した方は作業に習熟しており、わからないことはその方に聞けばわかる。ルーキーとベテランを組み合わせることで、ユニットとして機能するようになっているようだ。ボランティアのクオリティを瞬時に見極める編成力すごい。
そして、面白いものでやっているうちになにが健全果か、自分で考えるようにもなる。割れている果実は除外。傷んだ果実はもちろん除外。色が明らかに薄いものも除外。色がやや薄い……くらいの微妙な果実は「これがワインになったときにおいしいかどうか」みたいなことを自然に考えるようになるのだ。お前が考えたところでわかるわけないだろというツッコミは甘んじて受けます。
ともかくボランティアとして自分が関わったことでワインのクオリティが下がるという事態だけは回避しなくてはならないから真剣だ。最終的には自分では判断を行わず、一緒に作業した方のブドウの選別基準を凝視、それを模倣するというチェイサー作戦でいくことにした。冒険と無難があれば迷わず無難な道を歩いてきたのが私の人生である。
東京ワイナリーで青梅産「ロメオ」をワインにする理由
さて、楽しくワイン談義しつつ作業を進めていると気がつけば2時間が経過している。休憩時間に越後屋さんが抜栓してくれたのは、この日選果を行った青梅産ロメオのワイン。
「国内ではほとんど出回っていない」というロメオのワインを飲むのはもちろんはじめてだが、紅茶のアールグレイみたいな甘やかスパイシーな香りがし、甘酸っぱくておいしい。素手での作業なので手にはロメオの果汁やらがついた状態。その状態で飲むロメオのワインは格別だ。
では、なぜロメオなのか。
青梅市の公式サイトによれば、青梅市が姉妹都市のドイツのボッパルト市から1979年に有効の証としてロメオの木が贈られたのだそうだ。それを東京ワイナリーが委託醸造し、「ボッパルトの雫」というワインにしている。越後屋さんご本人に聞き逃したので定かではないのだが、その一部を東京ワイナリーのラベルを貼っているというかたちだろうか。
ふたたび青梅市のサイトによれば、ロメオの収量は2017年以降270キロ、421キロ、328キロ、253キロと、おおむね250〜400キロ前後のようだが、今年はなんだか700キロもとれてしまったようだ。
越後屋さん自身、最初はロメオがどんな品種かを知らず、手探りでの醸造だったと教えてくれた。年を追うごとに品種の特徴が理解でき、少しずつ醸造のやり方を変えながら、また農家にはどんな果実が希望かを率直に伝えるなどして品質の向上を図っているという。
造り手の話を聞きながら、さっきまで選果していたブドウからできたワインを飲むのは極めて贅沢な体験で、参加して良かった感がすごい。疲れた体にロメオが沁みる。
東京ワイナリーでのボランティアを終えて
さて、休憩が終われば再び作業だ。休憩時間中にワインを飲み、越後屋さんのお話をうかがったことでブドウを見る解像度がやや向上、作業効率もやや上昇したような気分だ。
ブドウは箱単位で選果するのだが、箱単位で質にバラつきがあるように感じられる。なんとなく、この箱に入った房が実ったブドウの木は日当たりが良い場所にあったのかなとか、ここは風通しが悪い区画だったのかなとかが(ただの妄想に過ぎないが)想像できるようになってくる。
試しに一粒口に入れてみると、おお、おいしい。なんだかサクランボのようなかわいい味がする。それでいて、種を噛み締めるとガッツリ渋い。これがタンニンの元になるんだなあ。これが破砕され、発酵、熟成を経てワインになる。ナチュラルなつくりなので、原材料はほとんど今私が選果したブドウ、ただそれだけのはずだ。ワインってすごい。すさまじい。
後ろの予定があったのだが、あと一箱だけ……とやめ時が難しい。願わくば最後まで作業を完遂したかったが17時半にタイムアップ。3時間強の作業を終了した。
越後屋さんによれば、ワイナリーの作業が最盛期を迎えるのは9月〜10月頃のこと。なのだが、越後屋さん自身の9月のスケジュール帳は真っ白なのだそうだ。なぜなら天候などによって収穫日はあらかじめ決定することができないから。「スケジュール帳は真っ白なんですけど、9月はめっちゃ忙しいんですよ、私(笑)」という言葉がなんだかとても印象的だった。しかも運ばれてくるブドウの醸造作業だけでなく、東京ワイナリーでは自社畑での作業もあるのだ。(豪雨の影響で大変だそうだ)
お忙しい中お願いして売ってもらった量り売りワイン(余市産ツヴァイ ロゼ)をぶら下げて駅までの道を歩きながら、一人知らない街に降り立って初めての場所に行き、初めて会う方と初めての作業をするのは一体いつぶりだろうかと私は考えた。学生の頃の短期バイトとか、こんな感じだったよな。
そしてほんの数時間のわずかな時間に過ぎないが、実際にワインになるブドウに触れたことで、ますますワインが好きになった気がする。また必ずお手伝いに行こう。
ただ、ひとつだけ納得がいかなかったことがある。屋外での作業を終えて無性に飲みたくなったのがワインではなく生ビールだったことだ。そこはワインでしょ、自分!
東京ワイナリーのワイン、とてもおいしいのでぜひ飲んでみてください!
東京ワイナリーのボランティア情報は、ワイナリーのFacebookページをチェックするのが良さそう。興味のある方は「いいね!」してみてください。