ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ドメーヌ・イチ「蝦夷泡 2020 白」。生産者・上田一郎さんに聞くナチュールの魅力と苦労【Domaine ICHI】

ドメーヌ・イチ「蝦夷泡 2020 白」を買って感動のあまりメールを送ってしまった

ドメーヌ・イチの「蝦夷泡 白 2020」を飲んだ。ドメーヌ・イチは北海道余市郡仁木町の生産者。そしてこのワインは余市町のナイアガラ100%を使ったペティアン。そして私の押し自治体は余市余市を推すに至ったきっかけは余市町にあるドメーヌ・モンのペティアン「モンペ」を飲んだのがきっかけ。

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というわけで飲まない理由がないとなって飲んだのだがこれが衝撃的においしかったのだった。

思えば初めて「モンペ」を飲んで以来、北海道の生食用ブドウを使ったスパークリングワインを見かけると購入して飲んできた。そのどれもがおいしくて素晴らしいワインばかりだったのだが、飲んだ瞬間にこのワインについてもっと知りたい! と生産者の方にメールで質問状を送りつけるという奇行に走ってしまったのはこのワインがはじめてだ。

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ドメーヌ・イチ「蝦夷泡 2020 白」を飲みました。

不躾かつ一方的なお願いをしてしまった……と正気に返って反省して過ごすこと数日、なんと極めて丁寧なご返信をドメーヌ・イチの上田一郎さんから頂戴した。その内容は非常に興味深く、かつ上田さんのお人柄が伝わる内容であった。以下に、メールに対する返信としていただいた内容をインタビュー風に再録したい。

 

ドメーヌ・イチ「蝦夷泡 2020 白」上田一郎さんインタビュー

ヒマワイン(以下、ヒマ):「蝦夷泡  白 2020」を大変おいしくいただきました。このワインは野生酵母使用、無濾過、無清澄、SO2無添加でつくられているとのことですが、そのようにつくる良さはどのような点でしょうか?

上田一郎さん(以下、上田):弊社の歴史になってしまいますが、以前は有機栽培ブドウを使って乾燥酵母使用、濾過、清澄、SO2使用でした。原料のブドウが有機栽培であるのに、醸造段階でテクニカルはありえない、と思い数年、ようやく有機栽培原料+ナチュール製法に切り替えが出来ました。

ヒマ:そうだったんですね! そのようにすることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

上田:一番大きな点は醗酵に携わる酵母にあると思います。テクニカルに乾燥酵母を使えばある程度コントロールはできますが、理論以上のものはできません。スターター酵母を入れて醗酵させて、発酵管理して、キラー酵母で醗酵を終わらせる、が流れです。
半面ナチュールはブドウに付着した自然酵母で醗酵させるため、非常に時間がかかる場合もあります(数カ月)。基本的にワインも生き物であり多くの微生物の力で動いているので、人為的にコントロールすべきではないと思っております。

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ヒマ:では、逆にどのようなご苦労がありましたか?

上田:一番の苦労は醸造ではなく栽培の方でした。私は当初から自然栽培(無施肥・無農薬)を目指していたため、ワイン葡萄定植2年目に無農薬を行いました。結果、ベト病にかかり葉っぱが一枚も無くなり全滅しました。以後、ベト病対策で有機JASでも認められているボルドー液だけは使っています。

ヒマ:おお……そんなことがあったのですね。私は余市・仁木エリアのワインが大好きなのですが、この土地の良さというのはどのような点でしょう? 気候か、土壌か、あるいは生産者が多く集う土地のネットワークのようなものか……。

上田:まず第一はテロワール(気候+土壌)です。また、生産者(醸造家)も一部を除き、ドメーヌ・タカヒコさんを中心に動いております。

ヒマ蝦夷泡・白はナイアガラで造られたワインだと思いますが、やはり土地に合っているのでしょうか。そもそもナイアガラとはどんな品種なのでしょう?

上田:ナイアガラはニューヨークで交配された品種で、ニューヨークに近い北海道の気候に大変合っている品種です。従来のナイアガラワインといえば、甘口のお土産ワインしかありませんでしたが、ここ数年で多くの方がナイアガラの魅力を再考し、良いワインを造っています。 

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ヒマ:まさに、その通りだと感じました。最後の質問ですが、ラベルには特徴的な「龍体文字」が使われています。あれはなんと書いてあるのでしょうか? また、どうして「蝦夷泡」と名付けられたのでしょうか?

上田:エチケット作成の際に何パターンかの候補者の方がいましたが、こちらの龍体文字を描かれた福岡の書道家の先生の作品に一目ぼれで決めました。龍体文字で「えそあわ」と描いてあります。龍体文字は濁音がないため「えそあわ」です。

江戸=東京、蝦夷=北海道です。北海道の代表的ブドウのナイアガラを使ったペットナットで、北海道を代表するペットナットとなって欲しく「蝦夷泡」と命名しました。

ヒマ:うーんなるほど、品種について、醸造について、名前やエチケットの由来について伺って、ますますこのワインが好きになりました! ありがとうございます!

このように、私のような一面識もない無名ブロガーの一方的な質問にも真摯にかつ丁寧に回答してくれる、そんな方の造ったワインがおいしくないはずがないですよこの時点で。この場を借りて上田さんに改めて感謝申し上げる次第だ。お忙しい中、ありがとうございました。

 

ドメーヌ・イチはどんな生産者か

さて、ドメーヌ・イチは北海道余市郡仁木町のベリーベリーファーム&ワイナリーの新設ワイナリー。もともと2011年に日本で初めてオーガニック認証を取得したというワイナリーで、2020年から新たなワイナリーで醸造を始める際、新旧2カ所のワイナリーで同一の屋号を使うことができないという理由から、新ワイナリーにドメーヌ・イチという名称がつけられたのだそうだ。

インターネット上でPDF版を閲覧することができる小冊子「余市・仁木 ワインツーリズムプロジェクト スペシャルガイドブック」によれば、圃場にセンシングマシンを導入してリアルタイムで畑の状況を確認・記録するなど、情報技術を駆使して有機栽培を行っているのだそうだ。

そして、今回飲んだ「蝦夷泡 2020 白」は、大豊作だったという2020年の余市のナイアガラを100%使用し、半量を手除梗、残り半分を全房でプレスして得られた果汁を自然酵母で発酵。2カ月の瓶内二次発酵を経て完成したというワインで、アルコール度数は8.5%。

 

ドメーヌ・イチ「蝦夷泡 2020 白」の味わい

その王冠をペコリと開けて、グラスに注ぐとなんですかねこれは。グラスの液面全体を包むようにシュワシュワ系の泡がやさしく立ち、グラスからは青りんごみたいな爽やかな香りがまず現れて、次に直前の印象を軽やかに裏切るように、南の国のフルーツのような爛熟した香りがグラスから立ち上る。

で、このワインは本当に味が素晴らしいと思ったんですよ。とにかく酸が非常にキレイ。ナイアガラはすごく華やかで甘やかでトロピカルな感じの香りがする品種(のはず)で、これで味も甘かったらトロピカルジュースになってしまうところ、液体の中心にあるピシッとした酸が、熟練の騎手が最後の直線でくれる鞭のように全体を引き締めて、すごく緊張感のある味がする。

アルコール度数8.5%の気軽さで750mlを食事と一緒にカパッと開けてしまったのだが、十分な満足感と、もっと飲みたい! と後引く感じの両方を味わえる。

アルコールが体内に入っているんだから酔っ払ってるはずなのに、なんかこう、暑い日にポカリ飲んだくらいの負担しか体にかかっていない感じがする。俺の体が有機JAS認定されちゃうんじゃないか、と今回あんまりくだらないこと書かないようにしようと自制していても思わず口走ってしまうような味わいだ。

それでこのワイン、価格が2420円税込なんですよ。決して高くない。それもうれしい。

前出の「余市・仁木 ワインツーリズムプロジェクト スペシャルガイドブック」で、上田さんはこのように述べている。

「儲けよりもお客様が喜んでくれるもの、産地のためになることが一番」

これを本当に実践しているからこそのこの値段でこの味だし、私みたいなもんの不躾なメールへの神対応だと思う。ドメーヌ・イチ、毎年飲みたい生産者のリストが、またひとつ伸びた!