ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

山田堂「ナイアガラスパークリング2021」北海道余市町のワインを飲んでみた

山田堂のワインを手に入れた

昨年、余市町ふるさと納税の返礼品として、山田堂のナイアガラスパークリングをいただいた。山田堂はドメーヌ・タカヒコ4人目の研修生である山田雄一郎さんが余市町登町に2021年9月に立ち上げた非常に新しいワイナリー。「登(のぼり)」はドメーヌ・タカヒコ、ドメーヌ・モンなどがある余市グランクリュ的印象の地域だ。

山田堂のナイアガラスパークリング2021を飲みました。

さて、この山田堂はどのようなワイナリーなのだろうか。それを知るには栽培・醸造家である山田雄一郎さんを知るのが手っ取り早かろう。

 

山田堂と山田雄一郎さんと山田さんのブログ

調べると、山田さんは
「生活の豊かさとは?」
というタイトルのブログ(記事タイトルじゃなくてブログタイトルが『生活の豊かさとは?』なのだ)を2014年から書いておられる。私はブログを書くにあたって一次情報にあたることを大切にしているためこのブログをぜんぶ読んだ。

最初の記事が執筆されたのは2014年、山田さんはスペインにいる。1987年兵庫生まれの山田さんは、(あとから知ったことだが)短大卒業後幼児教育の道に進まれ、日本で3年、そののちに青年海外協力隊としてパナマなどで2年働いた後、スペインはリベラ・デル・デュエロにある醸造学校に進んでいる。行動力…!

himawine.hatenablog.com

そこでの2年間の学生生活が終わる直前、日本での就職活動をはじめているというタイミングでブログを開設したようだ。

帰国後は山梨県でワイナリーに就職(といっても冬には温泉旅館の仲居のバイトをしたりもしていたようだ)。ブログ内では所属先の名前は出しておられないが、別の記事によれば勝沼の白百合醸造にいたという。

スペインから山梨に生活の場を移し、ブログの更新頻度は落ちるがワイン造りへの情熱が静かに燃え上がる様子が見られて非常に興味深い。いくつか引用してみよう。

2015年7月10日
いつだって、ワインにとって、そしてぶどうにとって一番の収穫時はいつなのか??はここでは栽培者の意向というよりも、ワイナリーの都合の方が大きいのかもしれない。(中略)
それでいいのだろうか?

いや、いいわけがない。

2015年8月30日
持続可能なワイナリー。おれだけのワイナリー。うまみがつまった鈍臭いワインをつくりたい

2016年4月16日
また呑みたい・・・ そう思わせてくれるようなワインを造りたい。(中略)そこには、ソムリエも、医者も肉体労働者も関係ない 誰もがなにかを感じ取ってくれる・・ そんな一本。

なんというか、小説でいえば「立志編」みたいな感じがあってこの時期のブログ記事はすごく胸に迫る。とくに2016年4月のエントリには彫刻刀で岩に彫ったような筆圧。「また呑みたい」と思わせてくれるワインは「なにかを感じ取」れるワインである点に私も同意だ。

山梨の著名醸造家(と思われる方々)の名前もブログに登場するのだが、日本最高峰の産地のひとつ・山梨の環境のなかで研鑽と雌伏の時を過ごしていた感じが伝わってきて思わず引き込まれてしまう……と、やってることが我ながらオンラインストーカー感なきにしもあらずだが、公開情報だから仕方ない。

himawine.hatenablog.com

その後ブログ「生活の豊かさとは?」はしばらく更新が途絶え、2019年に5月26日に復活する。山梨を離れて余市に軸足を移し、2年後にワイナリーを起業することを読者に報告する内容だ。

そこにこんな一文がある。

ワインはブドウからできるものです。
美味しいブドウからは美味しいワインが出来ます。美味しくないブドウからは美味しいワインはできません。
畑で美味しいブドウをつくれるように頑張らねばなりません。

これを聞いて思い出したのが、友人の映画監督に聞いた脚本と完成した映画の関係だ。

「脚本が良くてもつまらない映画はある。でも、いい脚本からでなければ、いい映画は絶対にできない」

そんな趣旨。モノ造りを極めていけば、そこには通底するなにかが自ずとあるんでしょうなあ。

 

山田堂はどんな生産者か?

さて「生活の豊かさとは?」ブログはこのあともうひとつのエントリを経て新ブログ「畑とワインのある生活」に移行。ドメーヌ・タカヒコで研修生として働きつつ、自身の畑やワイナリーを整備し、開業にいたるまでの日々が綴られ、今も更新が続いている。

ブログをすべて読み返すのにかかった時間が30分から1時間くらい。スペインで学ぶ留学生だった山田さんは山梨での修行を経て余市でワイナリーを開業するに至る日々を文字を通して知ったことで、実際はまったくもって一面識もないのにすっかりヴァーチャル知人みたいな気分である。これは心して飲まねばならぬ。「日常に楽しんで頂けるテーブルワインを造ること」というコンセプトも素晴らしい。

himawine.hatenablog.com

山田堂は北海道余市町登町に2.3ヘクタールの畑を所有。納屋をワイナリーに改装し、2021年9月に開業。畑にはナイアガラが植わっており、新たにピノ・ノワールとツヴァイゲルトを植栽、ナイアガラの区画はいずれミュラートゥルガウに植え替えるようだ。

今回飲むナイアガラスパークリング2021はその自家畑のナイアガラ100%を使ったワイン。完熟ナイアガラを全房で仕込み、発酵途中で瓶詰めをした微発泡ワイン。瓶内二次発酵時に補糖する以外は亜硫酸塩、酵母ほかすべて無添加で造っているそうだ。うーん楽しみ。いざ、抜栓してみよう。

 

山田堂ナイアガラスパークリングを飲んでみた

蝋キャップで覆われた王冠を栓抜きで蝋ごとポンと抜いてグラスに注いでみると、色はなんというかごく普通の白ワイン的な輝く薄めの金色。特筆すべきは香りの豊かさで、ナイアガラらしいゴマ団子みたいな香り、花の香り、梨みたいな香りがババンと広がってくる。よろしいなこれは。

そして味も良い。完全にドライなんだけど果実味がしっかりとあり、酸味もちゃんとある。余市の冷涼な気候のもと、ゆっくりと完熟したことが伝わってくるような味わいだ。濁りも少なく、自然派感もいい意味で少ない。

決して派手ではないし、すごく複雑な味わいというわけでもないけれど、間違いなく「日常に楽しんで頂けるテーブルワイン」ではあると思う。価格は2310円。アルコール度数は9.5度だ。安くはないけど、決して高くないと思う。

それにしてもナイアガラはおいしい。山田堂ではナイアガラをミュラートゥルガウへ植え替えるとのことなので、このキュヴェも長くは飲めないのだろうけど、余市のナイアガラが私は非常に好きなので、どなたかが作り続けてくれたらいいなあと思う次第だ。

a.r10.to