ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ホーライサンワイナリーとは? 富山最古のぶどう園の4代目に歴史と今を聞いてみた

ホーライサンワイナリーとは?

ホーライサンワイナリーという生産者をご存知だろうか。創業は今をさかのぼること97年の1927年。富山で最初のブドウ園として創業し、1933年「蓬莱山葡萄酒」としてワイン造りを開始、今に至るも「やまふじぶどう園」そして「ホーライサンワイナリー」として家族経営を貫く生産者だ。

そのホーライサンワイナリーが下北沢ワインショップの試飲会に登場すると聞き(かつワインが非常に素晴らしいと聞き)、ショップを通じて取材を申し込んだところご快諾いただいた。

下北沢ワインショップでの試飲会の前にインタビューを実施した

インタビューに応じてくれたのはホーライサンワイナリー株式会社代表取締役で、やまふじぶどう園の4代目・山藤智子さん。

以下、私・ヒマワインとのインタビュー形式で、話の合間にその後の試飲会で飲んだワインの感想を交えつつお送りする。さっそくいってみよう。


やまふじぶどう園と、ホーライサンワイナリーのはじまり

ヒマワイン(以下、ヒマ):まずはやまふじぶどう園の歴史について教えてください。

山藤智子さん(以下、山藤):昭和3年、私のひいおじいさんが拓いたのがはじまりです。大正末期の米騒動(1918年に起きた米価格急騰に伴う暴動事件)は富山から起こったんですが、米がないと酒ができない、酒がないと祭りができないということで、当初は米を作ろうとしたそうです。

ヒマ:米騒動が背景にあったとは。すごく歴史を感じます。

山藤:ところが土地に水がなくて米が作れない。そこで、「ブドウから酒ができるらしい」と聞いて、ブドウを植えたんだそうです。

ヒマ:うーん、先見の明がすごいですね!

下北沢ワインショップの試飲会で供された11本のワイン。中には未発売のものや希少キュヴェも

山藤:風が強いので吊るして栽培するブドウにとって病害が少ないのはいいんですが、赤土で水はけの悪い肥えた土壌のため、それでも栽培は大変です。歴史あるワイナリーはみんな家族が犠牲になってます(笑)。

ヒマ:家族はタダ働きみたいな……。

山藤:それもあって、2代目の私のおじいちゃんは酒造免許を売ろうとも言っていたんです。それを私の父(3代目、現会長)が止めたそうです。

ヒマ:おお、お父様ファインプレーです。3代目はワイン造りに情熱を燃やされていたんでしょうか。

山藤:メルローカベルネ・フランなどのヨーロッパ品種に力を入れたりと情熱はありましたが、ワイン造りから配達まですべてをこなしていましたから、ずいぶん苦労はしていましたね。母が経理をして、私も小学生のころから売店で接客をしていました。「それ辛口やで」とか言って(笑)。

ヒマ:令和の今では考えられませんが、昔は小学生がワインを売ってもあまり違和感なかったかもしれません(笑)。

富山ではスーパーで買えるという定番酒「いつもの」。品種は甲州でほのかに甘く飲みやすい

山藤:ワイン造りが軌道に乗り始めたのはボジョレー・ヌーヴォーのブームの頃でしょうか。それまでは生食用ブドウの食べ放題などのお客さんが多かったんですが、ブームに乗って新酒を売り始めたらそれがフレッシュな味わいのものを好む富山のお客さんにウケて、そこからワインのほうが売り上げとして大きくなっていきました。

ヒマ:山藤さんが4代目となったのはいつですか?

山藤:2021年です。それまでCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)として経理からブランディング、ウェディングやバーベキューなどのイベントを手がけていましたが、父も70を過ぎたのでさすがにいつまでも社長させてるのも悪いと代替わりしたんです。

 

ホーライサンワイナリーのラベルの秘密

ヒマ:ホーライサンワイナリーのワインはラベルがすごく特徴的ですが、これは4代目が手がけてるんですか?

山藤:そうですね、2013年くらいから面白いラベルをはじめました。覚えてる限り5、6回ワインブームってきていると思うんですが、(ときどきの流行りに流されず)日本らしい、富山らしい、楽しめるネーミングにしようと考えたんです、飲みながら。

ヒマ:飲みながら考えるのめちゃくちゃ楽しそうですね…!

山藤:「ときわすれ」というワインは、友人たちと飲んでいたらどんどん味や香りが変わって、まろやかになっていったワイン。それで気がついたら朝になっていたから「ときわすれ」。

「ときわすれ」は自園産メルローを使った赤ワイン

ヒマ:楽しい時間は過ぎるのが早い的なことですね。その間にワインはどんどん変化していく。ふたつの意味が込められていて、いい名前です。

山藤:「たけなわ」はその名の通り「宴たけなわ」のイメージ。「べつもの」は樹齢40年のカベルネ・フランを使い、オークチップを使ったもの。飲んだ瞬間に「これ別物やん!」となったのでこの名前です。

会話が弾む「たけなわ」も、自園産メルローを使った赤

ヒマ:さらっとおっしゃいましたが日本に樹齢40年のカベルネ・フランなんてあったんですね!

山藤:だいたい日本では30年が寿命なんて言いますね。40年頑張ってくれて、去年植え替えてしまったので、もう飲めないワインです。私は若いころフランが苦手で、切ってしまえばいいと思ってたんです。でも父がブレンド用にいいからと残していた。それを単一で仕込んで、長期間瓶熟させるとすごいことになるんです。

この日のベストと感じたのがこの「べつもの」。パワフルなのにチャーミング、社長の人格を反映したかのようなワイン

ヒマ:ワインは全部で何種類くらいあるんですか?

山藤:15種類は販売していますね。それに裏メニューも3種類くらいあるんです。

ヒマ:裏メニューとは?

山藤:何回もリピートしてくれるお客様にお出しするやつです。本数の少ない熟成したものも裏メニューです。

裏メニュー中の裏メニューと言えそうなトップキュヴェ、ジャンメルロー。驚くほど繊細で、しかし太い果実が全体を貫く素晴らしいメルロー

ヒマ:ラインナップ、非常に多いですよね。

山藤:祖母が92で亡くなったのですが、最後のほうは甘口ばかり飲んでいました。私の母は今はロゼばかり飲んでいます。人の好みってどんどん変わっていくんです。だから軽くて甘いのから重いのまで、いろんな種類を造っているんです。

甲州を使ったアルコール度数8%の甘口「うたたね」。富山の2023はグレートヴィンテージだ、ということを実感するワイン

 

ホーライサンワイナリーのワイン造り

ヒマ:いま、ワインはどなたが造っているんですか?

山藤:私の息子が今24歳なのですが、今年からは彼と、彼の右腕的な若い社員がいるので、そのふたりにほとんど任せています。

まだラベルができていないマスカット・ベーリーA「あさっぱら」。あさっぱらから飲みたい軽快な味わい

ヒマ:すごい、5代目もすでに参画していらっしゃるんですね。

山藤:事業承継が難しいという話はよく聞きますが、すでに5代目がいるのはすごく頼もしいです。だからこそできることが増えました。私も新しいことやろうか! と考えたり。

ラベルと名前が最高にいい「ねこかぶり」。自園産メルローを使ったロゼ

ヒマ:5代目はどこかで修行されたんですか?

山藤:オーストラリアに行こうとしていたんですが、コロナでダメになり、逆にウチのやり方をしっかり見て学んでもらうことにしました。変なクセをつけず、ウチのやり方でやってもらおうと。

ヒマ:ホーライサンワイナリーの「やり方」ってどんなものなんでしょう?

山藤:手作業ですね。気温が上がったりして、ブドウ栽培も年々手がかかるようになってるんです。ブドウに傘をかけるとか、海外からしたら考えられないですけどやっていますし、芽かきなんかも、こんなことまでやっとるんかくらいやっています。

「いつもの」の赤はマスカット・ベーリーA。「お好み焼きや焼きそばに合うワインです」とのこと

ヒマ:手作業、つまり手間をかけるということですね。やはりこれだけ暑くなると大変ですよね。

山藤:ただ、2023年は良かったんですよ。暑過ぎて病気が飛んでしまった。29年ぶりです、そんな年は。最高のヴィンテージになりました。

ヒマ:富山の2023はグレートヴィンテージ!

山藤:「今年は病気がなくてよかったね」みたいに適当に言われるんですけど、1994年以来なんです。「いやいやすごかったやん!」って言ってます(笑)。メルローはなにもせずとも濃いし、この「山藤(マスカット・ベーリーAの赤。未発売)」も開けた瞬間から香りがぐわっと来たり。まあ、すごいですね。その分熟成が必要になるとは思いますけど。

これも素晴らしかった「山藤」。赤とロゼのベーリーAをブレンドしたワインで、2023ヴィンテージの素晴らしさを雄弁に語っていた

ヒマ:出来がいい分、熟成が必要になると。

山藤:軽いのはいつでも採れるんですよね、早摘みでもなんでもして。でも濃いのは無理。狙ってできるもんじゃない。

ヒマ:日本のワインで「濃い!」っていうのはなかなかない印象です。それってどうしてなんでしょう?

山藤:水分量です。降ってほしいときに降らないのに、降ってほしくないときにめっちゃ降る。ソーヴィニヨン・ブランなんか1回の雨で粒が破裂しちゃいますし、ましてやピノ・ノワールは無理。「(ピノ・ノワールは)北陸では禁句です」って言ってます。

ヒマ:そういうもんですか。

山藤:ハウスかなんかじゃないと無理でしょうね。30年くらい前にピノ・ノワールも植えたんですよ、私の父が。ひと畑ぶんだけ。すぐに切りました。

ヒマ:経営判断が早い(笑)。

山藤:大胆なんですよ、ウチの父。シャルドネもひと畑ぶん植えて、「香りが出ん」って言ってすぐ切ったり。

 

ホーライサンワイナリーとワイナリー経営の話

ヒマ:そうやって選抜されて残ったのが今のメンバーなわけですね。メルローとか、フランとか。

山藤:合うものだけってわけにもいかないんですね。早稲(わせ)のものもあればそうでないものもあるし、収穫時期も選びます。

ブドウジュース。やさしく絞ったやさしい味わい

ヒマ:そうか、収穫時期がズレてなくちゃいけない。

山藤:ウチは生食用も25種類くらい作ってますけど、それも同じことです。リスクを分散しながら、いろんな品種を楽しんでいただく。

ヒマ:多品種を栽培することで収穫時期、出荷時期をズラす。それによりリスクヘッジができる。

山藤:そして、いろんな方の好みに合わせられるんです。

ヒマ:ワイナリー経営のお話、非常に興味深いです。

山藤:ソムリエさんがよく「テロワール」って言われるんですけど、よくわからないんですよ。私たちが言うもんじゃないなと思ってます。お客様が飲んで「やっぱりこれ、やまふじさんとこのだよね」って思ってもらえる安心感があればいいのかな。

ヒマ:「やまふじさんとこの」って、お客様に言われる特徴ってどんなところなんでしょうね?

「一生飲める」幅広いラインナップ。ホーライサンワイナリーの魅力だ

山藤:永遠に飲める。死ぬまで飲める。どんな世代でも。家族経営の強さでしょうけど、毎日家族で食べて飲む。そうすると、若い子が好きなものと私たちがおいしいと感じるものが違うことがわかるし、それが変わっていくことも当たり前のように知っているんです。だから、「息子が二十歳になったから」と買いにくるお客様にも好みを合わせられるし、普段ビールしか飲まない人、日本酒好きな人……とそれぞれに合わせられるんです。

ヒマ:だから「死ぬまで飲める」わけですね。まったくの余談ですが私も死ぬまで元気に飲むのが人生の目標です。

山藤:不真面目に飲んでほしいんです。あんま香りがどうだこうだ言うなって(笑)。

ヒマ:グラスくるくる回してないで飲め! と(笑)。あくまで食中酒、食事と一緒に楽しむものというイメージですね。富山の酒文化のなかにあるワインというか。

 

ホーライサンワイナリーが目指すもの

山藤:今はストレス社会で、お酒だけじゃストレスはなくなりません。イベントをやって、いい音楽聞いてお酒飲めば楽しいやん! と思っていましたが、そうじゃない方も多い。だからこそ、働く人も楽しいし、来てくれた人もリフレッシュできる、そういう空間を作りたいと思ってるんです。姉が臨床心理士なので、カウンセリングも受けられます。

ヒマ:え、すごいっすね。カウンセリングが受けられるワイナリー。

山藤:新しく宿泊施設も計画しているんです。おいしい富山の食と、ワインとを、夜通し食べて、飲んでができるように。私もお客様と飲めますしね。「あっ、社長また飲んでる!」って怒られるんですけど(笑)。

山藤智子さん。パワフルで、エネルギーにあふれ、広い視野を持つ、理想の上司感あふれる方でした

ヒマ:価格帯も非常にお安いですよね。特別なワインを除けばほとんどが2000円台。

山藤:日本酒でも言われますが、2000円の壁ってあるんです。デイリーで飲むお酒は2000円を超えるとまず出ない。私はそれを打ち破らんとと思っているんです。それができんのだったらもうやめたほうがいいくらいに。

ヒマ:それはどうしてですか?

山藤:やっぱり従業員の給料にも反映させたいですから。もう従業員に我慢をさせる時代じゃないです。

ヒマ:1000円台では従業員の給料を上げられないと。それができなければ従業員も集められないし、すごく大切なことだと思います。

山藤:「安いから買う」じゃない、その価格(なりの価値)を見てくれっていう価格にしたいんです。一方で、日本の平均賃金が上がらないうちは(デイリーワインは)税込2530円くらいから値上げはしたくない。問屋さんへの利幅も大きくするからこの値段にさせてほしい、多少資材が値上がりしても4、5年は値上げしません、って言って、値付けをしています。

ヒマ:そうしないと地元の商圏とかも含めてサスティナブルでなくなってしまいますもんね。

山藤:たとえば富山県だとまだ女子だけ制服があるとか、女子は事務でお茶注いで、みたいなところがまだまだいっぱいあるんです。だから女性が定職につかない・つけない。県外に流出してしまう。次の世代、その次の世代のためにも、富山に移住したいと思う人を増やしたいんです。

ヒマ:それが山藤さんのミッションなわけですね。富山に来てもらう、究極は住んでもらう。ワインを通じて、そのための場所を作ってらっしゃる。

山藤:冬はずっと曇ってて暗いですけどね(笑)。人間らしく冬は休もうぜ、こたつに入って飲めばいいじゃん、っていう働き方です。カウンセラーもおりますのでね。

ヒマ:落ち込んでも大丈夫(笑)。では最後に、「どこで買えるの?」というお話を伺いたいです。ホーライサンワイナリーの場合、オンライン販売とかよりも、直接来て買ってもらうことを重視している印象です。

山藤:東京でいえば、東京ってなんでも買えるわけですよね。だったらもう買えなくしてやろうと(笑)。

ヒマ:そんな!(笑)

山藤:声がかかったら行こうかなくらいに思っていたんですが、東京はやっぱり難しいですね。好みがわからない。

ヒマ:あくまでも販売は地元中心で行こうと。それだけに、山藤さんのワインはこれだけの歴史と規模がありながら、失礼ながら東京ではマボロシ感さえあります。

山藤:でも、富山ではスーパーで売ってるんです(笑)。

ヒマ:あくまで地域に根ざした、「地のもの」と合う地酒という感覚。なんか、それこそ本来のワインのあり方なんじゃないかって気がしてきます。今日はありがとうございました!

 

インタビューを終えて

いかがだっただろうか。山藤さんのエネルギーにあふれた素敵な人柄の一端でも伝えられたら幸甚だ。

やまふじぶどう園のワインは「行かないと買えない」。ただし、お高く止まってるわけではまるでなく、むしろ正反対。タップひとつでなんでも買える時代に、あえて自分たちの場所に来てもらって、一緒にワインを選ぶ。そんな時間を楽しみたいし、大切にしたい。ホーライサンワイナリーにはそんな人たちが集っているのだと思う。

「店頭以外でのお買い求め」も言えば対応してくれそうな気配。いや、こういうことですよ大切なのは(画像はホーライサンワイナリー公式サイトのキャプチャ)

なんでも便利にすればいいわけではない。そんなことみんなわかっているが、これがなかなかどうして簡単ではない。「不便」を選択するのはすごく難しい。ワインのコト消費化、なんて言えば耳触りはいいが、そんなことでもたぶんない。

地元・富山を盛り上げたい。ただ漠然と“盛り上げる”と口にするだけでなく、事業を次代に承継し、雇用を守り、女性が働きやすい環境を整備し、若者の県外への流出を防ぐ。それらをワインを通じて行なっていく。そして、自園を5代目、6代目に引き継いでいく。そのためには、この方法がベストなのだ、きっと。

経営者目線、そしてもちろん地元の名士でもあろう立場から語られる言葉は、地方創生といったお題目でない、その土地に根ざしたリアルなものだと感じた。そしてその思いはきっと、米騒動のあとの富山で「祭りのための酒」を造ろうとした初代の志と響き合っているのだと思う。

蓬莱山は、中国の東方の海上にあるとされた不老不死の仙人が住む山。秦の始皇帝は方士・徐福をその地に派遣し、不老不死の霊薬を持ち帰らせようとした。徐福はついに蓬莱山に辿りつかなったが、ホーライサンワイナリーには幸いにもたどり着ける。北陸新幹線が便利だ。富山駅から30分で着くそうだ。

そんなわけでいつか富山を訪れた際は、ぜひやまふじぶどう園を訪ねたいし、読者の皆様にも訪問をおすすめしたい次第。「あさっぱら」から飲み始め「ときわすれ」な感じで「たけなわ」まで飲みたい。楽しい時間になりそうだ。

貴重な機会をいただいた下北沢ワインショップとお忙しい時間を割いてインタビューに応じてくれた山藤さんに改めて感謝したい。ありがとうございました。



ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはどんなワイン? ワイン会に参加して調べてみた

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲む会に参加してきた

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲み比べるワイン会に参加してきた。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはイタリア・トスカーナ州を代表するワインのひとつ。くらいの知識しか私にはない。せっかくお誘いいただいたので、しっかり飲んで学んでいきたい。

ブルネッロをたくさん飲んだ

さて、この会の主催は無垢ワインさん。てことは無垢ワインさんが集めたワインを飲むのかなと思ったらさにあらずで、Xワイン界隈屈指のワイン購入の達人・かしたくさんがワインを提供、Xワイン界隈屈指のマニア・TZKさんがお店の予約やペアリングの段取りをしてくれているというとんでもない会となっている。

このあたり個人名が出てくるのでピンとこない方も多いと思うが、とにかくマニアックな会なんだね、みたいなふうに理解していただければOKだ。モノホンのマニアが絡むワイン会はしばしとんでもないことになる。

会場はトスカーナ料理の専門店だという浜町のトラットリア・コッレ。休日の午前11時半から15時まで、ランチタイムをフルに使って楽しんだ会の模様を、飲んだワインを軸に以下にレポートしていきたい。

 

フェッラーリ マキシマム ブラン・ド・ブラン

さて、この日の乾杯はTZKさんご提供のフェッラーリ マキシマム ブラン・ド・ブラン。2015がベースヴィンテージのものを、TZKさんのご自宅で数年熟成させたというもの。

飲み始めはスッキリさわやか系。時間が経って温度が上がるとどんどん甘やかに、やわらかく変化していき、最終進化系は飲む栗きんとんみたいになるという素晴らしいスプマンテだった。

ワイン愛の強い人の自宅で熟成させるとワインはおいしくなる、ワイン愛が強ければ強いほどそうなる、という都市伝説が私の中であるが、それを証明する見事な1本なのだった。

ただあくまでもこれは乾杯用。ここから怒涛のサンジョヴェーゼ6連発の幕が開く。

 

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲もう!

まずはワインリストを眺めていこう。以下だ。

1:ファットリア・ラ・レッチャイア ロッソ・ディ・トスカーナ2016
2:ヴァルディカヴァブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2010
3:マストロ・ヤンニ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016
4:サセッティ・ペルティマリ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016
5:ビオンディ・サンティ ロッソ・ディ・モンタルチーノ 2019
6:ポッジオ・ディ・ソット  ロッソ・ディ・モンタルチーノ2019

さて、どれもおいしかったのだが、ボトルバイボトルの詳細は参加者の米柱さんがまとめてくださっているので屋上屋を重ねるのは避けて、いただいたものの中からやべえやつof the やべえやつを発表したい。

早速だが発表しちゃおう。サセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロ2016だ。ちょっとこれはとんでもない、年間ベスト級のワインだった。いやーすごいワインだった。

これは本当に素晴らしいワインだった

かのロバート・パーカーをして「私がたった1本だけブルネッロ・ディ・モンタルチーノを味わうとすれば、それはペルティマリのものになるだろう。」と言わしめた生産者。パーカーってこういう言い方がめっちゃうまいんですよ。「貨物列車ごと買うべき」的なやつとか。パーカーはコピーライティングの世界に進んでも間違いなく大成していた、あるいはワインの世界でコピーライターとして大成した人なんじゃないかという気さえするが話がずれてた。

 

 

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはどんなワインか

サセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロの前に、まずはそもそもブルネッロとはなにかをまとめておきたい。

・イタリア、トスカーナ州の赤ワイン
・品種はサンジョヴェーゼ・グロッソ
・大樽で長期熟成

基本はこんなところ。そして、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ組合のサイトによれば、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ロッソ・ディ・モンタルチーノの違いは以下のようになる。

重要なのは熟成期間、そしてリリースまでの時間。ブルネッロとリゼルヴァには大差がないが、両者とロッソは規定において大きく異なることがわかる。

なんでこんなことを調べたかといえば、それはサセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロがステンレスタンク発酵だから。

あれ、ステンレス発酵はありなんだっけ? となったのだが、あくまでも規定は発売まで5年、その間樽熟成2年+αなので、発酵容器はたぶんなんでもオッケーぽいのだった。

 

サセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロ2016の衝撃

そんなわけでサセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロはステンレスタンクで発酵後8か月熟成、スロヴォニアンオークの大樽に移して3年寝かせ、瓶詰め後さらに16か月熟成し、リリースされる。

全体の4番目でこのワインを飲んだのだが、とにかくすさまじいのは単騎性能。料理と合わせなくてもおいしい、みたいなレベルを軽々と跳躍し、世界に自分とこのワインだけあればいい、みたいなちょっと行っちゃいけない場所に連れていかれる感覚がある。

たっぷりとした果実、やわらかな渋み、おだやかな酸が液体のなかで正三角形を構成している。その三角形の頂点に光が灯り、やがて高速で回転し、輝く頂点が円を描く。飲んだときは「球」だと思ったけど思い返すと「円」のイメージなんだよな。

この2016ヴィンテージはジェームズ・サックリング100点だそうだが、思わず「おっ、ジェームズわかってんじゃん!」と言いたくなるおいしさだった。100点つーのはすごいわ。

15000円くらいするが飲む価値は絶対ある↓

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ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの多彩な魅力

とはいえこの日驚かされたのはこのワインだけではない。ブルネッロの創始ワイナリーであるビオンディ・サンティのロッソ・ディ・モンタルチーノ2019、これも非常に素晴らしいワインだった。

スロヴォニアンオークで12か月熟成されたというこのワインは、印象としてはまるでピノ・ノワール。6杯目のポッジオ・ディ・ソットのロッソ2019も非常に似た印象で、これは熟成期間の短いロッソ・ディ・モンタルチーノだからなのか、2019VTの特徴なのか。非常に興味深かった。

いずれにせよ、非常にパワフルな黒っぽいワインにもなれば、非常にチャーミングな赤っぽいワインにもなり、ときにエレガントなピノ・ノワールっぽくもなる、サンジョヴェーゼの魅力を存分に感じることのできるワインだった。

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コスパ大賞「ラ・レッチャイア ロッソ・ディ・トスカーナ2016」

あと忘れてはいけないのが2番目に飲んだラ レッチャイア ロッソ・ディ・トスカーナ2016。

全日本ブルネッロコスパ大賞受賞ワイン。全日本でもブルネッロでもなかった。

72か月熟成させたワインながら、オーナー自家消費用ワインのため格付け申請していないため、格付け下位のIGTロッソ・ディ・トスカーナとしてリリースされるというワイン。

価格は4000円台ながらその他のゴリゴリマッチョ系のワインと戦える戦闘力があり、圧倒的ベストコスパ賞だった。ただブルネッロって書いてないだけのおいしいワインなのでみなさん、自宅で飲むならこれがオススメだ。むちゃくちゃうまい。

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ヴァルディカヴァのブルネッロ2010、マストロヤンニのブルネッロ2016もそれぞれ素晴らしいワイン。いやはや、すげえセレクトだ。

この日出たワイン、すべて当たり前のように五つ星ヴィンテージでさすがすぎる。(画像はブルネッロ・ディ・モンタルチーノ組合のサイトより。赤枠は筆者)

末筆になるがトラットリア・コッレの料理はどれも素晴らしくおいしく、とくにコースの大トリを飾った和牛ビステッカは、ははは、思い出すだけで笑っちゃうくらいおいしかった。ブルネッロと合わせたときのおいしさは戦艦の主砲クラスの破壊力。

シメにはバローネ・リカーゾリのカステッロ・ディ・バローリオ2005っていうめちゃくちゃ旨い甘口(TZKさんご提供)までいただいて、すっかりブルネッロファンとなり果てて家路に着いたのだった。

無垢ワインさん、かしたくさん、TZKさん、ご一緒した皆様に感謝。また飲みましょう。

とにかくこれがえぐえぐにえぐい↓

a.r10.to

 

パソ・ロブレス ワインの魅力とは? カリフォルニアの注目産地を紹介!

パソ・ロブレスとは

カリフォルニアワイン協会が主催するプレスイベント「多彩で魅力あふれるパソ・ロブレスのワインとアメリカンBBQ食体験プレスイベント」という長い名前のイベントに参加してきた。

パソ・ロブレスはカリフォルニアからクルマで3時間半、サンフランシスコからもクルマで3時間半。カリフォルニアの二大都市に挟まれたロケーションで、観光地としてもとても人気のあるワイン産地なのだそう。

パソ・ロブレスはさらに11の小地区に分かれるそうな

カリフォルニアワインといえばナパヴァレー! みたいなイメージは大いにあると思うのだが、実際は149の産地がある多様性ある産地。それをアピールすべく、今年2024年はちょっぴりマイナーなパソ・ロブレスに白羽の矢が立ったようだ。

会場はグリル台「Weber」のショールーム的な場所。BBQとパソ・ロブレスのワインの相性は異常

では、産地としてのパソ・ロブレスの特徴はなんなのだろうか。

ひとつはやっぱり多様性。のちに詳しく記すが、イタリア品種しか造らない生産者がいたり、ヴィンテージにとらわれないソレラシステムを採用する生産者がいたり、独自の「パソ・ブレンド」を追及する生産者がいたりと個性があふれていた。

メインはカベルネだが、ローヌ系品種も栽培されている

また、「昼は42度、夜は14度」なんていう日もあるくらい、すさまじい気温差が昼夜で生じるのも特徴。昼間の暑さはワインに果実味を、夜の寒さはワインに酸と風味を与えるそうだ。

飲んだ印象を先に述べると、フランスとナパの中間ナパ寄り、みたいなイメージが総じてあり、エレガントなのに果実味豊かで飲みやすいものが多かった。

果実たっぷりの飲みやすいワインがおいしいに決まってんじゃん、と常日頃思っている私としてはまさに絶好球という産地だ。

乾杯はサマーウッドワイナリーの「朝泡」。グルナッシュブラン100%で非常にフレッシュ、とてもおいしい

今回のセミナーに参加していたのは5生産者。それぞれを紹介しつつ、とくに印象に残ったワインを挙げていきたい。

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ホープファミリーワインズ

まずはホープファミリーワインズから。1978年設立の家族経営のワイナリーで、2022年にはアメリカン・ワイナリー・オブ・ザ・イヤーに選出されたというすごい生産者。

ワインは買いブドウで造り、そのブドウはほとんど「リジェネラティブ農法(環境再生型農法)」で栽培されている。

マルチヴィンテージのシャルドネ。スポーツドリンク的な染み渡る系

驚いたのは1杯目にいただいたシャルドネ。20ドルで売られているワイナリー最安値のワインだが、これがものすごく爽やかでフレッシュ。いい意味でカリフォルニア感がない。

ヴィンテージ表記はなく、聞けば古いヴィンテージのワインを少しずつ注ぎ足すソレラシステムを採用したマルチヴィンテージのワインなのだそう。

メリザさん。ワインの魅力を情熱的に語ってくれた

すごく華やかでキレイな味わいだったので「ヴィオニエが入ってるみたいっすね」と言ったところ、「これには入ってないけど、ヴィオニエとシャルドネブレンドも出しているのよ!」と輸出ディレクターのメリザさんに半ば強引に褒めていただいた

そしてフラグシップのオースティン・ホープカベルネ2021は2019年にワインエンスージアストのベストワイントップ100で7位の評価を受けたワインだそうでこれがちょっと驚きのおいしさ。

こちら本日のやべえやつになります

「ワインは開けてすぐに楽しめるべき!」とメリーザさんが語ってくれたように、開けた瞬間から果実の奔流と呼ぶべき怒涛のフルーツ感が押し寄せてくる。どこまでも突き進もうとする果実が馬だとすれば、酸が御者、タンニンが手綱といった印象で、パワーが突出した状態でバランスがとれている。

「もちろん10年、15年経ってもおいしいけど、10年、15年経たないとおいしくならないワインじゃない」みたいな説明も素晴らしいなと思ったのだった。そりゃそうだよ。

このオースティン・ホープカベルネは個人的にはこの日のベストワイン候補。

現地56ドル(8147円 ※2月20日現在)なので9900円はお得だと思う↓

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ジョルナータ

続いてはジョルナータ。イタリアにルーツを持ち、パスタ工場も経営するオーナーが、イタリア品種だけでワインを造っているというこれまた非常にユニークな生産者。

素晴らしいと感じたのはまずオレンジワインのオランゴ・タンゴ2022。ファランギーナ、フィアーノ、ヴェルデッキオをスキンコンタクトさせたオレンジワインで、これがもうオレンジ丸かじり系のおいしさ。

果実味爆弾系オレンジワイン「オランゴタンゴ」

オレンジワインは果実味少なめ苦味強めみたいな印象が実は個人的にあるのだが、これは真逆で、果実が強くて苦味がアクセント。価格は25ドル。

もうひとつ素晴らしかったのが「ランチにぴったりのワイン」と紹介されていたバルベーラ2022。

バルベーラといえばピエモンテのブドウ品種。紫色で、少しくすんだ果実味があり、渋み・酸味が強い……といった印象なのだがこれまた見事に反転し、果実くっきり、渋み・酸味がアクセント、ただし香りはバルベーラらしいスミレ系。

イタリアのバルベーラとは異なる果実味バルベーラ。めちゃくちゃハイレベル

もしピエモンテのブドウ品種をカリフォルニアで作ったら、というifの答えが出てる感じの見事なハイブリッド。こりゃうまい。

実はこのジョルナータ、日本でディストリビューターを探しているのだとか。カリフォルニアでイタリア品種だけを造る生産者ってキャッチーだし、人気出そうな気がするのでどなたか輸入してください。

 

 

パソ・ロブレスの生産者たち:Jロアー

続いては有名生産者のJロアーなのだがJロアーってパソ・ロブレスが本拠地だったんすね。「15ドル以上のカベルネ・ソーヴィニヨンでは2番目に多い販売量(生産量だったかもしれない)を持つ」のだそうだ。

トップセールスとはこうやるんだよ、というお手本のような柔らかい物腰のCEOスティーブ・ロアーさん

Jロアーといえばやっぱりふつうに王道のカベルネシャルドネメルロー、みたいな感じだと思うわけだが今回はパソ・ロブレスの個性を見せるみたいな趣旨の集まり。それだけに用意されていたのはシラーが1本、カベルネ・ソーヴィニヨンが1本、カベルネとプティ・シラーのブレンドが1本という3本。

3本目は「ローヌブレンド」と紹介されていて、ローヌでプティシラーって使うんだっけ? とちょっと疑問に思って調べてみると、本場AOCローヌの規定のなかにはプティ・シラー(あるいはシノニムのデュリフ)の記載はなかった。

なかったのだが今度はJロアーも加入するアメリカにおけるローヌブレンド振興団体「ローヌ・レンジャー」の公式サイトを見てみると、アメリカン・ローヌ・スタイルの規定においてはプティ・シラーも「あり」のようだ。へー。

話が逸れたが、つまりはパソ・ロブレスの特徴は(アメリカン)ローヌスタイルにもあるんだよ、みたいなことだと思う。

印象的だったのは2021ヴィンテージがワインエンスージアストのベストバリューワイン1位に選ばれたというサウス・リッジ・シラー2022。

ギガルのコート・デュ・ローヌの要素をさらに1回り強化したような、果実の砲弾を発射する重戦車のような味わい。

4%のヴィオニエが足されていることで酸もしっかりとあり、飲み疲れもしなさそう。これが15ドルは異常。アメリカに住んでたら私は毎日これを飲む。

調べたら2019VTが2000円台で売ってた。買ってみよ↓

 

そしてアメリカンローヌブレンドのピュア パソ プロプリエタリー レッドも良かった。

ピュア・パソという名前からも、パソ・ロブレスのワインのお手本感が漂う


プティ・シラーが入っているだけにほぼ黒ワインと言いたくなるほど濃いめ。味わいも濃密で、渋みも強め。なのだがやっぱり果実が強いので全然余裕で飲める。27ドルとは思えないプレミアム感のあるワインだった。

小規模生産者が非常に多いというパソ・ロブレスにあって、圧倒的規模感でワインを造るJロアー。そのコスパは突出していると感じた。

 

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ラヴァンチュール

ボルドーでワイナリーを所有していたフランス出身のステファン・アセオさんが、それらを売却して自分の理想のワイン造りのために設立したというラヴァンチュール(『冒険』の意)。

なんでボルドーを出たかといえば、AOCの規定に縛られたくなかったから。っていうかシラーを使いたかったからなのだそうで、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、ムールヴェードルのブレンドで勝負をしている生産者。担当の方によれば、このブレンドを“パソ・ブレンド”と呼ぶのだそうだ。これまた変則ローヌブレンドですね。

シモーネ・ベラルデッリさん。英語の説明を必死に聞いていたところ、のちに日本語ペラペラであることが判明。そんな…!

セカンドワインの「オプティマス2018」と、フラグシップの「エステート・キュヴェ」の2017と2018をテイスティングさせてもらったのだが素晴らしかったのはエステートの2018。爆発的に素晴らしかった。

カリフォルニアの2018のすごさを物語る、エステート・キュヴェ2018

2018はワインエンスージアストがカリフォルニアの(ナパだけど)カベルネに99点を与えている年で、ちょっと内包しているブドウの排気量が全然違っちゃってる感じがした。

果実味果実味とそればっかりで恐縮だが実際に果実味があるんだから仕方なく、このワインも非常に豊かな果実味がある。一方でフランス的なエレガントさも併せ持っている。

ボルドーの複雑さ、ローヌの深み、カリフォルニアの親しみやすさ、みっつの特徴をすべて備えているワインという印象。これもこの日のベスト候補。

2017も良かったがどちらか選ぶなら間違いなく2018を私は選ぶ↓

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ピーチーキャニオン

最後はピーチーキャニオン。カリフォルニアワイン会でいただいたことのある生産者だが、なんでもジンファンデルで有名なのだそう。

ジェイクさん。めっちゃナイスガイ

そのジンファンデルの特徴は感慨しないドライ・ファーミングにあるそうで、収量は下がるがブドウの質は高まるとのことだった。

非常に印象的だったのは2種のジンファンデルの飲み比べ。ナンシーズ・ヴュー ジンファンデルとベイリー ジンファンデルはいずれも2020ヴィンテージ、似たようなラベルで価格も8500円と同じながら味わいは大違い。

右がナンシーズ・ヴュー、左がベイリー。同VT、同価格ながら味は全然違うのが面白い

ナンシーズのほうはおそらく私が過去飲んだ中でもっともエレガントで、ほぼ間違いなく過去イチおいしいと感じたジンファンデル。ベイリーのほうはジンファンデルらしいジャミー(と、ジェイクさんも形容しておられた)なワインで、こちらも非常においしいのだけど、どちらか選べと言われたら前者。ジンファンデルに8500円払ったらこんな世界が見れる、ということが理解できた。

聞けばキュヴェ名の「ナンシー」はジェイクさんたち兄弟のお母様の名前だそうで、彼女の部屋から見える畑のブドウを使うから「ナンシーズ・ヴュー」なのだそうだ。

母の名前キュヴェは娘の名前キュヴェと並んで絶対にハズレがないの法則の傍証が、また集まる結果となった。

ちなみにラベルに書かれた家はジェイクさんたちのガチ実家だそうで、「ここがおれの部屋!」みたいに教えてくれた。いい話だな〜。

ピーチーキャニオンはマルベックもすごい良かったのだが、1本挙げるならばお母さんキュヴェで、これもこの日のベストワイン候補になった。


試飲会を終えて

この日集まった生産者の方々はいずれも気さくで、めっちゃくちゃフレンドリー。プロモーション目的なんだから当然といえば当然なのだが、その「当然」を上回るほどの情熱で、パソ・ロブレスの魅力、自分たちのワインの魅力を語る姿がとても印象的だった。

生産者や協会の方々。どなたも気さくでフレンドリー

まとめると、
コスパがエグいJロアー
・ジンファンデルが素晴らしすぎるピーチーキャニオン
・“パソ・ブレンド”が魅力のラバンチュール
カベルネがおいしすぎたホープ・ファミリー(推し)
・イタリア品種inカリフォルニアのジョルナータ
といったところか。そしてあえてこの日のベストワインを選ぶならば、オースティン・ホープ・カベルネ・ソーヴィニヨン2021。結局カベルネかよ、となるのだがこれはちょっと特別なやつだと思います。

というわけで、パソ・ロブレスのメディアイベント参加レポートでした。パソ・ロブレスのワイン、個性的でコスパ良く、非常においしいのでみなさんもぜひ。



 

 

 

 

 

ブラインドテイスティング挑戦記【WEEK34】

ブラインドテイスティングWEEK34に臨んで

今週も恵比寿のワインマーケット・パーティでブラインドテイスティングに挑んできた。今週は白2、赤1の構成。白は1杯目が濃いめ、2杯目が薄めという変則編成。

今回私は別の試飲会でしこたま飲んだあとの参戦であり、ちょっともう飲めません酒量的に、みたいな感じでテイスティングしている。なので通常よりもかなり雑なテイスティングになっているがご容赦いただきたい。なあに、私の予想はいつも雑、つまりはいつも通りだ。酔えば酔うほど強くなる、酔拳スタイルで勝負していきたい。

 


 ブラインドテイスティングWEEK34/1杯目

さて1杯目だ。いきなりだが、これはカリフォルニアのシャルドネですよどう考えても。いまカリフォルニアワインの試飲会に行ってきたんだから間違えようがないわけなんですよどうしよう間違えてたら。

黄色味強め、香りはバニラ、味は蜜。非常にシンプルな味わいで、シンプルがゆえの強さが全面に出ている。カリフォルニアのシャルドネだ。

ただ、ブルゴーニュシャルドネ、オーストラリアのシャルドネの可能性は全然ある。全然あるのだが、アルコール感を強く感じる(フランスじゃないっぽい)し、ルイ・ヴィトンではないラルフ・ローレン的なエレガントみもある(オーストラリアじゃないっぽい)のでやっぱりカリフォルニアだ。

というわけで
アメリカ (カリフォルニア)/シャルドネ/2021/14%
と予想した。

 


ブラインドテイスティングWEEK34/2杯目

そしてこれが今回の全然わかんない案件。どう考えてもソーヴィニヨン・ブランにしか思えないんだけどソーヴィニヨン・ブランは先週出てるわけなんですよ。2週連続ソーヴィニヨン・ブランはあるのだろうか。

似た品種はなんだろう。ミュスカデとか、セミヨンとかか。ボルドー・ブランぽい感じはあるので、セミヨンはあるかもしれない。つーかボルドー・ブランがあるかもしれない。

これがワインマーケット・パーティのブラインドじゃなければニュージーランドソーヴィニヨン・ブランって言ってるが、
フランス(ボルドー)/セミヨン/2022/13.5% 
と予想してみたがどうか。

つい先週、「ブラインドテイスティングとは世界にグラスと己しかいない世界でワインと向き合う擬似精神と時の部屋」と書いたような気がしなくもないが、そうはいっても2週連続ソーヴィニヨン・ブランってことはないでしょう。先週と今週の自分は別の人間なので、大いにグラス以外の情報も参照し、セミヨンでファイナルアンサーだ。人間だもの。


ブラインドテイスティングWEEK34/3杯目

そして3杯目なのだがこれはオーストラリアのシラーズですよどう考えても(本日2回目)。

オーストラリア(バロッサ)/シラーズ/2020/14.5%
と予想したのだが他になにがありえるのだろうか。

ベルベット系の濃いめの色調、高いアルコール感、ブルーベリー的な香りと青っぽい葉っぱのような香り。これをユーカリ感ととるのか、ピーマン感ととるのかが運命の分かれ道な気がする。後者であればカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

可能性として残るのはスペインのガルナッチャ。南ローヌ。南アのピノタージュ、カリフォルニアのジンファンデル、プーリアのプリミーティヴォといった、なんですかね、幕の内土俵入り感のあるたっぷりしたワインのみなさんだ。

私は少しのハーブ感があって、少しの黒胡椒感があって、あふれるような果実があった気がしたのでオーストラリアとした。この果実はド王道、バロッサ・シラーズ単独予想だ。


ブラインドテイスティングWEEK34予想を終えて

というわけで今週も予想が出揃った。果たして私の予想は合っているのだろうか? 解答発表後に追記したいと思うので、お楽しみに。

【追記】

さて今週もワインマーケット・パーティ公式SNSで正解が発表された。以下、結果を見ていこう。


ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:1杯目

予想:アメリカ (カリフォルニア)/シャルドネ/2021/14%


正解:アメリカ(カリフォルニア)/シャルドネ/2021/14.5%
 


このブラインドテイスティングの前にカリフォルニアはパソ・ロブレスワインの試飲イベントに行っていた私はいわばパソ・ロブレスから来た男。セントラルコーストのワインは間違えられぬ、というわけで見事正解となった。

銘柄はド定番のカレラ セントラルコースト シャルドネ。アルコール度数を0.5%高く予想しておけばパーフェクトという幸先の良い出だしとなった。

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:2杯目

予想:フランス(ボルドー)/セミヨン/2022/13.5%


正解:オーストラリア(ハンター)/セミヨン/2023/11.5%
 

ボルドーじゃなくてオーストラリア、いわゆるひとつのハンターセミヨンだった。非常に薄い色とソーヴィニヨン・ブランに似た味わいが出たら、今後はハンターセミヨンを疑おうと思う。

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:3杯目

予想:
オーストラリア(バロッサ)/シラーズ/2020/14.5%

正解:南アフリカ(ステレンボッシュ)/カベルネ・ソーヴィニヨン/2020/14%
 

実は第一印象は「カリ(フォルニアの)カベ(ルネ・ソーヴィニヨン)じゃない?」だったんすよ。なのだが、1杯目を「まず間違いなくカリ(フォルニアの)シャル(ドネ)」と断定したことで即座にないと判断、バロッサ・シラーズへと方針転換したのだった。オーストラリアは2杯目だった! 合成の誤謬

ただ、カベルネ・ソーヴィニヨンと回答できていたとしても、国はオーストラリアを選択していたはずで、南アフリカと答えることはなかった。いずれにしても産地は不正解だ。

株式会社マスダ公式サイト内「南アフリカワインとは ⑤ブドウ品種と主な産地」によれば、南アでもっとも栽培面積の大きい赤ワイン用品種はカベルネ・ソーヴィニヨン(12%)で、ピノタージュ(6.5%)のほぼ倍(データは2011年のもの)。

その意味では、南アフリカを代表する赤品種はカベルネ・ソーヴィニヨンなのだ。もっと飲んで特徴をとらえねばならぬ。

というわけで当たったり外れたりの結果だったが、トータルでは12問中5問正解。アルコール度数やヴィンテージもニアミスが多かったことでコツコツ加点できたのか、74名中5位という好結果となった。

これで2位、3位、4位、5位はすべて経験した。あとは1位をとるだけなんだよなあ(調子に乗ってる)。

 

ブラインドテイスティング挑戦記【WEEK33】

ブラインドテイスティングWEEK33に臨んで

今週も恵比寿のワインマーケット・パーティでブラインドテイスティングに挑んできた。今週は白2、赤1の構成だ。

 

 ブラインドテイスティングWEEK33/1杯目

まずは1杯目。色は非常に薄めで、甲州以上、ピノ・グリ未満的なレンジが予想される。

香りはかなり特徴的というか、すごくいい香りがする。森のなかのリゾートホテルのいい感じの部屋に入ったらフルーツの入ったカゴがテーブルに置かれていました、みたいな清涼感&果実のニュアンスが漂う。

飲んでみても印象はそのままで非常に非常にフルーティで、飲みやすい。「フルーティで飲みやすいワインください」と店員さんにオーダーしてこれが出てきたらガッツポーズという味だ。初心者のころはまさにこういう味の白ワインが好きだった。

ただ、グラスの奥にはしっかりとアルコールの核みたいなものがあって、決してすごく軽いわけではない。果実がピアノ、酸がウッドベースでアルコールがドラムみたいな雰囲気。

候補のみなさんに集まっていただくと、
本命 ヴィオニエ
対抗 トロンテス
穴 ゲヴュルツトラミネールとかミュスカとか

みたいな感じ。で、ヴィオニエに非常に後ろ髪を引かれるけれども、今回はミュスカでいきたい。理由ですか? 勘ですね…!

フランス (アルザス)/ミュスカ/2022/12%


ブラインドテイスティングWEEK33/2杯目

続く2杯目も色はどちらかといえば薄め。アロマティック系なんでしょどうせ、みたいな色合いだが香りは1杯目とはまったく異なり、甘やか系列ではなくハーブ系だ。アルコールもしっかり感じられ、味わいの主体は酸。え、なにこれ。全然わかんない。

後味に少しの甘さがあってわずかにペトロール的な香りがするようなしないような。リースリングと答えたくなるけど先週出たしなリースリング。冷静に考えるとリースリングにしては粘性が弱い感じがする。

すっきりした酸がありつつ、あとあじには残り香程度の甘みもあって、印象はとても明るい。というわけでこれはヨーロッパの南のほうのワインなんじゃないすかね。スペインとかポルトガルとか。

となるとなんだろう。アルバリーニョはあるかもしれない。言われてみるとほんのわずかな塩味もある気がするし。海が見えるような気がしなくもない味だ。

ただ怖いのはソーヴィニヨン・ブランの可能性も普通にあること。ソーヴィニヨン・ブランは絶対に外してはダメなのでソーヴィニヨン・ブランと書きたい、という、テイスティングとは一切関係のない自分の弱い心との戦い、みたいになる。

あ、あとシャブリって言われても納得する。どうしようシャブリだったら。アリゴテ……いや、アリゴテのことは忘れる。アリゴテなんていない。

というわけで、
スペイン(リアス・バイシャス)/アルバリーニョ/2022/12.5% と予想した。

 

ブラインドテイスティングWEEK33/3杯目

今日唯一の赤のグラスはやや濃いめの赤紫色。グラスのふちはわずかにレンガ色に変化していて、ほんのちょっと、目元の小じわレベルで熟成してる感じがする。

でもって香りはうーんこれはかなり特徴的だ。もちろん果実があって、石とか下草みたいな感じがあってと赤ワインの基本的な香りがしつつなのだが、私の鼻には海苔の佃煮と感じる香りが届く。

なんでも、ジメチルスルフィドなる物質はワインに含まれる場合があり、それは海苔の香りを放つのだそうだ。そのジネチルナントカの仕業なのだろうか…?

一旦海苔のことは忘れて考えると、液体は非常にやわらかく、渋み、酸味は穏やか。そして果実もちゃんといてとても飲みやすい。スパイスを効かせた牛すね肉の煮込みとか、そういう料理と合わせておいしそう。海苔とか言っといてなんだがとてもおいしいワインだ。

といった特徴から判断するとメルローなんですよこれ。メルローって海苔の香りする……? 

他の候補はマルベック(先週出題)、カルメネールなど。カルメネールと迷うという一点から、産地はチリに決めた。アルコールもしっかりとあると思う。

チリ(セントラルヴァレー)/メルロー/2018/14.5%

 

ブラインドテイスティングWEEK予想を終えて

というわけで今週も予想が出揃った。果たして私の予想は合っているのだろうか? 解答発表後に追記したいと思うので、お楽しみに。

 

【追記】

さて今週もワインマーケット・パーティ公式SNSで正解が発表された。以下、結果を見ていこう。

 

ブラインドテイスティングWEEK33 / 正解発表:1杯目

予想:フランス (アルザス)/ミュスカ/2022/12%

正解:日本(北海道)/ケルナー/2021/12.5%
 


ケルナーーーー!!!(突っ伏して拳で地面を叩きながら)

いつか必ず出題されるであろう品種であり、そのときは必ず当てたいと思っていた品種だったが見事に外した。薄めの色、森の中の清涼感、フルーツの甘やかさ、飲みやすさ、酸、すべてがケルナーを指している言われてみればだけど。

ちなみに正解ワインはグランポレール 余市ケルナー2021。Amazonでは送料込みでタイミング次第では2000円を切るワインだが、このワインは素晴らしい。ワイン初心者が求めるケースの多い「フルーティで飲みやすいワイン」のド真ん中の味わいなので、そういうのを求める方は迷わずこれを選んでください。

 

ブラインドテイスティングWEEK33 正解発表:2杯目

予想:スペイン(リアス・バイシャス)/アルバリーニョ/2022/12.5%


正解:ニュージーランドマールボロ)/ソーヴィニヨン・ブラン/2022/12%
 

ソーーーーーーーーヴィニヨン・ブラン! また外した!

ソーヴィニヨン・ブランは「出題すると8割が正解する品種」であり、今回も65名中49名が正解されたそうだが私はこの品種を2連続で外しています。

なぜ私はソーヴィニヨン・ブランを正解できないのか。答えは簡単だ。「ソーヴィニヨン・ブランと書いて外したら恥ずかしいから」である。つまり自意識! 不惑を超えて、私はまだ自意識と戦っている!

さらに、「沼田店長がそう簡単にソーヴィニヨン・ブランとか出さないっしょ」という文脈テイスティングも調味料的にそこに加わる。まさに自縄自縛! 飛ばない豚はただの豚! 目の前のグラスに向き合わぬ者に勝利は訪れないんですよ!

 

ブラインドテイスティングWEEK33  / 正解発表:3杯目

予想:チリ(セントラルヴァレー)/メルロー/2018/14.5%

正解:フランス(ローヌ)/グルナッシュ&シラー/2015/14.5%

というわけで今回絶対に当てたかった品種を素で外し、外してはいけない品種をグラスと向き合わないことで外して私はリアス・バイシャスの海よりも深く反省している。3杯目もあれですよ。予想が旧世界、旧世界だったので最後のは新世界だろうみたいなうがった見方をした結果の不正解なんすよ。

ブラインドテイスティングとは世界にグラスと己しかいない世界でワインと向き合う擬似精神と時の部屋でありほぼ座禅なんですよ。色即葡萄酒なんですよ。思わざればソーヴィニヨン・ブランなり、思えばソーヴィニヨン・ブランならざりきってたしか世阿弥も言ってた。

今回は箸にも棒にもかからない12問中正解2問のみという惨憺たる結果となった。負けに不思議の負けなしとはまさにこのこと。大いに反省し、次回巻き返しを図りたい。



 

ソムリエが選んだワインを醸造家が解説! 「学べるワイン会」レポート

「学べるワイン会」やってみた

醸造家・Nagiさん、ソムリエ・沼田店長、そして私の同世代三人組で、「学べるワイン会」なるイベントを企画・実施したのでレポートしたい。

場所は田原町駅すぐの101。30名近い人数でワイン会ができて、いろいろ融通を効かせてくれる大変ありがたい場所だ。

用意したワインは10種類。それを5つのテーマに沿って2杯ずつ比較テイスティングしていくというのが会の趣旨だ。そのテーマが以下のようなものになる。

テーマ出しとワインの選定・調達が沼田店長。各テーマごとの解説がNagiさんとそれぞれの専門領域を出し合っての開催。ちなみに私・ヒマワインの専門領域は雑用だ。

というわけで、さっそく5テーマの内容をそれぞれ見ていこう。

 

【テーマ1】シャンパーニュのドザージュ違いを学ぶ

まず、乾杯を兼ねてシャンパーニュのドザージュ(糖分添加)違いを飲み比べた。

テタンジェ ブリュット レゼルヴとテタンジェ ドゥミ・セックを飲み比べたのだが、この2杯がすごいのはドザージュ以外の要素はすべて同じということ。いわば同じワインの糖分添加量だけが違うというわけだ。

ここで面白かったのは「色」。違うのは糖分添加量だけのはずだが、ドゥミ・セックのほうが明らかに色が濃い。

「糖分添加によって光の屈折率が変わっている可能性はあります。また、使っているのが白いお砂糖なのか、濃縮果汁なのかといったことも影響しているかもしれません。ドイツではゼクトアイスワインを添加したりすることもありますから」とNagiさん。いきなり勉強になる。

 

【テーマ2】ブラインドテイスティング

続いては「Nagiさんからの挑戦状」と題し、Nagiさんがドイツからハンドキャリーしてきた2種類のワインをブラインドで飲んだ。

透明な液体、りんごの蜜の部分だけを集めてお酒にしたような透明な甘やかさ、シャープな酸にブドウそのものが概念化したようなピュアな果実感。そしてペトロール香のなさ。過去何度も飲ませてもらったNagiさんが造るリースリングの特徴が両者ともに出ている気がするのだが、なにが違うのだろうか?

ヴィンテージ? 糖分量? SO2添加の有無? 畑の標高? 畑の斜度では!? とさまざまな意見が出たが、正解は土壌違い。1杯は緑色粘板岩、もう1杯は赤色粘板岩土壌のワインだった。

土壌が違うとなにが違うのかといえば、この場合赤色粘板岩土壌のほうが地温が高く、それによってブドウの成熟に差が出るのだとNagiさん。そして、結果として酸も、糖度も、エキス量も、なにもかもに変化が生じる。

「土壌が違うから味が違う」とNagiさんは決して言わない。「土壌が異なるとXXに変化が生じ、それにより〜」と、原因と結果をセットで説明してくれるのだ。

われわれはつい「ドイツの、ナーエの赤色粘板岩土壌だからこの味になるんだね」と浅い理解をしてしまいがちだがさにあらずで、実際はこの土地のこの年の栽培条件を工場内で人工的に再現できれば理論上は同じ味のものは造れる。

もちろんそれは実際には不可能だろうが、「この土地だからこの味だ」と思考停止せずに、「なんでこの味なのか?」を重ねて問うほうが健全だと私なんかは思うんすけど皆様いかがでしょうか。

2020ヴィンテージはNagiさんが前職であるプリンツザルムで醸造を担当するようになった初年度の作品。「まだ技術的に足りてない」とのことだったが、どちらも前述の通りとてもキレイでおいしいワインだった。

NagiさんとやってるYouTube。ぜひご覧ください↓

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【テーマ3】フィルターをかけるとワインはどうなる? を学ぶ

さて、テーマ3はオレンジワインのフィルターあり/なしの比較テイスティング。使われたのはイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の生産者ボルゴ・サヴァイアンの「アランサット」。品種はソーヴィニヨン・ブラン85%とピノ・グリ15%。

 

 

フィルターをかけるか、かけないかで味はどう違うのか。沼田店長は「前者は飴、後者は綿菓子」と表現していたが、フィルターをかけたほうは輪郭がはっきりしていて滑らか、ノンフィルターは少しの粉っぽさがあって味わいも複雑さがあるように感じる。

会場で挙手でアンケートをとってみると、おおよそ4:6でノンフィルターのほうが人気だった。私もどちらかというとノンフィルターのほうが好み。

Nagiさん自身が造るワインはボトリングまでに3回ほどフィルターをかけるという。その理由はすごくシンプルで、「フィルターで除去できるものはブドウ由来でない物質だけだから」とのこと。

それはなにかといえばブドウに付着した異物や雑菌などの微生物。それらを取り除くことで、ワインは安定した状態となり、劣化を防ぐことができる。

このあたりはNagiさんの専門領域。「さすがに2ミクロンのフィルターをかけると味わいまで変化してしまうのでそこまではかけませんが……」というウルトラマニアックなフィルター論に突入しかけていた。ワイン造りはミクロの世界ですなあ。

フィルター論を浴びたい方はこちら↓

www.youtube.com

 

【テーマ4】ワイルドナチュラルとクリーンナチュラルを比較!

あっという間に会は進み、テーマ4はクリーンナチュラルとワイルドナチュラルの違い。

沼田店長いわく「自然派」ブームはSO2未添加で人的介入も極力減らしたワイルドナチュラルが主流の時代から。最低限のSO2添加をほどこしてネガティブな要素を排除したクリーンナチュラルが主流の時代に移行しつつあるという。

Nagiさんいわく、自然派の条件は100%健全果+SO2無添加。100%(99.9%でなく)健全果、というのは素人目にもなかなか厳しい条件なのでは? という気がする。ナチュラルワイン造りは大変だ。

グラスに注がれたワインから違和感を覚えるような香りがする場合、それはワインの中身が微生物汚染されているのかもしれない。SO2やフィルターを用いない場合、微生物からワインを守る手段は存在せず、そして自然界は微生物でいっぱいだ。

用意された2杯のワイン(ドメーヌ・デ・ザコル グリフとテスタロンガ ベイビー バンディード フォローユアドリーム)の品種はどちらもカリニャン。しかし、色味はかなり異なり、ワイルドナチュラル代表の前者は濃い紫、クリーンナチュラル代表の後者は淡いピンクパープルで、少し濁りもある。

前者はかなり特徴的な、自然派だなあ、という香りがする。この香りを良しとするかしないかはもちろん個人の好みだが、私はどちらかというとクラシックな造りのワインが好きだなと改めて感じたりしたのだった。

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【テーマ5】スクリューキャップは熟成するのか?

さて、最後のテーマは「スクリューキャップのワインは熟成するのか?」。沼田店長いわく、フランク・マサールは96年にイギリスのソムリエコンテストで優勝したソムリエで、その後スペインに渡ってワイン造りに転じたという人物。

どちらもスクリューキャップで栓がされたガルナッチャ「テッラ・アルタ エル・マゴ」の2014と2021を比較したのだが、熟成するのかしないのかという話でいうと「する」が結論だったと思う。

2014は色が紫から赤褐色っぽく変化しており、味わいも丸みを帯びてやわらかく、いい熟成とはまさにこのこと、というサクサスエイジング具合。では、空気を通さないはずのスクリューキャップでなぜこのような熟成が進むのだろうか?

Nagiさんによれば、スクリューキャップであってもヘッドスペース(液面とコルクの間、この場合液面とスクリューキャップ上部との間の空間)には酸素があり、それによって非常にゆっくり酸化は進む。

また、スクリューキャップ内部のライナーと呼ばれる部分は樹脂製であり、樹脂は空気をわずかながら透過することも影響している可能性があるとのこと。学びが深い。

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ドメーヌ・ユイの2種のワインもテイスティング

というわけで5種のテイスティングが終了したのだが、実はこの会場には北海道余市町の人気生産者、ドメーヌ・ユイの杉山哲哉さんが遊びに来てくれており、ドメーヌ・ユイの貴重なワインを2種提供していただいた。

1種はピノ・ノワールシャルドネピノ・グリを混醸したというワイン「A ルージュ 2023」、そしてもう1種がリリース予定なしという超貴重キュヴェである貴腐ピノ・ノワールを使った白ワイン「A3+2+1 ブラン・ド・ノワール2023」だ。

私はもともとドメーヌ・ユイのファン(今も春に飲むようにセラーに2本保管してある)。サプライズでこんな貴重ワインがいただけるなんて本当に嬉しい。

「A ルージュ 2023」はここまでのクリーンナチュラルの話題に沿うようなキレイな造りの混醸赤ワイン。ピノ・ノワールシャルドネがうまく調和し、ピノ・グリがアクセントとなることで滑らか。フルーツ王国・余市の材料の良さを思わせる味わいとなっていた。

「A3+2+1 ブラン・ド・ノワール2023」は、現在の日本の、というか北海道ワインのトレンドど真ん中、と言っていいような味わい。リリース予定のない幻のワインなので、この日飲めた方は私を含めて非常にラッキーだ。

杉山さんがなぜこの会に来てくれたかといえば、面識のなかったNagiさんにワインを飲ませて忌憚なき意見を述べてもらうためだったそう。すでに人気生産者でありながらこの勉強熱心さがすごいし尊敬すべきこと。ドメーヌ・ユイのワイン、これからもっともっとおいしくなっていくに違いありませんよ、みなさん。

 

学べるワイン会vol.1を終えて

というわけで、5種10本の予定が6種12本となった怒涛のテイスティング祭りからの生産者、専門家、愛好家、初心者の方、みんな入り混じっての雑談タイムまで、3時間は一瞬で過ぎた。(二次会では沼田店長セレクトのこれまた素晴らしいワインを6種いただいた)

ワイン好きならば「今目の前にあるグラスは、なぜこんな味なんだろう?」と思わない人はいないだろう。土壌か、ヴィンテージか、SO2添加量か。いったいなにが「違い」を生み出すのか?

その疑問の手がかりとなるような6種12杯を通じて、ワインという不思議な液体への理解が深まる夜となったのだった。もちろん全体像は見えない。でも、ワインというこの素晴らしい世界は、その一部の解像度が高まるだけでもより大きな魅力を感じさせてくれるものだ。

お越しいただいた皆様ありがとうございました。また次回、学べるワイン会VOL.2でお会いしましょう!

himawine.hatenablog.com

 

 

ブラインドテイスティング挑戦記【WEEK32】

ブラインドテイスティングWEEK32に臨んで

今週も恵比寿のワインマーケット・パーティでブラインドテイスティングに挑んできた。今週は白、赤、赤の構成だ。

ここ4週の私は確変モード。なんと2位→圏外→4位→3位ととんでもない好成績が続いており、「ヒマワイン、実力を隠していた…?」という説がささやかれているとかいないとか。なあに、隠してなどいない。今の成績は、断言しよう、たまたまだ!

というわけで今週も気楽に挑戦していこう。

 

 ブラインドテイスティングWEEK32/1杯目

さて、まずは1杯目の白から。外観はかなり色薄めのイエロー。甲州リースリングの中間くらいの印象を受ける。

香りはかなりシンプルにレモンで、味わいもリンゴ酢みたいなシャープな酸味が主体。こりゃあれですよ。イワシの酢漬けとかにめっちゃ合うやつ。

イワシっていうとどこだろう。シチリアとか、サルディーニャとかか。そこのさっぱりした白ワインっていうと……ヴェルメンティーノとか?

海に面した島のレストランで強い陽射しをパラソルで遮りながら、魚介料理に舌鼓を打ちつつクーラーでよく冷やされたこれを飲んだらさぞかしうまいだろうな、みたいな味だ。ハーブをたっぷり使ったスカンピのパスタとか合いそう。

あとの有力候補はわりと唐突にシュナン・ブラン。違うと信じたいが、ソーヴィニヨン・ブランリースリングも一応候補だ。ただ、どれも決め手に欠ける。

ならば第一印象でいっちゃおう!

 イタリア(サルデーニャ)/ヴェルメンティーノ/2022/12.5%


と予想。オーソドックスな品種がふたつに難問がひとつ組み合わされるのが #パーティブラインド の基本形。今回の「難問」はこれだと判断した。

 

ブラインドテイスティングWEEK32/2杯目

続いて2杯目。色合いは赤と紫の中間で、濃さ的には中間からやや薄め。粘性もあんまり高くない感じ。

一瞬マスカット・ベーリーA的キャンディ的香りがふわりと漂った気がしたんだけどそれもあるような、ないような。飲んでみると意外としっかり渋みがあり、軽い感じではなく、酸もそこそこ、果実もそこそこ。特徴つかめないなあなた!

つかめたのはわずかなキャンディ香(仮)だけ。それを手がかりにするならば選択肢はマスカット・ベーリーAとちょい熟ボジョレー・ヌーヴォーくらいだろうか。

これはもう全然わからないので徹底的に樽でキャンディをマスクしたベーリーAと予想した。ダイヤモンド酒造とか、そういうイメージ! これでピノ・ノワールだったら悲しいが、あり得る。あとはなんだろう、ガルナッチャとか…?

ともかく

日本(山梨)/マスカット・ベーリーA/2022/12% 

と予想した。


 

ブラインドテイスティングWEEK32/3杯目

3杯目はバチバチに濃い紫色。香りは革・獣といった非・食品系。味わいは渋みとアルコール感が強くて果実がそれを下支えするディープパープルな味。

テンプラニーリョ、が第一印象なんだけどテンプラにしては紫すぎる。ここまで紫一色ならばマルベックか。マルベックは全然あり得る。

ゲイミーな香りっていうんですかねこういうの。「猟鳥獣の香り」っていうやつ。肉にしか合いません私、と主張してくるこの感じはどこか南米大陸感がある。アルゼンチンのマルベックか、チリのカルメネールか、ウルグアイのタナか……。

ちなみに世界の牛肉消費量、2位がアルゼンチン、1位がウルグアイ。でもウルグアイのタナってことはないだろうさすがに! タナを棚に上げて(あっ)アルゼンチンで行ってみたいと思います。

アルゼンチン(メンドーサ)/マルベック/2018/14%

こう予想した。

 

ブラインドテイスティングWEEK32の予想を終えて

あれ、私、名前書き忘れてないよね…?

というわけで今週も予想が出揃った。果たして私の予想は合っているのだろうか? 解答発表後に追記したいと思うので、お楽しみに。ちなみに今週ガチで正解0問がありえます…!

 

追記

というわけで今週も公式SNSより正解が発表された。さっそく答え合わせいってみよう。

 

ブラインドテイスティングWEEK32 / 正解発表:1杯目

予想:イタリア(サルデーニャ)/ヴェルメンティーノ/2022/12.5%


正解:オーストラリア(南オーストラリア)/リースリング/2022/11.5%

ここで先週の私の1杯目の予想を振り返っておこう。以下だ。

予想:オーストラリア (南オーストラリア州)/リースリング/2022/13%

おわかりだろうか? そう、先週だったら正解だったのだ。恵比寿ガーデンプレイスに発生した時空のねじれにより、おそらく先週の私はグラスを通じて今週のワインを飲んでおり、それでこのような回答をしたと思われる。そういうこともあるわけなんですよ量子揺らぐアインシュタイン的ブラインド空間ではきっと。というわけで完全なる不正解だった。

 

ブラインドテイスティングWEEK32 / 正解発表:2杯目

予想:日本(山梨)/マスカット・ベーリーA/2022/12%


正解:フランス(ブルゴーニュ)/ガメイ/2022/13.5%

はい痛恨・オブ・ザ・ウィーク。ブラインドテイスティングをしているとしばしば起こる、魂はガメイだと言っているにも関わらず手がマスカットベーリーAって書いちゃうやつ。ばかっ、おれの手! めっ!

今回の学びは、これが熟成ボジョレー ヌーヴォーではなく普通のクリュ・ボジョレー(サンタムール)だったという点。クリュ・ボジョレーのガメイにもキャンディ感はあるのだ。

そして産地はサンタムール。聖なる愛ね。バレンタインデーが近いということで、沼田店長がしばしばやるきまぐれ季節もの出題なのであった。メタ読みも甘かった…!

 

ブラインドテイスティングWEEK32 / 正解発表:3杯目

予想:アルゼンチン(メンドーサ)/マルベック/2019/14%


正解:アルゼンチン(メンドーサ)/マルベック/2022/14.9%

3問目はうまいこと正解だった。正解だと書くことが別にないんですよ本当に。やったぜ、ピース! くらいしか書くことがない。ここでの反省点はヴィンテージを2019と中途半端に予想していること。あれだけ青みがかった紫色、ヴィンテージは若いと判断するのが定石のはず。反省だ。

というわけで今週は4問正解という結果となった。ランキング的にはもちろん圏外(定位置)。これに懲りず、また来週もがんばっていきたい次第だ。みなさんも、 #パーティブラインド ご一緒しませんか?

 

314600円分のワインが入って231000円のエノテカ21周年福袋↓