ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ブラインドテイスティング挑戦記【WEEK36】

ブラインドテイスティングWEEK36に臨んで

今週も恵比寿のワインマーケット・パーティでブラインドテイスティングに挑んできた。今週は白1、赤2の構成だ。ちなみに今回19時過ぎに挑戦したので時間がまったくないなかでの執筆。乱文・乱筆ご容赦いただきたい。

 

ブラインドテイスティングWEEK36/1杯目

色は薄め、少し緑がかったように見えるイエローで、香りはかなりさわやか。

飲んだ印象は非常に高い酸。果実味もたっぷりあって、あとあじに少しの苦味がある。

いやこれ第一印象はソーヴィニヨン・ブランだな。あとはグリューナー・フェルトリーナーか。シュナン・ブランもありそうだ。ヴィオニエもありそう。

で、私は過去2回連続でもっとも当てやすいと言われるソーヴィニヨン・ブランを外している者なんですよ。もう外せないんですよ。だからこそ怖いんだよソーヴィニヨン・ブランと書くのが!

というわけで(怖いので)ロワール行ってきます。

フランス(ロワール)/シュナン・ブラン/2022/12%

 

ブラインドテイスティングWEEK36/2杯目

2杯目は一転、明るめ紫に甘めの味わい。あとあじに少しタバコ。でもって私は先週カリフォルニアのピノ・ノワールをプリミティーヴォと断言した者なんですよ。

2週連続でプリミティーヴォと回答し切ることが私にできるだろうか。それともチリのカベルネ・ソーヴィニヨン、オーストラリアのシラーズ、南アのピノタージュあたりと答えるべきか。

野菜っぽさがないのでカベソーでなく、スパイスがいないように感じるのでシラーズではなく、なんとなくピノタージュでない!

というわけでこれだ!

アメリカ(カリフォルニア)/ジンファンデル/2020/14%

と予想した。

 

ブラインドテイスティングWEEK36/3杯目

3杯目はブドウを絞ってそのまま置いておきましたといった印象の暗い紫色の液体。香りが弱いというよりもなんていうんですかね、全体的に寝てるというか、シーンとしてる。

味わいもすごくなんというか、垂直の壁のように足掛かりがない。おしいくないわけではなく、ちゃんとおいしいワインなのだが、なんというか凹凸がない。

いやこれなんだろう。ほんとにさっぱりわからない。新世界ではないだろう。カベルネ・ソーヴィニヨンメルロー、といったなんだかんだで根は陽気みたいやつらじゃない気がする。

テンプラ…? テンプラってこんなに紫だっけ。でもイタリアではないと思うんすよ。フランスだとするとマルベックとかタナとかなんだけど先週私はウルグアイのタナと回答してド外ししている者。先週の自分が! 今週の自分を苦しめる!

これテンプラじゃないよ、どう考えても。と私の中の良識が言うので、
フランス(カオール)/マルベック/2018/14.5%
と、ひとまず予想しておこう。

 

ブラインドテイスティングWEEK36の予想を終えて

というわけで今週も予想が出揃った。果たして私の予想は合っているのだろうか? 解答発表後に追記したいと思うので、お楽しみに。

 

【追記】

さて今週もワインマーケット・パーティ公式SNSで正解が発表された。以下、結果を見ていこう。


ブラインドテイスティングWEEK36 / 正解発表:1杯目

予想:
フランス(ロワール)/シュナン・ブラン/2022/12%

正解:フランス(ロワール)/ソーヴィニヨン・ブラン/2022/12.5%

はい、というわけで3回連続ソーヴィニヨン・ブランを外すという結果になった。品種以外ほぼパーフェクトなのは喜ばしいことなのだが、

>いやこれ第一印象はソーヴィニヨン・ブランだな。

って書いてるわけなんですよ自分の馬鹿っ。もっとも当てやすい品種であるソーヴィニヨン・ブランを3回連続で外した男のブラインドテイスティング挑戦記、引き続き楽しんでいただければ幸甚である。


ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:2杯目

予想:
アメリカ(カリフォルニア)/ジンファンデル/2020/14%
正解:アメリカ(カリフォルニア)/ジンファンデル/2022/14%

2杯目はしっかり正解。先週ピノ・ノワールをプリミティーヴォと書いて外したのと同じ味筋のワイン。今度はしっかり仕留めることができて、簡単な問題ではあったと思うけどそれでも会心の回答ができた。やったぜ。

ここまでで5項目的中。ソーヴィニヨン・ブランは外したけれど、意外と上位進出も可能性としてはある感じだ。しかしこのあと悲劇が訪れる。

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:3杯目

予想:
フランス(カオール)/マルベック/2018/14.5%
正解:ウルグアイモンテビデオ)/タナ/2021/14%

ここで先週の私の3問目の回答を見てみよう。

予想:ウルグアイ(カネロネス)/タナ/2022/14%

はい正解! 先週の自分、お見事、大正解!そして今週の自分はかすりもしてません、ざまあ!

1問目は「いくらなんでも最近ソーヴィニヨン・ブラン出すぎでしょ」という理由で外し、3問目は「いくらなんでも先週書いて外したタナは書けないよな」という理由で外した。

ここで、発売直後から早くも名著という評価が広がっているブラインド王・鈴木明人さんの『WINE ブラインドテイスティングの教科書』から一節を引用することをお許し願おう。

(前略)なぜなら何としても正答したいという思いが強くなればなるほどバイアスが生じやすいからです。バイアスに苛まれるとワインに目が向かなくなり、ワインの出題者のほうに目が行ったり過去の出題を考えたりします。ワインから目を背けた瞬間勝負は終わっています(太字は引用者)

戦場で目の前に迫り来る弾丸を前に、「あれ、この弾丸って先週見たやつと同じじゃね?」とか言ってたら待っているのは死である。目の前にあるグラス、そこに虚心坦懐向き合わなければ勝負にならないんだよっ!

ただ、実は今週は読みの方向性としては個人的にはかなり良かったという実感がある。文脈負けはしたけれども、ブラインドテイスティングに通うこと36週、自分なりの判断基準みたいなのはできてきた気がする。闘志が湧いてきたぞ。そんなわけでみんなで行こうよ、#パーティブラインド 。

そしてみんなで買おう、鈴木明人さんの本。ブラインドやらない人にもめちゃくちゃオススメできる、ワインのことを網羅的に知ることができるガチ良著だと思います。

 

 

 

アキコ・フリーマンさんにリリース前の「最新キュヴェ」について聞いてきた

アキコ・フリーマンさんとの再会

アキコ・フリーマンさんは、米国留学時に夫であるケンさんと運命的に出会い、現在はカリフォルニアでワインメーカーとして大活躍している女性だ。

エスト・ソノマ・コーストという冷涼な地域の気候をうまく活かしたそのワインはバラク・オバマ大統領と安倍晋三首相の公式晩餐会でも使われている。すごい人なのだ。

このアキコさん、最近なんと叙勲までされている(令和5年度農事功労者として緑白綬有功章を授与)。勲章ですよ勲章。米国在住のため現地領事館で受け取ったらしいのだが、もし日本にいたら秋篠宮から勲章を授与されるとかそういうレベルだったのだそうだ。小学校時代「歯が丈夫だ」という理由で表彰されて以来表彰された記憶がない私には想像もつかない世界である。

ともかく、そんなすごいアキコさんと昨年知遇を得、ワインは素晴らしいしお話は面白いしお人柄は最高に魅力的だしですっかりファンになってしまったのだった。

そのときの話がこちら↓

himawine.hatenablog.com

それから1年弱。ふたたび来日されたアキコさんにまた会える機会をいただいたのでお前は忠犬かなにかか、という勢いで馳せ参じてきたのでレポートしたい。

 

フリーマン ユーキエステート ロゼ ブリュット 2021

さて、この日の会食のテーマは近況報告と、新しいワインのお披露目。マンダリンオリエンタル37階の中華料理「センス」を会場に、5名という少人数での会となった。お招きいただき光栄にもほどがある。

「センス」のお料理も紹介しながらいこう。まずは蒸し点心。エビの甘みがロゼによく合った

乾杯は昨年2020ヴィンテージをいただいたフリーマン ユーキエステート ロゼ ブリュットの2021ヴィンテージだ。

ユーキエステート ロゼ ブリュット2020は、カリフォルニアで発生した大規模な山火事の影響で生まれたキュヴェ。虎の子のブドウが煙に巻かれるのは必定という状況でやむをえず早摘みし、仕方なくロゼ泡として仕込んだというエピソードがある。

ところが瓢箪から駒とはまさにこのこと、造ってみたらこれが好評。アキコさんいわく火事もなく「平和な年」だった2021年も引き続き造ることになった。今目の前に置かれているのが、その2021ヴィンテージだ。

最初私は、「2020ヴィンテージの熟成が1年進んだものかな?」と感じた。味わいにまとまりがあり、液体のエッジに丸みがあり、それでいて中心に味わいの核のようなものがある。親しみやすいが複雑で、果実と酸が背中合わせに同居している。

スルスル入ってくる、アペリティフに最高の味

なんでも20ヴィンテージでは、醸造の過程でワインから色がなくなってしまい(酒石に色がくっついて、落ちてしまったそうだ)、スティルのピノ・ノワールを足しているのだそう。その反省から21ヴィンテージは絞ってすぐにジュースをとらず3時間くらいプレス機のなかに置いておき、色味を出している。

余談だが、アキコさんいわくシャンパーニュの造り手のなかには「玉ねぎの皮色が一番美しい」という人もいるのだそうだ。玉ねぎの皮色ってとてもいい表現だと思うが、アキコさんが求めているのはオレンジ感がない桜の花のような薄いピンク。

京鴨と芽ねぎのダックロール。ロゼは野菜にも、甲殻類にも、お肉にも合う万能選手だと思わされる。キュウリや揚げパンのクリスピーな食感が楽しい素晴らしい味

二次発酵時の砂糖添加は、アキコさん自らお菓子作りのときに使うステンレスの「ふるい(握ると砂糖が落ちるやつ)」を使い、手作業でシャカシャカとふるって入れるのだという。東京の高級ホテルでお会いするエレガントモードのアキコさんが現地ではタンクの上でシャカシャカ砂糖をふるっているの、想像できないようでなぜかできるから不思議だ。

こういうのかな…?

2020と2021の造りの違いをヒアリングしたなかでまとめると以下のようになると思う。

【2020】
シャルドネの熟成に使った樽を使用
・山火事の煙が来ていたのでBrix16.5で収穫
・絞ってすぐにジュースに
・赤ワインで色味調整

【2021】
ピノ・ノワールの熟成に使った樽を使用
・余裕を持ってBrix17で収穫
・絞って3時間醸し
・色味調整なし

ざっとこのような違いがもたらした味の違い、個人的にとても興味深かった。

現行VTは2020↓

 

フリーマン 光風(KO-FU)リースリング 2022

続く2杯目だが、なんと本邦未公開・アメリカでも発売前のキュヴェを飲ませていただくことができた。それが「光風(KO-FU) リースリング 2022」。

光風リースリング。保管場所の都合もあってボトルはブルゴーニュ型を流用とのこと

Weblio辞書によれば、光風とは「晴れあがった春の日にさわやかに吹く風。また、雨あがりに、草木の間を吹き渡る風。」とある。ウエストソノマコーストは風が強く吹く場所。その土地の木々の間を吹く風をイメージし、そう名づけられたのだそうだ。

ちなみに、オバマ大統領と安倍首相の晩餐会で供されたのは「涼風(RYO-FU) シャルドネ」。涼風は日本の四季を72に分けた「七十二候」の37番目「涼風至(すずかぜいたる)」から名付けたのだそうだ。アキコさん、造るワインはエレガントだがセンスはみやびで風流だ。

このワインは「ロス・コブさんの畑からもらったブドウ」なのだそう。コブといえばフリーマンと同じウエストソノマコーストを代表する生産者の一人で、造るワインは極エレガント。めちゃくちゃうまい。その自社畑・アビゲルはフリーマンの「お向かいの畑」なのだそう。

このワインには誕生秘話がある。アキコさんはスパイシーなものが好きで、フリーマン家の食卓にはナンプラーやチリペッパーを使ったエスニック料理がよく並ぶのだそう。ところがこれが自社醸造ピノ・ノワールに合わない。しかたなく、アルザスなどのリースリングを買って飲んでいた。

お坊さんが塀を跳躍してまで飲みに来たことで命名されたという「仏跳牆(ぶっちょうしょう、フォーティャオチァン)」。たらばがに、あわび、すっぽん、きぬがさだけ、貝柱、つぶ貝などが入った凄まじいスープ。調味料は塩すら使っていない!

そして、アキコさんが出張で留守をしている間に事件は起こる。夫・ケンさんがロス・コブさんと話をつけ、リースリングを1トン分けてもらうことを決めてしまったのだ。

話の行間から察するに、おそらくこれ、ケンさんからアキコさんへのプレゼントみたいな意味合いなんだと思われる。アキコさんの好きなエスニックに合うワインになるブドウを、夫が妻に送った構図だ。造るのはアキコさんだが……!

妻が飲みたいといったから、プレゼントはリースリング(1トン)。聞けば「ハッピーワイフ、ハッピーライフ」が夫・ケンさんの口癖なのだそうだ。妻の夫であるみなさん、友よ、心のメモ帳に彫刻刀で刻んでおいてくださいね。

全日本最優秀ソムリエの野坂昭彦さんにサーヴィスしていただいた。「酸が貴重の味わいなので、少し冷やしめで」とサーヴしてくれた

ステンレス発酵ではなくシャルドネを熟成させていた60ガロン(225リットル)の樽を使用して発酵・熟成を行うことで過度に還元的にならないようしているという薄い金色の液体からはレモンのような蜜のような華やかな香りが漂い、石油的な香りことペトロール香はほとんどゼロ。

トロールは「ありかなきか」のところを狙ったのだそうで、リースリングは好きだけど、「石油を飲んでみるみたいな気分になる」リースリングはちょっとね、というアキコさん好みの香りのようだ。

蝦夷鮑のオイスターソース煮込み。ものすごい柔らかさと味の深さ。リースリングに甘みを足して、見事なペアリングだった

そして飲むと酸がピシーッとシャープな厳格な造り。突然ポエムを繰り出すと、冬の朝、天窓から差し込む光に照らされながら石造りの床に跪いて祈りを捧げる修道士、みたいなイメージが湧く。冷たく、真摯で、どこか人間味に溢れている。

アキコさんは「酸フェチ」なのだそうで、地元のリースリング仲間(がいるらしい)からは「そうそうこれこれ!」的な歓迎のされ方をしているという。酸フェチのみなさん、まもなくアメリカから嗜好にブッ刺さるリースリングがやってきますよ…!

 

フリーマン アキコズ・キュヴェ ウエストソノマコースト 2021

さて、いよいよ最後のキュヴェが登場している。「アキコズ・キュヴェ ウエストソノマコースト 2021」で、これがちょっと圧巻のピノ・ノワールだった。

アキコズ・キュヴェ。バレルセレクションのためAVAは年によって変わるそう。2021はウエストソノマコーストAVA。アキコさんいわく「まだ若い」そうで、「人もワインも枯れはじめてから」とのことだった

フリーマンでは、1回の収穫で200樽分くらいのピノ・ノワールができる。それらを全部試飲して、まず15樽を選抜。

その15樽のワインを用い、アキコさん、ケンさん、アキコさんの師匠であるエド・カーツマンさん、そしてワイナリーのスタッフらがそれぞれ独自にブレンドを行い、ブラインドで飲み比べ、一等賞に選ばれたワインに、ブレンダーの名が冠される。

皮付き豚ばら肉と花彫紹興酒の角煮。日本さんは皮下にすぐ脂があるため、あえてメキシコ産チルド豚を使用。ピノ・ノワールとは完璧なマリアージュ

「どういうわけか、いつも私が選ばれるんです」とアキコさん。ケンさんが勝てば「ケンズ・スペシャル」、エドさんが勝てば「エッズ・オーサム」という名前になるらしいのだがブラインドが示す答えは毎年「アキコズ・キュヴェ」なのだそうだ。アキコさん、シンプルに味覚がすごい。

ではアキコさんはどのようにブレンドを行なっているのだろうか? それは「口のなかの(味を感じる)すべてのスポットをヒットするように造る」ということなのだそうだ。味蕾というのだろうか、口中には様々な味を知覚するためのセンサが内蔵されている。それらすべてをフルに使えるような味設計をアキコさんは行なっている。

途中シェフによる「中国醤油」に関するレクチャーがひょんなことから発生。中国料理には中国醤油を使わないと「空気感」が出ないとのこと

「香りがいいこと、スパイス感があること、いい感じのミントパレットがあって、フィニッシュがいいもの」とアキコさんは表現しておられたような味筋。結果、顧客から「パーティインザマウス」と形容される味わいが実現する。パーティインザマウスはいい表現。

樽と区画の組み合わせ

ポイントは、樽と区画の組み合わせだ。ブドウを畑の区画ごとに収穫し、区画ごとに醸造するのだが、その際、フランスの5社から入れているという樽を、区画ごとのクローンの個性に合わせて選ぶことで、200樽のワインはそれぞれまったく異なる個性を持つことになる。

つまり、「この区画のブドウはあそこの森の木を36ヶ月エイジングさせて、あれくらい焼いた樽に合う」といった情報がアキコさんの脳内には格納されている。アキコさん自身何度もフランスの樽メーカーを訪ね、樽が生まれる森に踏み入ることでできる業。樽メーカーの当主も毎年フリーマンに来てはテイスティングを行い、さらなる改善案を提案してくれるのだという。

コースの最後は「ずわい蟹と天使海老の雲呑麺」。やさしい味わいがすべてを包み込む

ワイナリーで試飲をして「この樽だけでボトリングして!」とリクエストするお客さんに対し、アキコさんは「樽ごとお売りしますよ(ニッコリ)」と返されるそうだ。これは、広義の「売り物ではない」の意だと思う。アキコさんにとって樽に詰められたワインは「原材料」に近いんじゃないのかなと思ったりした。

このワインは香りも素晴らしい。野いちごのようなハーブっぽさを伴う果実、森にそびえる老木、適温で煮出された紅茶、半生タイプのドライフラワーといった、非常に多様で、多面的な香り。光が差し込む角度によって異なる色彩を出力するプリズムのような液体だ。

果実・酸・渋のどれもが突出しないバランス型で、非常にやわらかい。口の中にある味覚センサーフル稼働、脳が喜ぶ味わい。おいしいなあ。

2019はソノマコーストAVA↓

 

会食を終えて

どれも素晴らしいワインだったが、アキコズ・キュヴェは圧巻だった

フリーマンではいま、新たなワインメーカーを育成中(という言い方でいいのだろうか)。来年はその方も一緒に来日されるそうで、フリーマンの味の作り方の伝授を終えたあとは、アキコさんはディレクター・オブ・ワイン的な立ち位置に変わられるとのこと。この方の話もめっちゃ面白かったのだが、それはまた別の機会に。

というわけで尊敬するアキコさんにまた会えて、素晴らしいワインをテイスティングさせていただき、忘れちゃいけない料理も極めて非常に素晴らしく、身に余る贅沢な時間を過ごさせていただいたのだった。お招きいただきありがとうございました。

フリーマンヴィンヤード&ワイナリー、いつか必ず訪問したい…!

 

 



 

ブラインドテイスティング挑戦記【WEEK35】

ブラインドテイスティングWEEK35に臨んで

今週も恵比寿のワインマーケット・パーティでブラインドテイスティングに挑んできた。今週は白1、赤2の構成だ。さっそくいってみよう。

 

ブラインドテイスティングWEEK35/1杯目

まず一杯目だが色合いは薄め。香りはなんだろうこれ。子どものころに嗅いだことある系の香りなのだが思い出せない。

少しハッと目が覚めるような柑橘の香り。母が使ってた香水的ななにか? あるいはいただきもののちょっと良いお茶だっただろうか? 

飲んだみた印象も極めて曖昧だ。どこかで飲んだことがある。でもどこで飲んだかは思い出せない。酸はおだやか。苦味がけっこう強くある。

まずソーヴィニヨン・ブランリースリング甲州ではないと言いたいところだが甲州、キミはちょっと残りなさい。樽の効いたシャルドネ、キミ帰ってよし。ゲヴュルトラミネール、ヴィオニエ、キミたちも大丈夫。おつかれ。

候補はふたつ。中庸界のツートップ、ミュスカデとシュナン・ブランだ。あと甲州が居残り。イタリア品種だったら敗北だ。

どれにするかだが今回はミュスカデにした。中庸・オブ・ザ・中庸。シュナン・ブランなら蜜があるはずだし甲州なら酸があるはず。そしてそこはかとないシュール・リー感があったような(ないような)!

フランス (ロワール)/ミュスカデ/2022/13%
と予想した。


 

 

ブラインドテイスティングWEEK35/2杯目

さて2杯目行ってみよう。色はわずかに退色した赤紫。香りは非常に厚みがあり、かなり甘やかだ。バニラと焼き芋。焼き芋バニラソフト、みたいな香りだ。

飲んでみてもブドウ自体の甘みと樽由来っぽい甘み、両方がくる。飲んだ印象は干し芋。香りの印象が焼き芋で、飲んだ印象が干し芋。スタッフが熟成中の樽に誤って芋を落とした……?

わずかな苦味はあるが、スパイシーさはないように感じる。青っぽさ、野菜っぽさも感じない。マロン感はある。マロン&ポテトだ。おいしそう。秋の味覚ですね(もうすぐ春ですね)。

これだけの甘さがあるワイン、選択肢は極めて限られる。ここはジンファンデルorプリミティーヴォの事実上の一点予想で行ってみよう。

色が濃くなく、味わいも必ずしも濃いわけでないのが気になるが、香りに素粒子レベルのイタリア感を覚えたので、こう予想した。

イタリア(プーリア)/プリミティーヴォ/2018/14.5% 


 

 

ブラインドテイスティングWEEK35/3杯目

最後は一転、インキーでグラスの底が見えないベルベットな色合いのワイン。インクとか墨汁を落としたような、黒っぽい外観だ。

で、香りがしない。まだ閉じてるんですかねこの方。2022ヴィンテージくらいの若めの感じだろうか。どうせ出番は後半だからと前半の間はロッカーで寝てる破天荒なサッカー選手みたいな印象だ。

飲んでみても印象は変わらない。タンニンが極めて強く、酸もあって果実は留守。留守っていうか長い旅に出ている、といった印象。数年は帰って来ないんじゃないでしょうか。

というわけでさっぱりわからないというのが回答となる。タウラージとか、ゴリゴリテンプラニーリョとか、ボルドー左岸の超保守的シャトーとか? あと色だけでいえば黒いから黒ワインことマルベック…渋みでいったらタンニンの語源でお馴染みのタナ、アメリカ方面だったらプティ・シラーとか? 

置きにいくならカオールのマルベック。いや、ここはフルスイングでいきたい! というわけでウルタナことウルグアイのタナと予想してみよう。産地はググッたら出てきた土地です! ワインマーケット・パーティにウルグアイのタナが売ってるのかって? 知らないよ!

ウルグアイ(カネロネス)/タナ/2022/14%

 

ブラインドテイスティングWEEK35予想を終えて

というわけで今週も予想が出揃ったが、見返すとかなりやっちまってる感じがする。果たして私の予想は合っているのだろうか? 解答発表後に追記したいと思うので、お楽しみに。

 

【追記】
さて今週もワインマーケット・パーティ公式SNSで正解が発表された。花粉症が悪化したかなんかで体調を激崩ししてしまい遅くなってしまったが、以下、結果を見ていこう。


ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:1杯目

予想:
フランス (ロワール)/ミュスカデ/2022/13%

正解:フランス(ロワール)/ミュスカデ/2020/12.5%


というわけで幸先よく1杯目は正解。なのだが、これは私の実力ではない。先日、ブラインドテイスティングの泰斗である鈴木明人さんとお話しした際「特徴がないのがミュスカデの特徴」的なアドバイスをいただき、それを思い出したのだった。特徴ないな〜これ。うーん、ミュスカデ!w くらいのレベルの回答だが、それが見事にハマった次第だ。鈴木さんありがとうございます。

 

鈴木さんが最近出された本。これ必読ですよ!

 

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:2杯目

予想:
イタリア(プーリア)/プリミティーヴォ/2018/14.5% 


正解:アメリカ(カリフォルニア)/ピノ・ノワール/2022/13.5%
 

はいこれが今回の完敗案件。ピノ・ノワールをプリミティーヴォって言うのって鳩を見てカラスというようなもんなんすよ。読売タイガース、みたいに言っちゃうレベルなんですよ野球で言うならば。つまり間違えちゃいけないやつ

銘柄はブレッド&バターシャルドネは何度も飲んだことがあるが、実はピノ・ノワールは初めて。沼田店長いわく「典型的なカリピノ」だというこの味、脳に刻み込まねばなるまい。

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:3杯目

予想:ウルグアイ(カネロネス)/タナ/2022/14%


正解:イタリア(バジリカータ)/アリアニコ/2019/14%
 

これは選びミス。最初はアリアニコ(タウラージ)が脳裏をよぎり、よぎりというか回答用紙に書き込むまで居座り続けていたのだが、以前アリアニコと書いて外したのがこれまた脳裏をよぎり、そちらを優先してしまったのだったチッキショー!

アリアニコは2019ヴィンテージでもまだかなり堅牢なのかもしれない。数年後、熟成を経た姿も見たくなるワインだったのだった。

というわけで今週は3問正解というやや残念な結果に終わったが、まあこういうこともあるわけなんですよ。まったく懲りずに来週も頑張りたいので、みなさんも #パーティブラインド ぜひ挑戦してみてはいかがか。

 

ホーライサンワイナリーとは? 富山最古のぶどう園の4代目に歴史と今を聞いてみた

ホーライサンワイナリーとは?

ホーライサンワイナリーという生産者をご存知だろうか。創業は今をさかのぼること97年の1927年。富山で最初のブドウ園として創業し、1933年「蓬莱山葡萄酒」としてワイン造りを開始、今に至るも「やまふじぶどう園」そして「ホーライサンワイナリー」として家族経営を貫く生産者だ。

そのホーライサンワイナリーが下北沢ワインショップの試飲会に登場すると聞き(かつワインが非常に素晴らしいと聞き)、ショップを通じて取材を申し込んだところご快諾いただいた。

下北沢ワインショップでの試飲会の前にインタビューを実施した

インタビューに応じてくれたのはホーライサンワイナリー株式会社代表取締役で、やまふじぶどう園の4代目・山藤智子さん。

以下、私・ヒマワインとのインタビュー形式で、話の合間にその後の試飲会で飲んだワインの感想を交えつつお送りする。さっそくいってみよう。


やまふじぶどう園と、ホーライサンワイナリーのはじまり

ヒマワイン(以下、ヒマ):まずはやまふじぶどう園の歴史について教えてください。

山藤智子さん(以下、山藤):昭和3年、私のひいおじいさんが拓いたのがはじまりです。大正末期の米騒動(1918年に起きた米価格急騰に伴う暴動事件)は富山から起こったんですが、米がないと酒ができない、酒がないと祭りができないということで、当初は米を作ろうとしたそうです。

ヒマ:米騒動が背景にあったとは。すごく歴史を感じます。

山藤:ところが土地に水がなくて米が作れない。そこで、「ブドウから酒ができるらしい」と聞いて、ブドウを植えたんだそうです。

ヒマ:うーん、先見の明がすごいですね!

下北沢ワインショップの試飲会で供された11本のワイン。中には未発売のものや希少キュヴェも

山藤:風が強いので吊るして栽培するブドウにとって病害が少ないのはいいんですが、赤土で水はけの悪い肥えた土壌のため、それでも栽培は大変です。歴史あるワイナリーはみんな家族が犠牲になってます(笑)。

ヒマ:家族はタダ働きみたいな……。

山藤:それもあって、2代目の私のおじいちゃんは酒造免許を売ろうとも言っていたんです。それを私の父(3代目、現会長)が止めたそうです。

ヒマ:おお、お父様ファインプレーです。3代目はワイン造りに情熱を燃やされていたんでしょうか。

山藤:メルローカベルネ・フランなどのヨーロッパ品種に力を入れたりと情熱はありましたが、ワイン造りから配達まですべてをこなしていましたから、ずいぶん苦労はしていましたね。母が経理をして、私も小学生のころから売店で接客をしていました。「それ辛口やで」とか言って(笑)。

ヒマ:令和の今では考えられませんが、昔は小学生がワインを売ってもあまり違和感なかったかもしれません(笑)。

富山ではスーパーで買えるという定番酒「いつもの」。品種は甲州でほのかに甘く飲みやすい

山藤:ワイン造りが軌道に乗り始めたのはボジョレー・ヌーヴォーのブームの頃でしょうか。それまでは生食用ブドウの食べ放題などのお客さんが多かったんですが、ブームに乗って新酒を売り始めたらそれがフレッシュな味わいのものを好む富山のお客さんにウケて、そこからワインのほうが売り上げとして大きくなっていきました。

ヒマ:山藤さんが4代目となったのはいつですか?

山藤:2021年です。それまでCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)として経理からブランディング、ウェディングやバーベキューなどのイベントを手がけていましたが、父も70を過ぎたのでさすがにいつまでも社長させてるのも悪いと代替わりしたんです。

 

ホーライサンワイナリーのラベルの秘密

ヒマ:ホーライサンワイナリーのワインはラベルがすごく特徴的ですが、これは4代目が手がけてるんですか?

山藤:そうですね、2013年くらいから面白いラベルをはじめました。覚えてる限り5、6回ワインブームってきていると思うんですが、(ときどきの流行りに流されず)日本らしい、富山らしい、楽しめるネーミングにしようと考えたんです、飲みながら。

ヒマ:飲みながら考えるのめちゃくちゃ楽しそうですね…!

山藤:「ときわすれ」というワインは、友人たちと飲んでいたらどんどん味や香りが変わって、まろやかになっていったワイン。それで気がついたら朝になっていたから「ときわすれ」。

「ときわすれ」は自園産メルローを使った赤ワイン

ヒマ:楽しい時間は過ぎるのが早い的なことですね。その間にワインはどんどん変化していく。ふたつの意味が込められていて、いい名前です。

山藤:「たけなわ」はその名の通り「宴たけなわ」のイメージ。「べつもの」は樹齢40年のカベルネ・フランを使い、オークチップを使ったもの。飲んだ瞬間に「これ別物やん!」となったのでこの名前です。

会話が弾む「たけなわ」も、自園産メルローを使った赤

ヒマ:さらっとおっしゃいましたが日本に樹齢40年のカベルネ・フランなんてあったんですね!

山藤:だいたい日本では30年が寿命なんて言いますね。40年頑張ってくれて、去年植え替えてしまったので、もう飲めないワインです。私は若いころフランが苦手で、切ってしまえばいいと思ってたんです。でも父がブレンド用にいいからと残していた。それを単一で仕込んで、長期間瓶熟させるとすごいことになるんです。

この日のベストと感じたのがこの「べつもの」。パワフルなのにチャーミング、社長の人格を反映したかのようなワイン

ヒマ:ワインは全部で何種類くらいあるんですか?

山藤:15種類は販売していますね。それに裏メニューも3種類くらいあるんです。

ヒマ:裏メニューとは?

山藤:何回もリピートしてくれるお客様にお出しするやつです。本数の少ない熟成したものも裏メニューです。

裏メニュー中の裏メニューと言えそうなトップキュヴェ、ジャンメルロー。驚くほど繊細で、しかし太い果実が全体を貫く素晴らしいメルロー

ヒマ:ラインナップ、非常に多いですよね。

山藤:祖母が92で亡くなったのですが、最後のほうは甘口ばかり飲んでいました。私の母は今はロゼばかり飲んでいます。人の好みってどんどん変わっていくんです。だから軽くて甘いのから重いのまで、いろんな種類を造っているんです。

甲州を使ったアルコール度数8%の甘口「うたたね」。富山の2023はグレートヴィンテージだ、ということを実感するワイン

 

ホーライサンワイナリーのワイン造り

ヒマ:いま、ワインはどなたが造っているんですか?

山藤:私の息子が今24歳なのですが、今年からは彼と、彼の右腕的な若い社員がいるので、そのふたりにほとんど任せています。

まだラベルができていないマスカット・ベーリーA「あさっぱら」。あさっぱらから飲みたい軽快な味わい

ヒマ:すごい、5代目もすでに参画していらっしゃるんですね。

山藤:事業承継が難しいという話はよく聞きますが、すでに5代目がいるのはすごく頼もしいです。だからこそできることが増えました。私も新しいことやろうか! と考えたり。

ラベルと名前が最高にいい「ねこかぶり」。自園産メルローを使ったロゼ

ヒマ:5代目はどこかで修行されたんですか?

山藤:オーストラリアに行こうとしていたんですが、コロナでダメになり、逆にウチのやり方をしっかり見て学んでもらうことにしました。変なクセをつけず、ウチのやり方でやってもらおうと。

ヒマ:ホーライサンワイナリーの「やり方」ってどんなものなんでしょう?

山藤:手作業ですね。気温が上がったりして、ブドウ栽培も年々手がかかるようになってるんです。ブドウに傘をかけるとか、海外からしたら考えられないですけどやっていますし、芽かきなんかも、こんなことまでやっとるんかくらいやっています。

「いつもの」の赤はマスカット・ベーリーA。「お好み焼きや焼きそばに合うワインです」とのこと

ヒマ:手作業、つまり手間をかけるということですね。やはりこれだけ暑くなると大変ですよね。

山藤:ただ、2023年は良かったんですよ。暑過ぎて病気が飛んでしまった。29年ぶりです、そんな年は。最高のヴィンテージになりました。

ヒマ:富山の2023はグレートヴィンテージ!

山藤:「今年は病気がなくてよかったね」みたいに適当に言われるんですけど、1994年以来なんです。「いやいやすごかったやん!」って言ってます(笑)。メルローはなにもせずとも濃いし、この「山藤(マスカット・ベーリーAの赤。未発売)」も開けた瞬間から香りがぐわっと来たり。まあ、すごいですね。その分熟成が必要になるとは思いますけど。

これも素晴らしかった「山藤」。赤とロゼのベーリーAをブレンドしたワインで、2023ヴィンテージの素晴らしさを雄弁に語っていた

ヒマ:出来がいい分、熟成が必要になると。

山藤:軽いのはいつでも採れるんですよね、早摘みでもなんでもして。でも濃いのは無理。狙ってできるもんじゃない。

ヒマ:日本のワインで「濃い!」っていうのはなかなかない印象です。それってどうしてなんでしょう?

山藤:水分量です。降ってほしいときに降らないのに、降ってほしくないときにめっちゃ降る。ソーヴィニヨン・ブランなんか1回の雨で粒が破裂しちゃいますし、ましてやピノ・ノワールは無理。「(ピノ・ノワールは)北陸では禁句です」って言ってます。

ヒマ:そういうもんですか。

山藤:ハウスかなんかじゃないと無理でしょうね。30年くらい前にピノ・ノワールも植えたんですよ、私の父が。ひと畑ぶんだけ。すぐに切りました。

ヒマ:経営判断が早い(笑)。

山藤:大胆なんですよ、ウチの父。シャルドネもひと畑ぶん植えて、「香りが出ん」って言ってすぐ切ったり。

 

ホーライサンワイナリーとワイナリー経営の話

ヒマ:そうやって選抜されて残ったのが今のメンバーなわけですね。メルローとか、フランとか。

山藤:合うものだけってわけにもいかないんですね。早稲(わせ)のものもあればそうでないものもあるし、収穫時期も選びます。

ブドウジュース。やさしく絞ったやさしい味わい

ヒマ:そうか、収穫時期がズレてなくちゃいけない。

山藤:ウチは生食用も25種類くらい作ってますけど、それも同じことです。リスクを分散しながら、いろんな品種を楽しんでいただく。

ヒマ:多品種を栽培することで収穫時期、出荷時期をズラす。それによりリスクヘッジができる。

山藤:そして、いろんな方の好みに合わせられるんです。

ヒマ:ワイナリー経営のお話、非常に興味深いです。

山藤:ソムリエさんがよく「テロワール」って言われるんですけど、よくわからないんですよ。私たちが言うもんじゃないなと思ってます。お客様が飲んで「やっぱりこれ、やまふじさんとこのだよね」って思ってもらえる安心感があればいいのかな。

ヒマ:「やまふじさんとこの」って、お客様に言われる特徴ってどんなところなんでしょうね?

「一生飲める」幅広いラインナップ。ホーライサンワイナリーの魅力だ

山藤:永遠に飲める。死ぬまで飲める。どんな世代でも。家族経営の強さでしょうけど、毎日家族で食べて飲む。そうすると、若い子が好きなものと私たちがおいしいと感じるものが違うことがわかるし、それが変わっていくことも当たり前のように知っているんです。だから、「息子が二十歳になったから」と買いにくるお客様にも好みを合わせられるし、普段ビールしか飲まない人、日本酒好きな人……とそれぞれに合わせられるんです。

ヒマ:だから「死ぬまで飲める」わけですね。まったくの余談ですが私も死ぬまで元気に飲むのが人生の目標です。

山藤:不真面目に飲んでほしいんです。あんま香りがどうだこうだ言うなって(笑)。

ヒマ:グラスくるくる回してないで飲め! と(笑)。あくまで食中酒、食事と一緒に楽しむものというイメージですね。富山の酒文化のなかにあるワインというか。

 

ホーライサンワイナリーが目指すもの

山藤:今はストレス社会で、お酒だけじゃストレスはなくなりません。イベントをやって、いい音楽聞いてお酒飲めば楽しいやん! と思っていましたが、そうじゃない方も多い。だからこそ、働く人も楽しいし、来てくれた人もリフレッシュできる、そういう空間を作りたいと思ってるんです。姉が臨床心理士なので、カウンセリングも受けられます。

ヒマ:え、すごいっすね。カウンセリングが受けられるワイナリー。

山藤:新しく宿泊施設も計画しているんです。おいしい富山の食と、ワインとを、夜通し食べて、飲んでができるように。私もお客様と飲めますしね。「あっ、社長また飲んでる!」って怒られるんですけど(笑)。

山藤智子さん。パワフルで、エネルギーにあふれ、広い視野を持つ、理想の上司感あふれる方でした

ヒマ:価格帯も非常にお安いですよね。特別なワインを除けばほとんどが2000円台。

山藤:日本酒でも言われますが、2000円の壁ってあるんです。デイリーで飲むお酒は2000円を超えるとまず出ない。私はそれを打ち破らんとと思っているんです。それができんのだったらもうやめたほうがいいくらいに。

ヒマ:それはどうしてですか?

山藤:やっぱり従業員の給料にも反映させたいですから。もう従業員に我慢をさせる時代じゃないです。

ヒマ:1000円台では従業員の給料を上げられないと。それができなければ従業員も集められないし、すごく大切なことだと思います。

山藤:「安いから買う」じゃない、その価格(なりの価値)を見てくれっていう価格にしたいんです。一方で、日本の平均賃金が上がらないうちは(デイリーワインは)税込2530円くらいから値上げはしたくない。問屋さんへの利幅も大きくするからこの値段にさせてほしい、多少資材が値上がりしても4、5年は値上げしません、って言って、値付けをしています。

ヒマ:そうしないと地元の商圏とかも含めてサスティナブルでなくなってしまいますもんね。

山藤:たとえば富山県だとまだ女子だけ制服があるとか、女子は事務でお茶注いで、みたいなところがまだまだいっぱいあるんです。だから女性が定職につかない・つけない。県外に流出してしまう。次の世代、その次の世代のためにも、富山に移住したいと思う人を増やしたいんです。

ヒマ:それが山藤さんのミッションなわけですね。富山に来てもらう、究極は住んでもらう。ワインを通じて、そのための場所を作ってらっしゃる。

山藤:冬はずっと曇ってて暗いですけどね(笑)。人間らしく冬は休もうぜ、こたつに入って飲めばいいじゃん、っていう働き方です。カウンセラーもおりますのでね。

ヒマ:落ち込んでも大丈夫(笑)。では最後に、「どこで買えるの?」というお話を伺いたいです。ホーライサンワイナリーの場合、オンライン販売とかよりも、直接来て買ってもらうことを重視している印象です。

山藤:東京でいえば、東京ってなんでも買えるわけですよね。だったらもう買えなくしてやろうと(笑)。

ヒマ:そんな!(笑)

山藤:声がかかったら行こうかなくらいに思っていたんですが、東京はやっぱり難しいですね。好みがわからない。

ヒマ:あくまでも販売は地元中心で行こうと。それだけに、山藤さんのワインはこれだけの歴史と規模がありながら、失礼ながら東京ではマボロシ感さえあります。

山藤:でも、富山ではスーパーで売ってるんです(笑)。

ヒマ:あくまで地域に根ざした、「地のもの」と合う地酒という感覚。なんか、それこそ本来のワインのあり方なんじゃないかって気がしてきます。今日はありがとうございました!

 

インタビューを終えて

いかがだっただろうか。山藤さんのエネルギーにあふれた素敵な人柄の一端でも伝えられたら幸甚だ。

やまふじぶどう園のワインは「行かないと買えない」。ただし、お高く止まってるわけではまるでなく、むしろ正反対。タップひとつでなんでも買える時代に、あえて自分たちの場所に来てもらって、一緒にワインを選ぶ。そんな時間を楽しみたいし、大切にしたい。ホーライサンワイナリーにはそんな人たちが集っているのだと思う。

「店頭以外でのお買い求め」も言えば対応してくれそうな気配。いや、こういうことですよ大切なのは(画像はホーライサンワイナリー公式サイトのキャプチャ)

なんでも便利にすればいいわけではない。そんなことみんなわかっているが、これがなかなかどうして簡単ではない。「不便」を選択するのはすごく難しい。ワインのコト消費化、なんて言えば耳触りはいいが、そんなことでもたぶんない。

地元・富山を盛り上げたい。ただ漠然と“盛り上げる”と口にするだけでなく、事業を次代に承継し、雇用を守り、女性が働きやすい環境を整備し、若者の県外への流出を防ぐ。それらをワインを通じて行なっていく。そして、自園を5代目、6代目に引き継いでいく。そのためには、この方法がベストなのだ、きっと。

経営者目線、そしてもちろん地元の名士でもあろう立場から語られる言葉は、地方創生といったお題目でない、その土地に根ざしたリアルなものだと感じた。そしてその思いはきっと、米騒動のあとの富山で「祭りのための酒」を造ろうとした初代の志と響き合っているのだと思う。

蓬莱山は、中国の東方の海上にあるとされた不老不死の仙人が住む山。秦の始皇帝は方士・徐福をその地に派遣し、不老不死の霊薬を持ち帰らせようとした。徐福はついに蓬莱山に辿りつかなったが、ホーライサンワイナリーには幸いにもたどり着ける。北陸新幹線が便利だ。富山駅から30分で着くそうだ。

そんなわけでいつか富山を訪れた際は、ぜひやまふじぶどう園を訪ねたいし、読者の皆様にも訪問をおすすめしたい次第。「あさっぱら」から飲み始め「ときわすれ」な感じで「たけなわ」まで飲みたい。楽しい時間になりそうだ。

貴重な機会をいただいた下北沢ワインショップとお忙しい時間を割いてインタビューに応じてくれた山藤さんに改めて感謝したい。ありがとうございました。



ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはどんなワイン? ワイン会に参加して調べてみた

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲む会に参加してきた

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲み比べるワイン会に参加してきた。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはイタリア・トスカーナ州を代表するワインのひとつ。くらいの知識しか私にはない。せっかくお誘いいただいたので、しっかり飲んで学んでいきたい。

ブルネッロをたくさん飲んだ

さて、この会の主催は無垢ワインさん。てことは無垢ワインさんが集めたワインを飲むのかなと思ったらさにあらずで、Xワイン界隈屈指のワイン購入の達人・かしたくさんがワインを提供、Xワイン界隈屈指のマニア・TZKさんがお店の予約やペアリングの段取りをしてくれているというとんでもない会となっている。

このあたり個人名が出てくるのでピンとこない方も多いと思うが、とにかくマニアックな会なんだね、みたいなふうに理解していただければOKだ。モノホンのマニアが絡むワイン会はしばしとんでもないことになる。

会場はトスカーナ料理の専門店だという浜町のトラットリア・コッレ。休日の午前11時半から15時まで、ランチタイムをフルに使って楽しんだ会の模様を、飲んだワインを軸に以下にレポートしていきたい。

 

フェッラーリ マキシマム ブラン・ド・ブラン

さて、この日の乾杯はTZKさんご提供のフェッラーリ マキシマム ブラン・ド・ブラン。2015がベースヴィンテージのものを、TZKさんのご自宅で数年熟成させたというもの。

飲み始めはスッキリさわやか系。時間が経って温度が上がるとどんどん甘やかに、やわらかく変化していき、最終進化系は飲む栗きんとんみたいになるという素晴らしいスプマンテだった。

ワイン愛の強い人の自宅で熟成させるとワインはおいしくなる、ワイン愛が強ければ強いほどそうなる、という都市伝説が私の中であるが、それを証明する見事な1本なのだった。

ただあくまでもこれは乾杯用。ここから怒涛のサンジョヴェーゼ6連発の幕が開く。

 

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲もう!

まずはワインリストを眺めていこう。以下だ。

1:ファットリア・ラ・レッチャイア ロッソ・ディ・トスカーナ2016
2:ヴァルディカヴァブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2010
3:マストロ・ヤンニ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016
4:サセッティ・ペルティマリ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016
5:ビオンディ・サンティ ロッソ・ディ・モンタルチーノ 2019
6:ポッジオ・ディ・ソット  ロッソ・ディ・モンタルチーノ2019

さて、どれもおいしかったのだが、ボトルバイボトルの詳細は参加者の米柱さんがまとめてくださっているので屋上屋を重ねるのは避けて、いただいたものの中からやべえやつof the やべえやつを発表したい。

早速だが発表しちゃおう。サセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロ2016だ。ちょっとこれはとんでもない、年間ベスト級のワインだった。いやーすごいワインだった。

これは本当に素晴らしいワインだった

かのロバート・パーカーをして「私がたった1本だけブルネッロ・ディ・モンタルチーノを味わうとすれば、それはペルティマリのものになるだろう。」と言わしめた生産者。パーカーってこういう言い方がめっちゃうまいんですよ。「貨物列車ごと買うべき」的なやつとか。パーカーはコピーライティングの世界に進んでも間違いなく大成していた、あるいはワインの世界でコピーライターとして大成した人なんじゃないかという気さえするが話がずれてた。

 

 

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはどんなワインか

サセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロの前に、まずはそもそもブルネッロとはなにかをまとめておきたい。

・イタリア、トスカーナ州の赤ワイン
・品種はサンジョヴェーゼ・グロッソ
・大樽で長期熟成

基本はこんなところ。そして、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ組合のサイトによれば、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ロッソ・ディ・モンタルチーノの違いは以下のようになる。

重要なのは熟成期間、そしてリリースまでの時間。ブルネッロとリゼルヴァには大差がないが、両者とロッソは規定において大きく異なることがわかる。

なんでこんなことを調べたかといえば、それはサセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロがステンレスタンク発酵だから。

あれ、ステンレス発酵はありなんだっけ? となったのだが、あくまでも規定は発売まで5年、その間樽熟成2年+αなので、発酵容器はたぶんなんでもオッケーぽいのだった。

 

サセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロ2016の衝撃

そんなわけでサセッティ・リヴィオ・ペルティマリのブルネッロはステンレスタンクで発酵後8か月熟成、スロヴォニアンオークの大樽に移して3年寝かせ、瓶詰め後さらに16か月熟成し、リリースされる。

全体の4番目でこのワインを飲んだのだが、とにかくすさまじいのは単騎性能。料理と合わせなくてもおいしい、みたいなレベルを軽々と跳躍し、世界に自分とこのワインだけあればいい、みたいなちょっと行っちゃいけない場所に連れていかれる感覚がある。

たっぷりとした果実、やわらかな渋み、おだやかな酸が液体のなかで正三角形を構成している。その三角形の頂点に光が灯り、やがて高速で回転し、輝く頂点が円を描く。飲んだときは「球」だと思ったけど思い返すと「円」のイメージなんだよな。

この2016ヴィンテージはジェームズ・サックリング100点だそうだが、思わず「おっ、ジェームズわかってんじゃん!」と言いたくなるおいしさだった。100点つーのはすごいわ。

15000円くらいするが飲む価値は絶対ある↓

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ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの多彩な魅力

とはいえこの日驚かされたのはこのワインだけではない。ブルネッロの創始ワイナリーであるビオンディ・サンティのロッソ・ディ・モンタルチーノ2019、これも非常に素晴らしいワインだった。

スロヴォニアンオークで12か月熟成されたというこのワインは、印象としてはまるでピノ・ノワール。6杯目のポッジオ・ディ・ソットのロッソ2019も非常に似た印象で、これは熟成期間の短いロッソ・ディ・モンタルチーノだからなのか、2019VTの特徴なのか。非常に興味深かった。

いずれにせよ、非常にパワフルな黒っぽいワインにもなれば、非常にチャーミングな赤っぽいワインにもなり、ときにエレガントなピノ・ノワールっぽくもなる、サンジョヴェーゼの魅力を存分に感じることのできるワインだった。

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コスパ大賞「ラ・レッチャイア ロッソ・ディ・トスカーナ2016」

あと忘れてはいけないのが2番目に飲んだラ レッチャイア ロッソ・ディ・トスカーナ2016。

全日本ブルネッロコスパ大賞受賞ワイン。全日本でもブルネッロでもなかった。

72か月熟成させたワインながら、オーナー自家消費用ワインのため格付け申請していないため、格付け下位のIGTロッソ・ディ・トスカーナとしてリリースされるというワイン。

価格は4000円台ながらその他のゴリゴリマッチョ系のワインと戦える戦闘力があり、圧倒的ベストコスパ賞だった。ただブルネッロって書いてないだけのおいしいワインなのでみなさん、自宅で飲むならこれがオススメだ。むちゃくちゃうまい。

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ヴァルディカヴァのブルネッロ2010、マストロヤンニのブルネッロ2016もそれぞれ素晴らしいワイン。いやはや、すげえセレクトだ。

この日出たワイン、すべて当たり前のように五つ星ヴィンテージでさすがすぎる。(画像はブルネッロ・ディ・モンタルチーノ組合のサイトより。赤枠は筆者)

末筆になるがトラットリア・コッレの料理はどれも素晴らしくおいしく、とくにコースの大トリを飾った和牛ビステッカは、ははは、思い出すだけで笑っちゃうくらいおいしかった。ブルネッロと合わせたときのおいしさは戦艦の主砲クラスの破壊力。

シメにはバローネ・リカーゾリのカステッロ・ディ・バローリオ2005っていうめちゃくちゃ旨い甘口(TZKさんご提供)までいただいて、すっかりブルネッロファンとなり果てて家路に着いたのだった。

無垢ワインさん、かしたくさん、TZKさん、ご一緒した皆様に感謝。また飲みましょう。

とにかくこれがえぐえぐにえぐい↓

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パソ・ロブレス ワインの魅力とは? カリフォルニアの注目産地を紹介!

パソ・ロブレスとは

カリフォルニアワイン協会が主催するプレスイベント「多彩で魅力あふれるパソ・ロブレスのワインとアメリカンBBQ食体験プレスイベント」という長い名前のイベントに参加してきた。

パソ・ロブレスはカリフォルニアからクルマで3時間半、サンフランシスコからもクルマで3時間半。カリフォルニアの二大都市に挟まれたロケーションで、観光地としてもとても人気のあるワイン産地なのだそう。

パソ・ロブレスはさらに11の小地区に分かれるそうな

カリフォルニアワインといえばナパヴァレー! みたいなイメージは大いにあると思うのだが、実際は149の産地がある多様性ある産地。それをアピールすべく、今年2024年はちょっぴりマイナーなパソ・ロブレスに白羽の矢が立ったようだ。

会場はグリル台「Weber」のショールーム的な場所。BBQとパソ・ロブレスのワインの相性は異常

では、産地としてのパソ・ロブレスの特徴はなんなのだろうか。

ひとつはやっぱり多様性。のちに詳しく記すが、イタリア品種しか造らない生産者がいたり、ヴィンテージにとらわれないソレラシステムを採用する生産者がいたり、独自の「パソ・ブレンド」を追及する生産者がいたりと個性があふれていた。

メインはカベルネだが、ローヌ系品種も栽培されている

また、「昼は42度、夜は14度」なんていう日もあるくらい、すさまじい気温差が昼夜で生じるのも特徴。昼間の暑さはワインに果実味を、夜の寒さはワインに酸と風味を与えるそうだ。

飲んだ印象を先に述べると、フランスとナパの中間ナパ寄り、みたいなイメージが総じてあり、エレガントなのに果実味豊かで飲みやすいものが多かった。

果実たっぷりの飲みやすいワインがおいしいに決まってんじゃん、と常日頃思っている私としてはまさに絶好球という産地だ。

乾杯はサマーウッドワイナリーの「朝泡」。グルナッシュブラン100%で非常にフレッシュ、とてもおいしい

今回のセミナーに参加していたのは5生産者。それぞれを紹介しつつ、とくに印象に残ったワインを挙げていきたい。

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ホープファミリーワインズ

まずはホープファミリーワインズから。1978年設立の家族経営のワイナリーで、2022年にはアメリカン・ワイナリー・オブ・ザ・イヤーに選出されたというすごい生産者。

ワインは買いブドウで造り、そのブドウはほとんど「リジェネラティブ農法(環境再生型農法)」で栽培されている。

マルチヴィンテージのシャルドネ。スポーツドリンク的な染み渡る系

驚いたのは1杯目にいただいたシャルドネ。20ドルで売られているワイナリー最安値のワインだが、これがものすごく爽やかでフレッシュ。いい意味でカリフォルニア感がない。

ヴィンテージ表記はなく、聞けば古いヴィンテージのワインを少しずつ注ぎ足すソレラシステムを採用したマルチヴィンテージのワインなのだそう。

メリザさん。ワインの魅力を情熱的に語ってくれた

すごく華やかでキレイな味わいだったので「ヴィオニエが入ってるみたいっすね」と言ったところ、「これには入ってないけど、ヴィオニエとシャルドネブレンドも出しているのよ!」と輸出ディレクターのメリザさんに半ば強引に褒めていただいた

そしてフラグシップのオースティン・ホープカベルネ2021は2019年にワインエンスージアストのベストワイントップ100で7位の評価を受けたワインだそうでこれがちょっと驚きのおいしさ。

こちら本日のやべえやつになります

「ワインは開けてすぐに楽しめるべき!」とメリーザさんが語ってくれたように、開けた瞬間から果実の奔流と呼ぶべき怒涛のフルーツ感が押し寄せてくる。どこまでも突き進もうとする果実が馬だとすれば、酸が御者、タンニンが手綱といった印象で、パワーが突出した状態でバランスがとれている。

「もちろん10年、15年経ってもおいしいけど、10年、15年経たないとおいしくならないワインじゃない」みたいな説明も素晴らしいなと思ったのだった。そりゃそうだよ。

このオースティン・ホープカベルネは個人的にはこの日のベストワイン候補。

現地56ドル(8147円 ※2月20日現在)なので9900円はお得だと思う↓

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ジョルナータ

続いてはジョルナータ。イタリアにルーツを持ち、パスタ工場も経営するオーナーが、イタリア品種だけでワインを造っているというこれまた非常にユニークな生産者。

素晴らしいと感じたのはまずオレンジワインのオランゴ・タンゴ2022。ファランギーナ、フィアーノ、ヴェルデッキオをスキンコンタクトさせたオレンジワインで、これがもうオレンジ丸かじり系のおいしさ。

果実味爆弾系オレンジワイン「オランゴタンゴ」

オレンジワインは果実味少なめ苦味強めみたいな印象が実は個人的にあるのだが、これは真逆で、果実が強くて苦味がアクセント。価格は25ドル。

もうひとつ素晴らしかったのが「ランチにぴったりのワイン」と紹介されていたバルベーラ2022。

バルベーラといえばピエモンテのブドウ品種。紫色で、少しくすんだ果実味があり、渋み・酸味が強い……といった印象なのだがこれまた見事に反転し、果実くっきり、渋み・酸味がアクセント、ただし香りはバルベーラらしいスミレ系。

イタリアのバルベーラとは異なる果実味バルベーラ。めちゃくちゃハイレベル

もしピエモンテのブドウ品種をカリフォルニアで作ったら、というifの答えが出てる感じの見事なハイブリッド。こりゃうまい。

実はこのジョルナータ、日本でディストリビューターを探しているのだとか。カリフォルニアでイタリア品種だけを造る生産者ってキャッチーだし、人気出そうな気がするのでどなたか輸入してください。

 

 

パソ・ロブレスの生産者たち:Jロアー

続いては有名生産者のJロアーなのだがJロアーってパソ・ロブレスが本拠地だったんすね。「15ドル以上のカベルネ・ソーヴィニヨンでは2番目に多い販売量(生産量だったかもしれない)を持つ」のだそうだ。

トップセールスとはこうやるんだよ、というお手本のような柔らかい物腰のCEOスティーブ・ロアーさん

Jロアーといえばやっぱりふつうに王道のカベルネシャルドネメルロー、みたいな感じだと思うわけだが今回はパソ・ロブレスの個性を見せるみたいな趣旨の集まり。それだけに用意されていたのはシラーが1本、カベルネ・ソーヴィニヨンが1本、カベルネとプティ・シラーのブレンドが1本という3本。

3本目は「ローヌブレンド」と紹介されていて、ローヌでプティシラーって使うんだっけ? とちょっと疑問に思って調べてみると、本場AOCローヌの規定のなかにはプティ・シラー(あるいはシノニムのデュリフ)の記載はなかった。

なかったのだが今度はJロアーも加入するアメリカにおけるローヌブレンド振興団体「ローヌ・レンジャー」の公式サイトを見てみると、アメリカン・ローヌ・スタイルの規定においてはプティ・シラーも「あり」のようだ。へー。

話が逸れたが、つまりはパソ・ロブレスの特徴は(アメリカン)ローヌスタイルにもあるんだよ、みたいなことだと思う。

印象的だったのは2021ヴィンテージがワインエンスージアストのベストバリューワイン1位に選ばれたというサウス・リッジ・シラー2022。

ギガルのコート・デュ・ローヌの要素をさらに1回り強化したような、果実の砲弾を発射する重戦車のような味わい。

4%のヴィオニエが足されていることで酸もしっかりとあり、飲み疲れもしなさそう。これが15ドルは異常。アメリカに住んでたら私は毎日これを飲む。

調べたら2019VTが2000円台で売ってた。買ってみよ↓

 

そしてアメリカンローヌブレンドのピュア パソ プロプリエタリー レッドも良かった。

ピュア・パソという名前からも、パソ・ロブレスのワインのお手本感が漂う


プティ・シラーが入っているだけにほぼ黒ワインと言いたくなるほど濃いめ。味わいも濃密で、渋みも強め。なのだがやっぱり果実が強いので全然余裕で飲める。27ドルとは思えないプレミアム感のあるワインだった。

小規模生産者が非常に多いというパソ・ロブレスにあって、圧倒的規模感でワインを造るJロアー。そのコスパは突出していると感じた。

 

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ラヴァンチュール

ボルドーでワイナリーを所有していたフランス出身のステファン・アセオさんが、それらを売却して自分の理想のワイン造りのために設立したというラヴァンチュール(『冒険』の意)。

なんでボルドーを出たかといえば、AOCの規定に縛られたくなかったから。っていうかシラーを使いたかったからなのだそうで、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、ムールヴェードルのブレンドで勝負をしている生産者。担当の方によれば、このブレンドを“パソ・ブレンド”と呼ぶのだそうだ。これまた変則ローヌブレンドですね。

シモーネ・ベラルデッリさん。英語の説明を必死に聞いていたところ、のちに日本語ペラペラであることが判明。そんな…!

セカンドワインの「オプティマス2018」と、フラグシップの「エステート・キュヴェ」の2017と2018をテイスティングさせてもらったのだが素晴らしかったのはエステートの2018。爆発的に素晴らしかった。

カリフォルニアの2018のすごさを物語る、エステート・キュヴェ2018

2018はワインエンスージアストがカリフォルニアの(ナパだけど)カベルネに99点を与えている年で、ちょっと内包しているブドウの排気量が全然違っちゃってる感じがした。

果実味果実味とそればっかりで恐縮だが実際に果実味があるんだから仕方なく、このワインも非常に豊かな果実味がある。一方でフランス的なエレガントさも併せ持っている。

ボルドーの複雑さ、ローヌの深み、カリフォルニアの親しみやすさ、みっつの特徴をすべて備えているワインという印象。これもこの日のベスト候補。

2017も良かったがどちらか選ぶなら間違いなく2018を私は選ぶ↓

 

パソ・ロブレスの生産者たち:ピーチーキャニオン

最後はピーチーキャニオン。カリフォルニアワイン会でいただいたことのある生産者だが、なんでもジンファンデルで有名なのだそう。

ジェイクさん。めっちゃナイスガイ

そのジンファンデルの特徴は感慨しないドライ・ファーミングにあるそうで、収量は下がるがブドウの質は高まるとのことだった。

非常に印象的だったのは2種のジンファンデルの飲み比べ。ナンシーズ・ヴュー ジンファンデルとベイリー ジンファンデルはいずれも2020ヴィンテージ、似たようなラベルで価格も8500円と同じながら味わいは大違い。

右がナンシーズ・ヴュー、左がベイリー。同VT、同価格ながら味は全然違うのが面白い

ナンシーズのほうはおそらく私が過去飲んだ中でもっともエレガントで、ほぼ間違いなく過去イチおいしいと感じたジンファンデル。ベイリーのほうはジンファンデルらしいジャミー(と、ジェイクさんも形容しておられた)なワインで、こちらも非常においしいのだけど、どちらか選べと言われたら前者。ジンファンデルに8500円払ったらこんな世界が見れる、ということが理解できた。

聞けばキュヴェ名の「ナンシー」はジェイクさんたち兄弟のお母様の名前だそうで、彼女の部屋から見える畑のブドウを使うから「ナンシーズ・ヴュー」なのだそうだ。

母の名前キュヴェは娘の名前キュヴェと並んで絶対にハズレがないの法則の傍証が、また集まる結果となった。

ちなみにラベルに書かれた家はジェイクさんたちのガチ実家だそうで、「ここがおれの部屋!」みたいに教えてくれた。いい話だな〜。

ピーチーキャニオンはマルベックもすごい良かったのだが、1本挙げるならばお母さんキュヴェで、これもこの日のベストワイン候補になった。


試飲会を終えて

この日集まった生産者の方々はいずれも気さくで、めっちゃくちゃフレンドリー。プロモーション目的なんだから当然といえば当然なのだが、その「当然」を上回るほどの情熱で、パソ・ロブレスの魅力、自分たちのワインの魅力を語る姿がとても印象的だった。

生産者や協会の方々。どなたも気さくでフレンドリー

まとめると、
コスパがエグいJロアー
・ジンファンデルが素晴らしすぎるピーチーキャニオン
・“パソ・ブレンド”が魅力のラバンチュール
カベルネがおいしすぎたホープ・ファミリー(推し)
・イタリア品種inカリフォルニアのジョルナータ
といったところか。そしてあえてこの日のベストワインを選ぶならば、オースティン・ホープ・カベルネ・ソーヴィニヨン2021。結局カベルネかよ、となるのだがこれはちょっと特別なやつだと思います。

というわけで、パソ・ロブレスのメディアイベント参加レポートでした。パソ・ロブレスのワイン、個性的でコスパ良く、非常においしいのでみなさんもぜひ。



 

 

 

 

 

ブラインドテイスティング挑戦記【WEEK34】

ブラインドテイスティングWEEK34に臨んで

今週も恵比寿のワインマーケット・パーティでブラインドテイスティングに挑んできた。今週は白2、赤1の構成。白は1杯目が濃いめ、2杯目が薄めという変則編成。

今回私は別の試飲会でしこたま飲んだあとの参戦であり、ちょっともう飲めません酒量的に、みたいな感じでテイスティングしている。なので通常よりもかなり雑なテイスティングになっているがご容赦いただきたい。なあに、私の予想はいつも雑、つまりはいつも通りだ。酔えば酔うほど強くなる、酔拳スタイルで勝負していきたい。

 


 ブラインドテイスティングWEEK34/1杯目

さて1杯目だ。いきなりだが、これはカリフォルニアのシャルドネですよどう考えても。いまカリフォルニアワインの試飲会に行ってきたんだから間違えようがないわけなんですよどうしよう間違えてたら。

黄色味強め、香りはバニラ、味は蜜。非常にシンプルな味わいで、シンプルがゆえの強さが全面に出ている。カリフォルニアのシャルドネだ。

ただ、ブルゴーニュシャルドネ、オーストラリアのシャルドネの可能性は全然ある。全然あるのだが、アルコール感を強く感じる(フランスじゃないっぽい)し、ルイ・ヴィトンではないラルフ・ローレン的なエレガントみもある(オーストラリアじゃないっぽい)のでやっぱりカリフォルニアだ。

というわけで
アメリカ (カリフォルニア)/シャルドネ/2021/14%
と予想した。

 


ブラインドテイスティングWEEK34/2杯目

そしてこれが今回の全然わかんない案件。どう考えてもソーヴィニヨン・ブランにしか思えないんだけどソーヴィニヨン・ブランは先週出てるわけなんですよ。2週連続ソーヴィニヨン・ブランはあるのだろうか。

似た品種はなんだろう。ミュスカデとか、セミヨンとかか。ボルドー・ブランぽい感じはあるので、セミヨンはあるかもしれない。つーかボルドー・ブランがあるかもしれない。

これがワインマーケット・パーティのブラインドじゃなければニュージーランドソーヴィニヨン・ブランって言ってるが、
フランス(ボルドー)/セミヨン/2022/13.5% 
と予想してみたがどうか。

つい先週、「ブラインドテイスティングとは世界にグラスと己しかいない世界でワインと向き合う擬似精神と時の部屋」と書いたような気がしなくもないが、そうはいっても2週連続ソーヴィニヨン・ブランってことはないでしょう。先週と今週の自分は別の人間なので、大いにグラス以外の情報も参照し、セミヨンでファイナルアンサーだ。人間だもの。


ブラインドテイスティングWEEK34/3杯目

そして3杯目なのだがこれはオーストラリアのシラーズですよどう考えても(本日2回目)。

オーストラリア(バロッサ)/シラーズ/2020/14.5%
と予想したのだが他になにがありえるのだろうか。

ベルベット系の濃いめの色調、高いアルコール感、ブルーベリー的な香りと青っぽい葉っぱのような香り。これをユーカリ感ととるのか、ピーマン感ととるのかが運命の分かれ道な気がする。後者であればカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

可能性として残るのはスペインのガルナッチャ。南ローヌ。南アのピノタージュ、カリフォルニアのジンファンデル、プーリアのプリミーティヴォといった、なんですかね、幕の内土俵入り感のあるたっぷりしたワインのみなさんだ。

私は少しのハーブ感があって、少しの黒胡椒感があって、あふれるような果実があった気がしたのでオーストラリアとした。この果実はド王道、バロッサ・シラーズ単独予想だ。


ブラインドテイスティングWEEK34予想を終えて

というわけで今週も予想が出揃った。果たして私の予想は合っているのだろうか? 解答発表後に追記したいと思うので、お楽しみに。

【追記】

さて今週もワインマーケット・パーティ公式SNSで正解が発表された。以下、結果を見ていこう。


ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:1杯目

予想:アメリカ (カリフォルニア)/シャルドネ/2021/14%


正解:アメリカ(カリフォルニア)/シャルドネ/2021/14.5%
 


このブラインドテイスティングの前にカリフォルニアはパソ・ロブレスワインの試飲イベントに行っていた私はいわばパソ・ロブレスから来た男。セントラルコーストのワインは間違えられぬ、というわけで見事正解となった。

銘柄はド定番のカレラ セントラルコースト シャルドネ。アルコール度数を0.5%高く予想しておけばパーフェクトという幸先の良い出だしとなった。

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:2杯目

予想:フランス(ボルドー)/セミヨン/2022/13.5%


正解:オーストラリア(ハンター)/セミヨン/2023/11.5%
 

ボルドーじゃなくてオーストラリア、いわゆるひとつのハンターセミヨンだった。非常に薄い色とソーヴィニヨン・ブランに似た味わいが出たら、今後はハンターセミヨンを疑おうと思う。

 

ブラインドテイスティングWEEK / 正解発表:3杯目

予想:
オーストラリア(バロッサ)/シラーズ/2020/14.5%

正解:南アフリカ(ステレンボッシュ)/カベルネ・ソーヴィニヨン/2020/14%
 

実は第一印象は「カリ(フォルニアの)カベ(ルネ・ソーヴィニヨン)じゃない?」だったんすよ。なのだが、1杯目を「まず間違いなくカリ(フォルニアの)シャル(ドネ)」と断定したことで即座にないと判断、バロッサ・シラーズへと方針転換したのだった。オーストラリアは2杯目だった! 合成の誤謬

ただ、カベルネ・ソーヴィニヨンと回答できていたとしても、国はオーストラリアを選択していたはずで、南アフリカと答えることはなかった。いずれにしても産地は不正解だ。

株式会社マスダ公式サイト内「南アフリカワインとは ⑤ブドウ品種と主な産地」によれば、南アでもっとも栽培面積の大きい赤ワイン用品種はカベルネ・ソーヴィニヨン(12%)で、ピノタージュ(6.5%)のほぼ倍(データは2011年のもの)。

その意味では、南アフリカを代表する赤品種はカベルネ・ソーヴィニヨンなのだ。もっと飲んで特徴をとらえねばならぬ。

というわけで当たったり外れたりの結果だったが、トータルでは12問中5問正解。アルコール度数やヴィンテージもニアミスが多かったことでコツコツ加点できたのか、74名中5位という好結果となった。

これで2位、3位、4位、5位はすべて経験した。あとは1位をとるだけなんだよなあ(調子に乗ってる)。