ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

ワインが「開く」とはなにか? 「閉じている」とは? おいしい赤ワインを飲みながら考えた。【CONTE GIANGIROLAMO】

ワインが開くとは? テヌータ・ジローラモ「コンテ・ジャンジローラモ 2015」と考える

ワイン、とくに赤ワインを称して「固い」という表現を使うことがある。そして固い状態のことをワインが「閉じている」とも呼び、そんなワインの香りが立ち、味わいがなめらかになることを「開く」と呼ぶようだ。私はこの「開く」感覚がよくわからないため(感じたことはあるが確信を持って言語化することができず)、この表現は使わないようにしている。

しかし、あるワインを飲んでこの「開く」状態を疑う余地なく感じることができた。よかった。せっかくなので、ワインが「開く」とはどのような作用なのか、また、ワインが「閉じている」とはどのような状態なのかを調べてみた。それではいってみよう。

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飲んだのは、テヌータ・ジローラモの「コンテ・ジャン ジローラモ 2015」。オーソリティカレッタ汐留店で購入しました。

飲んだのはイタリアはプーリアの造り手、テヌータ・ジローラモの「コンテ・ジャンジローラモ 2015」。ネットで5000〜7000円くらいで売られてるワインだけど3本1万円とお得に買えた1本だ。「自分の好みとか関係なしに1本選んでいただくとしたらどれですか?」という聞き方をして出てきたワインなので、とても楽しみにしていた1本なのであった。専門店のイチ押しにハズレなし。

さて、コンテ・ジャンジローラモはネグロアマーロとプリミティーボを50%ずつ使い、樽発酵後、22〜24カ月フレンチオークで熟成後、さらに6カ月瓶熟成という手間のかかったワイン。ボトルがめちゃくちゃ重いのも特徴で、エチケットは白い石膏でつくられ、ロウで封がされているという内部にピッコロ大魔王でも封じ込めてるのかっていう堅牢なつくり。

すっぱくて渋い印象のワインが、一夜明けてまさに花開いた!?

これは期待がもてますぞと開栓し、飲んでみた感想が「すっぱしぶい」だったのだ。あれおかしいぞってなった。まだ固い印象は拭えないがビロードのようなタンニンと美しい酸は十分な熟成ポテンシャルを感じさせ、黒系果実、菫、若干土のようなアロマ云々みたいなカッコいいことを書きたいのに感想が「すっぱしぶい」だと困るわけです。

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余談ですがこのワインめちゃ重(物理)でした。実測1854グラム。

そこで私は考えたのだった。これが「固い」という状態、あるいは「閉じている」状態なのではないかと。

こういったワインは明日以降急激においしくなる可能性がある。また、合わせる料理が間違っている可能性もある。そういや目の前にあるの白身魚の刺身だし。塩で食べるのが好きなんですよ、白身魚を。レモンしぼったりしつつ。とはいえ赤ワインに合いそうもないこと悪鬼の如しである。白身魚お前そういうとこだぞと急遽白ワインを用意しておいしくいただきつつ、目の前にある赤ワインは明日に送ることとして、さっさと寝た。

で、寝て、起きて、また夜になり、赤ワインにあいそうなつまみを複数用意のうえワインを再びグラスに注ぎ飲んでみて驚いた。これはたとえるのがあまりにも簡単だ。メガネを外すと美少女になる漫画のキャラだ。あるいは『三つ目が通る』の主人公・写楽保介のバンソウコウを剥がした状態と言ってもいい。『HUNTER×HUNTER』でいえばビスケの真の姿的なごめんしつこいですねもうやめます。一晩のうちにボトル内にあったつぼみが開いてボトルの口から花が咲いたたような印象があったのだった。つまり、ははは、うまい。

そして、うまいうまいと飲んでいるうちにふと、おそらくこれが世にいうワインが開くという状態だろう。ではなぜ開くのか? 閉じているとはなんなのか? と考えたというのが調査を開始するに至る経緯である。

ワインが「開く」とはどういうことか。なぜ「開く」のか?

ワインが開くとはなにか。さくっと検索してみると、「ワインが開くとは時間を置くことでワインから豊潤な香りがしてくることです」みたいな答えの出し方をしている記事が多くヒットするのだがそういうことじゃないんだよなあ。知りたいのは「開くとはなに?」ではなく、「なぜ開くのか?」だ。

というわけで理屈っぽいことが知りたい場合に毎回参照する『イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門』を開くと、テイスティングの章のデキャンティングの項に関連する記述が見つかった。やや長いが、下記に引用する。

「一般にワインは酸化防止剤として二酸化硫黄などが添加されてからボトリングされ、その後、酸素が遮断された状態で何カ月もしくは何年も寝かされることになる。この間、還元状態となっているワインは酸素を渇望している。そんな状態のワインを空気に触れさせると、果実感が広がり、みごとに花開く」

ここで、「還元状態」というワードが見つかった。二酸化硫黄などの酸化防止剤の点火により還元状態にあるワインが「閉じた」状態ということだろう。そして、還元の反対は酸化なので、閉じたワインが酸素に触れることで酸化して「開く」と考えられる。

酸化と還元。酸素とワインの関係

酸化というとイコール劣化というイメージがあるが、還元状態にある(酸素を渇望した状態の)ワインが酸化によって花ひらくのであるならば、酸素はワインにとって有用だということになる。

そのあたりどうなってるんスかねとさらに前掲書を調べると、抜栓後の酸素の働きではなく、あくまで醸造過程での話だが、「ミクロ・オキシジェナシオン(タンクの内のワインに微量の酸素を人工的に供給し続ける熟成のやり方)」の項にこんな記述を見つけた。

「酸素がワインにどう働きかけるのかについてはいまだに議論が続いているが、最大の効果はポリフェノール類と反応してワインの構造に変化をもたらすことだ。その結果としてワインはよりやわらかくなめらかになって、タンニンと果実味との調和がとれた味わいになる(後略)」

ポリフェノールの一種であるフラボノイドのうち、ブドウに多く含まれているのがタンニンとアントシアニンだそうで、それらと酸素が反応することで、味わいや、色調にまで影響を与えるのだそうだ。その影響が正の方向に働いた場合「開いた」と言うのだろう。

一方、酸素はエタノールと反応して酢酸と水に変えてしまうこともあるのだそうだ。なので、ワイン造りにおいては極力酸化しないように畑から急いでワイナリーに運んだり夜中に収穫したり醸造においては嫌気条件下で行ったりして徹底的に酸化を防ぐ。にも関わらず最後の最後、グラスに注ぐ段階では酸素が必要って君サァってなる。

ほどよい酸素との接触がワインをおいしくする=ワインを「開く」

要するに、「ちょうどよいタイミングでほどよい量の酸素に触れれば素晴らしい仕上がりになるが、逆に過剰に触れると劣化してしまう」という前掲書の記述、これがすべてっていう感じだろうか。異性と仲良くなろうとするときもパスタを茹でるときもちょうど良い介入をタイミング良く行うべきであり、なにごとも過剰は良くないということだろう。20年前の自分に聞かせたいです。

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長くなってしまったが、「“還元状態”にあったワインが、ちょうどよいタイミングでほどよい量の酸素に触れた状態」と言うのが「ワインが開いた」状態であるようだ。完全にスッキリはしていないが、ひとまず納得である。

なんていうか、理系的現象を文系的に表現した結果、文理双方にとってよくわからないのが「開く」というワードなんじゃないかっていう気が調べてみてしてる。最後の最後で理系的に解析しきれない(『ほどよく』ってなんだよ)のがワインの魅力であり、常に未踏の地が残されている結果、文学的表現が許されてしまう。だからこそ、ワインのことをみんな語りたくて仕方がなくなるんだろう。ワインには式でも詩でもたどり着けない地点Xが常にある。

というわけで、末筆ながらテヌータ・ジローラモの「コンテ・ジャンジローラモ」、大変おいしいのでオススメです。

よりどり3本1万円がとにかく強い↓

カルディで売ってる象のワイン、あれどうなの? 「バランス」赤・白を飲んでみた【Balance】

カルディで「バランス」の赤と白を買った

カルディコーヒーファーム、略称カルディが好きでよく行く。主にコーヒーを買うために行くのだが、ワインコーナーを毎回チェックすることとなり、結果、高確率でワインを買うハメになる。

でもってカルディのワインコーナーに行くといやでも目に入るのが象がなんですかねあれは? 棒? かなんかの上に乗っかってるラベルが特徴的なワインだ。名を「バランス」という。そのままか。

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バランス シュナンブラン/コロンバール(左)とバランス カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロー(右)を飲みました。

私はこのワインが毎回気になるなあと思いながら一度も飲んだことがない。こうなるともう何年も前を通りがかるたびに気になってるんだけど一度も入ったことがない謎の店、みたいなもんで、いつかは一度体験しておかないわけにはいかないような気分。

いつかっていうのは今のことなので、187ml入りのミニボトルで試してみることにした。価格は303円税込である。購入したのは赤のバランス カベルネ・ソーヴィニヨン/メルローと、白のバランス シュナンブラン/コロンバールのふたつ。187mlってことはグラス2杯分くらいでしょうか。

私はワインを2〜2.5日に1本ペースで飲むのだが、「ちょっと足りない」「あと1杯飲みたい」がわりと頻繁に起こる。そういうちょい飲みたい需要に187mlのミニボトルは突き刺さるので、これでおいしかったらかなり助かる。安いし。他球団を戦力外になった中継ぎ投手を獲得したら50イニングくらい喰ってくれて助かった、みたいな活躍を期待したい。

バランスはどんなワインか?

さて、ではバランスは南アフリカのワイン生産者大手のオーバーヘックスワインズインターナショナルがメインに位置付けるブランド。オーバーヘックスワインズは2006年創業の新しい企業にも関わらず、公式サイトによれば瓶入りワインの輸出業者として5番目に大きい規模にまで成長しているんだそうな。すごい。

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本拠地は南アフリカのワイン造りの中心地、西ケープ州。そこの栽培農家と多く契約することで様々なスタイルのワインを自由自在に、かつ廉価&高品質に造ることができるみたいに自社の説明文のところには書いてあり、このあたりの説明はカリフォルニアや南フランスとかの大規模生産者が書きがちな感じと同じ。大企業のスケールメリットを活かして、個性はあまりないかもしれないけれども高品質で粗がない、良くも悪くもリーズナブルなワインを生産する。味わい的な意味でのオンリーワンを目指すのではなく、売り上げ的な意味でのナンバーワンを目指していく方向性だ。

大企業のブランドサイトあるあるで、ワインに関する情報は少ない。品質第一をポリシーに、信頼できる生産者からブドウを集め、熟練のスタッフが造る。売り上げは象が暮らす環境保全のチャリティに一部が寄付される。東京・新橋の居酒屋で日替わりランチを注文したら生姜焼きに味噌汁、ごはん、漬物に冷奴がついてきましたみたいなテンプレ感である。おいしくて、おとくで、サスティナブルだそうなので、それは何よりである。

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また、バランスという商品名は、いい人生にはバランスが大切だよねっていう考えから名付けられたのだそうだ。「そうなんだ」以外にコメントがない。ネーミングも普通だ。とはいえ、棒の上でプルプル震えてるように見える象のラベルは秀逸だ。思わず手に取りたくなる。とくにカルディのような店の店頭では。

ちなみにバランスの公式サイトでは、ラベルの象を操って、転倒しないようバランスをとりながら坂道を爆走するっていうブラウザゲームが楽しめるのほんと謎なのでぜひごらんください。

バランス カベルネ/メルローとシュナンブラン/コロンバールを飲んでみた

さて、そんなこんなで飲んでみた。まず白を飲んでみると、意外と香りが華やか。南の島のリゾートホテルのウェルカムドリンクで出てきそうなトロピカルフルーツ感のある香り(ただし弱め)で、飲むとやや酸味が強め。味はグレープフルーツっぽいのだけど、グレープフルーツの白いとこ、あれなんていうんですかね。なんかフカフカしたとこ。あれ的な苦味もわりとある。公式サイトでは、白ワインでつくるカクテルとして白ワイン、ミント、ブラウンシュガー、ライム、ソーダと氷を足してつくるホワイトワインモヒートが紹介されていたがそれはとってもおいしそう。今度やってみよう。

 

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では赤はどうかと飲んでみると、こちらも白に味の感じが似ていて、香りはわりとチャーミング(ただし弱め)なんだけど飲むと酸味と渋みが強め。公式サイトで紹介されている、イチゴ2、3個、ブルーベリー4、5個、蜂蜜ティースプーン1/2、ライム果汁1/2個分、ソーダ適量を加えてつくる赤ワインスプリッツァーにしたらこれまたおいしそう。白か赤どちらかと言われれば赤のほうがおいしいと思う。

というわけで、味に関していえば特筆すべきものはないのだが、187mlという容量の手軽さは魅力。303円税込の価格も魅力的。そして、ワインカクテルの材料にしてみるのも楽しそう、というわけで、意外とまた買うかもという気はする。

ただ、数年来気になっていた主張の強い謎の店に意を決して入店したら、出てきた料理は別になんか普通だったときのような、なんだか魔法が解けたような気分を味わったりもしたのだった。そんな気分を味わうのも意外と悪くないものである。たぶん。

南アフリカの安ワインは1000円台なのが信じられないこのワインがいまだ暫定1位です

 

 

 

 

小布施ワイナリー「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」を飲んでみた。

小布施ワイナリー「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」とDIAM30

とある仕事が終わったら飲もうと決めていた小布施ワイナリーのソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルローのキャップシールをはがしたら、DIAM30と書かれたコルクが出てきた。

DIAM社はワインとシャンパーニュのコルクをつくる会社。DIAMの社名の脇に付された数字は耐用年数を表すのだそうで、数字が大きければ大きいほど、長期間熟成可能なポテンシャルをワインが秘めている証拠になる、みたいな理解であってると思う多分。ちなみにDIAMのキャッチコピーは「ガーディアン・オブ・アロマ」。カッコ良すぎる。

さてこの日私がキャップシールを剥がしたワインは何万円もするような高級品ではない。どころか2650円税抜きだった。それでいてDIAM30である。耐用年数30年ということのはず。

私は迷った。今ならまだ引き返せるんじゃないかと。キャップシールははがしちゃったけど、そっと戻してラップかなんかでぐるぐる巻きにすればなかったことにできるんじゃないか、と。そして、数年後、あるいは2048年頃、今日の失態を笑いながら飲めばいいんじゃないかのう、わし、生きとるかのう2048年。みたいに思いもしたのだが、そこで私の持病である好奇心という病の発作が起きた。DIAM30のコルクで封印されたワイン、味わってみたすぎる!

「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」を飲んでみた

というわけで開け、ようとした。開けようとしたんですけどこれ、うん、めっちゃ硬いっすね。ワインに対する興味がなかった頃に、たまにいただきものでもらうワインを開ける用に100円ショップで買った業物ソムリエナイフではちょっと荷が重いDIAM30のこの密度。折れないように慎重に慎重を重ねて引き上げ、なんとか抜栓自体には成功(最後結局折れたけど)した瞬間に、部屋の空気が物理的に変化した。なんだかすっごくいい香りがするぞ。

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小布施ワイナリー「ソガ・ペール・エ・フィス キャトルサンク メルロー」を飲みました。

日本ワインにもおいしいものはある。ただし高い。同じ値段なら世界にはほかにおいしいワインがいくらでもある。みたいなことがよく言われてると思うが少なくともこの1本には当てはまらないと思った。2000円台のワインばっか飲んでる身からしても2000円台でこんなにおいしいワインそんなにないと思う。酸味と渋みと果実味の描く図形がぴったり正三角形。そして、香りと味の印象がきれいに一致している。かつてサントリーウイスキー「オールド」には「リッチ&メロウ」と「マイルド&スムース」いう2つの商品があって私はリッチ&メロウが好きだったのだがこのワインはリッチでメロウでかつスムース。ものすごく普通にうまい。

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小布施ワイナリー キャトルサンク メルローはどんなワインか

さてこのワインは、小布施ワイナリーの自社農場に隣接したサトウアキオ農園の畑「キャトルサンク」でヨーロッパ式の垣根仕立てで栽培されたメルローを使用しているというワイン。

相変わらず小布施ワイナリーのサイトにはワインの情報は皆無だが、ボトル裏には情報がてんこ盛り。一部を抜粋する。

「ドメーヌアキオ(サトウアキオ農園)は私達が尊敬する佐藤父子の子・明夫氏とその弟子、吉澤信氏が栽培しているワイン畑です。キャトルサンク(畑の名)の栽培は小布施ワイナリーと同じヨーロッパ式の垣根仕立です」

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裏ラベル。これ読むの毎回楽しみ。

このボトル裏の説明文はヴィンテージによって異なるようだ。ネット上にアップされたそれを見ると、2017にはこのような記述があったようだ。すっごく面白いことが書いてある。

「父子とは毎朝畑で会えるため葡萄の品質連携し、醸造は小布施ワイナリーが葡萄の個性を削がないよう責任をもっておこなっています。ただ面白いことに、このワインはドメイヌソガのワインとは個性が異なります。如何にヴィニュロンの思想と土壌、微気候がワインに反映するかがお解りいただける筈です。」

この文章はこうつづく。

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「ドメーヌアキオは有機栽培ではありませんが、15年以上に及ぶ佐藤父子による土壌管理努力が結果を出し始め、近年秀逸な赤ワイン葡萄を産する畑の一つとなりました。 この価格帯で蔵出しするのは勿体ないため、売りたくない気持ち半分の私達です。」

売りたくない気持ち半分の私達! ならば価格を上げればいいんじゃないかと私のような俗人は考えてしまうがそれを否とするのが小布施ワイナリーの哲学なのだろう多分。プレゼントに関する格言で「あげるのが惜しいと思うものが良いプレゼント」というものがあるが、そう考えるとこのワインは広義の贈り物ととらえていい。

キャトルサンクメルローとサトウアキオ農園

さて、サトウアキオ農園が気になるので調べると、佐藤明夫さんのインタビューがたくさん出てきた。そのうちのひとつ、グルメメディア「ヒトサラ」のインタビューでは、いいブドウをつくる秘密を問われ、こう答えている。

「僕たちの仕事はほとんどが草刈りです。地面に生える雑草も微生物を途絶えさせないために農薬で除草したりせずに伸びてきた分を刈り取っていくんですよ。夏の間はたいへんですね。ブドウの葉を切り、下の雑草を刈りとり、その連続です」(hitosara.comより)

いいブドウをつくる秘密は草刈り……。地道すぎる努力の果てにこの1杯のワインがあると思うと私みたいなもんは感動すら覚えちゃう。ヒットを打つための秘密を聞かれたイチローが「たくさん練習することですね」って答えるみたいな感じがある。達人に裏技なし。

佐藤さんはシャトー・メルシャンやココ・ファーム・ワイナリーにブドウを供給し、シャトー・メルシャンからは自身の名を冠したワイン、キュヴェ・アキオもリリースされているそうな。飲んでみたすぎるよそんなもんは。

というわけで話は盛大に逸れたが、栽培家である佐藤明夫氏と醸造家である曽我彰彦氏の情熱の残り香みたいなものを感じられる気がするこのワインが私は大いに気に入ったのであった。それにしても、10年後とまではいかずとも、数年後に飲んだらどんな味だったのだろうか。残念ながらこのワインはさらなる進化のために終売ということで、買い足したいと思ってもネットでは買えない。仕方がないんだけれども、そこは残念至極である。

こうなるとシャトー・メルシャンが気になってくる。

成城石井オリジナル缶ワイン「SEJO ISHII スパークリングワイン」はどんな味? “ブラン”と“ロゼ”を飲んでみた。

成城石井のオリジナル缶入りスパークリングワインを飲んでみた

スーパーの成城石井でよく買う商品のひとつにバロークスの缶入りスパークリングワインがある。とりあえずビールならぬとりあえず泡的に便利に飲めてそこそこおいしい、というのが缶泡の良いところだ。

さてある日、成城石井の冷蔵ドリンクコーナーに「成城石井 SEIJO ISHII スパークリングワイン」なるオリジナル缶入りスパークリングワインが並んでいることに気がついた。価格は399円+税。バロークスが550円とかするので、100円ほど安い。

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SEIJO ISHII スパークリングワインの「ブラン」と「ロゼ」を飲みました。

容量250mlのバロークスの欠点は高い点。「なんでも酒や カクヤス」には500円スパークリングワインという無法な商品があり、750ml入りのそれよりも容量250mlのバロークスは下手すると高いため、毎回ほぼ同程度の価格で量3倍のカクヤス泡も存在しているんだよな、この世には、というモヤモヤを抱えたままレジに並ぶことになる。100円程度の差に過ぎないが、SEIJO ISHIIスパークリング は「カクヤスの500円泡より確実に安い」ことで余計な心理的ハードルがないのが良い。要領は290mlとバロークス比40ml多く、プルタブ式のバロークスに対し、スクリューキャップ式なので再栓可能なのもメリットだ。なんならバロークスの「惜しい点」を徹底的に潰している感まである。缶だけにってやかましいわ。

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 冷蔵ケースには「ブラン」と「ロゼ」の2種類があったので、迷ったら両方買え、という格言に従い両方買ってみた。やっぱりもう一個のほうも買いに行こう、と改めて出かける時間が十分にあるほど人生は長くない。

SEIJO ISHIIスパークリングワインの原料はチリ産ワイン。山梨のモンデ酒造が製造

さて、自宅に持ち帰りしげしげと眺めると、裏ラベルに原材料は輸入ワイン(チリ産)と炭酸ガス、亜硫酸塩であることがわかる。チリで造られたワインをリーファーコンテナで日本に輸入、製造所は山梨県のモンデ酒造とあるのでおそらくそこで炭酸ガスを入れ、缶に詰める作業を行っていると思われる。セブン&アイの「ヨセミテロード スパークリング」と同じような成り立ち。原料のワインはチリのプエルタス社(ヴィネドス・プエルタス)が造っているそうだ。公式サイトを見てみると、巨大な工場でワインを造る大規模生産者って感じでした。

モンデ酒造はつい最近セブンイレブンでオリジナルの甲州スパークリングを買ってみたばかり。こちらも公式サイトを見るとやはり缶ワインの製造に力を入れていることがわかる。モンテ酒造の公式twitterのトップ画像も缶ワインだし。

 

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SEIJO ISHIIスパークリングのブランはシャルドネ100%、ロゼはカベルネブレンド

さて、ではこの2商品はそれぞれどんなブドウ品種が使われているのだろうか。商品発売時のニュースを見ると「シャルドネ100%で造られたブランとシャルドネカベルネソーヴィニヨンのブレンドで造られたロゼ」とある。ロゼのほうは赤ワインを白ワイン的に造る的なロゼではなくて、白に赤を混ぜたピンク色のワイン、という感じのようだ。成城石井お客様相談室に質問してみたところ、その配合比率はシャルドネ90%、カベルネ10%とのことだった。カベルネ・ソーヴィニヨンシャルドネブレンドしたロゼ、つまり赤白ブレンドロゼを飲むのは初めてだ。

いやしかし、これちょっとジャストアイデアなんですけどカートリッジ式のソーダマシンとかを買ってきたらどんなワインでもスパークリング化することができるってことか。楽しそうだな。いつか実験してみたい。赤と白のブレンド比率をいろいろ試してみたりして。新世界ピノ・ノワールの赤泡とかどんな感じになっちゃうのかな。スパークリング・ゲヴュルツトラミネールとか。余談でした。

SEJO ISHII スパークリングワイン ブランとロゼを飲んでみた。

さて、まずはブランを飲んでみるとこれが意外と悪くない。バロークスの特徴的なかすかな苦味みたいなものがなく、悪くいえばジュースっぽい、良くいえば飲みやすいといった印象になる。炭酸ガスをあとから入れていると思うので発酵由来の細かい泡みたいなものはないわけだけれどもシュワシュワしているものは総じておいしい、という法則に則って普通にうまい。主張の強くない味なので、食事にも合わせやすそうだ。

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じゃあロゼのほうはどんなもんかと開けてみると私はこちらのほうが好み。10%のカベルネ・ソーヴィニヨンがいい仕事をしているようで、渋みと果実味、チリのカベルネらしい味わいが追加されてコクうまチャーミング。ハム、たまご、納豆、牛乳、ヨーグルトなどとともに冷蔵庫に常備しておきたい系の、冷蔵庫のなかに存在しない場合に「ない」というより「切らしてる」という認識になりそうなデイリー泡テイストがする。これ1本で優勝までは行けないが、2回戦突破までは行ける。なんでもない火曜の夜とかには2回戦突破くらいの飲み方がちょうど良かったりしますよね。

別にめちゃくちゃおいしいわけではないが、重要なのは290mlという実にちょうどいいサイズでスクリューキャップ方式の缶に入れられている点だ。気軽な晩酌にもいいし、グラス1杯だけ飲みたい、という場合2日に分けて飲むこともできるはずだ。泡は相当弱まりそうではあるけれど。お花見とかにもそりゃもういいだろう。

というわけで、飲むタイプの常備菜としてしばらく採用してみたいという結論となった。バロークスにとってはかなり強力なライバルな気がするなあ、これ。

価格を無視して味わいだけでいえば缶ワインの過去ベストはこれ↓

エスプリ・ド・タイユヴァンで「タイユヴァンセレクト」のワインを飲んできた。【Esprit de Taillevent】

丸の内テラスのエスプリ・ド・タイユヴァンに行ってみた

2020年11月5日に東京丸の内にオープンした商業施設、丸の内テラス。そこに、フランスの老舗レストラン・タイユヴァンとエノテカが提携してワインショップ併設のカジュアルダイニング「エスプリ・ド・タイユヴァン」を出店したというのでどんなもんかとオープン当日に散歩がてらに行ってみた。初物は縁起がいいって言うしごめんただワインが飲みたいだけだった。

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丸の内テラスのご様子。この1階にエスプリ・ド・タイユヴァンがあります。

さて、丸の内テラスの立地は地下鉄の大手町駅から直結というアクセスの良さ。東京駅からも徒歩5分だそうで、東京在住・在勤者はもちろん、地方の方も東京出張の際に気楽に寄れるアクセスの良さ。その1階の路面店として、エスプリ・ド・タイユヴァンはある。エスプリはフランス語で「心」であります。

店内はカウンター10席、テーブル席3卓、テラス席4卓とこぢんまりとしたつくり。テーブル席でマダム3人が談笑し、テラスではビジネスウーマンと思しき女性がノートPCを広げている。うーん、丸の内。私はこの空間において明らかに異物だが、気にせず混入レッツゴーである。

タイユヴァンのオリジナルワイン「タイユヴァンセレクト」を飲んでみる

さて、食事が目的ではなく、ワインを味わいつつの偵察・見学・内見みたいなことが目的なのでカウンターに腰を落ち着けてワインメニューを広げてみると、泡白ロゼ赤甘口のラインナップのなかに「タイユヴァン」と書かれたワインが散在していることがわかる。

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ワインリストの造り手の欄に「タイユヴァン」と表記されたものがタイユヴァンセレクトだそうです。

接客してくれたソムリエールの方によれば、タイユヴァンにはタイユヴァンセレクトというオリジナルワインをフランスの各生産地で作っているのだそうだ。そして同時に、たとえばシャンパーニュならレコルタン・マニピュランにこだわったワインを自社で仕入れ、販売もしているのだそうだ。へー。

エノテカの公式サイトには「アンリ・ジャイエルフレーヴ、ラヴノーらも、タイユヴァンに選ばれたことで、スタードメーヌとしての栄光が始まった」って書いてある。すげえ。

【1杯目】タイユヴァンセレクト クレマン・ド・ブルゴーニュ

ともかくせっかくだしオリジナルを飲んでみようそうしよう(脳内会議)ということでまずはクレマン・ド・ブルゴーニュのタイユヴァンセレクトを頼んでみた。価格は90mlで800円。造り手はヴィトー・アルベルティ。後から調べたところによると、コート・シャルネーズのルリーを本拠地とするクレマン・ド・ブルゴーニュ専業の生産者みたい。

聞けば、タイユヴァンセレクトはタイユヴァンのソムリエが直接造り手のもとで試飲などを行って、もう少し熟成させましょうなどと指示を出してつくるオリジナル商品で、生産者の既存商品のラベルだけ貼り替えたとかってものではないのだそうだ。

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タイユヴァンセレクトのクレマン・ド・ブルゴーニュ

さて、目の前で抜栓されたボトルからザルトのシャンパングラスに注いでもらったそれを飲んでみるとこれがとってもおいしい。泡立ちは細かく、酸が強めでいかにも食事合いそうですねこれ、あれね。白身魚カルパッチョかなんかにいいですね。とか考えていると、ソムリエールの方がタイユヴァンのワインは料理と合わせやすいのが特徴なんですよと教えてくれた。さもありなんだなあ。

【2杯目】タイユヴァンセレクト ソーテルヌ

さて、おいしいワインの唯一の難点はおいしいからすぐなくなる点だ。ボトルの場合は問題ないが、グラスの場合は大問題で、次になにを飲むかという新たな問題まで連れてくる。タイユヴァンセレクトのなかにシャサーニュ・モンラッシェがあったのでそれいっちゃおうかなと思っていたが、食事と合わせることを念頭において造られたワインをなにとも合わせずワイン単体でゴクゴク飲んで、ははは、うめえ。みたいになるのもちょっと野暮かもな、さすがに、みたいになり、将棋指しが次の一手に悩むみたいな顔を1分30秒くらいしたあとでソーテルヌを頼んでみた。位置づけはズバリ「飲むおやつ」である。

造り手はシャトー・ル・ジャスティスとあるんだけどこれが探してもシャトーの名前だとヒットせず、あれこれ調べてみると、ソーテルヌが本拠地のメドヴィル家が所有するシャトーのようで、メドヴィル家の娘がシャンパーニュのメニルのゴネ家の息子と結婚してゴネ・メドヴィルとドメーヌとなり、複数の名前でシャンパーニュを含むワインをリリースしているようだ。このあたり雑調べなので正確性は低いけど大筋合ってるはず。ともかくシャトー・ル・ジャスティスのワインは85%セミヨン、10%ソーヴィニヨン、5%ミュスカデルで、2年間オーク樽で熟成させてリリースするそうな。

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タイユヴァンセレクトのソーテルヌ。

「仕事の疲れが癒される味ですよ」と出していただいたそれを飲んでみるとこれが非常に良い。味を称揚する言葉には「おいしい」「うまい」「やばい」「おいしみ」とかいろいろあるんだろうけどその最上級は「つかれがとれる」である。温泉に肩まで浸かる級の疲労回復成分がグラスに溶け込んでる。糖度の高いブドウを握力が200キロくらいある人が一握りに潰したみたいな密度がはんぱない甘さとレモンの皮のトロ部分(そんな部分はない)の苦くない苦味、みたいのでこれ無限に飲めるんじゃないですかね。

このワインのヴィンテージは2011年。タイユヴァンはパリ郊外に巨大なセラーを所有しており、各地から買い付けてきたワインは飲み頃を迎えるまでそこで保管されるんだそうだ。贅沢だなあ。このエスプリ・ド・タイユヴァンにあるワインも、そこから送られてきたものなのだそうな。

さて、会計を済ませたあと、ショップ部分も案内していただいた。セラー内にはタイユヴァンセレクトの40種類を含む460種類のワインがあるんだそう(エノテカのワインはそのうち1割ほどとのこと)で、そのすべてが抜栓料1100円でお店の料理と合わせて楽しめるんだそうだ。価格帯は5000円〜1万円くらいが中心っぽい感じだが、5000円以下のものもあれば、10万円オーバーのものもあった。ショップで売られている価格プラス1100円で飲めるので、レストランで飲むワインとしてはすごくお安いということになる。これはあれですよ。ワイン好きのカップルとかで来店、その日のメニューに合わせてセラーで二人でワインを選び、選んだワインと料理を楽しむ……なにそれ超楽しそうじゃないの。私はライフステージ的にそういう機会が現状絶無なのでウラヤマシス・ロビンソンである。どんどんやったらいいよ、若い人。

というわけで、すっかり角打ち的に利用してしまったがエスプリ・ド・タイユヴァンはカジュアルダイニング。次は料理とワインを一緒に楽しみたいものだなあと考えながら、丸の内を後にしたのだった。

 

ヴィーガンワインとはなにか? ベジタリアンとヴィーガンの歴史から考えた。

ヴィーガンワインってどんなワインなんだろう。そもそもヴィーガンって?

先日「ヴィーガンワイン」なるものを飲んだ。ここではあえてその銘柄名を出さないが、その造り手もヴィーガンなんだそうで、味わいそのものは非常に素晴らしかった。でもそもそもヴィーガンワインってなんだろうと興味を覚えたので、ワインを愛する者の一人として、調べてみた。ちなみに私はヴィーガンでもベジタリアンでもなく信仰も持たないため普通に何でも食べる。であるがゆえに本記事はヴィーガンを推奨もしないし批判もしない、ただのピュアリサーチであることをご承知おきいただきたい。

ピタゴラスベジタリアンだった? 菜食主義の長い歴史

さて、ヴィーガンについて調べる前に、まずはベジタリアンについて調べてみたいと思う。ヴィーガンは、どうやら菜食主義をさらに一歩進めたものであるらしく、それを知るためにはまず菜食主義を知る必要があると思うからだ。というわけで調べてみると、菜食主義は19世期以前は数学者のピタゴラスにちなんでピュタゴラリアンと呼ばれていたことがわかった。紀元前6世紀、ピタゴラスが創始したピタゴラス学派という一種の宗教結社が菜食主義だったからだ。

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ヴィーガンワインとはなにか? を、菜食主義の歴史から考えてみました。

ではなぜピタゴラス学派が菜食主義だったかといえば、それはピタゴラス学派が古代ギリシャのオルペウス教の影響を受けていたから。オルペウスは伝説的詩人で、毒蛇に噛まれて死んだ妻を取り戻すために冥界に入ったという人物。彼が開祖であるオルペウス教は、輪廻転生とそこからの最終解脱などを教義としていたのだそうで、その影響を受けたピタゴラス学派は、動物を殺すことは殺人に、食肉は殺人と等しいと考えていたのだそうだ。

一方、インドでは生き物を殺したり害することを禁ずる「アヒンサー」というヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教といった宗教の教義があるのだそうで、これは紀元前8世紀の聖典に記載があるのだそうだ。キリがないのでこのへんでやめるが、要するに紀元前から、また汎地球的に人間以外の生き物に危害を加えてはならぬという思想はあったということがわかる。日本では、かの弘法大師空海が同じ趣旨のことを述べているという。

菜食主義と健康、ベジタリアンの登場と「動物の権利」の誕生

そして話は一気に19世紀に飛んで、菜食主義が健康と結びついて論じられるようになると、1847年にイギリスベジタリアン協会が設立されると、50年アメリカ、66年ドイツとムーブメントは広がり、1908年には国際ベジタリアン連合が設立されるに至る。シリアルで有名な「ケロッグ」は、そもそも菜食主義の医学的側面を強調したジョン・ハーヴェイ・ケロッグが、菜食者用シリアルとして世に出したものだったのだとか。コーンフレークは健康食品だった。このケロッグ氏は医学博士であり、菜食主義のセブンスター・アドベンチスト教会の信者でもあったそうだ。

さらに時計の針は進んで1970年代になると、1975年にピーター・シンガーが出版した「動物の解放」という書籍の影響もあり、動物の権利運動が世界中に広がっていったのだそうだ。「動物の権利」に関するwikipediaにはまたしてもピタゴラスが登場し、やはり輪廻転生を信じていたため動物に敬意を払うよう主張していたことが紹介されている。そして、現代において、倫理的に考えた場合、「動物にも「人権」があり、危害を加えてはならない」という結論が導けるのだと書いてある。

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「動物の権利」とヴィーガンは切っても切り離せないようだ。

ここまでだいぶ駆け足で調べたことを記してきたが、本記事は以上の主張に賛否どちらの態度も表明しないことを改めて宣言しておきたい。一点、調べた感想を付け加えるならば、動物愛護という概念は、ある種のペット愛好みたいなものの延長線上にあるものだと私はボンヤリとらえていた。ピタゴラス学派に端を発する歴史ある概念だということを知ったのは大きな学びだったと言える。人間を人種や性別で差別するべきではないように、他の種を差別すべきではないという考え方であるようで、根底には差別の否定がある。

いずれにしても、宗教的理由ではじまった菜食主義が、やがて健康のためのものとなり、現代においては動物の権利、種の差別をするべきではないという考えへと変遷していったという過程があったことがわかった。

ヴィーガンとはなにか。ベジタリアンとなにが違うのか

さて、以上が古代から現代における菜食主義の歴史の超ざっくりの概要だ。続いて、ヴィーガンとはなにかといったテーマに移る。

菜食主義が動物性の食品を食べることを避けることだとしたら、ヴィーガンとはあらゆる動物製品を避けることが含まれるのだそう。卵も、乳製品も食べず、革やウールといった動物製品も避ける。「ヴィーガン」のwikipediaに載っている英国ビーガン協会の定義によれば、『「Veganisimとは、可能な限り食べ物・衣服・その他の目的のために、あらゆる形態の動物への残虐行為、動物の搾取を取り入れないようにする生き方」である。』とある。また、日本ベジタリアン協会はヴィーガンを『「動物に苦しみを与えることへの嫌悪から動物性のものを利用しない人」と定義している』のだそうだ。

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「野菜しか食べない人」という説明は、ヴィーガンの一側面に過ぎないみたいです。

菜食主義の歴史を俯瞰したとき19世紀に「健康」というキーワードが、20世期に入って「動物の権利」というキーワードが、菜食主義を思想的に補強していったことがわかったが、ベジタリアンに対して、より後者(『動物の権利』)の影響を強く受けているのがヴィーガンということのようだ。少なくともヴィーガンは「健康のために野菜しか食べない」という立場とは決定的に異なることがわかる。

畜肉や魚、乳製品などを摂取するのが当たり前の暮らしをしていると、動物の権利という言葉は直感的に理解できにくい部分もあるからか、ヴィーガンを宗教視する意見も散見されるが、ヴィーガンはそもそも宗教的思想(ピタゴラス学派やオルペウス教)に端を発していることは覚えておいていいかもしれない。最近ぽっと出てきた考え方ではないことは、知っておくべきだろう。ちなみに、ヴィーガンという言葉そのものは、1944年のイギリスで、ヴィーガン協会の共同設立者であるドナルド・ワトソンという人物が造った造語なのだそうだ。

ヴィーガンとワイン造りの関係

さて、ではこのヴィーガンという概念がワイン造りとどう関わってくるのか。ワインはブドウ果汁を発酵させてつくるアルコール飲料であり動物性のものは使われていないように見えるが、実はその製造の過程で動物製品が使われている場合が多いようだ。以下の記述は、主に書籍『イギリス化学会の化学者が教えるワイン学入門』に拠る。

動物製品をワイン造りに使うのは、「清澄」という工程であるようだ。清澄は、濁りの原因となる浮遊物と、ワインのバランスを崩す過剰なタンニンを取り除くためにおこなう作業で、清澄剤としては「天然由来のタンパク質、なかでも卵白アルブミンや、動物の骨や皮のゼラチン、牛乳のカゼイン、そしてチョウザメのアイシンググラス(魚にかわ)などがよく利用されてきた」(前掲書)とある。

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ワインの製造工程の「清澄」と呼ばれる作業には、動物由来の素材が使われることが多いそう。

前掲書にはヴィーガンに対する記述もあり、「動物由来の食品をいっさい口にしないビーガンやベジタリアンのなかには、卵白や乳製品が使用されたかもしれないワインを口にするのをためらう人もいるかもしれない。そうした懸念を完全に拭い去る方法は、ベントナイトを使用するか、もしくは清澄を行わないかのいずれかしかない」としている。

ヴィーガンワインとは、無清澄、あるいは清澄に動物製品を使わないワインのこと

これは、すなわちヴィーガンワインとはなにかの定義と言って良さそうだ。つまり、清澄を行わないワイン、あるいはベントナイトという粘度の一種を使ったものということになる。ベントナイトには強い吸着性があり、ワインから果実の風味を奪ったり、沈殿量が多くなるためワインの破棄分が増えてしまうといったデメリットもあるのだそうだ。「清澄のメカニズムはとても複雑で、まだ完全には解き明かされていない。」(前掲書)とあり、ワイン造りは日進月歩であるようなので、今後もしかしたらさらにヴィーガン フレンドリーな清澄材が見つかるかもしれない。

ここまでで分かる通り、ヴィーガンワインとはワイン造りにおける清澄という工程で動物製品を用いない(あるいは清澄を行わない)ワイン、といえる。そのため、オーガニックとかビオといった農法とは根本的には関係がない。ただ、私が飲んだヴィーガンワインはオーガニックの極地的とも言えるビオディナミ農法によって収穫されたブドウを使った、亜硫酸塩無添加自然派ワインであった(自然派ワインの定義や是非は本項のテーマではないので省略する)。 

himawine.hatenablog.com

これはただのイメージで、なんの裏付けもない放言だが、印象としては工場で大量生産されるヴィーガンワインといったものはイメージしにくく、自然派の造り手が小ロットで造るものに多いように思う。

冒頭で述べたように、私はヴィーガンではなく、吉野家の牛丼やマクドナルドのハンバーガー、豚骨ラーメン、寿司、といった食事を好むごくごく一般的なニッポンのワイン好き中年男性にすぎないが、なにより大切なのは多様性であると信じる者の一人でもある。この世界にはヴィーガンのためのワインが存在すること、そして少なくとも私が飲んだものは非常に素晴らしい味わいであったことは、本当に素晴らしいことだと思うといった感想を述べて、本稿を終える。また、本稿の記述はそのほとんどをwikipediaを参考資料としたため、正しくない点もあるかもしれない。もし間違いがあれば、twitter等で(@hima_wine)ご指摘いただければ幸甚である。

ドメーヌ・ミシェル・マニャン コート・ド・ニュイ・ヴィラージュを飲んでみた。【Domaine Michel Magnien Cote de Nuits Villages】

ドメーヌ・ミシェル・マニャンとはどんな造り手なのか?

先月東京・汐留のオーソリティ カレッタ汐留店に伺った際、同店の名物的な3本1万円コーナーでおいしそうなワインをみつくろってもらったうちのひとつにドメーヌ・ミシェル・マニャンのコート・ド・ニュイ・ヴィラージュがあった。開けるのを楽しみにすること数週間、休肝日明けの秋の良き日に飲むことにした。

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ドメーヌ・ミシェル・マニャンのコート・ド・ニュイ・ヴィラージュを飲みました。

ドメーヌ・ミシェル・マニャンは、モレ・サン・ドニ村を本拠地に4代目の父ミシェルと、5代目で現当主の息子フレデリックが運営するドメーヌだそうで、このフレデリックがかなりのやり手っぽいですね調べてみると。もともと協同組合にブドウを納めるだけだったのを自社畑のワインのリリースをはじめたり、自分の名前でネゴシアンものをはじめたり、ビオディナミに切り替えたりしている。伝統を守るのも大事だけど変化し続けるほうが大事だよねっていういい例ですねこれ。

コート・ド・ニュイ・ヴィラージュとアンリ4世

今回飲んだのはその造り手のコート・ド・ニュイ・ヴィラージュ。なるべく一次情報にあたりたいのでよく参照するんだけれども毎度いまいち要領を得ないことが私のなかでよく知られるブルゴーニュワイン日本公式サイトによれば、コート・ド・ニュイ・ヴィラージュのワインの特徴は「赤でも白でも、このワインはアンリ4世が日曜日の家族の食卓に思い描いた鶏の煮込みに合うワインである」ということになる。だからなに言ってるかわかんないっつーの。

アンリ4世は偉大な王だった反面、家庭生活には恵まれなかったようなので、アンリ4世もこんなワインを飲みながら、家族の食卓を囲みたかっただろうなあ、きっと。みたいなことなのだろうか。わからない。詳しい方ご教示ください。

改めて勉強すると、コート・ド・ニュイ・ヴィラージュはフィサンの一部、ブロション、プレモー・プリシーの一部、コンブランシアン、コルゴロアンという、シャンボール・ミュジニー、ジュブレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネら綺羅星の如き村々が連なるコート・ド・ニュイ地区にあって村名アペラシオンを名乗れない村でとれたブドウを使ったワイン。あれですよ、学連選抜ですよ。箱根駅伝でいうところの。コンゴロワン大学としては箱根路を走れないけれども仲間たちの思いもタスキに込めて、コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ選抜のボトルに詰まるわけです。アツいぜ。

コート・ド・ニュイ・ヴィラージュについては過去にも記事にしてました。

himawine.hatenablog.com

コート・ド・ニュイ・ヴィラージュとブロション村の不遇感

では今回飲んだドメーヌ・ミシェル・マニャンのコート・ド・ニュイ・ヴィラージュはどこの村のブドウが使われているのかといえばブロション村のブドウみたい。ブロションはコート・ド・ニュイ北部の村で、AOCジュブレ・シャンベルタンの一部やAOCフィサンの一部も含むのだそうだ。なのにAOCブロションはないのか。気の毒だなあ。

一体どういうところなのか。わからないのでGO TOブロションしてみることにした(Googleマップで)。

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赤い線で囲まれているのがブロション。幅の狭いところでは南北1キロないくらい細い。

この画像がグーグルマップで見たブロションだがなんていうかフィサンとジュブレ・シャンベルタンがパンだとしたらそこに挟まれたハンバーガーの肉的な感じ。隣り合うふたつの区画のブドウで造られたワインの味が異なるのがブルゴーニュテロワールの摩訶不思議な魅力、なんだろうけどさすがに気候も土壌も極端に大きく異なることはないように思える。高円寺と荻窪に挟まれた阿佐ヶ谷だけ極端にブドウの作柄が悪い、みたいなことはないんじゃないですかね東京都杉並区とコート・ド・ニュイは違うかもしれないけど。でも地図上で見るとマジで新宿-新大久保駅間くらいの感じなんですよブルションの幅。新大久保と東中野だけ快速が止まらない的な不遇感がある。

ともあれその地で採れたピノ・ノワールを使い、DRCやルロワと同じ樽やテラコッタの甕を使って熟成させるんだそうです。すごい。ヴィンテージは2014年だけどこの年のブルゴーニュはあんまりいい年じゃなかったそうな。あいにく。

ドメーヌ・ミシェル・マニャン コート・ド・ニュイ・ヴィラージュを飲んでみた。

さて、それで一体どんな味わいなんでしょうかとグラスに注いでみると、少しくすんだ薄いルビー色でなんとも良さそう。で香りがすごくいい。放課後しこたま逆上がりに挑戦したもののついに成功せず、失意のまま食べた梅干し、みたいな香りでそんなもんがなんでいい香りって感じられるんだろうか。これはワインの不思議なのか人体の不思議なのか。飲んでみると渋みが強め酸味もしっかり果実味控えめで要するに渋くて酸っぱくて甘くないのにおいしいの改めてなんなんスかね。なるほどこれは日曜日に鶏の煮込みと合わせたら最高だろう。いいじゃないブルション。AOC認定されない分だけ価格が安いお得感があるのではないかっていう気がしてくるぞ。

himawine.hatenablog.com

3本1万円で飲めるワインとしてはかなり満足度が高いのだが、このコート・ド・ニュイ・ヴィラージュはミシェル・マニャンの入門編的立ち位置のワインなのだとか。いやーこれ別のワインも飲んでみたいなあ、高いけど。

オーソリティの3本1万円、ウェブ版もあった。↓

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