ヒマだしワインのむ。|ワインブログ

年間500種類くらいワインを飲むワインブロガーのブログです。できる限り一次情報を。ワインと造り手に敬意を持って。

「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」に行ってきた!

「安ワイン道場」と私

「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」に誘われたので一択オブ行く一択で行った。

念のため説明しておくと、安ワイン道場とは安ワイン道場師範(以下、師範)という個人が運営する「個人ホームページ」だ。そのメインコンテンツは“稽古日誌”であり、師範が飲んだワインほかアルコール類全般の記録となる。その稽古日誌がスタートしたのが25年前の1997年5月25日なのだそうだ。

yasuwine.com

当時開設された「個人ホームページ」の多くは四半世紀を経て閉鎖あるいは放置されていることが予想される。そんななか20世紀と21世紀、あるいは平成と令和を股にかけ、今が真夏だと言わんばかりの隆盛を誇っているのが「安ワイン道場」だ。

私はワインにハマった3年前、ワインについてひたすら検索し続けるなかで「安ワイン道場」と出会って以来の読者。幸運にも師範ご本人とも知遇を得、最近ではすっかり飲み友達として付き合わせていただいているという関係だ。やったぜ。

 

「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」になにを持っていくのか

その25周年会は持ち寄り形式で、ワインに「縛り」はとくになし。一番迷うパターンのやつだが、私は全然迷わなかった。というのも、「師範に初めてTwitterでメンションを頂戴した日に買ったワイン」を記憶していたからだ。「セラー専科」の1万円のワインくじで当たったワインで、「メテオール ペルセイド カベルネ・ソーヴィニヨン 2013」がそれ。

師範との「初絡み」がこれ↓

師範といえば(安)ワイン会の超有名人。こちらはブログもTwitterもはじめたばかりの無名人。にも関わらず気さくにお声がけいただいたのがうれしくて、浮かれ気分で買ったことをよく覚えている。

とはいえ売価2万5000円だというこのワイン、ふだん1000円とかのワインしか飲んでない身には飲むタイミングがない。なにかしら流星群の日に飲もうといういわば流星群待ち状態だったのだが、道場25周年はココしかないというタイミング。というわけでそのワインを持って会場である東京・豪徳寺のワインステーション+に向かった。ここからが本編、当日のレポートとなる。

 

「安ワイン道場25周年記念持ち寄りワイン会」スタート

開始時間の20分ほど前に入店すると、何名かの方が先に入店している。おっ、持ち寄りワインを撮影している撮影業者の方がいるな、業者が入るとはさすが25周年だなあと思ってよく見たら師範だった。その人だった。

本日集まるのは17名。供されるワインは合計18本。「記録」を至上命題としておられる師範にとって、写真の撮り漏れは許されぬというわけで、開始前から撮影に余念がないのだった。

グラスの用意を手伝ったりなんだりしていると、会の開始時刻である15時になっている。次に気がつくと18時になっており、その次に時計を見ると22時になっていて、豪徳寺駅にマイクロブラックホールかなんかできたか……? と時空のゆがみを疑うほどの楽しさだったこの会の主役はもちろん師範。そして、もうひとつの主役が参加者たちが師範25周年にふさわしいのはこれでしょ! と選び抜いたワインたちだろう。それらを1本1本、振り返っていこう。

 

【1本目】スティーンバーグ 1682 シャルドネ キャップクラシック

まず乾杯は師範ご提供の南アフリカのスパークリングワイン。そのマグナムボトルだ。南アワイン専門店であるワインステーション+に師範が「乾杯用に泡を」とオーダーし、店主・駅長が利益100円ちょっとで用意したというスパークリングワインだ。お駄賃レベルの粗利額からもわかるように、この日はお店を挙げての祝福モードである。

さて、この泡がいきなり特筆すべき非常においしい泡だった。シャンパーニュのふくよかさや香ばしさと新世界スパークリングのフレッシュさと果実味が正面衝突しましたといった印象で、休日の午後3時に飲む最適解のひとつと思われるような味わい。

マグナムボトルがある会はいい会だ。非日常感と祝祭感があっていいですよね、マグナムって。

さて、これからの3時間で18本を開けなければならないのでここからはお忙しだ。180分で18本なのでひとつのグラスを味わう時間は10分。ひとりあたりの分量は40ミリリットル。試飲会かな? という慌ただしさのなか、参加者が自分の持ち込んだワインを順番に説明していくのを聞くのが楽しい。

 

【2本目】木谷ワイン「u2 2021」

2番バッターはゆうこりンファンデルさんで、「木谷ワイン u2 2021」。「違うワインを持ってくるつもりが間違えてこっちをもってきてしまった」というワインだ。ドジっ子か。しかしワインの味わいはとても良かった。

デラウェアでつくったペティアンという私の好きなタイプのワインだが、甘い香りにドライ過ぎない果実と酸味が調和した味わいでとても良かった。ペティアン自体の食前酒感もあいまって、セーフティバント気味の送りバントで一塁もセーフみたいな雰囲気を出していた。

ゆ(略)ルさんは自作のお菓子も持ち込まれていたが、それも大変おいしかったことを記録しておきたい。

 

【3本目】シャトー勝沼「上菱平圃場2020」

次のワインはMikiさんが持ち込まれたシャトー勝沼「上菱平圃場2020」というワイン。以前、Mikiさんと師範が収穫体験に行かれた“思い出の畑”のブドウでつくられたワインだそうだ。

畑名がキュヴェ名になっていることからもわかるとおり「日本のグランクリュと言われている畑です」との説明で、師範も「急斜面で、なるほどグランクリュという立地です」とのことだった。

ワイン自体はかなりシャープな酸があるタイプで、そこに果実が加わってりんご酢のような印象を受けた。グランクリュというだけあって、あと何年かしたら本領を発揮しそうなスケール感のあるワインだった。

 

【4本目】ドメーヌ・ギベルトー「ソミュール・ブラン ブレゼ 2012」

続いてはかしたくさんお持ち込みのドメーヌ・ギベルトーのソミュール・ブラン ブレゼ2012。かしたくさんいわく「ロワールで一番すごい生産者」である「クロ・ルジャールの(ワインメーカーであるナディ・フコーの)弟子がつくるワイン」とのことで、調べたら割当制で入手困難だっていうすごいワイン。

「ロワールのシュナンブラン」というイメージをひっくり返すわりととんでもないワインで、花と蜜の香りがすさまじい。個人的には、この日飲んだ白の白眉がこれだと感じた。やべえやつ。

さて、このワインを私の隣で飲んでいたのが参加者のMOMOさん。MOMOさんいわく、「このワイン、3ボトルですね」とのことで、3ボトルってなんですかと問うと、「アテなしで飲んだ場合に何本飲めるかの基準です」という答えが返ってきた。つまり、このワインならアテ(つまみ)なしで3本を飲み干せるくらいおいしいという評価だということだ。MOMOさんは私が出会ったなかでも酒の強さが5本の指に入るという傑物。評価の軸が飲める量……!

 

【5本目】レストレスリヴァー シャルドネ2012

どんどんいこう。続いてがワインステーション+駅長ご用意のレストレスリヴァー シャルドネ2012。ここは南アフリカワインの専門店。産地はもちろん、南アフリカだ。

こちらはまるで黄金といった印象の濃い色合いで味わいも見た目の通りに濃く、まるでカリフォルニア? という印象のワイン。熟成した南アフリカワインはあまり飲んだ経験がないが、高校時代の生徒会長が名門大学に進んで一流企業に就職しましたみたいな、至極真っ当な熟成をしている印象を受けた。

これもおいしかったなあ……南アフリカワインのハズレのなさは本当に驚くばかり。

 

【6本目】シェアード・ノーツ 「レ・レソン・デ・メートル 2019」

続いてはカリフォルニアワインの専門家・Andyさんお持ち込みの「シェアード・ノーツ レ・レソン・デ・メートル 2019」というワイン。レ・レソン・デ・メートルは「師匠の教え」の意だそうで、師匠≒師範のつながりでのセレクトとのこと。洒落てる。

そしてこれが「カリフォルニア」のイメージが良い意味でないエレガントなソーヴィニヨン・ブランセミヨンが24%ブレンドされていて、新樽が100%使われているというが「樽のローストが浅めで、マロ発酵をしていないからこの味わいなのでしょう」とAndyさん。

ワインメーカー夫婦はこのワインを造る際に「マロ発酵する、しない」で過去最大規模の夫婦喧嘩をしたとAndyさんが教えてくれたがマロ発酵しなくて正解だったと一同納得の味わいであった。

これだけ書いてまだ白ワイン編が終わっただけか。すげえな師範会。がんばって中盤戦に突入していこう。

 

【7本目】ドゥ・ヴノージュ「コルドン・ブルー 2002」

続いて白とロゼ&オレンジの間に差し込まれたのが、ちゃこさん持ち込みのドゥ・ヴノージュ「コルドン・ブルー 2002」。スイス人が創設者だというドゥ・ヴノージュの名前はレマン湖に注ぐヴノージュ川に由来するのだそうで、コルドン・ブルーのラベルの青はこの川をモチーフにしてるのだそうだシャレてんな。

2002年はシャンパーニュ界で有名なグレートヴィンテージ。ちゃこさんが最近亀戸の名店・デゴルジュマンで飲んで惚れ込み「その場で買った」というワインで、「みなさんが正気のうちに飲んでいただきたい、このおいしさを……」というゾンビ映画でよくある気がする「ゾンビになってしまう前に伝えたい、愛していると……」みたいなセリフとともに中盤に配されたこのワインもやべえやつだった。

シャンパーニュの熟成香がさほど得意でないと思っていた私だが、もしかしたらこの日をきっかけに「好き」に路線が切り替わったかもしれないと感じるくらいの複雑でふくよかで優美な香り。しかしフレッシュさもあり、果実と酸味の両要素も加えた味わいの平行四辺形具合が素晴らしかった。これおいしいな。世界はまだ知らないおいしいシャンパーニュであふれてる。

 

【8本目】シャトー・メルシャン「椀子 カベルネ・フラン ロゼ 2020」

シャンパーニュでいい感じの句読点が打たれ、ここからはロゼ・オレンジ部門に会が突入していく。その先頭バッターとなったのがだいすけさんご持参のシャトー・メルシャン「椀子 カベルネ・フラン ロゼ 2020」。

最近シャトー・メルシャンの椀子(まりこ)ヴィンヤードを訪問されたというだいすけさんが試飲して買ったという現地限定ワインだ。

この会は各人が持ち込みワインを事前に発表して、当日までにリストを埋めていくという形式だったのだが、だいすけさんは会が近づくまでワインを決めず、リストにロゼがないことを確認した上で選んだのだそうだ。

結果的にこの日のワイン会には泡白赤橙桃甘とすべてがラインナップされることになる。参加者力高ぇ……! ちなみに私は真っ先に持っていくワインをウェーイと公表した者。気の利き方の違い……!

バラというよりさくらんぼのようなかわいらしい色、香りも味わいも期待通りのチャーミングさのあるワインだった。個性的な参加者の持ち込むワイン、どれも個性的でおいしい。

そうなのだ。このワイン会には品種も、価格も、産地も、ヴィンテージも、持ち寄るワインに対する縛りがなにひとつない。強いていえば「師範っぽいやつ」みたいな定量不能の定性・オブ・ザ・定性といった指標だけ。

それだけに次に出てくるワインの味わいがまったく予想できないびっくり箱感があってめちゃくちゃ面白かったのだが、それでいて過ぎた日を未来から眺めてみれば不思議な統一感もあるように感じられる。たしかにどれも『師範っぽい』のだ。

 

【9本目】スカルボーロ「XL ピノグリージョ2018」

そして次に出てきたワインも、そんなびっくり箱から飛び出してきたようなおいしいワインだったのだった。

それがMOMOさん持ち込みのスカルボーロ XL ピノグリージョ2018。インポーター「風土」のワインで、MOMOさんが気に入ってこの造り手のワインを全部1本ずつ買うというエレガントな買い方をされたといううちの1本。

「エチケットは木を薄く削っているんですよ」(MOMOさん)とのことで、なるほど水に漬けたら出汁が出るんじゃないかという削り節を思わせるラベルの印象そのままに旨みが強い。

料理とのマリアージュを追求されているMOMOさんらしい、これと一緒にどんな料理を合わせたら面白いだろうかという想像がふくらむような、これも素晴らしいワインだった。おいしい食べ物を知っている人はおいしいワインを知っているという宇宙の真理に気づく1本であった。

 

【10本目】コレニカ&モスコン「エレパード2008」

スカルボーロはフリウリの生産者。フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州スロヴェニアと国境を接している州だが、次に登場するのはそのスロヴェニアのワイン。

ワインステーション駅長の奥様・助役ことMAKIさん提供のワインで、コレニカ&モスコン(発音が合っているかは謎)なる生産者の「エレパード2008」というワイン。ラベルには豹柄の象みたいな絵が書いてあり、それがつまり「エレパード」のようだ。

ピノ・ブラン66%、ソーヴィニヨン34%。120日間のシュール・リーのあと、120か月熟成させているワインです」とMAKIさん。120カ月って。ワイナリーで10年熟成させているという、その間ワイナリーの従業員のみなさんの生活は大丈夫なのかと余計な心配をしてしまう感じのワイン。

師範は「香りはシェリーですね」とおっしゃっていたが、私の知っている味で近いのはちょっといい中華で出てくる熟成紹興酒。とはいえツーン! と鼻をつく感じがキツくなく、ワインとして楽しむことができる全体に丸みを帯びた味なのがいい。

味もさることながら、10年熟成オレンジなんて飲んだことがなく、経験として素晴らしい。そんなタイプのワインだったように思う。ワインステーション+、さすがは南アワインとオレンジワインの専門店だ。

 

【11本目】ポール・ローノワ 「シングル・バレル 1602 エクストラ・ブリュット」

以上でロゼ・オレンジ部門が終わった。ラストスパートの赤ワイン部門に移る前に、お口直し的に再びシャンパーニュが登場する。

お口直しといっても弩級シャンパーニュで、ポール・ローノワ  シングル・バレル 1602 エクストラ・ブリュットのマグナムというもの。価格は8万8000円。1ml58円だ。私が最近家飲み用に半常備しているダンシングフレイムシャルドネは437円とかなので、このワイン約7mlと等価交換可能ということになる。

これは、このワインのインポーターである株式会社都光社長のナオタカさんこと戸塚尚孝氏持ち込みのワイン。なんでもこのキュヴェは「樽ごと買った」のだそうで、樽の焦がし加減までオーダーしているのだそうだ。ワインというよりウイスキーの名称みたいだが、それで「シングルバレル」なんですね。

ちなみにその樽はクリュッグやボランジェが使うのと同じ樽なのだそうで、この生産者はその樽をなにかしらで中空に吊るしているのだそう。ナオタカさんいわく「××系シャンパーニュとのこと(ヒマだしワインのむ。は健全な媒体なので伏せ字です…!)。

2016ヴィンテージとのことだが、シャンパーニュとしては掛け値なしに素晴らしく、ナオタカさんいわく「まだまだ寝かせられますね」とのことだったが、フレッシュな状態の今飲んでも十分に楽しめる。さすが、というワインだった。

さて、冒頭のほうでマグナムボトルが登場すると場が盛り上がるみたいに書いたが、それが中盤から後半に配されるとヤバい。全員の酔いメーターが跳ね上がって一気にスーパーええじゃないか状態に突入。ここからは私自身の脳にもアルコールが回ってなにがなんだかわからない状態となっていくのだが、散逸した記憶を拾い集めてなんとか文章にまとめていきたい。

 

【12本目】シークレットストーン「マールボロ ピノ・ノワール2014」

そんなこんなでいよいよ真打登場。お次は師範の持ち込みワインで、ニュージーランドの生産者、シークレットストーンのマールボロ ピノ・ノワール2014というワイン。

なんでもこのワイン、2019年の1月頃に師範が火付け役となって一世を風靡したワインなのだそうだ。2019年の1月といえば私がはじめて「もしかして自分はワインが好きかもしれない」と自覚したくらいのタイミング。師範、その当時から(当たり前だけど)今と同じようなことやってんだなあ。

このワインの当時の価格は師範いわく862円。1本前に飲んだシャンパーニュは8万8000円。価格差は約100倍だ。8万8000円のワインと800円のワインが違和感なく共存し、800円のワインに対し「私、パスでもいいですか?(笑)」と参加者が言える空気感、これが安ワイン道場クオリティ。

私のブログのコンセプトは「すべてのワインをリスペクト」で、それはこの場において特異点的に実現している。高いワインも安いワインも違和感なく場に馴染んでいて、どのワインも居心地が良さそうにしている印象だ。

さてこのワイン、ワインとしてもふつうにおいしい。師範は「マルサネのいいやつに匹敵し、安く見積もっても3000円の価値がある」と豪語されていて、それは若干言い過ぎ感があるようなないような気がするなあモゴモゴ、と思いつつ、この日唯一のU1000円 とは思えないたしかな存在感のあるワインであるのは間違いがない。そもそもニュージーランドピノノワールが1000円以下って時点ですごい。

 

【13本目】ショーヴネ・ショパン クロ ヴージョ2016

長いワイン会もいよいよ終盤戦に突入。ここで登場したのは、長駆神戸から参加されたカツミさんご持参のショーヴネ・ショパン クロ ヴージョ2016。グランクリュがきたぞー!

あまり公言されない印象だが、師範は本来ブルゴーニュ好き。「ブルゴーニュのたけえやつ」はおそらく大好物中の大好物で、これはまさにそのピンポイントをついてくる1本。

カツミさんの針の穴を通すようなコントロールが師範のストライクゾーンを鋭くえぐり、この日の最高得点が師範の稽古日誌ではこのワインに与えられていた。

ものすごく真っ当においしいブルゴーニュという印象で、素晴らしい経験をさせていただいた。今飲んでもおいしいし、まだまだ熟成もするのだろう。

 

【14本目】ドメーヌ・デ・リゼ「コルナス2012」

とはいえ次に飲んだワインも素晴らしかったのだった。持ち込まれたのはMAMIさんで、銘柄はMAMIさんのお好きな生産者、ドメーヌ・デ・リゼのコルナス2012。

北ローヌのエレガントなシラーとはまさにこのことみたいな印象で、個人的にはすごく好き。シラー=スパイシーみたいによく言うけど、言うほどスパイシーか? みたいなシラーもたくさんある気がしていて、これはそのうちのひとつだったような気がする。

むしろミントの葉のような涼しげな香りが漂っているように感じられ、果実味渋み酸味の二等辺三角形が二次元平面から立ち上がって三次元化したような奥行きが味わいにあった。もちろん人それぞれ意見は異なるだろうが、個人的には赤はこのワインとカツミさんのクロ・ヴージョが双璧だった。

 

【15本目】ドメーヌ・アレチェア「ドリア2020」

ワイン会はまだまだ続く。続いては、りすさんが持ち込まれたワイン。なんでもりすさん、玄関にワインを置いて出てしまったらしい。ドジっ子か。

そこで急遽会場であるワインステーション+がある豪徳寺駅の隣駅、経堂のワインショップ、エニウェイ・グレイプスに駆け込み、この日のワインリストをお店の方に見せて「なんとかしてください」と頼んだらしい。できる。

結果選んだ(選ばれた)ワインは「バスク地方カベルネ・フランです」と、りすさん。バスクっつったらスペインだよね、バスクのカベフラなんてはじめてだなあみたいに盛り上がっていたら、抜栓役を買ってでてくれていただいすけさんが、「これ、フランスのワインじゃないかな……?」と一言。裏ラベルを見ると、たしかにフランスワインだった!

バスク地方はフランスとスペインにまたがっており、生産者のドメーヌ・アレチェアがあるイレルギはフランス側のバスク地方にあるのだそうだ。

ワインはビオディナミ農法で栽培したブドウを無濾過無清澄で仕上げたという人的介入を極力排除した製法。とはいえとてもキレイな造りで、師範の「カベフラというよりグルナッシュ」というコメントに納得がいく、わかりやすくおいしいワインだった。りすさん(エニウェイ・グレイプスの方)ナイスリカバリーだ。

(ちなみに生産者公式サイトには、このワインはタナ70%、カベフラ20%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%と記載されていた。細かいことは気にしなくていいよね☆彡)

 

【16本目】ボルゴーニョ「バローロ2016」

さて、お次はkinokoさんお持ち込み、ボルゴーニョのバローロ2016だ。ボルゴーニョ、ピエモンテ迷子の私でも知ってる有名生産者!

バローロといえば王のワイン。師範にふさわしいと思ってお持ちしました!」とkinokoさん。本当に、みんながみんな師範のことを考えてワインを選んでいて、うらやましいなあ、師範。

このあたりで私の記憶もだいぶ曖昧な状態に突入しているが、まだ若いバローロらしく、渋み、すっぱみがしっかりとあってまだまだヤンチャな感じだがその先にたしかに王としての姿を感じさせもする、なんていうか若き日の信長みたいな印象のワインだった。

 

【17本目】メテオヴィンヤーズ「パルセイド2013」

さて、いよいよ最後の赤ワインだ。冒頭でも軽く紹介した私・ヒマワイン持ち込みのメテオヴィンヤーズ パルセイド2013。

渋み、酸味、果実味のバランスがよく、なかでもカリフォルニアらしく果実味がほんのわずかに先行しているような果実味エレガントな味わいでおいしい。「これが今日イチ」とおっしゃってくれる方もいて一安心である。

メテオは流れ星の意、ペルセイドはペルセウス座流星群の意だ。ペルセウス座流星群は毎年夏に観測されるため5月の今は季節外れ。それでもしっかりと輝きを放ってくれたようだでかした。

 

【18本目】

さて、中締めの1本はりゅじめしさんご持参のアイテルスバッハー・カルトホイザーホフベルク 「リースリング アウスレーゼ 1989」。なんとびっくり、33年前のワインだ。

飲んでみるときちんと飲めるワインで、ちゃんとおいしい。33年の時を経て、しっかりおいしいんだからワインはすごいよなぁ。

ワイン会の最後に甘口ワインを飲むとやっぱり〆感が出ていいな、と思える味だったのだった。

 

以上18本。すべてのワインが印象に残る、素敵なワインばかりだった。そしてなにより安ワイン道場の25周年に、それを祝おうという気持ちをもった人々が集まり、それぞれが師範の会になにを持ち込んだら盛り上がるかなあと知恵を絞った、その時間こそが尊いと思う。

よく飲み、よくしゃべり、よく笑った夜だった。つまり良い夜だった。

会はこのあと新たな参加者と新たなワインとともに盛り上がっていくのだが、ここでは「本編」の記録にとどめておく(記憶が曖昧でメモもない)。一次会もそうだったが、二次会でも「はじめまして」の方と多数ご挨拶させていただいて、最後の最後まで乾杯しっぱなし、笑いっぱなしの夜だった。みなさんまた飲みましょう。

というわけで、大変楽しかったのでぜひ26周年も、なんなら25.5周年とかもやってくださいと師範におねだりして本稿を締めたい。師範、あらためて25周年おめでとうございます! 50周年もお祝いしたい!

買ってて良かった、ワインくじ↓

Amazonのタイムセールで安く買ったワインの実力は? ウォーリー ソーヴィニヨン・ブラン

レ・カーヴ・ド・ラ・ロワール「ウォーリー ソーヴィニヨン・ブラン」を入手した

Amazonでロワール地方の白ワインだけが6本入ったセットに25%オフクーポンが出ていて1本900円くらいで買えたので買った。そして、そのうちの1本であるレ・カーヴ・ド・ラ・ロワールのウォーリー ソーヴィニヨン・ブランを飲んだのでワインについて調べてみたというのが本記事の趣旨だ。

手始めにこのワインを商品名で検索するとイギリスのショッピングサイトが多くヒットする。そして英国ではだいたい10〜12ポンドくらいで売られているようだ。10ポンドは2022年5月現在1583円なので日本で900円くらいで買えたのはお得。お得はおいしさの調味料のなので吉報であります。

 

カーヴ・ド・ラ・ロワールはどんな生産者か?

さて、カーヴ・ド・ラ・ロワールという妙に主語のデカい生産者名には背景があり、要するにひとつの畑と醸造所をもつ生産者ではなく、いくつかの生産者が寄り集まった協同組合でもなく、ロワール地方の3つの協同組合が合体してできた巨大生産者なんだそうだ。

レ・カーヴ・ド・ラ・ロワール「ウォーリー ソーヴィニヨン・ブラン」を飲みました。

抱えるワイン生産者の数は160。その延べ面積は2200ヘクタール。以前Amazonで購入したイタリアワインのセットもそうだったが、巨大協同組合のつくるワインは基本安くておいしい。言うなればスケールメリットとしか表現のしようのないような、誰が飲んでも美味しいっていうよねこの味、みたいな味を期待していい。

himawine.hatenablog.com

ハリウッドの大作映画は結末を何パターンか撮影し、それを一般の鑑賞者に見せてもっとも反応の良かったものを採用するなんていう本当なんだか都市伝説なんだかイマイチわからない話を聞いたことがあるが、それが事実であれば監督や脚本家の作家性は一定程度失われるけれども一定以上の満足感は間違いなく担保されるよね、みたいなことに協同組合のワイン作りは似ているような気がする。

 

カーヴ・ド・ラ・ロワール「ウォーリー ソーヴィニヨン・ブラン」はどんなワインか

ワインについても調べてみよう。公式サイトにこのワインは見つけられなかったのだが、eynshamcellars.comというたぶんイギリスのオンラインショップに2015ヴィンテージのファクトシートが落ちてたのでその内容をチェックすると使われているブドウはロワールのアンジューで収穫されたものだそうで、樹齢平均25年のソーヴィニヨンブラン100%。

輸入はワインキュレーション、販売はAmazon.co.jpという座組み。

ステンレスタンクで発酵後3カ月間澱とともに熟成されているそうだ。残糖は4g/L、酸は7g/Lだっていうから「すっぱめ」が予想される感じ。格付けはウォーリーIGP。添加物として安定剤(CNC-NA)が使われている。ヴィンテージは2020、アルコール度数は12%だ。

 

カーヴ・ド・ラ・ロワール「ウォーリー ソーヴィニヨン・ブラン」を飲んでみた

キリッと冷やして飲んでみるとビックリするくらい真っ当なワインだったんですよこれが。高原の岩から染み出したハーブ水に蜜をひとさじ加えましたみたいな水、草、蜜の三拍子。その三者のなかだと「草」要素が少し強く、若干のハッカ感まであるような感じ。初夏から夏にかけては飲むのにベストのタイミング。料理とのペアリングも大事だけど、季節感とのペアリングもワインって大事ですよね。

vivinoの評価は3.7。まさにそんな感じだと思います。

めちゃくちゃうまい! すごい! みたいなことではなく、まさに1500円〜2000円くらいのおいしさ。というわけでロワール白6本セットは順調な滑り出しとなったのだった。全部アタリってことはないかもだけど、ひとまず1本目はセンター前ヒットだったことをお伝えしておきます。

このセットです↓

 

 

 

成城石井「お楽しみスパークリングワインBOX」なにが当たる? 当て方は? 【2022年5月】

成城石井で「お楽しみスパークリングワインBOX」を買った

なにが当たるかのドキドキ感が楽しめる「ワインくじ」が好きでよく買う。スーパーの成城石井では「お楽しみスパークリングワインBOX」というワインくじが割と頻繁に売られており、私も過去何度かこれに挑戦したことがある。

成城石井の「お楽しみスパークリングワインBOX」に挑戦。

1位の賞品がものすごく豪華、というタイプではなく、高確率でシャンパーニュが当たるのがウリのワインくじで、過去私はルイーズ・デストレ、ベー・フランソワ・ブリュットといったワインを引き当てたことがある。引き当てたことがあるというか、それらのワインはなんて言うんですかね。俗に言うハズレなわけなのですがまあ細かいことはいいだろう。

himawine.hatenablog.com

ワインくじとは購入後それを開封するまでの時間を楽しむものなのであってなにがアタリでなにがハズレかなどとを論じるのは野暮というものだそういうことにしておいてください。

さて、本日ちょっとした買い出しに成城石井を訪問したところ、そのお楽しみスパークリングBOXが売られているのを発見した。私事ながら今日は私の誕生日。誕生日といえば運気天をも穿つ勢いであるに違いなく、買えば自ずと確率20%で封入されているというシャンパーニュがゲットできるに違いない。濡れ手にシャンパーニュとはまさにこのことだわい、ガハハ! と「三国志」の猛将みたいな気分で1本を選び、自宅へと連れて帰ることにした。

そう、これは中年男性(最近ロクなことがない)が誕生日にワインくじを買うとどんな結果となるのか。その過程から結末までのドキュメントである。

 

成城石井「お楽しみスパークリングワインBOX」の中身

さて、まずは今回のワインくじがどのようなものなのかから調べていこう。ポスターには大きく「1/5の確率でシャンパーニュが当たる!」と書いてある。シャンパーニュ率20%。つまり、80%の確率でシャンパーニュは当たらないということだ。自分で書いて思ったのだがえっマジか80%はまあまあの確率だなこれ。なぜ人はワインくじを買うその瞬間だけ80%を8%くらいに過小評価するのでしょうか。降水確率80%で傘を持って出かけない人いますか?

しかし今日は私の誕生日。鬼神も逃げ出す運気でもって、20%を当てに行く。というわけで適当に1本を選び(達人はボトルの形状から重心を判断し、箱を傾けることで中身を判定するそうだが私には無理。箱選びは常識の範囲内でやりましょう)レジへと持ち込んだ。ついでに生ハムも買った。生ハムとシャンパーニュで今夜をセレブレートしていきたい。

さて、開封の儀を執り行う前にまずは今回のワインくじの中身を見ておこう。以下だ。

ヴーヴ・クリコ ローズラベル 7139円(1本)
モエ・エ・シャンドン ロゼ 6039円(1本)
モエ・エ・シャンドン ブリュット 4939円(1本)
G.H.マム グランコルドン 4719円(1本)
ポメリー・ブリュット ロワイヤル 4719円(1本)
エドシック・モノポール ブルートップ 4389円(2本)
シャンパーニュ ドゥロ ブランドノワール 3839円(3本)
ニコラフィアット セレクションブリュット 3509円(2本)

以上がシャンパーニュ
以下が「それ以外」だ。

モワンジョン ヴァンムスー ブリュット 2849円(5本)
ルイーズ デストレ スパークリングワイン 2849円(5本)
ミレニアム カヴァ ブリュット 2629円(6本)
クレマンドリムー レヴェラシオン36カ月熟成 2189円(6本)
ルイ・フラマンド スパークリングワイン2189円(13本)
エフ ラヴェルニュ 2189円(13本)

すべてのワインは生産者の思いがこもった掛け替えのないものだが、あくまでくじの景品として見た場合シャンパーニュ以外はハズレだ。狙うはシャンパーニュシャンパーニュならなんでもいいのだが飲んだことのないヴーヴかモエのロゼ、あるいはエドシック・モノポールとかが希望です。(確率3.3%)

 

成城石井「お楽しみスパークリングワインBOX」のお得度

シャンパーニュ12本、それ以外48本。12本しかシャンパーニュが入っていないのか……当たるわけないよ。と考えるのか、ワオ! 12本もシャンパーニュが入っているだなんてなんて素晴らしいんだ! と考えるのかで人生の舳先の向く方向は大きく異なる。私は本来ガッツリ系ペシミストなのだが、今日は私の誕生日。年に一度の楽観主義でもってシャンパーニュの大海原に漕ぎ出して行きたい。

よく見るとシールに謎のポエムが。その気持ちわかる。

ちなみにくじの景品の税込価格はグロスで16万9180円。平均価格は2819円。くじの売価は2079円なので、基本的にはお得と言っていい。以上で下調べは終わり。いざ開封の儀に進みたい。

 

成城石井「お楽しみスパークリングワインBOX」なにが入ってた?

というわけで開封だ。ワインくじは開封の瞬間に勝利判定がされるケースがあり、今回でいえばキャップのカバーがピンクだったらヴーヴ・クリコまたはモエ・エ・シャンドンが確定。青だった場合はエドシック・モノポールが確定。つまりシャンパーニュだということになる。一方でオレンジが出た場合ルイーズ・デストレ確定でつまり非シャンパーニュが確定する。それ以外、ゴールドまたはブラックの場合はラベルを見るまでは基本的にはわからないということになるだろう。

というわけでいってみよう。鬼が出るか蛇が出るか。シャンパーニュか、スパークリングワインか! いざ開封だ。

準備完了。さあどうだ。

金っ……!

まずは第一関門突破だ。5本が封入されているルイーズ・デストレではなかった。まだシャンパーニュである可能性は十分にあると言える。もう少し引っ張り出してみよう。

全体に漂う安っぽさ…!だがまだわからない!

「スパークリングワイン」って!

駄目っ……! また駄目! 誕生日関係なし(そりゃそうだ)! 私の手元に来たのはもっとも単価の安いルイ・フラマンド スパークリングワインであった。フランスのワインなのにラベルに「スパークリングワイン」って書いてあるの逆に珍しくないすか。ルイ・フラマンド、生産者はルイーズ・デストレ。結局ルイーズ・デストレかよ! 

くじとしてはハズレだが、2000円超のスパークリングワインなんてなかなか買わないですよ普通。大切に飲みます。チキショー!

くじの中の最安値。成城石井のワインくじの代表的ハズレ銘柄のひとつ、ルイーズ・デストレのさらに下位レンジ。輸入元は成城石井の輸入部門である東京ヨーロッパ貿易で、ワインくじのタマ感あふれる1本。というわけで私のバースデーワインくじは大惨敗という結果に終わった。ちょっと飲みに行ってきます…!

はじめっからシャンパンしか入ってないくじ↓

 

 

三養醸造はどんな生産者? 「窪平2021」を飲みつつ調べてみた

三養醸造と「三養訓」

三養醸造の「窪平(くぼだいら)2021」が楽天で売っていたので買ってみた。三養醸造といえば、「共栄堂」が2021年まで醸造場所を間借りしていた老舗ワイナリー。共栄堂のワインは安くておいしくて非常に好印象なのでじゃあ三養醸造はいかがなものかと買ってみたのだった。というわけで今回は三養醸造とそのワインについて調べてみる。

三養醸造の「窪平2021」を飲みました。

三養醸造は1933年創業の山梨県山梨市牧丘町にあるワイナリー。その特徴的な名前は北宋の詩人・蘇東坡(そとうば)の「三養訓」に由来するそうだ。今回やけに難しい漢字が多いなしかし。それはともかくまずは「三養訓」を眺めてみよう。

安分以養神 (自分の置かれた身分にしっかり腰を落ち着けて、精神を安定させること)
寛胃以養気 (胃を楽にして、気力・根気をしっかり身につけること)
省費以養財 (無駄使いをやめて、財産(生活の安定)を作ること)

これワイン好きは全員墨書して自宅の見えるところに貼るべきやつなんじゃないすかね。余談だが伊豆長岡にある岩崎弥太郎ゆかりの旅館「三養荘」の名も三養訓に由来する。三養訓は岩崎家の家訓だったんだそうな。へー。

三養醸造では、この三養訓を「美味しい葡萄酒を飲んで楽しく生きよう」という想いを込めて社名に掲げているのだとか。奇遇なことに私の人生訓も「おいしいワインを飲んで愉快に生きよう」なのでこの時点で心の業務提携が完了。いいバイブスでワインが飲めそうな気配だ。

 

三養醸造はどんな生産者か

では、三養醸造が創業した1933年(昭和8年)当時の山梨のワイン産業はどのような状況だったのだろうか。WEBサイト「ワインの国 山梨」の『明治以降のワイン醸造』というページを参考に調べてみると、昭和5年に1088場だった山梨県内のワイン醸造場が昭和14年には3694場に達したとあるから、空前のワイナリー(醸造場)建設ラッシュだったことがわかる。

こちらの記事でも山梨のワインの歴史に触れています↓

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三養醸造醸造所は創業時からの古い蔵を修理・増築しながら使い続けているというから、あと10年ちょいで築100年を超える建物でワインを造っているということなる。それでいて道具や資材は積極的に最新のものを入れいてるのだとか。温故知新感あっていいな。

圃場(ほじょう)は牧丘町に1.2ヘクタールを管理。「甲州、マスカットベーリーA、シャルドネメルロー他の複数の欧州系品種を栽培」しているそうで、除草剤はおろか、有機農法でも利用可能なボルドー液(硫酸銅消石灰の混合溶液)も使わないのだとか。

 

三養醸造「窪平2021」はどんなワイン?

今回飲んだ窪平2021は「ワイナリー所在地のブドウのみを用いた」とあるので自社畑のブドウを使っているということだと思われるが、これが非常に面白いワイン。

「マスカットベーリーAを主体にアルモノワールカベルネソーヴィニヨン、サンジョベーゼ、シラー、プチマンサン、トレッビアーノ、アルバリーニョなどを混植、混醸」というフィールドブレンドかつ赤品種に白品種を加えたホワイトブレンド酸化防止剤無添加で造られているそうだ。

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アルモノワールは聞き覚えのない品種だが、これはカベルネ・ソーヴィニヨンとツヴァイゲルトを交配させた品種だそうで、「農林水産技術会議」によれば、開発を担当したのは山梨県果樹試験場。烈果がなく、寒冷地でもよく発芽し、同条件で栽培・醸造したメルローカベルネ・ソーヴィニヨンよりも官能評価の評点も高いとある。なにそれいいじゃないの。寒冷地型カベルネ、みたいなことなのかな。品種登録は2009年だというから、まだ生まれたばかりの品種ですね。

フィールドブレンドワインは過去に何度か飲んでいい印象であることがほとんど。なので今回も大いに楽しみに飲んでみることにした。

 

三養醸造「窪平2021」を飲んでみた

このワイン、区分としてはロゼになるようだがグラスに注いでみると赤と言ったほうが良さそうな明るいルビー色をしている。香りはマスカットベーリーA主体らしいイチゴ感がありながら、バラのような良い香り、巨峰とかデラウェアのような食用ブドウっぽい感じもちょっとする。

飲んでみるとこれは個人的にすごく好きかもしれない。マスカットベーリーAで忌避されがちなキャンディっぽさはほぼまったくなくて、マスカットベーリーAと欧州系品種を混ぜました、という出自そのままの味わい。

原材料名は「ぶどう」のみ。

味わいは透き通っていて、アルコール度数11.5%と軽いこともあってすいすい飲めて体に染み渡る感がある。どうでもいい話で恐縮なのだが飲んだ日は昼間潮干狩りに出かけ、そこで採取してきたアサリをオリーブオイル、トマト、白ワイン(ダンシング・フレイム シャルドネ)で煮て食べたのだがそれとめっちゃくちゃ合った。あとワインと合わないでおなじみのマグロの刺身とも合った。日本の食卓との相性は出色だと思う。

栽培から醸造、ラベルのデザインに至るまでナチュラル感が強くあるけれど、色調も味わいもクリア。これで1650円はすごくいい。

と、非常においしかったなあ満足だなあと思っていたのだが、この文章を書くためにワインについて改めて調べてみたところ公式サイトの商品ページの最後のほうに[飲み頃]2022年9月頃から。と書いてあるのを発見。やべえ飲んじゃった。

飲み頃を迎えたらどんな味わいになるのだろうか。気になる!

 

 

山田堂「ナイアガラスパークリング2021」北海道余市町のワインを飲んでみた

山田堂のワインを手に入れた

昨年、余市町ふるさと納税の返礼品として、山田堂のナイアガラスパークリングをいただいた。山田堂はドメーヌ・タカヒコ4人目の研修生である山田雄一郎さんが余市町登町に2021年9月に立ち上げた非常に新しいワイナリー。「登(のぼり)」はドメーヌ・タカヒコ、ドメーヌ・モンなどがある余市グランクリュ的印象の地域だ。

山田堂のナイアガラスパークリング2021を飲みました。

さて、この山田堂はどのようなワイナリーなのだろうか。それを知るには栽培・醸造家である山田雄一郎さんを知るのが手っ取り早かろう。

 

山田堂と山田雄一郎さんと山田さんのブログ

調べると、山田さんは
「生活の豊かさとは?」
というタイトルのブログ(記事タイトルじゃなくてブログタイトルが『生活の豊かさとは?』なのだ)を2014年から書いておられる。私はブログを書くにあたって一次情報にあたることを大切にしているためこのブログをぜんぶ読んだ。

最初の記事が執筆されたのは2014年、山田さんはスペインにいる。1987年兵庫生まれの山田さんは、(あとから知ったことだが)短大卒業後幼児教育の道に進まれ、日本で3年、そののちに青年海外協力隊としてパナマなどで2年働いた後、スペインはリベラ・デル・デュエロにある醸造学校に進んでいる。行動力…!

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そこでの2年間の学生生活が終わる直前、日本での就職活動をはじめているというタイミングでブログを開設したようだ。

帰国後は山梨県でワイナリーに就職(といっても冬には温泉旅館の仲居のバイトをしたりもしていたようだ)。ブログ内では所属先の名前は出しておられないが、別の記事によれば勝沼の白百合醸造にいたという。

スペインから山梨に生活の場を移し、ブログの更新頻度は落ちるがワイン造りへの情熱が静かに燃え上がる様子が見られて非常に興味深い。いくつか引用してみよう。

2015年7月10日
いつだって、ワインにとって、そしてぶどうにとって一番の収穫時はいつなのか??はここでは栽培者の意向というよりも、ワイナリーの都合の方が大きいのかもしれない。(中略)
それでいいのだろうか?

いや、いいわけがない。

2015年8月30日
持続可能なワイナリー。おれだけのワイナリー。うまみがつまった鈍臭いワインをつくりたい

2016年4月16日
また呑みたい・・・ そう思わせてくれるようなワインを造りたい。(中略)そこには、ソムリエも、医者も肉体労働者も関係ない 誰もがなにかを感じ取ってくれる・・ そんな一本。

なんというか、小説でいえば「立志編」みたいな感じがあってこの時期のブログ記事はすごく胸に迫る。とくに2016年4月のエントリには彫刻刀で岩に彫ったような筆圧。「また呑みたい」と思わせてくれるワインは「なにかを感じ取」れるワインである点に私も同意だ。

山梨の著名醸造家(と思われる方々)の名前もブログに登場するのだが、日本最高峰の産地のひとつ・山梨の環境のなかで研鑽と雌伏の時を過ごしていた感じが伝わってきて思わず引き込まれてしまう……と、やってることが我ながらオンラインストーカー感なきにしもあらずだが、公開情報だから仕方ない。

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その後ブログ「生活の豊かさとは?」はしばらく更新が途絶え、2019年に5月26日に復活する。山梨を離れて余市に軸足を移し、2年後にワイナリーを起業することを読者に報告する内容だ。

そこにこんな一文がある。

ワインはブドウからできるものです。
美味しいブドウからは美味しいワインが出来ます。美味しくないブドウからは美味しいワインはできません。
畑で美味しいブドウをつくれるように頑張らねばなりません。

これを聞いて思い出したのが、友人の映画監督に聞いた脚本と完成した映画の関係だ。

「脚本が良くてもつまらない映画はある。でも、いい脚本からでなければ、いい映画は絶対にできない」

そんな趣旨。モノ造りを極めていけば、そこには通底するなにかが自ずとあるんでしょうなあ。

 

山田堂はどんな生産者か?

さて「生活の豊かさとは?」ブログはこのあともうひとつのエントリを経て新ブログ「畑とワインのある生活」に移行。ドメーヌ・タカヒコで研修生として働きつつ、自身の畑やワイナリーを整備し、開業にいたるまでの日々が綴られ、今も更新が続いている。

ブログをすべて読み返すのにかかった時間が30分から1時間くらい。スペインで学ぶ留学生だった山田さんは山梨での修行を経て余市でワイナリーを開業するに至る日々を文字を通して知ったことで、実際はまったくもって一面識もないのにすっかりヴァーチャル知人みたいな気分である。これは心して飲まねばならぬ。「日常に楽しんで頂けるテーブルワインを造ること」というコンセプトも素晴らしい。

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山田堂は北海道余市町登町に2.3ヘクタールの畑を所有。納屋をワイナリーに改装し、2021年9月に開業。畑にはナイアガラが植わっており、新たにピノ・ノワールとツヴァイゲルトを植栽、ナイアガラの区画はいずれミュラートゥルガウに植え替えるようだ。

今回飲むナイアガラスパークリング2021はその自家畑のナイアガラ100%を使ったワイン。完熟ナイアガラを全房で仕込み、発酵途中で瓶詰めをした微発泡ワイン。瓶内二次発酵時に補糖する以外は亜硫酸塩、酵母ほかすべて無添加で造っているそうだ。うーん楽しみ。いざ、抜栓してみよう。

 

山田堂ナイアガラスパークリングを飲んでみた

蝋キャップで覆われた王冠を栓抜きで蝋ごとポンと抜いてグラスに注いでみると、色はなんというかごく普通の白ワイン的な輝く薄めの金色。特筆すべきは香りの豊かさで、ナイアガラらしいゴマ団子みたいな香り、花の香り、梨みたいな香りがババンと広がってくる。よろしいなこれは。

そして味も良い。完全にドライなんだけど果実味がしっかりとあり、酸味もちゃんとある。余市の冷涼な気候のもと、ゆっくりと完熟したことが伝わってくるような味わいだ。濁りも少なく、自然派感もいい意味で少ない。

決して派手ではないし、すごく複雑な味わいというわけでもないけれど、間違いなく「日常に楽しんで頂けるテーブルワイン」ではあると思う。価格は2310円。アルコール度数は9.5度だ。安くはないけど、決して高くないと思う。

それにしてもナイアガラはおいしい。山田堂ではナイアガラをミュラートゥルガウへ植え替えるとのことなので、このキュヴェも長くは飲めないのだろうけど、余市のナイアガラが私は非常に好きなので、どなたかが作り続けてくれたらいいなあと思う次第だ。

a.r10.to

 

 

コノスルシングルヴィンヤード甲子園【第4試合】カベルネ・ソーヴィニヨンvsピノ・ノワール 【優勝校発表】

<前回までのあらすじ>

コノスルのシングルヴィンヤード全8種類を買ったのでどれが最強かを決める「コノスル甲子園」を開催することにした。

 

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カベルネ・ソーヴィニヨンvs ピノ・ノワール、勝つのはどっち?

コノスルのシングルヴィンヤード甲子園もいよいよ最終第4試合に突入した。対戦するのはカベルネ・ソーヴィニヨンピノ・ノワール。いずれ劣らぬ優勝候補だ。

コノスルといえばピノ・ノワールに力を入れていることで有名。1999年にブルゴーニュ醸造家を招聘してピノ・ノワール・プロジェクトをスタートさせ、同社のフラグシップワインのひとつ「オシオ」もピノ・ノワールからつくられる。

一方のカベルネ・ソーヴィニヨンはもうひとつのフラグシップで最高級キュヴェの「シレンシオ」の原料品種であり、コンビニやスーパーで売られる「ビシクレタ」レンジではもっとも多く棚に置かれているのを見かける主力中の主力品種でもある。

今回、8品種の頂点が決まります。

このブログでは過去にコノスルの下位レンジであるビシクレタならびにレゼルバ エスペシャルを全部飲み、ランキング化する企画を実施しているが、ビシクレタ、レゼルバ エスペシャルの順位を合計した総合ランキングではカベルネ・ソーヴィニヨンが1位(2位・2位)、ピノ・ノワールが2位(1位・4位)と実力は拮抗している。まさに夏の甲子園大阪府予選における大阪桐蔭VS履正社状態。あくまで予選の1試合でありながら、全国大会の決勝レベルのクオリティがある。

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果たしてどちらが勝ったのか。すでに予選を勝ち抜いたシャルドネ、カルメネール、リースリングとの戦いを制し、シングルヴィンヤードの頂点に立つのはどれか!? まずは両キュヴェについてサクっと調べていこう。

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ちなみにヴィンテージはカベルネ・ソーヴィニヨンが2019。ピノ・ノワールが2018だ。

 

コノスル シングルヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨンはどんなワインか?

まずはカベルネから。ビシクレタではセントラルヴァレー、レゼルバエスペシャルではアコンカグアヴァレーが産地だったが、シングルヴィンヤードではセントラルヴァレーのサブリージョンであるマイポヴァレーのエル・レクルソ葡萄園第18区画のブドウが使われている。18番はプロ野球のエースナンバーでこれは期待が高まろうというもの。カベルネはコノスルの田中将大投手であります。

エースのカベルネ・ソーヴィニヨン投手。

エル・レクルソ葡萄園は他の地域に比べて涼しいのだそうで、そのあたりがワインの味わいにどう反映されてるかがポイントになりそう。

ステンレスタンクで発酵後、フレンチオークで14カ月熟成、その後1カ月ステンレスタンクで熟成。私が飲んだ2019ヴィンテージのテックシートは日本語サイトにも本国サイトにもなかったので参考までにだが、2018ヴィンテージはアルコール度数は14%、残糖3.0g/l、PH3.47、総酸0.35g/lとなっている。酸すくなっ。

 

コノスル シングルヴィンヤード ピノ・ノワールはどんなワインか?

続いてはピノ・ノワールだ。こちらはサンアントニオヴァレーのカンポ・リンド葡萄園で一番涼しい畑である第21区画のブドウを使用。カンポ・リンドは海から15キロの場所に位置する。チリで海で近いといえば登場するのはフンボルト海流で、それが生み出す冷たい海風がピノ・ノワールがゆっくり熟すのを助けてくれる。世間は韓流ブームだが、チリワインのトレンドは韓流よりも寒流である。

ピノ・ノワール。寒流育ち。

コールド・マセラシオンのあとオープントップタンクで発酵。定期的なピジャージュで色と香りをやさしく抽出し、新樽率20%のフレンチオーク樽で11カ月熟成させている。2018ヴィンテージはとくにいいヴィンテージだったようで、ティム・アトキン93点、ジェームズ・サックリング91点を獲得している。

こちらも2018のテックシートはないので2016を参考までに参照すると、アルコール度数は14.3%、残糖2.5g/l、PH3.36、総酸6.3g/lとなっている。カベルネと比べると酸の違いが際立ちますね。

 

コノスル シングルヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨンを飲んでみた

そんなこんなで、いざ運命のプレイボールだ。事前に実施したアンケートではピノ・ノワール有利の予想が多かったが、勝負は下駄を履くまでわからない。

先攻はカベルネ・ソーヴィニヨンだが、率直に言って全体的に飲む日本ハムファイターズ感2022感があるというか、万波中世、清宮幸太郎といった大成したらすごい選手になりそうだけど現時点ではやや我慢の起用、みたいなタイプの選手的印象を受けた。なにを言っているのか全然わからないですかそうですか。

vivinoの評価は3.6とまずまず。

青っぽい香りにスパイシーさもあって、全体的に若さを感じるわけなんですよこれはワインの話として。果実味もあるけれど渋みがかなり強く、酸味が弱いためどうも噛み合わない印象だ。しかしポテンシャルは十分に感じられ、回が進むにつれ、すなわち2日目、3日目となっていくにつれどんどんおいしくなっていったのもまた事実。

全体にあまり褒めてない感があるけれど、他のワインとの対戦だったら勝ち上がるケースは多くあったと思う。しかし今回は対戦相手が悪すぎた。

 

コノスル シングルヴィンヤード ピノ・ノワールを飲んでみた

というわけで後攻はピノ・ノワールなのだがこれが非常においしかったわけなんですよホントに。開けた瞬間からおばあちゃんが箪笥の奥に大切にしまい込んだなにか的な上品な良い香りで、酸味が主体渋みもしっかりな硬質な味わい。その奥にしっかりと果実や旨味の存在を感じられる。

vivinoの評価は3.6とカベルネと同等。全体にvivinoはチリワインで高得点が出にくいです(愚痴)。

2本同時に飲み進めて、3日に完全開花。華やかな香りが豊かにあって、どこかみかんみたいな甘ずっぱさも出てくる。これは見事と言うべきで、1500円くらいで買えるピノ・ノワールとしてのバランスは私の経験だと五指に入ると思う。

カベルネ・ソーヴィニヨンも2018ヴィンテージだったらまた違う結果となったのだろうか。「最新ヴィンテージでお届け」みたいないわばヴィンテージガチャ的注文のなかで両者の明暗が分かれた印象となった。勝負は時の運ですね。

というわけで、勝ったのはピノ・ノワール。これにより一回戦の4試合が終了し、ベスト4が出揃った。対戦結果を振り返ってみよう。

第一試合:◯シャルドネ ×カリニャン
第二試合:◯カルメネール ×シラー
第三試合:◯リースリング ×8グレープス
第四試合:○ピノ・ノワール ×カベルネ・ソーヴィニヨン

この4品種のなかから「優勝校」を決めなければならないのだが、やべえどうやって決めるのか全然決めてなかった。どうしようかと考えた末、「甲子園」というコンセプトをかなぐり捨てて、ここからはサドンデス方式でのプレーオフとしたい。

 

コノスル シングルヴィンヤード8品種の頂点に立つのは!?

まず脱落するのは残念ながらカルメネールだ。シラーとの激闘を制したカルメネールだが、他の3品種が強すぎた。

そして、粒揃いのBEST3のなかで(あくまで私の印象においてだが)一枚落ちるのは非常に残念ながらリースリング。いやリースリングめちゃくちゃおいしかったんですよ。ただ、同じ白品種で比較した場合、シングルヴィンヤードではシャルドネの完成度の高さに軍配が上がる。

というわけで優勝候補はシャルドネピノ・ノワールというブルゴーニュ品種に絞られた。そして優勝はピノ・ノワールだ。完全に他の品種より頭ひとつ抜けてたという印象で、迷わず決めることができた。

全体のランキングも発表しよう。100人いれば100人別のランキングがあると思うが私の場合こんな感じだった。

1 ピノ・ノワール
2 シャルドネ
3 リースリング
4 カベルネ・ソーヴィニヨン
5 カルメネール
6 シラー
7 カリニャン
8 8グレープス

ピノ・ノワールはビシクレタに次ぎ、二度目の1位獲得となった。コノスルのピノ・ノワールプロジェクト、伊達じゃないっす。

というわけでシングルヴィンヤード甲子園は幕を閉じた。次は最後の上位レンジ「20バレル」7品種の頂点を決める戦いが近日中に幕を開けるはずだ。このままピノ・ノワールが独走するのか。ストップ・ザ・ピノを果たす品種が現れるのか……!? どうぞ、お楽しみに。

 

 

神田の中華「味坊」で自然派ワインを飲んできた。

神田駅近くの名店「味坊」へ

下町で飲むから来いとtwitter界隈のお友だちに誘われたので行った。

向かったのはJR東京駅のお隣・神田駅近くで名店と名高い中華料理店「味坊」。ご一緒したのは安ワイン道場師範、mashi-comさん、そして幹事のゆうこりンファンデルさんの3名だ。

味坊外観

mashi-comさんとは初対面、あとのお二方とはすっかりお馴染みというメンバーで、好きなのはワインである以前にまず酒、みたいなオーラをまとったみなさまだ(私もだ)。

集合時間は外がまだしっかり明るい5月の午後4時半。漂う「今日は飲むぞ」という空気感。剣豪が鍔迫り合いをする間合いでもってビール、レモンサワー、ハイボールといった得物を掲げて乾杯である。この飲み会、いい(悪い)予感しかしない……! あとレモンサワー超うめえ…!

 

【味坊自然派ワイン1】リヴァトン「パノラミック」

さて、味坊は普通のというかむしろ普通以上に気取ってない感じの街の中華料理屋さんなのだが、自然派ワインに力を入れている。中華料理店によくあるタイプの横開きの中身の見える冷蔵庫あるじゃないすか。ビールとかサイダーとか、オレンジジュースとかが入ってるASAHIとか書いてありがちなやつ(味坊のビールはサントリーでしたが)。あんな感じの業務用冷蔵庫にどれくらいかな。30本くらいかな。それくらいの数のワインがミチミチに詰められている。

こんな感じでワインがみっちり。自然派感のあるラベルが並ぶ。

リストはなく、ボトルネックに巻かれた産地や品種、生産者などの情報が書かれた紙と、ボトルにマジックで直接書かれた金額、あとはもちろんラベルの情報を頼りに選ぶスタイル。

これだ! というのが決まったら、冷蔵庫から勝手に引っ張り出して申告すると店員さんが抜栓してくれる。価格帯は4000円弱から、高いので6600円っていうのがあった。

乾杯の飲み物を飲み干すタイミングで「せっかくだしひとり1本ずつ選びましょうか」ということになり、まずは安ワイン道場師範が先頭バッターとして選んでくれたのが南仏・ルーションの造り手、リヴァトンの「パノラミック」というワイン。シラーを使ったロゼペティアン(微発泡ワイン)というちょっと珍しいシロモノだ。

ソムリエ風にワインを持つ師範。

ワイングラスはなく、注ぐのはビール用のコップ。飲み口は厚く、香りが滞留するふくらみもない。ワインを飲む器としてはベストではないだろう。でもこの雰囲気だとなんかいんですよこれが。こないだ観たジョージアの古い映画では牛かなんかのツノで飲んでたし。ワインには時と場所にふさわしい器があるのだ多分。

コップワイン……あると思います!

さて、このワインはぷちぷちした細かい泡が楽しい明るいワインで、わりと全会一致で「梅酢!」という印象。なんならちょっとシソ入れた? くらいの感じのロゼだ。ロゼにするとシラーのスパイシーさがなくなって甘酸っぱい感じに仕上がるんですかね。おいしい。

スペシャリテの羊串。「ひとりで5本はいけます」というmashi-comさんの推し。

酸っぱいだけでなく果実味もちゃんとあるので中華にピッタリ。スペシャリテのラム串と合わせると飲む調味液化しておいしさをさらに高めてくれた。炒めた海老ともピンクつながりでよく合った。海老とロゼ、いいよなぁ。

 

【味坊自然派ワイン2】シャトー・レスティニャック「ヴァ・トゥ・フェール・ボワール 」

続いてじゃあ次は私が……と冷蔵庫へと向かってくれたのはmashi-comさん。なんですかねこれ。この一人ずつ席を立ち、ワインを連れて帰ってくる感じが大変楽しい。毎回「そうきましたか〜」みたいになるのが良い。なぜかみんなちょっとニヤニヤしてるし。

ヴァ・トゥ・フェール・ボワール。自宅用に買い直したいレベルで好きだった。

そんなこんなでmashi-comさんに連れられてテーブルにやってきた2本目はボルドーの東・ベルジュラックの生産者、シャトー・レスティニャックがつくる「ヴァ・トゥ・フェール・ボワール 」というワイン。無清澄、ノンフィルターで亜硫酸の添加もごくわずかという造りでこれがとってもおいしかった。

メルローってこんなにかわいらしい味だったっけ? というくらい渋みおだやか、酸味そこそこ、果実味たっぷり。ボルドーから夏の休暇でやってきたリラックスモードのメルローといった印象だ。

「ヴァ・トゥ・フェール・ボワール」ってどういう意味ですかねと携帯で調べると、出てきた答えは「酔っ払う」だそうで、今の我々にこんなにふさわしいワインはありませんなダハハと爆笑しながらコップで飲むワインがうーん、うまい。

これは推せる↓

 

【味坊自然派ワイン3】ヴァイングート・スルーナー「トーニ」

さて、3本目は私チョイス。ロゼ泡、赤ときて、4本目は赤になる可能性が高いことから、白を頼むチャンスはここしかない! と、オーストリアのグリューナー・フェルトリーナーを選んでみた。

あえて白。逆に白。愛に雪、恋を白。

造り手はヴァイングート・スルーナー。キュヴェ名のトーニ(TONI)は当主のファーストネームだそうで、Tasty、Original、Natural、Indivisualの頭文字でもあるみたいなことなんだって。あいうえお作文かよ。

Masi-comさんの「グリューナーって当たらないし外れないですよね」という言葉が至言で、このワイン自体にガツンとしたインパクトはないものの、さりとておいしくないこともまったくなく、なんかこう、ワインだっつーのにチェイサー感まであるというワインだった。師範は「甲州みたいだよね」と評していたが、それも納得。ただ、それだけにとうべきかこれも中華とは好相性で、その点はとても良かった。

 

【味坊自然派ワイン4】デスセンディエンテス・デ・ホセ・パラシオス「パタロス」

最後にゆうこりンファンデルさんが選んだのはスペインのメンシア。ファンデルどこいった。造り手はデスセンディエンテス・デ・ホセ・パラシオス。有名なアルバロ・パラシオスと、その甥のリカルドが立ち上げたワイナリーだそうで、キュヴェ名「パタロス」は花びら的な意味だそうだ。

ファンデルさんがメンシアさんを持つの図。これもうわかんねえな。

メンシア95%、バレンシアナ/パロミノ計3%、アリカンテブーシェ/他 計2%というセパージュで、渋みと酸味が主体の構成。間違いなく温度が上がって果実味が出てきてからが本番みたいなワインだと思われるが果実味選手がブルペンで肩を温めている間に(一瞬でぜんぶ飲んじゃって)試合終了となってしまった。これだから酒飲みはさあ……。

リピート注文した芋。ワインとよく合い、この日のおつまみMVP感あった。

「安ワイン道場」の稽古日誌でも言及されていたが、この日飲んだ4本の自然派ワインはどれも「キレイな造り」とか「(素人に検知できる範囲で)ネガティブ要素がない」みたいに言われるであろうタイプのワインたちで、おしなべて料理との相性が良かった。その料理のクオリティも価格に対して評判通りに高く、味坊が名店と呼ばれるのにも納得。また必ず来たいお店となったのだった。

 

【延長戦】亀戸の名店・デゴルジュマンへ

さて、この時点で一人ワイン1本+レモンサワー等を消費しているので、他の方はともかく私は完全にできあがっている(私の普段の晩酌はボトル1/3程度)。しかし空にはまだ沈んだばかりの太陽の余韻が残り、夜はこれから。二軒目として亀戸のシャンパンバー・デゴルジュマンへと向かった。

神田から秋葉原までを夜風に吹かれつつ歩き、秋葉原から総武線に乗れば亀戸まではあっという間。北口を降りてすぐの亀戸横丁の喧騒を抜ければそこには泡パラダイスが待っている。店主・泡大将と助手・ソムたまさんに笑顔で迎えられ、まずオーダーしたのはシャンパーニュ3杯セット1800円。

シャンパーニュ3杯セット、注がれるの図。東京の絶景100選とかに入れていい景色。

 

3杯かける4人で12個のグラスがカウンターに並び、そこに定規で引かれた線のようにシャンパーニュが注がれていく様子が美しいんだよなぁ。「ワインをグラスに注ぐ」ただそれだけのことでもプロの仕事はレベルが違う。お外で飲む楽しみのひとつですね。

さて、泡大将いわくこの日の3杯はすべて醸造家、エルヴェ・ジェスタンが醸造コンサルタントを担当したものなんだそうだ。エルヴェ・ジェスタンは「ビオディナミを現代的に解釈」した醸造家とのことで、この日飲んだキュヴェは以下の通りだ。

べナール・ピトワ カルト・ブランシュ ブリュット
べナール・ピトワ ロゼ ブリュット
ルクレール・ブリアン ブリュット レゼルヴ

左からべナール・ピトワ、同ロゼ、ルクレール・ブリアン

べナール・ピトワは10ヘクタールの畑を所有する小規模生産者で、自分たちでシャンパーニュを造りつつ、果汁をボランジェ、ポール・ロジェ、デュバル・ルロワなどのメゾンに販売もしているそう。エルヴェ・ジェスタンはデュバル・ルロワで20年にわたり醸造長を務めた人物とのことなので、コンサルしてるのはそのつながりだったりするんですかね。

ルクレール・ブリアンはもともと自然派シャンパーニュの元祖といわれる造り手だったのが後継者不足から大手グループの傘下に入る寸前、エルヴェ・ジェスタンらのグループが買い戻したんだそうで、それ以降畑をビオディナミ化して品質がさらに上がったみたいなことがネットを見ると書いてある。

と、駆け足で調べたことをまとめてみたが、こんな興味深い3杯を1800円で飲み比べられるのがうれしい。

つまみに頼んだポテトフライ青のり味。芋ばっか食べてるなこの夜。

べナール・ピトワのカルト・ブランシュはシャンパーニュのお手本のような繊細な香りと厚みのある味わい。ロゼはそこに酸味と果実味が加わってどちらもすごくおいしい。

ルクレール・ブリアンのほうは、まさに「ワインとしておいしい」という感じのシャンパーニュ。味わいの密度が高くて、乾杯用というより食事と合わせてじっくり楽しみたい、風格のある一杯だった。

めちゃくちゃおいしかったポルチーニ松阪牛のパスタ。デゴルジュマンのパスタは本当に毎回驚くほどおいしい。

このセット、いつも満足だがこの日のはとりわけ満足度が高かった。エルヴェ・ジェスタン、覚えておきたい名前がまたひとつ増えたのだった。

 

バタフィー、ブシャール、パルム・ドール……

さて、すでにほぼ完璧に酔っ払っているところにそれぞれはハーフサイズとはいえシャンパーニュを3杯入れてしまったのでここからは記憶があいまいだが、次に飲んだバターフィールドのボーヌ プルミエ・クリュ ル・ブレッサンド2019がおいしかったのは間違いなく脳裏に刻まれている。

バタフィー。完全にバラ。

いるのだが、私のメモに残っているのは「バラ」「完全にバラ」「本当にバラ」というまさかのバラ3連発。貴様にバラ以外の語彙はないのか。酔っ払った私が感知できるのは「バラか否か」の一点のみでありこのワインはバラだ。

カメラロールを見返してなんでこの状態からさらにオーダーしたんだと己に問いたいのだがその次にはブシャール・ペール・エ・フィスのブルゴーニュ ピノ・ノワール コトー・ド・モワンヌ2019をオーダーしたようだ。

このワインの記憶がかなり曖昧。ワインに申し訳ない猛省!

このあたりはメモが錯綜しており、どのコメントがどのワインについて語っているのかがもうわからない。「2019は2017に次いで最近のブルゴーニュではいい年」とのことでこのワインも端正でおいしいピノ・ノワールだった記憶がうっすらある。すみませんまた改めて飲みます……。

そして16時半からはじまった会も気がつけばこの時点で何時だったんだろう。21時を回っていたのだろうか。時間という概念がアルコールの浸透圧で溶解したダリ的世界観のなかで最後にいただいたのはここにきてまさかのプレステージシャンパーニュ、ニコラ・フィアットパルムドール・ロゼ2006! 安ワイン道場師範のおごりだ。こういうのがサクッとできるのカッコいいよなー。ごちそうさまです。

注がれるパルムドール。美しい。

色は赤に近いピンク色で、甘酸っぱさのなかに熟成したシャンパーニュの香りがしっかりとあったことだけ鮮烈に覚えている。手元には「ものすごく品の良いランブルスコ」というメモが残っているがシャンパーニュにもランブルスコにも失礼な感じがするなこの感想。いずれにせよ、これだけ酔っ払っていてもなお脳裏に焼き付く素晴らしいシャンパーニュだった。

パルムドール。「アルマジロシャンパーニュ」みたいに呼んでたような。

というわけで開始からは5、6時間くらいだろうか。ひたすら飲み続け、笑い続けた宴は終わった。宴というか、手触りとしては「祭」という言葉がふさわしいような夜だった。祭りとはなにかを祝福するためのものだ。ワインよ、地球に存在してくれてありがとう。

そしてなにしろお誘いいただいてありがたい。大人数で飲むのはもちろん楽しいけど、少人数で飲むのもやっぱり最高。みなさん、また飲みましょう!